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時には自棄食いしたい夜もある③
高瀬さんの思惑通りに駆け付けた私を見た彼が一言。
「何?その頭」
口元の歪みで、彼が笑いを堪えているのがよく分かる。
「笑いたければ笑えば良いじゃないですか。国民的妹キャラ、ワカメちゃんカットです」
開き直った途端、高瀬さんの顔が一気に歪む。
「ぶははははっ!!」
「………」
ただでさえ細い目を更に細くして大笑いする高瀬さん。
乙女を前に失礼全開だ。
一頻り笑った高瀬さんが、目尻に溜まった涙を払いながら言う。
「思い切ったね。可愛いんじゃない?」
疑問系にしてる時点で心がこもってない。
「心にもない事を………ちょっとした手違いでこんなんにされたんですよ。雑誌のモデルさんみたいに小顔だったら、こんな野暮ったくならずに、様になったでしょうけど」
「いやいや、可愛いと思うよ。マスコット……というか、ゆるキャラチックで」
「それ絶対馬鹿にしてるでしょ?!」
ゆるキャラ………つまり私は、ふなっしーやくまモン辺りと同等という事か。
高瀬さんの運転する車に揺られる事20分。
行き着いた先は、普通の民家だった。
「えっ?普通の家じゃん!」
正確に言えば、藁葺き屋根の古民家。
今時こんな家に住む人も少ないんだろうなって程、年代を感じさせる造り。
目を丸くする私に反して、高瀬さんは相変わらずの細目。
「初めて来た人は必ず言うんだよね、それ」
高瀬さん曰く、知る人ぞ知る隠れ家的名店なんだそう。
「古民家を改装して経営してんの」
「へぇ……」
言われてみれば“肉”と書かれた小さ~な看板が掲げられている。
舗装されていない砂利の駐車場には、高瀬さんの車ともう一台だけ。
「客少ない分、品物出てくるの早いだろうね。遠慮しないで沢山食いな」
「勿論。私を誘った事を後悔しないで下さいね。パチンコで儲けた分をチャラにしてやりますよ」
鼻息を荒くする私に高瀬さんは「怖っ」とか言いつつ、笑っている。
建物の中に入れば、そこは立派な飲食店で。
「ほへー……天井高ー…」
外観が古ければ中のテーブルや待ち合いの椅子も年代物。
大きなのっぽの古時計もあるし。
でも、空調設備は最新らしく、適温より涼しく維持されている。
「取り敢えず、盛り合わせ頼んどく?」
案内された席でメニューを見ながら高瀬さんが言う。
「ちょっ………サラッと言ってますけど、ちゃんと値段見てます?」
「うん、見てるよ」
「メチャメチャ高いじゃないですか!」
私の目が悪いのか、メニューに記載された数字がおかしく見える。
チェーンの焼肉屋の倍近くしているんじゃないかと。
「だから本格的なの食いに来たんだって。ここのは旨いよ。気軽には来れないけど」
不親切な事に、メニューには写真は載っていない。
一体どんな高級お肉を取り扱われているのやら……
「わ、私………ライスのみで良いです…」
「は?何で?折角来たのに」
「だって高いじゃないですか。いくらパチンコで得たお金でも、悪いし…」
この店の値段設定に完全にビビった。
「遠慮しないでよ。さっきの意気込みはどこいったの?」
ビビる私を面白がっているのか、高瀬さんが意地悪く言う。
「俺の財布空にしなくていいの?」
「だからといって、こんな高いの……」
肉を口にする前から罪悪感が犇々と。
「なら、こっちでテキトーに頼むから」
怖じ気付く私を見かねて、高瀬さんが店員を呼びつける。
ちょっとイラッとされたっぽい。
そして、メニューに記載されている中からテキトーに見繕って注文した。
「…………凛ちゃんを誘えば喜んだと思いますよ」
「楠木?どうして?」
肉の値段に対して罪悪感を抱くなら、凛ちゃんに対する罪悪感も相当なものだ。
肉につられてのこのこやって来たけど、凛ちゃん激怒ものだ、この状況。
『アンタ馬鹿過ぎ!信じらんないし!どうしてアンタが高瀬と?!』
なんて吠える様が容易に想像出来る。
「また怒られちゃうなぁ……」
頭を抱えながら、テーブルに突っ伏した。
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