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ヒロインたる者⑤
凛ちゃんの言葉が、なだらかに右耳から入り、左耳へと抜けていく。
「………ホワッツ?」
「だから、高瀬と付き合える事になったっての」
私の聞き間違いかと思いきや、そうでなく……
「ホ、ホワイィ~?」
「アンタは、エセ外国人か」
グラスを持つ手が小刻みに震える。
「高瀬ったら、やっと私の魅力に気付いてくれたって感じ。遅いっての」
「あ………え……うん…」
嬉しそうに語る凛ちゃんに合わせて頑張って笑顔を作ってみるけど、上手く笑えている自信がない。
ビックリした。
だけど、それ以上にショック過ぎた。
凛ちゃんの想いが成就するのは、親友として嬉しい。
でも………
「よ、よよよ………良かったじゃん。想い続けた甲斐あったね…」
動揺で思いっ切り吃る。
一緒に喜びを分かち合うべきなのに、素直に喜べない私は、凛ちゃんの親友失格かもしれない。
「や、やったじゃん」
あれだけ頑なだった高瀬さんの心が解れたのは、あの夜の出来事が大いに影響を与えたからじゃないかと分析出来る。
微力ではあったけど、私の説得の効果もあったんじゃない?とも。
「今度高瀬と温泉行こうか?って話してて。どこの温泉が良いかな?ガイドブック買っとかないと、だよね」
「…………う、うん。だね…」
自分でも引きつってるのを感じながら「お土産よろしく~…」と、ヘラヘラ笑う。
すると、凛ちゃんの顔から笑みが消えた。
不思議に思っていたら、凛ちゃんが大きな溜め息を吐いた。
「…………嘘だよ」
微かに呟かれた言葉に再度耳を疑う。
「………えっ?」
凛ちゃんはもう一度、今度は苛立ちを込めた溜め息を吐く。
「だから、嘘だっての」
「…………う、そ……?」
力が抜けた。
「そんな泣きそうな顔しないでよ。こっちの方が泣きたい位だってのに」
ショックを通り越して絶望を感じていただけに、嘘だと聞いて、心底ホッとした。
凛ちゃんには幸せになって貰いたいけど、そうなると自分の気持ちが完全に行き場をなくす。
私だって高瀬さんが好きだから。
「………ったく、もう…」
いつ零れ落ちてもいいように、目の奥で控えていた涙がサーッと一気にはけていく。
「………何でアンタまで高瀬を好きになっちゃう訳?」
頭を掻き毟る凛ちゃんに「好きじゃないし……」と弱々しく否定するも「はぁ?」と、鋭い眼差しを向けられる。
「隠さなくていいよ。さっきの動揺が全てを物語ってたから」
「動揺だなんて奥さ~ん、ちょいとビックリしただけですってぇ~」
「ふざけなくていいから」
調子に乗り易いタイプのセールスマン風に誤魔化してみたけど、凛ちゃんはニコリともしない。
「………あの後に、もう一度はっきり言われたよ。楠木とは付き合えないって」
「………」
「私が良い女過ぎて自信がないんだってのは建前で………私が高瀬のお姉さんとキャラが被ってるから、どうしても受け付けないってのが本当の理由みたいよ?」
凛ちゃんは、痛々しい程の笑顔を作って「笑っちゃうよね」と付け加えた。
「あの夜の私達の会話を聞いてたかは知らないけど……高瀬、私はナシで、アンタはアリみたいよ?」
言いながら、凛ちゃんがテーブル端に置かれているペーパーを弄り始めた。
「良かったじゃん、アンタが好きだって言えば、高瀬、すぐに付き合ってくれるよ」
「そ、そんな事は………ないんじゃない?」
「告っちゃえば?人生初の彼氏が漸く出来るよ」
凛ちゃんの言葉に鋭い棘がついている。
どんな風に返せば良いのか分からず、迷っていると、凛ちゃんが無意味に小さく畳んだペーパーを私に投げてきた。
「………選んで」
「え………」
ペーパーが私の手の甲を弾いて、落ちた。
「高瀬と付き合って私と友達やめるか、高瀬を諦めるか………どっちか選んで」
冷たい口調とは反対に、凛ちゃんの表情は悲しみに満ちていた。
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