ヒロインになりたい!!

江上蒼羽

文字の大きさ
83 / 100

ガイドブック片手に②[side:輝子]



夕方頃、目的地に到着。

山奥にひっそりと建つ歴史を感じさせるご立派な旅館を前に、思わず「ははぁ~…」と変な声が出た。

隣で高瀬さんが「ははぁ~……って」と笑う。

辺りは木々に囲まれていて、自然豊か。

車の騒音や街の喧騒が聞こえず静かで、空気も澄んでいるような気がする。

非日常的な空間に迷い込んだみたいだ。



『こちらは、創業○十年の老舗旅館。地元民に愛され、創業始めからの変わらぬおもてなしが自慢の宿です。温泉は、単純温泉(多分)………』



旅番組のナレーションが流れるとしたら、こんな感じだと思う。

立派な旅館だけど、人目を避けるような立地からして何となく……


「何か………不倫の香りがする…」

「しないから!」


高瀬さんのツッコミは凛ちゃん程ではないにしろ、結構キレが良い。




チェックインを済ませ、仲居さんに部屋へと案内して貰う。


「こういう所でコナンくん御一行と遭遇したら、高確率で殺人事件起きそうだよね」

「かもね」


長い廊下を歩きながら、ついキョロキョロしてしまう田舎者丸出しな私。


「ほら、大体あーいう置物とかが事件を解くヒントなったりしてさ…」


廊下の端には、巨木で出来た謎のオブジェやら民芸品がセンス良く飾られている。


「ンネクストゥ、コナンズヒーント!!………置物……みたいな感じ?」

「…………分かったから、静かにしようか。恥ずかしいし…」


アニメエンディング後のヒントコーナーを張り切って真似てみたけど、高瀬さんの反応は微妙。


「えっ?私は恥ずかしくないよ」

「いや、俺がね!」


ふと気付くと、先を歩く仲居さんの肩が小刻みに震えていた。




案内された部屋は、椿と名付けられた和室二間だった。


「お、おおー…」

「へぇ、思ってたより広い」


ガイドブックに掲載されていた写真で見たよりもずっと広く感じる部屋には、真新しい畳の匂いが広がっている。


「後程お食事のご用意に伺います。それでは、ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」


仲居さんが出て行った後、高瀬さんが言う。


「早速、温泉入る?」


荷物を置きながら「そうだね」と返事をした。


「殺人事件が起こってからじゃ、事情聴取とかで温泉どころじゃなくなるだろうし」

「だから何も起こらないって」


部屋には、貸し切り風呂が備え付けられているけど、それとは別に露天風呂があるし、別館には大浴場もある。

今の気分的に、露天風呂に心惹かれているけど…


「アリバイがないと疑われるよね?それに、うっかり現場に遭遇しちゃって、口封じに惨殺されるかもしれないから、単独行動はNGだよね?」

「だよね?って、俺に聞かないでよ……」

「こんな山奥だし、目暮警部とか高木刑事とかは来ないだろうな……」

「はいはい、妄想は終わり。コナンくんから離れようね」


私の頭の中は、既に【湯けむり殺人事件】に巻き込まれる前提でいる。




ちょい呆れ気味の高瀬さんと共に、露天風呂に向かった。

こちらは、さほど大きくない風呂で、若干のガッカリ感は否めない。

海でも見えれば景色は最高なのに、残念ながら周りは木ばかり。

湯温は高めだけど、気温が低さで丁度良く感じる。

美肌効果がありそうな乳白色の湯を肌に熱心に擦り込んでいたら、逆上せかけてしまった。

でも、そのお陰でピカピカ卵肌。




「てるりさん………浴衣の合わせ目が反対ですが…」

「オーマイガー!!直してくる!」


湯上がりの色っぽい私を見せるどころか、うっかりお馬鹿な私を披露してしまった。

浴衣の合わせ目って、時々どっちが正しいのか分からなくて困る。


売店でお風呂上がりのフルーツ牛乳を購入し、ロビーの片隅で腰に手を当てて一気飲み。

至福の時を味わった後、部屋に戻ると、テーブルいっぱいのご馳走が待ち構えていた。


「わっ、美味しそう!!」

「へぇ……凄い」


刺身の盛り合わせ、山菜の天ぷら、地元野菜と地鶏をふんだんに使用した水炊き鍋に小鉢がいくつかついて、かなり豪勢だ。


「来て良かったー!」

「そっか……喜んで貰えて良かった」


豪華な食事に舌鼓を打ちながら、今日立ち寄った場所、食べた物の感想を語り合った。




お腹いっぱい食べて満足感に浸った後は、もう寝るだけ。


「さ~て、寝るか~」


なんて言いながら、隣の寝室に通じる襖を開ける。


「?!!!」


並べて敷かれた二組の布団を見て、凛ちゃんの言葉を思い出した。




『そろそろエッチさせろって事でしょうが』




何度も繰り返し読んだガイドブックには、この後どうしたら良いかは、さすがに書かれてなかった。

感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

【完結】泡になった約束

山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。 夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。 洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。 愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。 そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。 振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。 平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。