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ガイドブック片手に②[side:輝子]
夕方頃、目的地に到着。
山奥にひっそりと建つ歴史を感じさせるご立派な旅館を前に、思わず「ははぁ~…」と変な声が出た。
隣で高瀬さんが「ははぁ~……って」と笑う。
辺りは木々に囲まれていて、自然豊か。
車の騒音や街の喧騒が聞こえず静かで、空気も澄んでいるような気がする。
非日常的な空間に迷い込んだみたいだ。
『こちらは、創業○十年の老舗旅館。地元民に愛され、創業始めからの変わらぬおもてなしが自慢の宿です。温泉は、単純温泉(多分)………』
旅番組のナレーションが流れるとしたら、こんな感じだと思う。
立派な旅館だけど、人目を避けるような立地からして何となく……
「何か………不倫の香りがする…」
「しないから!」
高瀬さんのツッコミは凛ちゃん程ではないにしろ、結構キレが良い。
チェックインを済ませ、仲居さんに部屋へと案内して貰う。
「こういう所でコナンくん御一行と遭遇したら、高確率で殺人事件起きそうだよね」
「かもね」
長い廊下を歩きながら、ついキョロキョロしてしまう田舎者丸出しな私。
「ほら、大体あーいう置物とかが事件を解くヒントなったりしてさ…」
廊下の端には、巨木で出来た謎のオブジェやら民芸品がセンス良く飾られている。
「ンネクストゥ、コナンズヒーント!!………置物……みたいな感じ?」
「…………分かったから、静かにしようか。恥ずかしいし…」
アニメエンディング後のヒントコーナーを張り切って真似てみたけど、高瀬さんの反応は微妙。
「えっ?私は恥ずかしくないよ」
「いや、俺がね!」
ふと気付くと、先を歩く仲居さんの肩が小刻みに震えていた。
案内された部屋は、椿と名付けられた和室二間だった。
「お、おおー…」
「へぇ、思ってたより広い」
ガイドブックに掲載されていた写真で見たよりもずっと広く感じる部屋には、真新しい畳の匂いが広がっている。
「後程お食事のご用意に伺います。それでは、ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」
仲居さんが出て行った後、高瀬さんが言う。
「早速、温泉入る?」
荷物を置きながら「そうだね」と返事をした。
「殺人事件が起こってからじゃ、事情聴取とかで温泉どころじゃなくなるだろうし」
「だから何も起こらないって」
部屋には、貸し切り風呂が備え付けられているけど、それとは別に露天風呂があるし、別館には大浴場もある。
今の気分的に、露天風呂に心惹かれているけど…
「アリバイがないと疑われるよね?それに、うっかり現場に遭遇しちゃって、口封じに惨殺されるかもしれないから、単独行動はNGだよね?」
「だよね?って、俺に聞かないでよ……」
「こんな山奥だし、目暮警部とか高木刑事とかは来ないだろうな……」
「はいはい、妄想は終わり。コナンくんから離れようね」
私の頭の中は、既に【湯けむり殺人事件】に巻き込まれる前提でいる。
ちょい呆れ気味の高瀬さんと共に、露天風呂に向かった。
こちらは、さほど大きくない風呂で、若干のガッカリ感は否めない。
海でも見えれば景色は最高なのに、残念ながら周りは木ばかり。
湯温は高めだけど、気温が低さで丁度良く感じる。
美肌効果がありそうな乳白色の湯を肌に熱心に擦り込んでいたら、逆上せかけてしまった。
でも、そのお陰でピカピカ卵肌。
「てるりさん………浴衣の合わせ目が反対ですが…」
「オーマイガー!!直してくる!」
湯上がりの色っぽい私を見せるどころか、うっかりお馬鹿な私を披露してしまった。
浴衣の合わせ目って、時々どっちが正しいのか分からなくて困る。
売店でお風呂上がりのフルーツ牛乳を購入し、ロビーの片隅で腰に手を当てて一気飲み。
至福の時を味わった後、部屋に戻ると、テーブルいっぱいのご馳走が待ち構えていた。
「わっ、美味しそう!!」
「へぇ……凄い」
刺身の盛り合わせ、山菜の天ぷら、地元野菜と地鶏をふんだんに使用した水炊き鍋に小鉢がいくつかついて、かなり豪勢だ。
「来て良かったー!」
「そっか……喜んで貰えて良かった」
豪華な食事に舌鼓を打ちながら、今日立ち寄った場所、食べた物の感想を語り合った。
お腹いっぱい食べて満足感に浸った後は、もう寝るだけ。
「さ~て、寝るか~」
なんて言いながら、隣の寝室に通じる襖を開ける。
「?!!!」
並べて敷かれた二組の布団を見て、凛ちゃんの言葉を思い出した。
『そろそろエッチさせろって事でしょうが』
何度も繰り返し読んだガイドブックには、この後どうしたら良いかは、さすがに書かれてなかった。
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