その声は媚薬.2

江上蒼羽

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配信者リューク①side:竜生

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キッカケは中2の終わり頃、不意に友達から言われた一言だった。



「久世って良い声してるよな」



丁度声変わりが落ち着いてきた頃だったと思う。



「アニメのイケメンキャラが出しそうな声してる」

「あー……言われてみればそんな感じ」



それまで勉強は普通、スポーツも普通、見た目も普通で取り柄という取り柄はなかった。



「滑舌も良いし、3年になったら放送委員とかやってみたら?」



自分に自信なんかちっとも持てなかった俺の目から鱗が落ちた出来事だった。


どちらかといえば消極的で卑屈、根暗。

プラス面より圧倒的にマイナス面の方が多い、地味で冴えない俺が唯一声にだけは自信を持てるようになった。




声優という職業がある事は知っていたけど、友達の一言を機にその職に強く憧れを抱くようになった。

初めはゲームのキャラが技の名前を言う所を真似してみた。

それから漫画のキャラの台詞を喋って録音した。

アニメを見て研究してみたり。

最初の内は気恥ずかしさから“何やってんだ?俺……”等と1人で羞恥心と戦っていたけど、段々とそれも麻痺していった。



次第に本気で声優を志すようになり、親に頼み込んで期限付きで専門のスクールにも通わせて貰った。

もし声優になったらキャラソンを歌う場面があるかもしれない……と歌の練習に励んだりもした。

今思えばなれる見込みもないのに良くやってたもんだ。

両親は俺が声優を目指す事に否定的で、学費の請求が来る度にチクチク嫌味を言われた。



「で?いつ声優とやらになれるの?いつまで高いお金払い続けなきゃならないの?」



プレッシャーを掛けられ、焦った。

お金を出してくれていた親に申し訳ない気持ちもありながら、息子の夢を応援してくれないんだな……と悲しくなった。

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