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その声は媚薬②
しおりを挟む帰宅してからソファーに転がってぼんやりと天井を見ていた。
気分の悪さは原因が分かったお陰で少しだけ和らいだ気がする。
お腹を撫でながら、竜生に何て伝えようかと考える。
彼がどんな反応をするのか分からない。
驚くのは確実だろうけれど、その先彼が何て言うのか………全く予測出来ない。
カチャカチャと食器がぶつかる音で目が覚めた。
ゆっくり上体を起こすと、床にブランケットが落ちた。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
部屋の時計を見ると夜の8時を回っていて、帰宅してからかなりの時間が経過した事を理解した。
「あ………ごめん、起こしちゃったね」
私の覚醒に気付いた竜生がばつが悪そうにはにかむ。
「ううん、私ったらご飯も作らずに寝ちゃってて……」
「気にしないで。レトルト温めただけなんだけど簡単に用意したからご飯にしようか」
テーブルに皿が置かれた。
湯気と共に香り立つのは、食欲をそそるデミグラスソースのこってりとした濃厚な匂い。
普段なら美味しそうと思える匂いも、今の状態では少々耐え難い。
「うっ……」
胃液の逆流まではないにしろ、胃のムカつきが強くなり、咄嗟に口元を押さえてやり過ごす。
「瑞希?」
「…………」
私の様子を不審に思ったのか、竜生が恐る恐る顔を覗き込んできた。
「大丈夫?具合悪いの?」
彼の問いに一言「大丈夫」とだけ返して、足元に転がしたままのバッグに手を伸ばす。
その中から受診した際に貰ったエコー写真を取り出し、竜生に差し出した。
「ん?これは………何かの写真……?」
不思議そうに写真を見詰める竜生にどう切り出そうか悩み、頭を掻いてみた。
「白黒だけど………豆か何か?……な訳ないか」
「んーと……」
言葉に詰まってモゴモゴしていると、竜生がテーブルの端にエコー写真を置く。
「取り敢えず、冷めちゃうから先にご飯にしよう。写真の事は後で聞くから」
「あ、うん……」
配膳を手伝い、それを終えると二人でテーブルにつく。
今日のご飯は、レトルトのハンバーグと付け合わせのサラダに、ご飯とスープ。
用意して貰っておいて悪いけれど、正直食が進まない。
中々箸を付けない私に竜生が「瑞希?」と声を掛けてくる。
「食欲ない?やっぱりどこか具合悪い?」
心配そうに見詰めてくる彼を前に、意を決して箸を置いた。
「…………あのさ」
「うん」
「赤ちゃん………出来た」
竜生の手元から箸がポロッと滑り落ちた。
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