前向き時々後ろ向き

江上蒼羽

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10月9日

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10月9日(水)


この日も特に検査はなし。

仕事を早く上がらせて貰い、16時前に病院へ滑り込んだ。

内科医、神経内科医との面談があった為。

病気と今後の治療についての話を家族にしておきたいとの事だった。

旦那は一人で聞くのでも構わないと言っていたけれど、私は是が非でも参加したかった。

今の今まで担当医と話が出来なかったし、聞きたい事も聞けずモヤモヤしていたので、この機を決して逃したくなかった。


病室で旦那と待機していると、別室に呼ばれた。

そこはスタッフステーションの隣の処置室と書かれた部屋で、中には内科医、神経内科医、看護師、研修医と私と旦那の6名。

物々しい雰囲気の中、私と旦那は取り囲まれる形で座らされ、まずは内科医からの説明を受けた。

リウマチ等の難病のいくつかを総称して膠原病と呼ぶのだけれど、その膠原病の内、皮膚筋炎、関節リウマチ、シェーグレン症候群を旦那が患っているが為に間質性肺炎を引き起こしたのだそう。

本来なら体を守るべき抗体が旦那の体を攻撃している状態らしい。

難病なので完治はしない、ステロイドパルスでこれ以上進行しないよう抑えなければならないと説明を受けた。

ステロイドは副作用が沢山あって、その内一番気を付けなければならないのが免疫がなくなる事。

感染症にかかり易くなるそうで、重症化もし易いそう。

と、ここまではある程度調べていたから知識としてあった。

けれども説明された副作用のあまりの多さにびっくりした。

高血圧やら糖尿病やら、緑内障やら……医師によって書き出された副作用の数、20以上。

必ずしもそうなるとは限らないけれど、ならない保証もない。

下手したら、いくつかの副作用が同時に起こるかも……と思ったら、ぞっとした。

それから肺のレントゲン写真を見せられた。

やはり、肺の下の辺りがぼやーんと曇っていた。

旦那の会社は毎年2月に健康診断があるのだけれど、その時に胸部の撮影もある。

それを思い出して、ボソッと「2月の健康診断時に見付からなかったもんですかね…」と呟いてしまった。

私の嘆きに近い呟きを拾った医師は「さすがに分からなかったろうなぁ…」と。
  
医師と対面した時に色々と聞きたい事があったのに、内科医の高圧的な態度に萎縮してしまい、聞きたかった事が全部ふっ飛んだ。

その中で辛うじて質問出来たのは、旦那の間質性肺炎は症状が軽いのを1と例えたして、1~5で言うならどの段階なのか?という事。

内科医の返事は、間質性肺炎としては早い段階で見付かったけれども、膠原病はかなり重篤な為、決して油断してはならない……だった。

突き放すような物言いの内科医を私と旦那はどうにも受け付けなかった。

ほぼ一方的に話すだけ話して内科医が出ていった後、神経内科の医師の説明が始まった。

彼は旦那の皮膚筋炎、関節リウマチ、シェーグレン症候群についてとても分かり易く説明してくれた。

シェーグレンは、比較的女性がなり易い病気で、割合的には男性1:女性9で、旦那の例はかなり珍しいのだそう。

ここでも難病だから完治はないとはっきり断言され、落ち込んだ。

原因不明の特発性間質性肺炎より、原因が特定されていてダイレクトに治療を行える膠原病性間質性肺炎の方がまだマシというか……長く生きられる可能性が高いと私は勝手に思い込んでいたので、結局どちらも大して生存率は変わらないという事を知り、更に落ち込んだ。

神経内科の医師は、突き放すような言い方をした内科医とは違い


「今は難病で治らない病気だけど、これらの病気を治そうと色んな研究が行われているから、いずれ効果的な新薬が開発されるかもしれない。それまで辛いだろうけど耐えて下さい」


と、励ましてくれた。


「何か聞きたい事があればいつでも声掛けて。いつもその辺ウロウロしてるから」


とも言ってくれ、凄く親身になってくれるいい先生だな……と思った。

実際、よくウロウロしてるのを見掛ける(笑)

この人、三国志とかにモブで出てきそうなお顔だなぁ……なんてかなり失礼な事を神経内科の医師に対して思ってしまった事を大いに反省した。

すみません。 

その後、難病申請について説明を受けた。

国が指定している難病にかかった場合、申請をして通れば医療費がどれだけかかってもかなり安く抑えられるそう。

家庭の収入によって違いはあれど、最大でも一月30000円程度で済むという、非常にありがたい制度。

色々と揃える書類があって少々手間を感じるけれど、貯金が少なくお先真っ暗な状態から僅かに光が差し込んだ。 


帰り際、エレベーターの前で


「難病って凄い確率だよね、宝くじも当たらないのに」

「宝くじは買わないから当たらないんじゃん」

「宝くじ買ってみる?当たったりして」


みたいな会話を笑い事じゃないのに笑いながらした。

本当はお互い泣きたいくらい落ち込んでいたのに。

この面談の時、内科医からシェーグレン症候群を知っているかと問われ、咄嗟に「和田アキ子がかかってる病気ですよね」と得意気に答えた私だったけれど

あの重苦しい雰囲気の中、何故和田アキ子の名前を出してしまったのか………と帰りのエレベーターの中、一人恥ずかしさに悶えてた。

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