異世界の管理人

人（ひと）の意思

主任さんは話を続ける。

……

ドラゴンさんもご存知の通り、この世界は、その生物の意思の力が大きく影響されます。
ですから、体が大きく寿命の長い者には、強い力が与えられているのだと思います。

この世界の人間族は、日々の生活を慎ましやかに送っているので、その種族としての力はドラゴンに比べたら微々たるものなのでしょう。

しかしながら、人間世界に住む人間族では、100年後、1000年後、更に宇宙の最後の事柄までも語り合っているらしいのです。
人間の寿命はせいぜい100年程度なのに、1000年後の未来を語り合っているのですよ！

考えられますか？ドラゴンさん。

今日の生活だけを考えて生きている生物の意思の力と、1000年後、10万年後の事まで考えている生物の意思と、どちらが強いかは明白です。

さらに最近では、文書の中に転生した場合の異世界での対応方法や、多くの聖剣を生み出す方法が詳しく書かれたライトノベルという種類が人間界の中に出回っているらしいです。
しかも、その書物は人間界で100万冊以上も印刷されているという情報も入ってきています。

さらに、もっと強力な呪文が書かれた薄い本をお互いに売買する『コミケ』という市場も存在すると言われています。
その市場は、特定の日にしか開かれないのに、なんとその市場が開かれる数日間で50万人もの人間が集まるのだそうです。

また、そのコミケという市場では、多くの聖剣や魔銃も売買されており、色取り取りな戦闘服を身にまとった多くの騎士が訪れるそうです。

そして、一番恐ろしいのは、アニメとか言う動く絵を使って、1000年後の未来の世界の話や異世界で戦う方法を、自分たちの次の世代である子供達に伝えているのです。
こうして育った子供達が大きくなって我々異世界に転生するのでしょう。

最近増えてきた、違法転生の人間達が使う聖剣も魔法も、そのようにして鍛えられた無限とも言える彼らの意思の力が生み出した、イレギュラーな産物ではないでしょうか？

しかし、だからこそ、何とか彼ら人間族に対する対策を講じないと、ドラゴンさんだけでなく、我々全ての異世界の住人は絶滅してしまうでしょう。

……

主任さんはここまでを一気にドラゴンさんに話す。そしてドラゴンさんの返事を待つ。


ドラゴンさんは深いため息をつきながら話し始める。

「先ずは、遊び感覚で来るような違法な転生を辞めさせたいのです。何か方法はないでしょうかね？例えば、我々の方から人間世界に行って人間どもを滅ぼすとか？イヤイヤ、滅ぼすのは私たちの流儀では無いと思います。しかし、人間族を滅ぼさないと、我々ドラゴンが滅んでしまう」

「うーん、それは最終手段としては『あり』ですが、その前に、やるべき事をやって来ましたか？」

主任さんはドラゴンさんに話しかける。

「それを言われると、面目ないのだが。では、我々ドラゴンは何をすれば良いのか？転生して来る人間どもを片っ端から捕まえて、転入書類にサインさせるか？それとも魔法免許証を取らせるか？」

ドラゴンさんは、ここまで話してから主任さんの意見を待つように目を閉じる。
そこで、主任さんは話し始める。

「うーん、そうだ！やはり一度我々が、直接人間界に偵察に行くのはどうでしょうか？人間界の正しい状況が分からないと、対処の仕方も分からないでしょうから。当然、この姿のままで行ったら大騒ぎになるので、人間の姿に変身する必要があるでしょうが」