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職人長屋
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江戸の町には色々な人が住んでいる。代表的なのは、お侍さまだな!
お江戸は、将軍様がお住みになっている江戸城を中心に十重二十重の堀と人工の川で囲まれた城下町だ。江戸城内とその側には、旗本様や御家人さまと言われる将軍様直属のご家来衆が住んでいる。
さらに、その外側には譜代様と言われる、昔から将軍様に仕えて来た大名さま達のお屋敷がズラーリと囲んでる。それ以外にも、参勤交代で遠路はるばる江戸にやってくるお大名さまの藩邸もある。
そう考えると、お江戸はお侍さまの街とも言える。
しかし、そのお侍さまも一人で生活しているわけではない。奥方様や、ご家族さま、あとはご家来衆や使用人がいるわけだ。
結局、サムライ一人の後ろには、数十人もサムライ以外の人間が生活しているわけだ。そしてその人達を支えているのが、江戸に住んでる俺たち町人さ。
例えば、奥方様が食事の準備をするためには、食材が必要になるだろう? 食材は誰が用意すると思う? 畑を耕す農家のおじちゃんかい? 近所の漁師のおっさんから買うのか?
イヤ、違うね。江戸の街中には畑は無いからね。海もみんな埋め立てちまったから、近くに漁場はないのさ。江戸から離れた関八州の農家から、野菜を買い付けて江戸に届ける棒手振りという行商人がいるだろう?
魚はどうする? 魚も同じさ、海に近い村まで行って、採りたての魚を買い取ってくる。それを江戸の町で売るんだな。
それに、奥方様が着ている着物はどうするんだい? 機織りの職人が織った反物を呉服問屋から手に入れるだろ。そもそも、お侍さまが住んでる家を建てたり、修繕するのは、当然大工だぜ!
後は、当然髪結いだよな。髪結いなんて、手先だけで生きて行く職人の理想だ。オレも月に一度は髪の手入れをしてもらうからな。アイツらは、鬢付け油と櫛とハサミだけで生活してるんだぜ。小さな道具箱一つ持って、今日はあちら、明日はこちら、請われるままに、お屋敷に行って仕事をしているからな。
そして、最後はオレたち鍛冶屋さ。
古くなった、ハサミや包丁、江戸中の金物は全てオレたちの所に集まってくる。オレたちが集める時もあれば、古くなった金物を買い集めてオレ達に売り付けるクズ鉄屋もいるし。それらを溶かして打ち直す。新しくなった、ハサミや包丁は金物屋に卸して売ってもらうって、寸法さ。
後はまあ、お侍さまの刀かな? 殆ど使われていないので、打ち直し自体が少ないけど、たまに依頼があるからな。その中で、多分一番多いのは、町方のお侍さんと岡っ引きの十手だろうな。
悪い事をする奴は、町が大きくなればなるほど増えるからな。南町と北町のお奉行様は大忙しさ。連日のように奉行所から飛び出して行く町方のお侍さま多いものなあ!
そして岡っ引きの親分さん達だよな。彼らは、サムライではないから人斬り包丁を持てない。だからといって、素手で闘えと言うのは酷だよな。相手は本気で刀や出刃包丁をぶん回して来るんだ。やわな十手なんかで受けたら、簡単に折れちまう。だからこそ、オレ達のように刀や包丁を打ち込んでいる鍛冶屋が、その打ち込みに耐えられる十手を作ってやるのさ。
親分さん達にとって、十手のよしわるしは、自分の命に関わる話だからな。オレもお江戸の為に本気で闘ってくれてる奴らには、その思いに応えてやる必要があると思っているさ。
さっきの、錦町の若親分も、先代の親分さんが良いひとで、仏の新造とか言われてた。オレも色々とお世話になったしな。イヤ、下手人になった方じゃなくて、捕まえる方の手助けをして来たのさ。オレには人様に言えない、不思議な力があるんだよ。その力を使って、親分さんの手助けをしただけさ。
若親分と呼ばれているアイツは、その後を継いで頑張っているから、オレも二足三文で引き受けてやったわけだ。
――
その他にも、人が生活するためには、オレも知らない、恐ろしいぐらいの職人が必要になる。お江戸は、お侍さまとその家族、そして俺たち職人と商人からなる街なのさ。
その中の、職人が集まる長屋が、オレも住んでる職人長屋さ。ここの大家さんは店子に良くしてくれるので、みんな居着いてなかなか出て行く奴が居ないのが、玉にキズかな。
だって、出て行く奴がいると、送別会が出来て、酒がたらふく飲めるだろ? オレは職業上の理由から酒は控えているけどよ、人を送り出す時には、無礼講だろう? その時ばかりは、ハメも外すし、酒も飲むさね。
長屋を出る人が居ないから、酒が飲めないのが辛いわ。
でもまあ、居心地が良いから、暇な時には長屋でゴロゴロするのが一番さ! さあて、今日もそこの蕎麦屋で蕎麦でも食ったら、長屋に返って昼寝としけ込むか……
お江戸は、将軍様がお住みになっている江戸城を中心に十重二十重の堀と人工の川で囲まれた城下町だ。江戸城内とその側には、旗本様や御家人さまと言われる将軍様直属のご家来衆が住んでいる。
さらに、その外側には譜代様と言われる、昔から将軍様に仕えて来た大名さま達のお屋敷がズラーリと囲んでる。それ以外にも、参勤交代で遠路はるばる江戸にやってくるお大名さまの藩邸もある。
そう考えると、お江戸はお侍さまの街とも言える。
しかし、そのお侍さまも一人で生活しているわけではない。奥方様や、ご家族さま、あとはご家来衆や使用人がいるわけだ。
結局、サムライ一人の後ろには、数十人もサムライ以外の人間が生活しているわけだ。そしてその人達を支えているのが、江戸に住んでる俺たち町人さ。
例えば、奥方様が食事の準備をするためには、食材が必要になるだろう? 食材は誰が用意すると思う? 畑を耕す農家のおじちゃんかい? 近所の漁師のおっさんから買うのか?
イヤ、違うね。江戸の街中には畑は無いからね。海もみんな埋め立てちまったから、近くに漁場はないのさ。江戸から離れた関八州の農家から、野菜を買い付けて江戸に届ける棒手振りという行商人がいるだろう?
魚はどうする? 魚も同じさ、海に近い村まで行って、採りたての魚を買い取ってくる。それを江戸の町で売るんだな。
それに、奥方様が着ている着物はどうするんだい? 機織りの職人が織った反物を呉服問屋から手に入れるだろ。そもそも、お侍さまが住んでる家を建てたり、修繕するのは、当然大工だぜ!
後は、当然髪結いだよな。髪結いなんて、手先だけで生きて行く職人の理想だ。オレも月に一度は髪の手入れをしてもらうからな。アイツらは、鬢付け油と櫛とハサミだけで生活してるんだぜ。小さな道具箱一つ持って、今日はあちら、明日はこちら、請われるままに、お屋敷に行って仕事をしているからな。
そして、最後はオレたち鍛冶屋さ。
古くなった、ハサミや包丁、江戸中の金物は全てオレたちの所に集まってくる。オレたちが集める時もあれば、古くなった金物を買い集めてオレ達に売り付けるクズ鉄屋もいるし。それらを溶かして打ち直す。新しくなった、ハサミや包丁は金物屋に卸して売ってもらうって、寸法さ。
後はまあ、お侍さまの刀かな? 殆ど使われていないので、打ち直し自体が少ないけど、たまに依頼があるからな。その中で、多分一番多いのは、町方のお侍さんと岡っ引きの十手だろうな。
悪い事をする奴は、町が大きくなればなるほど増えるからな。南町と北町のお奉行様は大忙しさ。連日のように奉行所から飛び出して行く町方のお侍さま多いものなあ!
そして岡っ引きの親分さん達だよな。彼らは、サムライではないから人斬り包丁を持てない。だからといって、素手で闘えと言うのは酷だよな。相手は本気で刀や出刃包丁をぶん回して来るんだ。やわな十手なんかで受けたら、簡単に折れちまう。だからこそ、オレ達のように刀や包丁を打ち込んでいる鍛冶屋が、その打ち込みに耐えられる十手を作ってやるのさ。
親分さん達にとって、十手のよしわるしは、自分の命に関わる話だからな。オレもお江戸の為に本気で闘ってくれてる奴らには、その思いに応えてやる必要があると思っているさ。
さっきの、錦町の若親分も、先代の親分さんが良いひとで、仏の新造とか言われてた。オレも色々とお世話になったしな。イヤ、下手人になった方じゃなくて、捕まえる方の手助けをして来たのさ。オレには人様に言えない、不思議な力があるんだよ。その力を使って、親分さんの手助けをしただけさ。
若親分と呼ばれているアイツは、その後を継いで頑張っているから、オレも二足三文で引き受けてやったわけだ。
――
その他にも、人が生活するためには、オレも知らない、恐ろしいぐらいの職人が必要になる。お江戸は、お侍さまとその家族、そして俺たち職人と商人からなる街なのさ。
その中の、職人が集まる長屋が、オレも住んでる職人長屋さ。ここの大家さんは店子に良くしてくれるので、みんな居着いてなかなか出て行く奴が居ないのが、玉にキズかな。
だって、出て行く奴がいると、送別会が出来て、酒がたらふく飲めるだろ? オレは職業上の理由から酒は控えているけどよ、人を送り出す時には、無礼講だろう? その時ばかりは、ハメも外すし、酒も飲むさね。
長屋を出る人が居ないから、酒が飲めないのが辛いわ。
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