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ドラゴンの女王編

第六十一話 夢のお姉さんそっくりの『ドラコ』現る。

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「可愛い声してるな」

 目を瞑り、誰似の声だ? と頭の中で知ってる声優さんの声を当てはめていく。
 そんな作業中に、国王が突然バンッと机を叩き、耳をたたみ、尻尾の毛を逆立てながら怒りの声を上げた。

「何故だドラコ、何故『エクスカリー』にくるのだ!」

 怒った国王の声により、部屋にいたメイド達が萎縮した。
 逆に俺は、声の当てはめ作業を邪魔されて、内心ブチ切れていた。
 クソ国王テメェ、今いいとこだから邪魔すんじゃねぇ!

「陛下、気を鎮めてください」

「ふーーふーー」

 アザセルさんが国王をなだめる中、再びテレパシーでドラコの声が聞こえてきた。

『ドラコはドラコ。今、『エクスカリー』の上空にいるの』

 はいはいきました可愛い声が!
 近づいてきているような気もするが、可愛い声だから気にしない、オールオーケー!

「ドラコがこの空にいるのか!?」

「そのようですね!」

 国王だけでなく、アザセルさんやメイド達も窓から空を眺める。
 俺は気にせず、ステーキと一緒に置かれた丸いパンを食べていた。
 ただのパンと思っていたが、バターの香ばしい香りと味がして美味い!
 そのまま二個三個と、ステーキを無視してパンだけを食べる。
 するとまた、ドラコからテレパシーが聞こえてきた。

『ドラコはドラコ。今、王宮の屋根にいるの』

「何ぃ! アザセル!」

「はっ!」

 国王が名前を呼ぶと、アザセルさんは窓から飛び出し、一瞬体がぶれて消えた。
 俺はパンを食べながらアザセルさんの速さに感心する。

「むしゃむしゃ、ゴクン。スゲェ、まったく見えなかった」

 その数十秒後。またドラコからテレパシーが聞こえてきた。

『ドラコはドラコ。今、人間と交戦中なの』

 どうやらアザセルさんはドラコの討伐に向かっていたようだ。
 もしその事を知らなかったら、可愛い声のドラコに何するじゃコラァ! とその人間に対して、サダンさんのようにブチ切れていただろう。
 てか人間って、ドラコは人間じゃないのか?
 疑問に思ったが、可愛い声だから人間じゃなくてもオールオーケー――。

 ドゴオオオン!

「むぐっ!?」

 爆発音とともに、天井に穴が開き、目の前に傷だらけのアザセルさんが落ちてきた。
 そのせいで食べていたパンが喉に詰まり、死にそうになったが無理矢理飲み込んでギリギリ助かる。
 メイド達が悲鳴を上げる中、国王は傷だらけのアザセルさんに駆け寄った。

「アザセル、しっかりしろ」

「陛下……逃げ……」

「アサオ」

 可愛い声で国王の名前を呼びながら、空から一人の女性がふわりと降りてきた。
 その女性は血のように真っ赤な髪色で、髪と同じ色の魅力的なドレスを着ていて、背中には鱗のついた羽が生えていた。

「ドラコ」

 降りてきた女性の名前を呼び、怒りと悔しい感情が入り混じったような表情を浮かべる国王。
 その一方俺は、女性の姿を見て驚愕していた。

「まさか、まさか貴女は!」

 見間違いようがない、白衣じゃなく、声は可愛くなっているが、降りてきた女性は夢の中でマッサージをしてくれたあの――。

「お姉さん!?」

「お姉さん? 違う」

 お姉さんは俺のお姉さん呼びを可愛い声で首を傾げながらすぐ否定してきた。
 そして、俺を無視して国王と目を合わせながら、可愛い声でこう言った。

「ドラコはドラコ。『ドラゴン王国』から直接アサオを迎えにきたの」
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