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第11章 明かされる歴史  ラルトside

過去を写す魔法 1

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ゼーラルは、一度ラルトを見上げたがすぐにまた下を向いた。両膝に握られた拳は、まるで口にしたくないと訴えているかの様にラルトには見えた。それほどまでにまだ自分の知らないミーラがあるのだと感じるほどに。

「お嬢様が昔からあの様に1人で立とうと意思を強く持った御人だと思いますか?」

「え?それは…」

「お嬢様、いえミーラ様は魔王ガルフ様の娘です。それは魔界で知らない者が居ないほどに誰もが知る事。ですが、ミーラ様は苦しんでおられた…」

 ゼーラルは言った。苦しんで居たと。
 それは、母親が目の前で殺されたからあんな風に"自分で立とう"としているんじゃないかと思って居た自分には衝撃を与え続ける事だった。
 たった少しの間だが一緒にいて日々を過ごして戦ってそうして過ごした間自分はミーラの泣いた姿も苦しんで居た事も知らない。少なくとも母親が亡くなったのを知っていたのだ、気付く時は幾らでもあったはずだけど…

「ミーラ様は、ご自分が魔王の娘である事に当初は気にも止めず穏やかに過ごされていました。しかし、ある日魔族の子供たちと遊びに行ったミーラ様は泣きながら帰ってきました。」

「なにがあったのですか?」

「ミーラ様は"私は出来損ないなの?"と私に聞いて来ました。当時の私は魔王様の右腕として前線に出て戦い魔王の強さをよく側で拝見していました。だからこそ魔王は絶大な魔力と力、知識がある事を知っています。ですが…」

「…小さなミーラは知らない…ですか」

「はい…」

 右腕であるゼーラルが知っている強さを他の魔族が全く知らない訳もない。もしかしたら何人かの魔族の内同じ時に戦禍に交わったかもしれない。そうなれば"魔王と共に戦った"と子供たちは武勇伝を聞かされていたかも知れない。だからこそ、子供のミーラは…

「ミーラ様はいつからか"魔王の娘"という名称でしか呼ばれなくなりました。そして子供達の中で噂が広まりました。」

「出来損ない…」

「はい、力も知識もない魔王の娘。魔王の出来損ない。まだ小さなミーラ様ですから仕方ありません。しかし、ミーラ様にはご自身が一番嫌いな事がありました。人より魔力が弱くて殆ど初歩魔法しか使えなかった事です。」

「ミーラが!?」

 ミーラと別れてしまった日、村が襲撃に遭い大変だった。あの時ミーラは何処かへ襲撃者を連れて事を治めた。それ程の強さがあると思い確信していたが、間近で見たわけでもないが…昔からあの時あれ程の力があるのにでも魔力が弱いとは思えない。
 何かの間違いでは?とゼーラルの顔を見るが、ゼーラルは急に立ち上がり両手を広げてラルトの目の前に輪を作り上げた。輪の中には小さなミーラが写っていた。
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