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第17章  母の姿

首飾りと魔法 3

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 しばらくミーラはそうして首飾りを握る。
 それをゼーラルは、哀しみを感じさせる優しい微笑みを浮かべながら見つめた。
 ゼーラルは、母様をよくは思って居なかった。だけど、母様の姿を側で見てその優しさを感じ助けたいと思う様になった。その結果、自分の力を使った。
 ーーそれでも止められなかった…

 小さく呟く声は、そう聞こえた。
 ミーラは、その言葉に対し時間をかけずにはっきりと返した。

「…救えたはずだ。」

「ミーラ様?」

 ゼーラルは、経をつかれた様に表情が固まりミーラを見た。その顔には、未だ答えのない不安が覆っていた。そのゼーラルにミーラは、力溢れる赤い瞳を向け言った。

「ゼーラルは母様を救った。だから、父様との間で私が産まれた。それが何より証明出来る答えだ。」

 ゼーラルが母様の為に動いたから、今がある。
 母様が伝えたかったのはきっとそう言う事。ゼーラルや母様に深く関わりがあった者達にきっとそう伝え前を向いて平和に生きてほしい。そう思って居たに違いない。
 ミーラの想いに呼応するかの様に首飾りは熱を発する。
 それをミーラは自分の首から外し、ゼーラルの右手に握らせた。

「ミーラ様、何故私に」

「母様は、此処にいる。母様にゼーラルの気持ちを伝えればきっと、首飾りが応えてくれる。」

 ミーラは、そう言い首飾りをゼーラルに手渡した後部屋を出た。
 後にした部屋の扉からは、しばらくの間ぐすんと静かな泣き声と嗚咽が鳴り止まなかった。
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