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第24章 娘の責任

伝えられない気持ち 2

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 動かないミーラを目の前にラルトは、頭の中を吹雪が巻き起こる様になった。
 思考が止まらない。それは、人々を救えなくて自分だけが安全地帯に避難して居たから。魔族との争いを不本意だが引き起こす為に道を探してしまったから。不当な暴力や力を振るう者達から救ってあげられなかったから。魔王を目の前で失ったミーラを止められなかったから。
 勇者なのに全てを救えなかったから…

「いや、一番は…ミーラにもう一度会いたいと願ったから…俺は…」

 項垂れ、固まった龍の姿のままのミーラに近寄り両手を伸ばす。それはまるで縋る様に、何も出来ないと嘆く自分を許してと子が親に手を伸ばすように。
 愛しい存在をこの腕に抱きしめる為に、存在をちゃんと確かめたくて…ラルトは手を伸ばす。
 赤い塊は、鼓動すら聞こえない程に固く深い壁に感じた。僅かに分かるのは、その小さな温かさだけ。
 それが一番嬉しくて、一番哀しいグチャグチャな感情をラルトに突き付ける。

「俺が…俺がっ!勇者だったから…君を守れなかった…悲しい想いばかりさせて、もっと側に居られたら…そう思っていたのに…」

ーー間違いだった…願ってはいけなかった…
ーーだって…

「俺、達、は…ちがっ」

 涙で嗚咽で言葉が上手く使えない。喉の奥でつっかえて、スムーズに出てこない。いや、もしかしたら"言いたく無い"のかも"言葉にしたくない"のだと思う。
 言葉にしたら受け入れなければいけない… 

「は、ははっ…ダサいな…最後まで…」

 ラルトはミーラの前で膝から崩れ聖剣を投げ捨ててみっともなく泣き叫ぶ。
 声にならない気持ちを叫び泣く。誰に聞かれても気にしない。
 ミーラに最後まで近づけたと思えない程に無様に、本当の事を伝えられずに、誤解されたまま…

「ミーラ…俺…」
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