叶わぬ願いと望まぬ結末

第25章 勇者の心

バルンハルト 1

　人間の中で"ミーラお嬢様"と呼ぶ者は存在しない。魔界であっても存在は数少ない。
　幼い頃からミーラの教育係であったゼーラル。そして…

「お前は…まさか！？」

「おやおや？勘付かれるのがやはりお早いなぁ～」
　
　そうダラシのない口調で言いながらも、弓に対する力は緩まない。
　彼はミーラに対して一歩も引かないのだ。

「バルンハルト…お前が何故人の姿に、そして何故ラルトと共に居る！！今の状況はなんなんだ！」

　ミーラは、ひっ迫する空気の中かろうじて生きている槍、盾、魔法の人間達に背を向ける。3人の人間達は顔面蒼白で立ち上がりすら出来ない程に動揺していた。

(彼らを護らなければ！きっとラルトと関係のある人間に違いない！)

　黙り震える彼らにミーラは笑顔を向け言った。

「君達を護る。だから、君達はラルトの側に行ってくれ？時間を稼ぐから」

「あ、あんたは…ま、魔族じゃない！？なんで…なんで私達を」

「決まっている。彼の、いやラルトの大切な仲間だからだ」

　それを聞くと同時に盾の者は、ようやく立ち上がり彼らにすり寄り担いで歩き出す。魔法の者は未だに目の前の光景、魔族のミーラそしてバルンハルトを何度も何度も見るが信じられないと言わんばかりに首を振る。槍の者は頭を下げて何度も"すまない"と言った。
　そうして彼らはラルトの側に行く事を選んでくれた。

“あぁ、良かった"

　ミーラにとって彼らは庇護すべき対象。だが、彼らにとっては討伐すべき対象。だが、この時はちゃんと分かり合えた。そう実感が出来た。
　だから、私は信じて貰えた分答えなきゃいけない。
　ミーラはバルンハルトに言い放った。

「バルンハルト。お前を彼らの所には行かせない。"魔王"として貴様を排除する！！」

「俺じゃないんだけどなぁ～ミーラ嬢と戦うの。だけどしょうがないよね～どうせ、あの勇者もやらなきゃいけないからさーーーー。ちゃちゃっと終わらせなきゃねぇ」