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技術的指導者

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 「え…誰?」
 獅凰は全てのここにいた人間が思っていたであろう事をミラに聞いた。ドヤ顔で保っているミラの後ろにはむさ苦しい毛むくじゃらの男が3人立っていた。これを異様な光景と呼ばずに何と呼べばいいだろうか。誰も状況を理解できていなかった。そのなかでミラは何の説明も無いまま荷台とお金を獅凰に引き渡した。獅凰はそこにまた驚いた。金が山程余っている。獅凰が買ってきてほしい物を買うための資金と獅凰が個人的にミラに渡したお金の合計を10割としよう。残ったお金は4割ほども残っている。それだけではない、頼んだ筈の紙が一枚たりとも見当たらないのだ。獅凰は、ミラを叱ろうとした。「何で言われたことも出来ないんだと。せめて言った物くらい買ってきてくれと。」だが、獅凰はその気持ちを押し止めた。それをいうのは教育するものとして言ってはいけないものだと分かっていたからだ。もし、この行動に何か考えがあった場合、その考えを否定し、その人物の可能性を潰してしまう行為だからだ。獅凰は、ミラに聞いた。
 「ドヤ顔の理由を教えてくれ。」
 獅凰は、相手の自慢したい事を聞くことでミラの考えを引き出そうとした。
 「あ、そんな顔してた?そうか~まあ、そうだよね~えっとね…」
 ミラが語った内容に獅凰は、ミラに謝ることとなった。それは、あまりにミラの考えていた事が素晴らしく今後の作業を加速させていくと確信出来るものだったからだ。その内容とは、まず、むさ苦しい毛むくじゃらの男をつれてきた理由から話された。その男たちの職業は、建築家、武器職人、家具職人。まだ、一人前として師匠に認められた直後だそうだ。ミラはその人たちを雇ったのだという。一人前に成り立てということもあり、ミラはもう少し出すと言ったのだが3人は、師匠に言われた言い値で雇われてくれた。それぞれの師匠は、「これも修行だ。お前はこれを経験することでこんな老いぼれよりも遥かにいい腕をした職人になるだろう。ホントはお金を出してまで送り出したいところだがそれだとそこのお嬢さんが納得しないそうだから。少しだけ貰っておきなさい。そこで職人としての責任と技術を磨いてこい。」
 と言った。どの師匠も似たような事を言って送り出したのだという。この3人を連れてきた理由は、技術的指導者がいることで、獅凰の仕事が軽減できる上に作業効率が格段に上がると判断したそうだ。次に紙を買って来なかった理由だが、これも3人に関係しているらしい。まず、頼まれたものを買う前に3人を尋ねたそうだ。ミラは3人に尋ねるために町を歩いていたわけではないが、驚くべきほどの観察眼でその人達の関係性等を見極めていた。そこで、建築屋、家具屋、武器屋の前で一人前成り立ての職人を見つけてこれだと感じたらしい。その直感を信じ3人を雇った。そのあと、3人と一緒に頼まれていたものを買い出しに行ったそうだ。すると、紙を買おうとしたミラに職人が声をかけた。
 「何に使うんですかい?」
 「何かの説明とかかな?わからないけど買って来てーって言われた。」
 「村の周りに木はある?」
 「あるよ!いっぱい」
 「じゃあ紙は要らないよ。作った方が経費削減になるしね。作り方は教えるよ。買うならペンとインクだね。それも一つでいいと思うな。」
 ミラは、3人のアドバイスを聞きながら買い物をした。工具は買わないと作業が出来ないため買ったが、それだけですんだ。今回ミラがした買い物は技術者3人、ペンとインク、工具多数だった。
 「これで獅凰のためになった?」
 可愛らしい顔で見上げてくる。
 「スゲーよミラ俺の思い付かなかったことだ!(その反応可愛いっ!)」
 「いや、獅凰逆!ん?逆でもないか。いや、女の子の気持ちとしては逆の方が嬉しいんだけど、獅凰の誉められたのも嬉しい。」
 「ん?お、おう?それよりも紹介してくれよ」
 「いいよー!まずこっちが建築家のレジェス・リプソンさんです!」
 「よろしくお願いいたします。家等建設関係の事は任せてください!あーあと獅凰さん、これ師匠からです。」
 レジェスは一つの封筒を渡した。
 「こっちはねー!武器職人のブレッド・バッシュさんです!」
 「モンスターに勝てるやつを作ってやる。任せろ。」
 ブレッドは、自分が初めて1人で作ったという、銃をプレゼントした。
 「最後に、家具職人のルーサー・プラウズさんです!」
 「家事で悩んでることがありましたら、お申し付けください。その悩み必ず解消させます。」
 ルーサーからも、封筒が手渡された。
 こうして、ミラの独創的な買い物により獅凰はまた、人との繋がりを広めていった。そして、この繋がりもまた獅凰の成長の糧となった。
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