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接触

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 「シフェリちゃんパンはどうだい?」
 「ありがとうございます。ここのパンは獅凰がとっても喜ぶのです。」
 「それは、よかった。頑張りなー」
 獅凰は、すっかり町に馴染み近所ではかなり噂になっていた。
 獅凰はこの日、レオのところに向かっていた。武具などに関する商業の話だ。獅凰は、レオとミラを繋げてミラのお得意様にしようとしたのだ。ミラにとっては余計なお世話かもしれないが、レオにとってもメリットがあるわけで気軽にものを頼める商人がいることはとても心強い。こういった事から獅凰は、レオにミラを紹介しようとした。レオには、ミラのことと村の場所、そして獅凰に紹介されたと言うことを伝え、ミラの元に向かわせた。獅凰は、戦力、財力において支援を受けられるであろう者どうしの結び付きを強くしたかったのだ。そのときにレオにはミラに獅凰はクラウディオ帝国にいると言うことを伝えるようにも頼んだ。獅凰がその後町をぶらついていると気づいた事がある。やけに荷車が多い。それを引いているのは、鳥、竜、馬など様々で各地からやって来ていることが目に見えてわかる。
 「旦那、何でこんなに荷車がおおいんだ?」
 獅凰はたまたま近くにいた商人らしき人に尋ねた。
 「ああ、クラウディオ帝国は最近物流の経由地点として有名でな。まあ、市場としても有名何だがここで品数を増やしてまた各地に散らばるってのが最近の商人の流行りさ。」
 獅凰が納得していると路地から誰かに引っ張られた。
 「なにするんだよ。てか、誰だよ。」
 「ごめんごめん。まあ、俺の話を聞いてくれ。」
 獅凰を引っ張ったマントで身を隠した男はそのフードを外した。その瞬間に獅凰は警戒心を急激に引き上げた。あのときの詐欺師と名乗った男だったのだ。その男は警戒心むき出しの獅凰に、戦闘の意思がないことを示した。獅凰は、構えるのをやめたが以前詐欺師をにらんでいた。
 「少し俺を売り込みにきただけだ。信用するもしないも自由だけど頭の片隅にくらいいれといて欲しいかな。」
 その男はまず、名乗るのが礼儀だなと言って名を名乗った。名をカイル・リークという。カイルは、まずコインを投げた。
 「ここは少しかけてみよう。表か裏か選んでくれ。」
 「裏」
 そして、カイルの手のひらに乗っていたコインは裏を示していた。
 「それで何がしたい。」
 「じゃあ質問、この賭けの勝利者は?」
 「そんなものはいない。誰も何も失っていない。第一何も得ていない。」
 すると、カイルはニヤニヤと笑う。それは、まるで純粋にゲームを楽しんでいる子供のようだった。
 「やっぱり、これは俺の勝ちだ。」
 その理由を、獅凰は聞いたがそれに関してはカイルは笑ってはぐらかした。それの代わりのつもりなのか次々と自分に、関する情報を漏らした。カイルがギルドに雇われていること。その仕事として、獅凰達の邪魔をしていること。ギルドは、ギルド以外の同業者を消したいと考えていること。そして、カイル自身ギルドが好きだから働いているわけでなくあくまで金と安全のためだということ。カイルは、自分の情報を吐きまくった。嘘をついているような素振りは一切ないのにその口の滑り具合や、カイルが詐欺師と名乗った事があることから獅凰はどうしても信用出来なかった。
 「まあ、信用されないのは想定済み。今話したことに対してあんたがどう思うかも自由。ただ、俺はあんたの所を次の雇われ先としてマークしているということだけ伝えておく。じゃあ」
 カイルは一方的に話して獅凰から、離れていった。獅凰は、カイルを信用したわけではないが、ギルドが手を加えていたことはこれで確定だと判断する事ができた。
 獅凰は、その後ここで起きたことを誰にも話すことなくしまっておいた。それは、もしカイルの言うことが本当に信頼できるものだった時。それは、獅凰が持てる切り札となり得たからだ。
 家兼事務所に戻ると獅凰はその光景を見て驚かざるを得なかった。そこに数人人が並んでいたのだ。獅凰がこえをかけると皆口を揃えて依頼だといった。獅凰はこの時、ようやくスタートラインにたったのだと自覚し何とも言えない喜びを感じた。
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