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中等部

ため息

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「はぁー」
「‥‥‥‥」ピクッ
 シェーアの隣で本を読んでいるが、全く集中できない。
 原因はわかっている。先日、輝と将弥と喧嘩したからだ。
「‥‥はぁー。お茶入れますね」
「‥‥‥‥」
 本を閉じて、お茶を入れるために動く。少しでもなにかしていないと、ため息が漏れてしまう。
「‥‥‥‥何があったか知らないが。そんな辛気臭いため息をつくぐらいなら、謝ったらどうだ」
「え」
 お茶を用意していると、シェーアが壁によりかかってそう言ってきた。
「‥‥‥なんの事やら」
「はぁー。しらばっくれるのはいいが、お前自分の状況わかってるのか?」
「状況?」
「‥‥‥‥」
「ちょ、ちょっと」
 何を思ったのか、シェーアは無言でこちらに近づいてくる。
 そのまま壁際に追い込まれ、私の逃げ場はどこにもなくなる。
 頬にシェーアの手がくる。
 流石攻略対象。顔がいいし紳士な手つきだ。
 この世界がゲームだとわかっていなければ、私もシェーアのファンクラブに入って取り巻きになりそうだ。
「笹浪‥‥さ‥ま」








「顔色が悪すぎだバカ」







「っ!いひゃいいひゃい!」
 さっきの雰囲気ぶち壊しの行動。
 シェーアは私の頬にあてた手で、あろうことかそのまま頬をつまんできた。
 慌ててその手を叩くが、シェーアは手を離してくれない。
「‥‥‥‥よく伸びる頬だな」
 やっと手を離してくれたシェーアを睨み、私は急いで距離をとる。
「何をするのですか!私に何か恨みでも!?」
「恨みか‥‥あるな」
「なんですか!もう‥‥赤くなってる~」
 絶対に頬が赤くなっていると思い、手鏡を出して頬を見る。
 頬は赤くなっていて、このままでは授業に出られない。
「お前は俺の読書を邪魔した」
「読書の邪魔?」
 私は手鏡から顔を上げ、シェーアを見る。
 すると、シェーアは私を鼻で笑ってから、袋に氷を入れ始めた。
「お前の噂は聞いた。最近、兄弟と上手くいってないそうだな」
「な、なんでそれを」
 引きこもりのシェーアにまで伝わっているとは、私はそんなに分かりやすかっただろうか。
「フン。風の噂ってやつだ。それに、さっきも言った通り顔色が悪い。化粧も厚塗りしすぎだ」
「‥‥‥」
 女性の化粧に口を出すとは、攻略対象なのになんて失礼なんだ。外国語を勉強して、外国語の本を読む前に、女性への接し方を勉強して来い!
 私は無言でシェーアを睨む。
「いくら睨んでも、俺は意見を変えないぞ」
「‥‥笹浪様。今日はおしゃべりですわね」
「‥‥‥‥ほら。これで冷やせ」
「ありがとうございます」
 差し出された氷袋を受け取り、タオルにくるんでから頬にあてる。
 ひんやりとした感覚に、私はこれで午後も授業に出れると安心した。
「これで午後の授業に出れるな」
「誰のせいですか!誰の!」
「フン」
「‥‥‥嫌な奴」
 元凶であるシェーアは、自分でお茶を入れて、そのお茶を飲みながら元の場所へ戻って行った。
 シェーアの背中を見て、私は笑えてきた。
「‥‥‥謝ったら‥か。ふふっその通りね」
 シェーアにつままれた頬は、まだジンジンと痛むが、それが私のこれまで沈んでいた気分を一転させた。
「シェーア!ありがとう!行ってくる!」
「っ!?な!な!」
 植物園を出る時にシェーアにお礼を言うと、シェーアがお茶を吹き出しそうになるのが見えた。
 頬が赤かったから、慣れないことをしたせいで熱が出たのかもしれない。次に来る時は、風邪に効く物を持ってこよう。
「あぁ!そこのあなた!」
「は、はい!」
「私今日は早退する事に決めたの!先生に言っておいてくれませんこと!」
「は、はい!分かりました!」
 近くにいた生徒に頼み、私は急いで家帰るための車を呼んだ。

「今すぐ家に向かっ────」
「────お嬢様!大丈夫ですか!?お怪我は!お具合は!」
「うぇ!?」
 やってきた車に乗り込み、家に向かってと頼もうとすると、運転手にとても心配された。
 よく分からないが、何か心配をかけてしまったらしい。
「だ、大丈夫!怪我も具合も悪くないから!」
「ならばどうされたのですか!この時間に私を呼ぶなんてなかったじゃないですか!」
「そ、そうだったかしら」
 やばい。このままでは、家に帰るまで時間がかかりそうだ。
 上手い言い訳が思いつかない。となると、本当の事を言うしかないだろう。
「じ、実は、輝と将────」
「────仲直りですか!」
「うぇ!?あ、そ、そうだけど‥‥‥」
「よ、よかった~。私‥いえ、使用人一同これで心休まります!」
「そ、そう?」
「はい!」
 まさか、使用人達にも心配されていたとは思わなかった。
「それでは、安全第一の最速スピードで参ります!」
「お、お願いします」
 運転手の熱気が伝わってきて、私はこれ以上何も言わないことにした。
 そう。例え、ものすごい細道をすごいスピードで進んだとしても‥‥。
「キャー!」
 悲鳴をあげることしか出来なかった。
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みんなの感想(6件)

奏瑪
2022.09.10 奏瑪

小等部と記載されてますが、初等部の間違いではないでしょうか?

解除
白兎
2020.01.22 白兎

投稿ありがとうございます♪
これからも楽しみにしています。
もちろん自分のペースいいので、頑張って下さい。

解除
白兎
2020.01.05 白兎

すごく、面白いです。
続き楽しみにしています。
頑張って下さい、待ってます。

レラン
2020.01.05 レラン

感想ありがとうございます!

 今投稿している話の中で、この話が一番難しいのですが、そう言われるとやる気が出てきます!
 ありがとうございます!
 頑張って今月中には一話だけでも更新できるよう頑張ります!

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