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器用な村人
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日も暮れかけた平原にある村へ、旅人が訪れた。道中なにかと戦ったのか、左腕には血の染みた布が巻かれている。片方の手には地図を持って、背中には必要最低限の容量の小さなリュックを背負っていた。
旅人に気付いた村人の一人が、彼に駆け寄った。
「大丈夫ですか、ひどいケガだ」
「いえ、大したことはありません。ですが、手当てをお願いしたく……」
村人たちは短く話し合うと、ひとまず旅人を宿へ連れて行くことにした。
旅人が座って待っていると、先ほどの村人が呼んだ教会の医師が手当てをしにやってきた。すばやく傷口を消毒しきれいに包帯が巻かれた腕を見て、旅人はたいそう驚いた。
「とても手際がいいんですね。きつくもないし緩くもない。あなたは村で一番腕のいい医師なのでは……」
「いえ、私はまだまだ下っ端ですよ。これくらいは当然です。私より手先が器用な人は、この村にもっといますから」
医師は、褒められなれていないのか、少し照れながらも村の中を案内することを提案してきた。ちょうど夕食時だったため、見学は食事後ということになった。
「この村では、指輪の生産が盛んなんです。ほらあの家も、あそこの家も、全部そのための工房なんです」
「へえ、では鉄や銀の採掘場所が近いんですか?」
「そういうわけではないですが……この村の人たちは、みんな、手先が器用なんです」
「はあ、みんな、というのは……?」
旅人が首を傾げると、医師は手帳を見せてくれた。
「ほら、見てください。この『きようさ』というステータスが100を超えているでしょう。一般的に『きようさ』が100を超えているというのはかなり珍しいんですが、この村の住人はみんな100以上の『きようさ』を持っているんです」
医師の手帳の『きようさ』には『122』と書かれていた。
「いやお恥ずかしい。私はうちでは低いほうなんですよ……」
「そういうものなんですか……すごいですね」
旅人はゲーマーだったため、すぐに納得した。また、多少不思議に思ったが質問はすべて飲み込んでおいた。
いくつか工房でアクセサリー(ほとんどは指輪だったが)を作っている様子を見せてもらい、その後どうしても見てもらいたいものがあるとの医師の申し出で、宿に戻る前に、旅人が泊まる部屋の窓からよく見える、村で一番大きな教会へ向かった。
教会の中へ入ると、数人の子供たちとその親らしき人たち、さらに、もう夜も遅いというのに多くの人がそこへ集まっていた。仕事なのかと思って戻ることを促したが、医師は「今日は当番ではない」といい、この催しについての解説係になるという。
1人の子供が神父らしき人の前へ出て、何やら話し始めた。そしてそれが終わると、神父が箱から指輪を取り出し、子供の指へはめた。歓声が沸き上がり、子供は嬉しそうに指輪を観衆へ見せていた。
「あれは成人の儀式なのです。18歳になると、初めて自分の指輪を授かれる。それまで子供はアクセサリーの装備を禁止されているのですが、この儀式をしたあとはレベルが上がるたびに『きようさ』がぐんぐん上がるものですから、みんなこの時を心待ちにしているんです」
医師は目に涙を浮かべながら教えてくれる。そういう種族値みたいなものもあるのかあ、と旅人は思った。
その後、旅人の歓迎会も兼ねた宴が催され、夜が更けるまで続いた。
翌朝、二日酔いの旅人が目を覚ますと、何やら外が騒がしい。
外に出て向かいの教会の、騒ぎのもとである集団の渦の中へ入ると、昨日の儀式にいた神父が何か紙を持って周りの村人へ静かにするよう促していた。
ようやくざわつきが収まって、神父が紙を掲げて叫んだ。
「神のお告げが授けられた!」
旅人が目を凝らすと、紙には古代語でこう書かれていた。
『──いつもご利用いただきありがとうございます! アップデートのお知らせです! 本日AM5:00に、ver2.0へのアップデートを行いました。
・特定の年齢で「アクセサリー初獲得イベント」を行うと、「きようさ」のレベルアップでのステータス上昇値が異常に高くなってしまう現象を修正しました。』
村人たちは紙を見て、いったいどんな内容なのかと囁きあっている。
「これからこの内容を解読する! 古代語に精通した者は教会へ来るように!」
騒がしさも収まり、村人も去り始めた頃、医師が偶然通りがかって声をかけてきた。
「やあ旅人さん、あなたも神のお告げを見にいらしたんですね。私は古代語はさっぱりなのですが……ところで、今日も工房を見学されますか?」
旅人は誘いを断り、複雑な心境のまますぐに村を去って行ったのだった。
旅人に気付いた村人の一人が、彼に駆け寄った。
「大丈夫ですか、ひどいケガだ」
「いえ、大したことはありません。ですが、手当てをお願いしたく……」
村人たちは短く話し合うと、ひとまず旅人を宿へ連れて行くことにした。
旅人が座って待っていると、先ほどの村人が呼んだ教会の医師が手当てをしにやってきた。すばやく傷口を消毒しきれいに包帯が巻かれた腕を見て、旅人はたいそう驚いた。
「とても手際がいいんですね。きつくもないし緩くもない。あなたは村で一番腕のいい医師なのでは……」
「いえ、私はまだまだ下っ端ですよ。これくらいは当然です。私より手先が器用な人は、この村にもっといますから」
医師は、褒められなれていないのか、少し照れながらも村の中を案内することを提案してきた。ちょうど夕食時だったため、見学は食事後ということになった。
「この村では、指輪の生産が盛んなんです。ほらあの家も、あそこの家も、全部そのための工房なんです」
「へえ、では鉄や銀の採掘場所が近いんですか?」
「そういうわけではないですが……この村の人たちは、みんな、手先が器用なんです」
「はあ、みんな、というのは……?」
旅人が首を傾げると、医師は手帳を見せてくれた。
「ほら、見てください。この『きようさ』というステータスが100を超えているでしょう。一般的に『きようさ』が100を超えているというのはかなり珍しいんですが、この村の住人はみんな100以上の『きようさ』を持っているんです」
医師の手帳の『きようさ』には『122』と書かれていた。
「いやお恥ずかしい。私はうちでは低いほうなんですよ……」
「そういうものなんですか……すごいですね」
旅人はゲーマーだったため、すぐに納得した。また、多少不思議に思ったが質問はすべて飲み込んでおいた。
いくつか工房でアクセサリー(ほとんどは指輪だったが)を作っている様子を見せてもらい、その後どうしても見てもらいたいものがあるとの医師の申し出で、宿に戻る前に、旅人が泊まる部屋の窓からよく見える、村で一番大きな教会へ向かった。
教会の中へ入ると、数人の子供たちとその親らしき人たち、さらに、もう夜も遅いというのに多くの人がそこへ集まっていた。仕事なのかと思って戻ることを促したが、医師は「今日は当番ではない」といい、この催しについての解説係になるという。
1人の子供が神父らしき人の前へ出て、何やら話し始めた。そしてそれが終わると、神父が箱から指輪を取り出し、子供の指へはめた。歓声が沸き上がり、子供は嬉しそうに指輪を観衆へ見せていた。
「あれは成人の儀式なのです。18歳になると、初めて自分の指輪を授かれる。それまで子供はアクセサリーの装備を禁止されているのですが、この儀式をしたあとはレベルが上がるたびに『きようさ』がぐんぐん上がるものですから、みんなこの時を心待ちにしているんです」
医師は目に涙を浮かべながら教えてくれる。そういう種族値みたいなものもあるのかあ、と旅人は思った。
その後、旅人の歓迎会も兼ねた宴が催され、夜が更けるまで続いた。
翌朝、二日酔いの旅人が目を覚ますと、何やら外が騒がしい。
外に出て向かいの教会の、騒ぎのもとである集団の渦の中へ入ると、昨日の儀式にいた神父が何か紙を持って周りの村人へ静かにするよう促していた。
ようやくざわつきが収まって、神父が紙を掲げて叫んだ。
「神のお告げが授けられた!」
旅人が目を凝らすと、紙には古代語でこう書かれていた。
『──いつもご利用いただきありがとうございます! アップデートのお知らせです! 本日AM5:00に、ver2.0へのアップデートを行いました。
・特定の年齢で「アクセサリー初獲得イベント」を行うと、「きようさ」のレベルアップでのステータス上昇値が異常に高くなってしまう現象を修正しました。』
村人たちは紙を見て、いったいどんな内容なのかと囁きあっている。
「これからこの内容を解読する! 古代語に精通した者は教会へ来るように!」
騒がしさも収まり、村人も去り始めた頃、医師が偶然通りがかって声をかけてきた。
「やあ旅人さん、あなたも神のお告げを見にいらしたんですね。私は古代語はさっぱりなのですが……ところで、今日も工房を見学されますか?」
旅人は誘いを断り、複雑な心境のまますぐに村を去って行ったのだった。
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