冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ

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番外編 王子の休養

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「……領地を見回りながら、何度も夜明けを見ました。一面の雪の中、空が白んで朝陽が昇ってくる。一日のうちで最も寒い時刻です。昇る太陽を見ながら、いつもアルベルト様のことを思っていました」
 
 ──長く続く夜の果てに、雪が朝陽の黄金に塗り替えられる。臓腑を凍らせる空気すら、まるで温かさを帯びるように感じました。昇る太陽を貴方だと思えば、一日を乗り越える力が出た。

 ヴァンテルの言葉に胸が熱くなる。

「……アルベルト様、ロサーナの太陽におなりください」 
「クリス?」

 思わず上掛けから顔を出した。柔らかな瞳が静かに私を見つめている。

「何を言っている。お前はずっと反対していたのに」

 ヴァンテルの言葉が、新王への即位を勧めていることは間違いない。
 エーリヒをはじめとする宮中伯たちにとって、一番の難敵は他ならぬヴァンテルだった。

 ──アルベルト様のお体に負担が大きすぎる。せっかく北の地に慣れて安定した生活を送られているのに、どれだけの御負担を強いるつもりなのか。

 嘆願書を破り捨てる暴挙を行ったヴァンテルは、エーリヒたちにそう言い放った。宮中伯たちは怒り心頭だったが、公爵に怒りをぶつける以上のことはできなかった。
 ロサーナの貴族の大半は地震で大きな被害を受けている。その中で、全くと言っていいほど無傷だったのは、北に所領の大半を持つヴァンテル公爵家ぐらいだ。ヴァンテルから多くの者たちが援助を受け、彼が持つ北領騎士団の活躍に助けられた。復興の要だった男と争いたい者はいない。
 
「この二か月、私は領地を隅から隅まで巡りました。地震の後、新たに人々が移住した土地の様子も知りたかったのです」

 そして、愚かな自分を見つめ直してきました、とヴァンテルは言った。

 自分の足で領地を巡り、人々の話を聞いた。愛した土地を離れ、新天地に越してきた人々がどんな思いで過ごしてきたのかを知った。

「レーフェルトには第二王子がいる。それがどれほど人々の支えとなっていたのか。私は何もわかっていなかった」
「クリス、私は父や兄のように人々を率いてはいけない。エルンスト叔父上のように、人望が得られるとも思えない」

 ヴァンテルは、私を静かに見つめている。

「アルベルト様。太陽は、ただそこにるだけで希望なのです」
「……そこにあるだけで?」

「私と同じように昇る朝陽を見る者たちがいました。彼らも私も、生きる力を受け取っていた」

 ──泰然と、ただ真っ直ぐに貴方が立っていてくだされば。私たちは顔を上げて生きていくことができる。

「クリス、この命があるのはたくさんの人々のおかげだ。私が王となることで再び立ち上がれる者がいるのならば、取るに足らないこの身を投げ出そう。……でも」

 ――自分に、できるだろうか? 

「今度こそ私がお力になります。天に輝く太陽となることは、アルベルト様にしかできぬことです」
 
 私は大きく息を吸った。

「お前は、この二か月でよほど多くの知見を得たのだな」
「……愚かな私には優秀な導き手がおりました」

 首を傾げると、ヴァンテルが微笑んだ。

「見ろ、と聴こえました。小さな羽音が繰り返し、いつも耳の奥にありました」

 ああ、そうか。
 このロサーナを導くのは、


 ……ミロ
 ──見ろ
 
 自分の目で。
 自分の足で。

 ……ミロ
 ──見ろ

 自分で確かめるのだ。
 この国が、人々が何を欲しているのかを。

 そして。

 ……キボウ
 ──希望

 誰がこの国の希望なのかを。


「私には、何も言ってこなかったぞ」
「目を覚まさなければならないのは、私だったからでしょう。彼らの声が聴こえなくなるまで、帰りたくても帰れませんでしたよ。おかげで、都の構想をじっくり練ることが出来ました」

 ──フロイデンにも負けないほどの都を造ってみせます。

 きっぱりと告げるヴァンテルの笑顔がひどく頼もしい。それにしても、帰るに帰れなかったとは思わなかった。
 ごめんと呟くと顔中に口づけが降ってくる。瞼にも頬にも鼻にも、気がついたら唇にも。ふうっと体から力が抜けるとヴァンテルは慌てて私の体を離し、寝台から下りた。

「……すみません。熱を出していらしたのに」
「うん。でも、クリスが帰ってきたからもう治りそうな気がする」

 思わず笑うとヴァンテルの頬が赤くなった。もう一度私に顔を近づけた恋人が小声になる。

「……熱が下がったら、覚悟なさってください」

 唇を尖らせてそんなことを言うから、笑いが止まらない。ヴァンテルが側にいるだけで、こんなにも心が明るくなる。

「そんなことを言われたら、ゆっくり休養を取る暇もなさそうだ」
「ちゃんとお休みになってください。アルベルト様がお眠りになるまでお側におります」

 ヴァンテルが手を握ってくれる。温かい手に触れていると、ゆっくりと眠気が押し寄せた。

「ようやく春だな」
「ええ、お待たせしました」

 いつのまにか、窓を打つ吹雪の音は止んでいた。

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