【恋は早いもの勝ち】溺愛攻めが買った惚れ薬

尾高志咲/しさ

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1.オリーの惚れ薬 ①

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「これを飲んだら、想い人の心が手に入る」

 七色に輝く硝子瓶を手に、青い瞳が輝く。
 そんな怪しげな謳い文句を信じるやつがいるなんて思わなかった。必死で貯めた金を全部使って手に入れただなんて、聞いただけでも泣けてくる。

「オリー、それで? せっかくここを出て行けるはずのお金を全部つぎこんだの? ようやく正々堂々と朱門をくぐれるのに?」

 僕の前に立つオリヴィは、今やこの高級娼館一の男娼だ。儚げで麗しい顔にすらりとした細身のしなやかな体、耳に馴染む柔らかな声。中性的な容姿に惹きつけられる者は多い。花のかんばせを拝むだけ、いや拝める部屋に行くだけで、恐ろしいほどの金に羽が生えて飛んでいくとしても。

「だって、西の森の魔女のお墨付きだって言うんだ。これを飲めば、どんな心も手に入るって!」

 蒼空の瞳を見開いて、オリーは真剣に僕を見た。
 僕は心の中で、ばーかばーか、顔だけが取り柄の大ばかやろう! と罵った。

 最近、少しはましだと思っていたのに、とんでもない。オリーは本当に騙されやすい。
 二人で旅をしている時も、ちょっと目を離せば壺やら絵やら買わされるし、子どもが病気だなんて聞くと、すぐにお金を渡してしまう。人がいいのかもしれないけれど、気がついたら手元に一銭も無いなんてしょっちゅうだ。大体、僕らがこの娼館にいる羽目になったのだって、オリーのせいだった。

 旅の途中に立ち寄った町で、僕が昼食を買いに行った時のことだ。たまたま泣き叫ぶ娘を見かけたオリーが話しかけた。借金のかたに連れて行かれると聞いて、哀れに思ったのだと言う。それがいつの間にか、娘の代わりにオリーが売られることになっていた。

「何でそんなことになるんだよ!」
「だって、ラウェル。父親が借金を作って逃げて、家には病気の母親と幼い兄弟がいるんだよ。自分がいなかったら、家族は首を吊るしかない。そう聞いたら、なんとかしてやりたくなるだろう?」
「だからって自分が身代わりに娼館行きになるっていうの? おかしいよ!」
「いや、金をいくらか用立ててやろうと思ったんだよ。それが何でこんなことに⋯⋯」

 話が変だと二人で騒いでも、屈強な男たちに囲まれて、僕たちには逃げる術もない。あっという間に、花街の朱の表門をくぐってしまった。いつの間にか作られた一分の隙も無い証文を前に、館主が言う。借金が返せたなら解放してやろう、と。それから早いもので、もう一年が経つ。

 今思えば、あれは最初からオリーを捕える為の罠だったんじゃないだろうか? ちらっと見た娘よりも、オリーの方がずっと綺麗だったもの。

 僕の気も知らず、オリーはきらきらと七色に輝く硝子の瓶をうっとりと眺めている。中にはとろりとした透明な液体。これが惚れ薬? それにしても、オリーはいつの間に、好きな人ができたんだろう? 長いこと一緒にいたのに、少しも気づかなかった。

「オリー、お前が代金として渡した金には、僕の一年分の給金も入っていたよね?」

 オリーの肩がびくんと跳ねる。やっぱりだ。僕がこっそり隠していた金がごっそり消えていた。娼館の主はクズ野郎だが、僕らに借金天引きの給金をちゃんと払っていた。一体どんな倫理観なのか。オリーの人気が高まって、思ったより早く借金?が返せていた。手元に残った給金を合わせて、さっさと二人で娼館を出る算段をつけていた矢先だったのに。
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