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13.リシュリムのミツドリ ①
しおりを挟む「オリー、心を鎮めろ! その男を殺す前に、お前の憎悪がラウェルを殺す。大事なミツドリを死なせる気か?」
ダートの声が聞こえないのか、オリーの纏う青白い炎が一層大きくなる。オリーの心は正気を失いかけている。僕は、自分の体からすうっと温もりが消え去ろうとするのを感じた。手が足が、一気に重くなって感覚を失くしていく。たまらなく体が寒かった。どんどん体が冷えて眠くなる。とてもではないが、これ以上瞼を開けていることはできそうにない。口から僅かに言葉が漏れた。
「⋯⋯オ⋯⋯リー⋯⋯だ、め」
「愚か者ッ!」
ガッ!と大きな音がして、誰かがオリーを殴りつけた。体が宙に浮き、僕は他の誰かの腕に抱き上げられる。くぐもった呻き声が聞こえる。あれは、オリーだ。オリーの姿が見たいと思ったけれど無理だった。僕は逞しい胸にしっかりと抱きしめられ、凍える体を慰めるように温かな布で覆われた。
「オリ⋯⋯」
「大丈夫だ、ラウェル。安心しろ。あいつも何とかするから心配しなくていい。今はとにかく休むんだ。お前は力を失いすぎた」
ああ、僕を抱きしめているのはダートなのか。ダートの体から、少しずつ温もりが移ってくる。それは小さな暖炉の火のように凍えかけていた体を温めた。瞼の裏にはちらちらと、青白い炎に包まれたオリーの姿が浮かんだ。心配で、胸がぎゅっと痛くなる。それでも今は、動けない。ダートのこの温もりがなかったら、自分は死んでしまうと知っていた。
夢を見ていた。
体を丸めて白銀の殻の中で寝ている夢だ。ふわふわと温かい中で眠っていると、優しい声がする。少し高い、甘い声。その声を聞いていると、泣きたくなるほど嬉しい。ずっと側で聞いていたい。
『ねえ、もうじき会えるね、ぼくのミツドリ。君は、ぼくとずっと一緒なんだって。早く会いたいな。待っているからね。ぼくのことを呼んでね』
少しずつ、彼の言葉の意味が分かる。わかるようになったのは、僕が十分成長したからだ。もうじき、この殻を破る日が来る。待ってくれている彼が一番先に、僕に笑いかけるはずだ。そうだ、彼の名は何と言うのだろう。
『君のこと、前よりわかる気がするんだ。今、起きてるんだな、とか。うとうとしてるんだな、とか。そんな感じなんだ。君に会えたら、いちばん先に抱きしめるよ。⋯⋯ああ、そうだ。ぼくの名前⋯⋯」
うん、教えて、名前を。⋯⋯それは、とてもとても大切な名前のはずだから。
「ラウェル」
夢が破られて目覚めた場所は、寝台の中だった。天井も壁も真っ白な部屋は、カランカンでもアナンの館でもない。
むくりと起き上がった僕の隣には椅子に座ったダートと、用心棒のサジュが立っていた。ダートは髪を後ろで一つに束ね、青地に金の紋が付いた長衣を羽織っている。サジュは剣を身に着けて、上下とも黒の礼装だ。まるで王国軍の騎士のようだった。
「⋯⋯ラウェル。目が覚めたか」
「ダート、ここはどこ? ⋯⋯その恰好、まるでどこかの王子様みたい」
ダートは、くすりと笑った。以前から娼館の館主とは思えないほど品があると思っていたが、婀娜な格好をしていない姿は、眩しいほどに美しい。
「本物だからな」
「本物?」
「そうだ、可愛いラウェル。お前の言ったことは当たっている。我が名はヴァンダート。リシュリムの第二王子だ」
リシュリムは、僕たちの住む王国の名前だ。ダートは本物の王子様だってこと?
「ヴァンダート? だから、ダート?」
「そうだ、私のミツドリ。お前が助かってよかった。オリーのせいで、また失うことになるかと思った」
「オリー!」
僕は慌てて寝台を降りた。オリーの名を聞いたら、ダートが王子だと言う話もどこかに飛んで行った。体がよろりとふらつくと、ダートは僕を抱き上げた。オリーよりもさらに背が高いダートの腕の中で、僕はまるで小さな子どものようだった。
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