上 下
17 / 72

17.ラウェルとミツドリ ①

しおりを挟む

 魔導士は、注意深く様子を見ながら、僕の魔力を整えてくれた。息が楽に吸えるようになってようやく、普通に声を出すことが出来た。

「⋯⋯僕にずっと話しかけていたのは、だれ?」

 ダートの眉間に皺が寄り、唇が引き結ばれる。オリーは目を見開いた後に、何か言いかけた口を閉じた。体の中を巡る熱はようやく静かになり、僕は魔導士に支えられながら体を起こした。

「夢を、見るんだ。僕が白銀の殻の中にいて、眠っている時も誰かがずっと話しかけてくれる夢。いつも優しい声で、僕を待っていると言ってくれた。僕はその声が好きで、嬉しくて、殻の中でどんどん大きくなった」
「⋯⋯ラウェル。その夢は、今もずっと続いている?」
「うん。さっき、殻を破って生まれる時が浮かんだ。蒼空の瞳が⋯⋯、オリーやダートと同じ色の瞳が僕を待っていた。やっと会えて、すごく嬉しかった。でも、それ以上は思い出せないんだ。あれは、ずっと夢だと思っていたけど、もしかして夢じゃないの?」

 僕と目が合ったダートが、大きく息を吐いた。

「⋯⋯夢じゃない。それは、ラウェルの孵化ふかの記憶だ」
「孵化って、鳥が卵からかえることでしょう?」
「そうだ。⋯⋯ラウェルは、ミツドリだ。人型をとる鳥の一族の者だから」

 鳥? 僕が?

 ダートが何度も言った。──⋯⋯ミツドリ。

 僕は自分の手足を見た。白い腕の先に手があって、指は五本。鉤爪があるわけではない。羽毛はなくて、背中もつるりとしたままだ。

「鳥って。僕には、羽がないと思うんだけど⋯⋯」
「いずれ成鳥になれば、背から出すことが出来るようになる。ラウェルはまだ幼鳥だから、人の姿しかとることが出来ないんだ。ミツドリは卵生だが、卵から人型で生まれる」

 卵。だから、白銀の殻が僕を包んでいたのか。でも、鳥って⋯⋯、本当に?

「じゃあ、僕を、卵を産んだ鳥は? 他のミツドリは?」 

 誰も、何も言わなかった。部屋の中に沈黙が落ちる。

「⋯⋯ゆっくり話をしよう。長い話になる。ミツドリの話をするならラウェルには見せたいものがあるが、体が心配だ。ミツドリと人とは本来、魔力が違う。魔女の作った惚れ薬は人の為のものだろう。ミツドリにどう作用するのかわからない」

 僕の体を支えていた魔導士が小さく頷いた。彼のおかげで、体はすっかり楽になった。僕は立ち上がり、ダートに向かって歩き出す。

「ダート、お願いだ。オリーを、ここから出して」
「ラウェル、何を言ってるんだ。あいつがお前に何をしたと思う?」
「薬を飲んだのは、僕が自分で飲んだんだよ。オリーに無理やり飲まされたわけじゃない。オリーは心も体も傷ついている。罪人の部屋から出して、ゆっくり休ませてあげたいんだ」

 ダートの服を掴んで頼んだ。何とか聞いてほしくて必死だった。

「オリーは魔導士たちに魔力を封じられているから、もう暴走することもない。それに、僕ならダートのおかげで少しずつ良くなってるから大丈夫だよ」

 ダートは呆れたように僕を見た。そして、僕の体をぎゅっと抱きしめた。

「全くミツドリは健気なことだ。何をされても、⋯⋯を守ろうとする」
「守る?」

 ダートの言葉がよく聞こえなかった。ミツドリは何かを守る習性があるのか。僕は自分がミツドリだと言われても実感がなかった。世の中には多種多様な生き物がいる。それでも、『ミツドリ』と呼ばれる生き物のことを、これまで聞いたことがなかったのだ。

 質問を続けるより前に、ダートの腕の中に抱え上げられた。振り返ると、オリーが僕たちを見ている。その瞳は途方に暮れて、打ち捨てられた動物のようだ。僕がダートの腕の中から降りようとしても、放してはもらえなかった。

「オリー、ミツドリの願いだ。お前を罪人の部屋から出す。だが、魔力は封じておく」

 オリーは自分の両腕に嵌められた腕輪を見て頷いた。全身から力が抜けてしまったように、項垂れている。魔力がなくても構わないはずだ。今までだって、僕たちは助け合い、魔力を使わずに生きてきた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

貞操観念がバグった世界で、幼馴染のカノジョを死守する方法

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:370pt お気に入り:17

【R18】引きこもりだった僕が貞操観念のゆるい島で癒される話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:653pt お気に入り:12

転生したら男女逆転世界

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:731pt お気に入り:684

美少女たちのパーティー【なずみのホラー便 第72弾】

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

BL / 連載中 24h.ポイント:1,655pt お気に入り:42

処理中です...