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19.ミツドリと大樹 ①
しおりを挟む目の前のオリーに思わず、ぎゅっとしがみついた。オリーは恐る恐るといった様子で、僕の背中に手を回す。あれ、何か聞こえる。トクントクン⋯⋯トクトクトク。何だか、いつもより心音が早くなっているような気がする。
「⋯⋯オリー?」
「ん?」
「あのね。心臓の⋯⋯おと? すごく早い気がするんだけど」
「⋯⋯」
「トクトクって⋯⋯」
胸に手を当ててもっとよく聞こうとしたら、そっと体を離された。
「オリー?」
「⋯⋯ごめん、ラウェル。悪いけど、近すぎると眠れないから」
「そうなの? 僕は、オリーが近くにいる方が安心するのにな」
そういえば、カランカンで暮らすようになる前は、僕はいつもオリーの隣で眠っていた。野宿はしょっちゅうだったし、宿屋や貴族の館に招かれた時も与えられる部屋は一つだったから。気候のいい季節は別だが、寒い時期にはお互いに抱き合って眠った。その方が寒さをしのげるのだ。
オリーの手の中から離されて、僕は自分がどんどん萎れていくのを感じた。何だか頼りない気持ちになっていく。
⋯⋯オリーに触れていたいのに。
でも、それは自分の我が儘だと気がついた。
「ごめんね、オリー。傷は治っても、まだ体が元通りとはいかないよね。僕、部屋に帰る」
無理やり口元に微笑みを浮かべた。ちょっと引きつっていたかもしれない。僕はベッドから、すとんと降りた。疲れていたのか軽くよろけると、オリーがベッドから降りて僕の腕を掴む。
「だ、大丈夫だよ? ちょっとよろけただけだよ」
「⋯⋯ラウェル、俺は」
「え?」
オリーは綺麗な顔を歪めて、何か言おうとした。どうしたんだろう。
「どうしたの、オリー?」
「⋯⋯本当は、ちゃんとラウェルに話さなきゃいけないことがあるんだ。ずっと言ってなかったことがある」
「それは⋯⋯何? もしかして、ミツドリのこと?」
オリーの眉間に皺が寄り、蒼空の瞳が悲しげに曇る。その様子に、オリーはミツドリのことを何か知っているのではと思った。
「ダートは長い話になると言っていた。僕の体が回復したら、見せたいものがあるって。僕はもう大丈夫だから、話を聞きたい」
「⋯⋯ダートに禁じられていることは話せない」
「どうして? ダートがカランカンの館主で、王子だから? オリーはまるでダートに従うのが当たり前みたいだ」
オリーは眉を顰めて、唇を引き結んだ。
「教えて、オリー。僕はダートの口から話を聞きたいわけじゃない」
僕はオリーから目を逸らさなかった。オリーは僕を見て観念したように大きく息を吐く。そして、寝台の脇にあった自分の上着を取って僕の体にかけた。
オリーの上着は大きくて、魔導士の長衣のようにすっぽりと膝下まで体が包み込まれてしまう。
「今から外に出る。日が暮れたら冷えるから、それを着て」
「ありがと⋯⋯。この服ね、オリーの匂いがして安心する」
オリーの指がピクリと震え、着替えるから少し待つようにと言われた。
僕は部屋を出て廊下で待った。上着が暖かくて思わず口元に笑みが浮かぶ。寝衣から外出着に着替えてきたオリーは、僕の手を引いた。
使用人達が使う出入口から、周りを窺って外に出た。元々離宮には人が少ないこともあって、僕たちは誰にも見咎められなかった。
柔らかな午後の陽射しが辺り一面に降り注ぎ、外の空気を吸うだけで心が浮き立つ。咲き誇る花々で、庭には甘い香りが漂っていた。うっとりして花に引き寄せられる僕の手を、オリーは離れないようにぐいぐいと引いていく。
「ラウェル、花は後だよ。早くしないと日が暮れてしまう」
「だって⋯⋯。こんなに綺麗なのに。蜜もたくさんあるのに」
「王宮では、どんな季節でも必ずどこかで花が咲くんだ。だから、今は急いで」
オリーは、僕を花々から引きはがすように、強く手を引いた。甘い香りに誘われるのを振り切って、僕たちは庭園の奥に進む。最奥に一面に蔓薔薇の絡んだ門があった。ここには強い魔法が張りめぐらされているのがわかる。オリーの魔力は塞がれたままだ。門に触れたらすぐに、魔導士たちがやってくるだろう。
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