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21.大樹と失われたもの ①
しおりを挟む「⋯⋯大樹、大樹。ミツドリを育み、見守ってきた友よ。大いなる父よ。⋯⋯教えて。みんなは、どこへ行ったの?」
僕は大きく息を吸って、大樹に囁きかけた。最初の口上は、まるで自分の中から湧き上がるように脳裏に浮かんだ。それは、成鳥たちがいつも大樹に呼びかけていた言葉だ。口から零れた言葉は知らぬ間に音になり、大気を震わせる。自分の中の想いがいつのまにか歌になる。
細い細い糸のような気脈が微かに光り、僕が触れた幹にわずかな温もりがよみがえる。
──幼子よ。
「大樹!」
静かに響く声に僕が思わず幹を撫でると、大樹は体を揺らした。さわさわと、枝の先のくすんだ葉が揺れる。人だったら、まるで頭を撫でるように。
──よくぞ、⋯⋯無事で。
「大樹、僕は貴方を覚えてる。貴方はいつも僕たちを守り、柔らかな風を送ってくれた。ミツドリは皆、貴方の元で生まれ育った。ここで、たくさんのミツドリが暮らしていたはずなのに誰もいない。どうして?」
はらり、と葉が空から落ちてきた。見上げると、いくつもいくつも葉が降ってくる。それはまるで、大樹の流す涙のように見えた。はらはらと、途切れることなく葉が落ちる。僕は幹から手を離して、両手を高く上げた。穏やかな風の中で、たくさんの葉が僕に向かって舞い降りた。
──あの夜、ミツドリたちは私の元から消えてしまった。私の周りで歌ってくれた鳥たちは皆⋯⋯。
「ラウェル」
オリーが僕の両肩に、そっと手を乗せた。振り返ると、蒼空の瞳は悲し気に揺れている。
「大樹は悩んでいる。ラウェルに伝えていいものかと、心を痛めているんだ」
「ここまで来たんだ。何があったのか知りたい」
「⋯⋯大樹に、もう一度触れてごらん」
僕は両手でもう一度、滑らかな幹に触れた。
大樹の根元に小さな光がある。それは気脈に沿って幹の中をまっすぐに上り、僕が触れている手のところまでやってきた。幹がふわりと温かくなって、僕の手の中に光が流れ込んでくる。光は切れ切れに浮かぶ記憶の一つを浮かび上がらせた。
僕は、前に夢で見た白銀の殻の中にいた。
⋯⋯もう、外に出なきゃ。
十分に時が満ちたのがわかる。
両手でえいっ、と殻を押すと、外から温もりが伝わってきた。誰かの手が殻に触れている。目の前に一本の亀裂が走り、白銀の殻がパリパリと割れた。開けた世界に燦燦と溢れる光が眩しくて、目がよく見えない。たくさんの歌が聞こえる。
『⋯⋯生まれた! ぼくのミツドリ!!』
甲高い子どもの声が、ひときわ大きく響く。
翼をはばたかせる成鳥たちと共に、一人の子どもが巣の中を覗き込んでいた。きらきらと目を輝かせて、空中にふわりと浮かんでいる。子どもの瞳は蒼空の色で、背まで伸びた髪は、輝く太陽の色だ。
⋯⋯ああ、ずっと僕を呼んでいたのは彼だ。
『生まれた!』
『生まれたぞ』
たくさんの鳥が大樹の周りで歌っている。皆、とても嬉しそうだ。樹の根元には幼鳥たちがいて、手を取り合って跳ねまわる。木々の真上で成鳥たちが次々に歓びの歌を歌う。
あっという間に視点が変わり、今度は大樹の目で一つの巣を見ていた。
大樹が、雛が孵ったばかりの巣を揺らさないように、自分の枝に力を注ぐ。白銀の殻の間からは、ふわふわと揺れる茶色の髪。小さな手が伸びて、白く柔らかな体が殻の中から現れた。ぱっちりと開いた瞳は髪と同じ茶色に金の煌めきが宿る。ふっくらとした頬はつやつやと薔薇色に輝いていた。
雛が手を伸ばすと、魔力で浮いていた子どもに抱きしめられた。たくさんの優しい声の中で、彼の心が誰よりも温かく、まっすぐに飛び込んでくる。大樹の根元の柔らかな草の上に座って、人の子は少しも雛を離そうとしなかった。雛は彼の腕の中で、すっかり安心して力を抜いた。
成鳥たちが、子どもと雛を大きな羽で何度も優しく撫でていく。祝福の歌が絶えず聞こえてくる。
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