47 / 72
47.幼子と北の屋敷 ①
しおりを挟むオリーの魔力でふわりと浮いた体は、あっという間に屋根裏の物置部屋に立っていた。少し前に来た時とは全然違う。はっきりと視力が戻った瞳で見れば、思ったよりもずっと広い。小さな寝台が二つ並んでいて、部屋の中には衣装箪笥と衣装箱がある。
⋯⋯ここは。
不思議なほど懐かしい感じがする。床を踏みしめて衣装箱に向かう。蓋を取れば、幾つも木で彫られた人形が入っていた。叩けば音の鳴る木琴も。
⋯⋯これは。
木の人形を手に取る。
『もっと、おはなしして。まだあそびたい』
『もう寝る時間だよ。また明日遊ぼうね』
『じゃあ、おうた、うたって。おうたきいたら、ねるの⋯⋯』
『わかった。小さな声で歌うよ。ラウェルの好きな歌にしよう』
ゆらゆらと、遠い日の記憶が揺れる。
『大きなベッドはオリヴィエに。小さなベッドはラウェルに』
そう言われていたのに、僕がいつも一緒に寝ようとするから、仕方なく寝台は二台ぴたりとつけていたんだ。
「オリー! ここ」
オリーは子ども用の小さな寝台に腰かけて、僕の様子を見守っていた。
「⋯⋯どうして、気がつかなかったんだろう?」
僕は、もっとずっと幼い頃、ここで暮らしたことがある。子ども部屋で過ごして、屋敷の中を走って、庭の花を摘んだ。
「ここを出る時に、ラウェルが少しずつ屋敷での記憶を忘れていくようにと、祖父が魔導士に依頼したんだ。ただ、ミツドリに下手に魔力を使うことは出来ないから、どちらかというと暗示のように魔法を使った。幼いこともあって、ラウェルは成長に従ってここでの暮らしを忘れていった」
「どうして、僕はここに? ここは、誰の屋敷だったの?」
「ここは、北の大公の持ち物の一つ。前の大公だった俺の祖父が、俺とラウェルを匿った屋敷なんだ」
「前の⋯⋯大公?」
「ああ、もう亡くなった。祖父が亡くなる前に、俺たちはここを出て旅を始めたんだ」
花を摘んでいると、時々体の大きな老人がやってきた。いつも優しく頭を撫でてくれた。微かに浮かぶ優しい面影。
「⋯⋯おじいちゃん?」
「お前だけは、俺の祖父をそう呼んでいた」
「僕⋯⋯少し、おぼ⋯⋯えてる。膝に乗せてくれた。僕の歌を喜んでくれた」
「ラウェルは祖父にすごく懐いていたからな」
彼は優しかった。時折この屋敷を訪れて、僕とオリーと三人で過ごす。たくさんの本や玩具を土産に持ってきては、静かに話をした。
自分とオリー以外の人の前で歌ってはいけないと、繰り返し教えられた。人はミツドリの歌に魅きつけられる。でも、ミツドリは誰の前でも歌っていいわけじゃない。人の欲は悲しい結果を招くものだ。
──本当に大切な相手の為にだけ、お前の歌を歌いなさい。
ある時、やってきた大公は、ひどく顔色が悪かった。いつもなら気軽に膝に乗る僕も、その日は傍らで手を握るだけだった。
『おじいちゃん、つらいの? からだ、いたいの?』
『そうだ。もう少し頑張りたかったが、そうもいかぬようだ』
『おじいちゃん、ねえ、ぼく、おうたうたうよ』
『⋯⋯これ以上は、どうにもならん。お前はお前の大事なものの為に歌うんだ。オリヴィエと共にここを出て、二人で生きなさい、ラウェル』
大公は、僕とオリーを胸の中に抱きしめた。
僕は悲しくて仕方がなかった。オリーと一緒に育った屋敷が好きだった。おじいちゃんと慕った大公が好きだった。それなのに、どうして出て行かなければならないのか。
「オリー、どうして、僕たちはここを出て行くことになったの?」
「⋯⋯元々、俺たちは父の最後の魔力で王宮から弾き飛ばされたんだ。その時に母が自分の父である祖父に命がけで頼んだ。子どもたちを助けてくれと」
十にもならない王族の子と生まれたばかりのミツドリ。そのままでは死んでしまう。ミツドリたちを滅ぼす手引をした王弟の子を見つければ、王が生かすはずもない。
祖父は承諾した。自分の持つ力をすべて使って、俺たちを領地の外れにある屋敷の一つに匿ったのだ。
33
あなたにおすすめの小説
向日葵畑で手を繋ごう
舞々
BL
琥珀は付き合っていた彼氏に「やっぱり男とは手が繋げない」とフラれてしまい、そこから更に人を避けて生きるようになった。笑うことさえなくなった琥珀を心配した母親は、琥珀の夏休み期間だけ自分の生まれ故郷である秩父へと送り出す。そこで久しぶりに再会した悠介は、琥珀のことを子ども扱いするものの、事あるごとに自然と手を繋いでくれる。秩父の自然に触れながら、琥珀はいつしか明るく優しい悠介に惹かれていったのだった。
ユキ・シオン
那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。
成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。
出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。
次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。
青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。
そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり……
※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
洗濯日和!!!
松本カナエ
BL
洗濯するオメガバース。BL。
Ωの鈴木高大は、就職に有利になるためにαと番うことにする。大学食堂で出逢ったαの横峯大輔と付き合うことになるが、今までお付き合いなどしたことないから、普通のお付き合い普通の距離感がわからない。
ニコニコ笑って距離を詰めてくる横峯。
ヒート中に俺の部屋においでと誘われ、緊張しながら行くと、寝室に山ができていた。
巣作りしてもらうために洗濯物を溜め込むαと洗濯するΩ。
12話一旦完結からの17話完結。
卒業旅行番外編。
(素敵な表紙はpome様。感謝しかありません)
※大島Q太様のTwitter企画「#溺愛アルファの巣作り」に参加したのを加筆して出します。
※オメガバースの設定には、独自解釈もあるかと思います。何かありましたらご指摘下さい。
※タイトルの後ろに☆ついてるのはRシーンあります。▲ついてるのはオメガハラスメントシーンがあります。
忘れられない君の香
秋月真鳥
BL
バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。
両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。
母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。
アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。
最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。
政略結婚から始まるオメガバース。
受けがでかくてごついです!
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる