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58.希望の選択 ②
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「カランカンでしか一緒にいたことのない僕が、ダートに言うのは変かもしれないけど」
「⋯⋯家族とは、一緒にいた時間だけで言えるものではない。私は、長く共にいたけれど、母や兄の家族ではなかった」
「ダー⋯⋯」
小さく、弦をはじく音がした。
耳が瞬時に捕らえたそれは、少し前に聞いたばかりの音だった。高く、低く、柔らかな音が辺りに響く。細く高い、子どもの歌声が重なる。ダートもはっとして、部屋の中に目を走らせた。
月夜の森で小さな一羽の鳥が鳴く
自分はここだと鳥が鳴く
肌が粟立ち、全身を寒気が走る。
オリーがすぐ後ろに走ってきて、僕の体を抱きしめた。
「オリー! オリー、これ⋯⋯」
「ああ。ずっと、俺がラウェルに歌ってきた子守歌だ」
懐かしいあの歌は、北の屋敷で何度もオリーが聞かせてくれた歌だ。もう一度、とせがむたびに歌ってくれた懐かしい歌。
「何で? どうして、この歌が⋯⋯」
さ迷い眠るその上に月は光を投げかける。
今宵も君を見ていると。
静かな光を投げかける。
部屋の中の空気があっという間に変わった。真昼の明かりが差し込んでいた部屋から光が消え、音もなく、ただ閉ざされた空間に変わろうとしている。
「魔導士! 侵入者だ!」
ダートが叫ぶと、部屋の中に3人いた魔導士のうちの一人から、周囲に強い魔力が放たれた。二人の魔導士が必死で止めようとしているが、力の差は歴然としている。中央に立つ魔導士が放った魔力で他の魔導士たちは壁に思い切り叩きつけられ、あっという間に動かなくなった。残った魔導士の体は見る間に闇を纏い、顔も体も、ただ漆黒の闇に染まっていく。
「闇魔法? まさか、お前が⋯⋯」
魔導士は長衣から手を伸ばした。彼は低く言葉を唱えながら目の前の空間に大きな円を描いた。オリーの顔色が変わる。
「⋯⋯やめろ」
オリーの手から、即座に光が放たれた。白と黒が混じり合い、じりじりと空間を歪めていく。
僕の中に遠い昔の記憶がよぎる。そうだ、体を揺さぶられて起きた時には空間が歪み、大きな黒い空間があった。そして、その中からは⋯⋯、もっと恐ろしい闇が来る。
目を離せずにいると、体が大きく揺れた。上もなく下もなく、ぐにゃりと空間が歪む。いきなり宙に放り投げられ、風の中の木の葉のように回る。自分の体の周りに細かい銀の網が投げられ、捕らえられるかと思った時だ。白銀の光が一閃し、全てを粉々に切り裂いていく。これはオリーの魔法だ。
「オリー!」と、口に出したはずなのに声にならない。
空間の中に幾つも言葉が反響して、まるで木魂のように自分の放った言葉が反響して聞こえる。誰の姿もなく、自分がどこにいるのかもわからない。その中で小さな歌声が響いた。
オリーが歌ってくれた子守歌。それを細い声で子どもが歌っている。子どもの歌に、優しく竪琴の音が重なる。長身の吟遊詩人と一緒に、ミツドリの歌が響き渡り、空間全体に、もう一度細やかな銀色の網が張られていく。
ドコダ
ウタッテ⋯⋯イルモノハ
アレハ、チガウ
⋯⋯ああ、そうか。
僕はじっと目を凝らした。
歪んだ空間の中で、渦の中心に子どもと詩人が立っている。二人のことを僕はよく知っている。
「オリーが言った。本物が歌うのでなければ、それはただの歌にすぎないって。一体誰が、お前たちを作ったの?」
そう、あれは⋯⋯、僕とオリーの影だ。
町から町へ、二人でずっと旅をしてきた姿。誰かが僕たちの姿を写しとって形を与えた。
胸に手を当てて、僕は大きく息を吸った。
どこまでも続く蒼空を、大好きな人の瞳の色を思い浮かべて歌う。緑深き山の稜線を、一面に続く花畑を心に想って歌う。
――善なる光よ、闇を祓え。
――悪しき闇から生まれたものよ、元の場所へ還れ。
これは、ミツドリの歌。自分たちの愛する者を守る為の歌。
この空間が元に戻りますように。大事な人々が生あるままに戻れますように。ただ自分の力を信じて歌う。
歌が空間一杯に広がった時、渦の中心にいた子どもと詩人の姿はゆらりと溶けて消えていった。彼らが消えた時、歪んだ空間は元の姿を取り戻す。
僕は小さな声で呟いた。
「本物のミツドリは、ここにいる」
「⋯⋯家族とは、一緒にいた時間だけで言えるものではない。私は、長く共にいたけれど、母や兄の家族ではなかった」
「ダー⋯⋯」
小さく、弦をはじく音がした。
耳が瞬時に捕らえたそれは、少し前に聞いたばかりの音だった。高く、低く、柔らかな音が辺りに響く。細く高い、子どもの歌声が重なる。ダートもはっとして、部屋の中に目を走らせた。
月夜の森で小さな一羽の鳥が鳴く
自分はここだと鳥が鳴く
肌が粟立ち、全身を寒気が走る。
オリーがすぐ後ろに走ってきて、僕の体を抱きしめた。
「オリー! オリー、これ⋯⋯」
「ああ。ずっと、俺がラウェルに歌ってきた子守歌だ」
懐かしいあの歌は、北の屋敷で何度もオリーが聞かせてくれた歌だ。もう一度、とせがむたびに歌ってくれた懐かしい歌。
「何で? どうして、この歌が⋯⋯」
さ迷い眠るその上に月は光を投げかける。
今宵も君を見ていると。
静かな光を投げかける。
部屋の中の空気があっという間に変わった。真昼の明かりが差し込んでいた部屋から光が消え、音もなく、ただ閉ざされた空間に変わろうとしている。
「魔導士! 侵入者だ!」
ダートが叫ぶと、部屋の中に3人いた魔導士のうちの一人から、周囲に強い魔力が放たれた。二人の魔導士が必死で止めようとしているが、力の差は歴然としている。中央に立つ魔導士が放った魔力で他の魔導士たちは壁に思い切り叩きつけられ、あっという間に動かなくなった。残った魔導士の体は見る間に闇を纏い、顔も体も、ただ漆黒の闇に染まっていく。
「闇魔法? まさか、お前が⋯⋯」
魔導士は長衣から手を伸ばした。彼は低く言葉を唱えながら目の前の空間に大きな円を描いた。オリーの顔色が変わる。
「⋯⋯やめろ」
オリーの手から、即座に光が放たれた。白と黒が混じり合い、じりじりと空間を歪めていく。
僕の中に遠い昔の記憶がよぎる。そうだ、体を揺さぶられて起きた時には空間が歪み、大きな黒い空間があった。そして、その中からは⋯⋯、もっと恐ろしい闇が来る。
目を離せずにいると、体が大きく揺れた。上もなく下もなく、ぐにゃりと空間が歪む。いきなり宙に放り投げられ、風の中の木の葉のように回る。自分の体の周りに細かい銀の網が投げられ、捕らえられるかと思った時だ。白銀の光が一閃し、全てを粉々に切り裂いていく。これはオリーの魔法だ。
「オリー!」と、口に出したはずなのに声にならない。
空間の中に幾つも言葉が反響して、まるで木魂のように自分の放った言葉が反響して聞こえる。誰の姿もなく、自分がどこにいるのかもわからない。その中で小さな歌声が響いた。
オリーが歌ってくれた子守歌。それを細い声で子どもが歌っている。子どもの歌に、優しく竪琴の音が重なる。長身の吟遊詩人と一緒に、ミツドリの歌が響き渡り、空間全体に、もう一度細やかな銀色の網が張られていく。
ドコダ
ウタッテ⋯⋯イルモノハ
アレハ、チガウ
⋯⋯ああ、そうか。
僕はじっと目を凝らした。
歪んだ空間の中で、渦の中心に子どもと詩人が立っている。二人のことを僕はよく知っている。
「オリーが言った。本物が歌うのでなければ、それはただの歌にすぎないって。一体誰が、お前たちを作ったの?」
そう、あれは⋯⋯、僕とオリーの影だ。
町から町へ、二人でずっと旅をしてきた姿。誰かが僕たちの姿を写しとって形を与えた。
胸に手を当てて、僕は大きく息を吸った。
どこまでも続く蒼空を、大好きな人の瞳の色を思い浮かべて歌う。緑深き山の稜線を、一面に続く花畑を心に想って歌う。
――善なる光よ、闇を祓え。
――悪しき闇から生まれたものよ、元の場所へ還れ。
これは、ミツドリの歌。自分たちの愛する者を守る為の歌。
この空間が元に戻りますように。大事な人々が生あるままに戻れますように。ただ自分の力を信じて歌う。
歌が空間一杯に広がった時、渦の中心にいた子どもと詩人の姿はゆらりと溶けて消えていった。彼らが消えた時、歪んだ空間は元の姿を取り戻す。
僕は小さな声で呟いた。
「本物のミツドリは、ここにいる」
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