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63.オリーの元へ ①
しおりを挟む「ねえ、皆は幸せだった?」
ずっと聞いてみたいことがあった。
王宮の奥に囲われるようにして一つの空間で暮らしたミツドリたち。
父と母が微笑み、大きな木からさざめくような笑い声が聞こえる。
⋯⋯ミツドリは愛で育つ生き物。愛情のないところでは生きられない。
灰色の瞳のミツドリは言った。
「幸せだったわ。大樹の元で互いを大切に思って暮らしてきた。王族たちも愛情をもって接してくれた。それが人の目にどう映ったかはわからないけれど」
人は勝手にミツドリに名を付ける。癒し手だの魔物だのと言われても、世界の中では一つの種族でしかない。元は一つの力である魔法を光と闇に分けるように、僕たちを癒し手と魔物に分けるのも人の心だ。
「⋯⋯ありがとう。僕、もう行くね。オリーはきっと、僕を待っていると思う」
「帰り道はわかる? ラウェルナード」
僕は自分の髪を結んでいた銀の髪紐を解いた。手の平で、きらきらと輝いている。たくさんの護りがこの中に籠められている。
「オリーはこれに自分の力を籠めるって言ったんだ。きっと、オリーの元に連れていってくれる」
ミツドリたちが僕に向かって頷くと、彼らの姿は見る間に消えていく。光だけが溢れる中に、微かな歌声が響く。あれは、僕を思って歌ってくれているんだ。胸がぎゅっと痛くなって、涙がこぼれた。彼らの為に、僕はこの先も、どこにいても歌い続けるだろう。
「道を教えてくれる? オリーのところに帰りたいんだ」
手の中の銀の紐に話しかけると、ふわりと浮き上がって小さな銀の鳥に姿を変えた。宙に舞い上がって僕の頭上をくるりと舞う。僕は鳥の後を追って走り出した。
真っ白な道を走る中で様々なものを見た。光の中に浮かんでは消える人々。遥か先に小さな青い点が見える。銀の小鳥は真っ直ぐに、そこに向かおうとしている。
⋯⋯あそこに行けば帰れるのか。
ふっと目の前が塞がれた。白い光の中に、一人の子どもが立つ。眩い金の髪に蒼空の瞳。その頬には幾つも涙の痕がある。足元にはいくつもの木の人形や本が転がっていた。
「オリー?」
ミツドリ。
ミツドリ。
お前たちさえいなければ。
⋯⋯父も母も亡くなりはしなかったのに。
父がお前たちを助けようとしなければ。
⋯⋯俺たちは、ずっと一緒にいられたのに。
しゃがみこんで泣く幼いオリーの口から漏れた言葉が、僕の胸を貫く。
ふわり、と光の中にもう一人、少年が現れた。
オリーと同じように金の髪と青い瞳をしている。少年の瞳には何の希望もなかった。まるで人形のように虚ろな表情が張り付いている。
ミツドリ。
ミツドリ。
この体の半分がお前たちと同じだという。
⋯⋯それでも、私には何も歌えはしないのに。
誰を癒すことも出来ず、何の役に立つこともなく。
⋯⋯この体の中に、ミツドリの血などいらないのに。
「ダート⋯⋯」
二人の嘆きが僕の体を包み込む。手も足も瞬く間に冷えて動かなくなり、息をするのも辛くなる。立っていられなくなって座り込んだ僕の周りを、銀の小鳥が必死で飛ぶ。
⋯⋯ああ、そうか。
この痛みは、どこにも行き場がなく、ずっと胸の中で血を流し続けてきた想いだ。
人の心は光と闇を併せ持っている。
僕を必死に育ててきたオリー、リシュリムの為に尽くしてきたダート。
これは、二人の中にある悲しみだ。
ミツドリが数を減らしたのは、人の放つ負の感情に弱いから。
それでも、この先ずっと人と共に生きようと思うなら。
オリーの悲しみも。
ダートの痛みも。
⋯⋯共に受け止めなければならないのだろう。
優しい心だけを、いつも見せようとしてくれたオリー。
悲しみや苦しみを、近づけないようにしてくれたダート。
ごめんね、オリー。
ごめんね、ダート。
僕はミツドリで、他の者にはなれない。
歌うことが僕の生きること。
だからどうか、僕の歌で二人の心が解放されますように。
「⋯⋯歌えるかな」
体は冷えて動かず、胸も喉も苦しい。思うように声が出せるだろうか。
銀色の鳥が僕の鼻先に飛ぶ。手を動かそうとすると肩に止まった。小さな体から伝わる温もりが、魔力で出来た鳥でも心強く感じる。
「僕の歌を聞いてくれる? 一人じゃないと思えば頑張れるよ」
まるで言葉が伝わっているかのように、鳥は僕の首に小さな体を寄せた。オリーの護りの力が形になった鳥。どうか、彼の心を癒すことに力を貸してほしい。
光の中に立つ二人の子どもたちは、終わりのない痛みの中にいる。彼らの心を癒すことが出来るなら、僕の力を全部使っても構わない。
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