92 / 202
第二部 眼病の泉
第20話 真相②
しおりを挟む「⋯⋯南の離宮では、表立ってはあまり必要ないからね。私は視力を失って離宮に引きこもっていたから、統轄していた騎士団の権限は王太子である兄が預かっている。他の者を代わりに長に立ててくれればよかったんだが、そうもいかなくて。未だに私は、武の長のままなんだ。影から様々な情報を得ているが、時々は直接、影を束ねる者から話を聞かなければならない」
影を束ねる者──。
ぼくの頭に真っ先に浮かんだのはジオだ。神殿の下に集い、あっという間に散っていく黒服の者たち。
ぼくの表情を読んだシェンが頷いた。
「私はジオと会う必要があった。周りの国々とスターディアの王宮で何が起こっているのか。武の調整がどうなっているのかを、彼の口から聞かなければならなかった」
日々平穏だと思っていたぼくは、何も知らなかった。
シェンと共に過ごせることを、ただ喜んでいただけだった。
「イルマ、髪が⋯⋯」
どうやら、へなへなと萎れているらしい。シェンが申し訳なさそうに言う。
「イルマには、追い追い知ってもらえばいいと思っていた。私が武の長でなくなれば、関係ないことでもあるし⋯⋯」
ぼくを気遣いながら話してくれるのがわかる。
「スターディアの中でも、クァランは特別な地域だ。隣国ナヴァンとは、常にクァランを争っている。砂漠の交易が自国の利になり、砂漠自身が国の盾になる。砂漠の民は、長年スターディアに服従を誓っているが、それはこちらが彼らにとって好条件を提示しているからだ。彼らはナヴァンに付くか、スターディアに付くか、常にどちらが自分たちに有利かを考えている」
以前見た、神殿の地図を思い出した。
砂漠の東に接するナヴァン。スターディアとの国境は、砂の海の果てにある。
「シェンは、どうして攫われたの?」
「今回、隣国のナヴァンが砂漠の民の一つであるアルファンの族長に近づいた。他の部族も巻き込んでスターディアから離反するつもりだったんだ。ザユラの族長が反対したが、代替わりしたばかりの若いアルファンの族長は、血気に逸って収拾がつかない。砂漠の族長たちがお互いに調整を図っていたところに、アルファンがいきなり、私を攫ったんだ。他の族長へ力を見せつけて、ナヴァンに差し出すつもりだったんだろう」
「影で、助けを呼べば⋯⋯」
「影は南の離宮に置いてきていた。すぐに帰ると思っていたから、イルマの側に⋯⋯」
自分よりも、ぼくを思ってくれたのか⋯⋯。じわりと目に熱いものが浮かぶ。
何と返していいかわからないぼくを、シェンは優しく見つめていた。
「そ、そいつは誰なんです!? セツ様!」
「お前こそ何者なんだ! セツ殿に馴れ馴れしすぎるだろう!!」
「⋯⋯二人とも、静かにしてください。私は仕事中なんです」
シェンと二人で広間に行けば、男たちが顔を突き合わせて睨み合っている。
日に焼けて逞しくなったレイと、ハートゥーン。
セツは柳眉を上げて、男たちを叱り飛ばした。
「これ以上騒ぎ立てるなら、二人とも、砂漠で干からびてもらいます!」
シェンたちは昨夜遅くに、無事に村に辿り着いていた。
長に挨拶に行ってすぐ、盗人が侵入したと知らせがあったのだと言う。
シェンとセリム、ハートゥーンが挨拶を交わす。
セリムがぼくに微笑みかけるのを見て、シェンがいきなり、ぼくの腰を自分の側に引き寄せた。
セリムの眉がピクリと動く。
「ザユラの民よ。この度はイルマが世話になった。心から感謝している」
「⋯⋯役に立てて何よりだ。彼は太陽の子。我ら砂漠の民は彼を守り、誓いを守る」
言葉は丁寧だが、二人とも明らかにむっとしている。⋯⋯何故だ?
「アルファンの族長は、私を攫いナヴァンに渡そうとした。助けてくれたのは、彼の父であるザユラの族長だ」
「どうして、ザユラは同胞よりもシェンを?」
セリムが口を開いた。
「⋯⋯ナヴァンはクァランを手に入れたがっているが、砂漠の民を思いやってはいない。スターディアは、形は服従であっても我らの自治を認めている。父は長い間友好に努めてきたシェンバー王子を友だと言っている」
「砂漠の民は、人情に厚い。一旦親交を結んだ者を無下にはしない。それもあって、父や兄は私を武の長に据えたままなんだ」
──砂漠の民は、彼らを傷つけない。
ぼくは、セリムが言った言葉を思い出していた。
63
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです!
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜
MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。
竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。
※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる