【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第三部 父と子

第43話 誰の② ※

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「イルマ、⋯⋯イルマ」
 ⋯⋯ぼくの名前は、こんなに甘かったかな。

 耳元で何度も囁かれる響きに、イルマは考える。
 口づけの合間に、体を裏返されて強く抱きしめられる時に。シェンバーは、とても優しく自分の名前を呼ぶ。
 シェンバーの、少しだけ低くかすれる声が好きだ。艶めいて耳の奥に響く声を聞くと、体の奥がじんと疼く。
 散々意地悪なことをされた気がするのに、名を呼ばれているうちに、どうでもよくなってしまう。

 イルマは気づいていた。体を重ねる時が一番、切なく名を呼ばれることに。繰り返される快楽に、頭の芯が蕩けて喉が痛い。寝台の敷布を掴む手にも、ろくに力が入らない。
 いつの間に自分の体が変わってしまったのか、いくら考えてもわからない。

「イル⋯⋯マ、なに⋯⋯考えて、るの?」
 首筋を強く吸われて、柔らかくなったままの中で、シェンバーがゆるゆると動く。イルマの感じる場所を何度も的確に摺り上げる。
「ここ、気持ちいい?」
 頷くのがやっとだった。
 感じすぎてこぼれる涙が敷布に吸われ、重ねられた手に、シェンバーが力を込めた。
「そうだね、全部⋯⋯教えた」
 そうだ、何も知らなかった体を拓いて全てを教えたのは、誰よりも美しい男だった。硬度を増したままの楔に与えられる悦楽に、イルマは全てが溶けてしまいそうになる。

「⋯⋯イルマ。ね、教えて」 
 後ろから腰を打ち付けながら、イルマの耳元で大好きな声が囁く。
「イルマは、⋯⋯誰の?」

 ⋯⋯ぼくは、ぼくのものだ。だけど⋯⋯、だけど。

「⋯⋯イルマ」
 泣き出しそうな声音だった。

 ⋯⋯ぼくは。

 自分の中がシェンバーを強く締め付けていくのが分かった。シェンバーが再び激しく最奥を突き、イルマの目の前に光が明滅する。

「あっ、あああ!」
「────ッ!」
 奥に熱い熱が広がり、腹に満ちていく。背中に逞しい体の重みがかかった。

 好きだ、私のイルマ。

 何度も一心に繰り返される言葉に、イルマは答えた。
「ぼくは、ぼくのだけど⋯⋯」
 ──⋯⋯でも。

 独り言のような呟きを、シェンバーは聞き逃さなかった。シェンバーの満足そうな吐息が、イルマの耳元に柔らかくあたる。

 体を胎児のように丸めて重ね合ったまま、二人は互いの熱だけを感じた。



 背中から抱きしめられて眠ったはずなのに、目を開けたら広い胸がある。イルマは、ぱちぱちと目を瞬いた。
 頭上でわずかに静かな寝息が聞こえるけれど、抱え込まれて顔が見えない。

 ⋯⋯ちょっとだけ、いいかな。ひとつだけ。
 シェンバーの鎖骨と胸の間をじっと眺めて、確かめるように指で触れる。
 自分の肌には、きっとたくさんの紅い花が咲いている。明るい陽射しの下では、とても正視に堪えないだろう。
 自分も一つぐらいつけてみたい。

 イルマは大理石のように白く、滑らかな肌に唇を寄せた。吸い上げようと思ったところで、ぴたりと体を止めた。
 ⋯⋯起こしちゃうよね、きっと。
 何となく申し訳なく思って、そのまま動きを止める。シェンバーの胸から確かな心音が聞こえてくる。とくん、とくんと少しだけ早い動きがゆっくりになるにつれ、眠りに誘われる。イルマはシェンバーの体に手と唇をつけたまま、再び眠りについていた。

「寝てる⋯⋯?」
 シェンバーは、声を押し殺しながら呟く。腕の中で気持ちよさそうに眠るイルマを起こさないように。
 イルマが目覚めた時には、自分も起きていた。ふわりと髪が揺れたのを見て、口づけようと思った時だった。
 肌に触れられ、唇を寄せられて下半身が疼く。胸が高鳴って動きを止めていたら⋯⋯、当のイルマはいつのまにか眠っている。

 ちらりと見える肩に、自分のつけた痕が見えた。
 ⋯⋯イルマは、今日はもう動けないかもしれない。
 シェンバーの中に大きな満足感が押し寄せ、同時に反省がよぎる。性交を知ったばかりの子どものような真似は止めようと思っているのだ、本当は。もっと節度を持ってイルマに負担が無いようにすべきだと、ため息が漏れる。

 腕の中のイルマがもぞもぞと動いた。
 ちゅう、と肌を吸われた。まるで赤子のように、ちゅうちゅうと続けて吸いついてくる。

「イルマ?」
「⋯⋯痕⋯⋯ついた」
 寝ぼけているのか、それきりだった。

 シェンバーは、目を丸くしてイルマを見た。満足げな寝顔に肩が揺れる。胸に広がる愛しさに、笑いを堪えたままイルマを抱きしめた。
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