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22.秘めた想い①
しおりを挟む「もしかして、温室での話は……」
「……すまない。フロルへの不満をつい口にしてしまった。自分はもう昔とは違う。成長しているのに、少しも恋愛相手としては見てもらえないと思って」
レオンは苦し気に眉を寄せている。フロルは目を大きく見開いたまま、レオンの言葉を心の中で繰り返した。
(……恋愛相手として? 僕はずっと、そんなことを思ったことがなかった)
「あ、あの、デンスの入った菓子も食べられるようになったの?」
「デンス? ああ、今は食べ過ぎなければ問題ない」
確かに昔と少しも変わらぬままレオンに接していた。レオンはずっと成長していたのに、菓子の事すらわかっていなかった。まして、自分が近づく度に発情が起きていたなんて、想像したこともない。
「メイネは俺の心に巣食う欲望を確実に見せつけてきた。フロルにもっと自分を見てもらいたいという欲求を」
――お悩みはよくわかります。あんなに美しくて賢い方ですが、レオン様のことは友人か弟のようにしか思ってらっしゃらない。さぞ、おつらいことでしょう。
「こんな言い方をするのは情けないが、自分に自信がなかった。王太子とはいえ、人といるのが苦手で、書物の方が好きだ。フロルはたくさんの人から愛されている。婚約者だから自分の元にいてくれるが、いつか他に目を移してしまうのではないかと恐れていた」
ずっとレオンと過ごしてきたフロルは、レオンが一つ一つ地道な努力を重ねてきたことを知っている。決して要領がいいわけではないけれど、真面目で勤勉なことを。そんな彼の側から離れるなんて考えたことがなかった。しかし、レオンはフロルが気づかないうちに不安を抱えていたのだ。
「……弟のユリオンは、フロルが自分の婚約者だったなら、と当てつけのように何度も俺に言ってきた。いつかフロルがユリオンや他の誰かを好きになったらと思うと、気が狂いそうだった。そう漏らしたら、メイネが言った」
──嫉妬させてみたらいかがです? そうですね、好きな人がいると言って、気をひくのです。自分と一緒にいるのが当たり前の相手が去ろうとすれば、人は追いかけたくなるものですよ。
メイネの言葉は甘い毒のように、レオンの中にするりと入っていった。
「……愚かだったとしか言えない。人の心を試すような真似をして。フロルがどんな気持ちでいるか、考えもしなかったのだから」
レオンの言葉をフロルは呆然と聞くばかりだった。
「昼食会に……来なかったのも?」
「……そうだ。それでも、真面目なフロルが待っているはずだと思ったら、少しも落ち着かなかった。ただ、三回目の時にフロルが奥庭に来ただろう? 自分をずっと見つめているのがわかって、心が震えた」
奥庭に行ったのを気づいていたのか、とフロルは驚く。レオンはフロルが来たらすぐにわかると答えた。風に揺れる花のように、甘く柔らかい香りがするから、と。
「フロルが、昼食会に来るよう涙を堪えて進言してくれた時も、自分のことを思ってくれているのだと嬉しくて仕方がなかった。メイネが脇であれこれ言っていたが、正直、彼の言葉はろくに耳に入っていなかった」
レオンが身勝手な理由でフロルを傷つけ続けたことにはっきり気がついたのは、愚かにも国王たちとの食事会の時だった。
明らかに痩せてしまったフロルの顔色は悪い。驚いてうまく言葉もかけられずにいると、自分が贈った宝石たちを身に付けてくれていることに気がついた。だから、本当は一刻も早く詫びて、礼を言いたかったのだ。
廊下でいきなり会話に入ってきたメイネに驚いたが、フロルが止めに入ってくれた。筋を通す姿を好ましいと思ったが、メイネに言っても無駄なのを知っていた。メイネは宮中の決まりを気にしない。留学先がシセラと違って自由な気風の国だったせいか、本人にいくら言っても、少しも効き目がないのだ。真面目なフロルが気を揉むことはないと思って言った言葉に、フロルの顔色はどんどん悪くなっていった。
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