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番外編 竜の城の恋人たち
2.カイの気遣い②
しおりを挟むシセラの塔で思いが通じあい、ようやく共にいられると胸がいっぱいになった。それでも、こうして改めて部屋を用意されると、何だか緊張してしまう。
「フロル?」
「え、えっと。へ、部屋が同じなの……嫌じゃ……ない?」
レオンの青い瞳が不思議そうに瞬く。フロルはどう伝えていいかわからずに慌てた。
「ほら、何ていうのかな、ずっと一緒にいたら息苦しいっていうか」
「いや、そんなことは」
「こ、この城にはたくさんの部屋があるから。言えばカイが他に部屋を用意してくれると思うんだけど」
フロル、と名を呼ばれ、細い手を大きな両手で包み込まれる。レオンはフロルとしっかり目を合わせた。
「俺はフロルと一緒にいられて嬉しい。カイに大声で礼を言いたいぐらいだ。フロルは嫌なのか?」
レオンの声にはひそかな不安が混じっていた。同時に、フロルを見つめる瞳にはまるで幼子が縋りついてくるような必死さがある。
「……嫌じゃ、ない」
小さな呟きを聞いたレオンの顔が、ぱっと明るくなる。無邪気な子どものように嬉しそうな顔を見て、思わずフロルは頬を緩めた。そんなフロルにレオンはそっとキスをする。そのまま広い胸の中に抱き込まれて、フロルの心臓が急にとくとくと動き出す。
(これは、なんだろう……)
フロルは自分の変化にとまどっていた。この胸の高鳴りは、最近頻繁に起こる。それだけではなく、頬も火照っているのだ。それは、フロルにはこれまで経験のないものだった。
カイの城に来てから二週間後、フロルはリタの淹れるお茶を飲んでいた。
「突然、動悸がするのですか?」
「うん。いきなりなんだ」
「……何かお疲れが出ておられるのでしょうか。夜はよくお休みになれますか?」
「それが、眠りが浅くてすぐに目が覚めてしまう」
カイの城は、人から見たら神々が住まうと思うような高い山上にある。雲海が連なる絶景を見下ろしながら、フロルは小さくため息をついた。
「何がいけないのかな……」
「……フロル様」
思いつめた顔をするフロルに、世話係のリタは慌てた。自分が気づかぬ間に何かあったのだろうか。この城に来たばかりの時は痩せ細っていたフロルも、二月が経つ頃には健康な状態に回復していた。それなのに、再び祖国に出かけて戻ってからは、明らかに顔色が悪い。
フロルと一緒にアルファがやってきた時はぎょっとしたが、伴侶だと知ってほっとした。そして、伴侶のレオンは横暴でも傲慢でもなく、使用人たちに対する態度も穏やかだった。あんなアルファもいるのかと皆で驚いたぐらいだ。
リタは、あっと思った。もしや、フロルはレオンの事で悩んでいるのではないだろうか?
「フロル様、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「うん?」
「何か、胸に秘めたことがおありなのでは」
フロルが紫水晶の瞳を大きく瞬いた。
素早く辺りを見回したリタは、バルコニーにいるのが自分たちだけなことを確かめた。大丈夫だと安心させるように囁く。
「……レオン様のことですか?」
フロルの顔がさっと青ざめるのをリタは見逃さなかった。
そうだ、元々フロルは自分たち同様、人界に耐えられずにこの城に逃げてきたではないか。あの伴侶とも何かあったのだ。胸を痛めたリタは、椅子に座るフロルの足元にひざまずいた。
「どうぞ御心を占めることをお話しください。きっとお力になります」
フロルは膝に置いた手をぎゅっと握りしめた。言ってもいいのだろうかと力なく呟く声に、リタは大きく頷いた。
「しょ、食事の時とか」
「食事?」
「レオンが……しょっちゅう僕に、自分の手から食べさせようとするんだ。今まではそんなことなかったのに」
子どもでもないのに恥ずかしい、とフロルは顔を赤くする。
カイが隣国に出かけてしまい、フロルとレオンは二人だけで食事をしている。給仕はいらないと言われたので、リタは二人の食事中は他の部屋に下がっていた。直接見たわけではないが、思い当たることがある。それは確か、アルファの給餌行為というものではなかったか。愛情表現の一つだったと思う。
「他には?」
「ベッドが一つになったから……。何となく僕は端で寝てたんだけど」
ふっと目覚めると、いつのまにかレオンの腕の中にいる。レオンはぐっすり眠っているけれど、一度目覚めたら気になってもう眠れない。
「何とか目をつぶって眠れたと思ったら、今度は起きた時に必ず、レオンが僕をじっと見ているんだ。そんな時はずっと、動悸が止まらない」
フロルの面やつれした様子からするに、本気で悩んでいるのがわかる。しかし、リタは何ともいえない気持ちになった。年下の自分でもわかることが、目の前の貴人には少しもわかっていない。
仕方なく、リタは言葉を選びながら答えた。
「それは世に多い病だと思いますが……たぶん、自力で治すしかないものだと思います」
「そんなに多いの?」
「ええ、よくある病です。残念ながらすぐに効く薬はありません」
うなだれるフロルに、リタもどうしたものかとそっとため息をついた。
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