実亜怪談

やまの恵多

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13.調理実習

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山田さんが小学生の頃、調理実習でカレーを作ることになった。普段からお母さんの料理の手伝いをし、カレーよりも難しい料理も作っていた山田さん、クラスメイトに「カレーなんて簡単でしょ、任せといて」と余裕を見せていた。

だが、慣れてきた頃に陥りがちな油断が、山田さんにもあった。じゃがいもを切っている最中、包丁を滑らせた山田さんは、左手の中指をザックリ切ってしまった。耐え難い痛みが山田さんを襲うが、ちょうどその時、クラスメイト達は離れたところで人参の皮剥きに悪戦苦闘しており、誰も山田さんが指を切る瞬間を見ていなかった。

山田さんは、大口を叩いた手前、指を切ったと言い出せず、切ったじゃがいもをザルに入れ、血に染まったまな板を洗い流した。そして台拭きをギュッと握りしめた左手をエプロンのポケットに隠した。

だが、どんどん痛みは酷くなる。山田さんは家庭科室を離れ トイレに行き、初めて傷口をまじまじと見た。

中指の腹が、ごっそりと削げ、骨が見えそうなほどに抉れていた。山田さんは血の気がひいたが、酷い傷口ゆえ、ますます言い出せなくなった。大ごとにしたくないという気持ちだった。

そして、もうひとつ、「削ぎ落とした肉片は、どこにいったのか」という不安が押し寄せて来た。

山田さんが家庭科室に戻ると、料理は進み、既に煮込みの工程に入っていた。あとはアクをとったり、カレー粉を入れたりといった、まったりとした時間が流れた。

山田さんは後片付けをするフリをして、流し台の三角コーナーや排水口に、肉片が落ちていないか探したが、肉片は見つからなかった。

そうして出来上がったカレーは、山田さんがほぼ関与していないにも関わらず、非常に評判が良く、クラスメイトは皆おかわりをした。みるみるカレーは減っていき、最後の一滴までお玉でこそぎ取るように、皆はおかわりを重ねた。

その後、家に帰った山田さんは、母親に傷口を見せて泣きながら言った。指を切ってしまったと。そのあまりの傷の深さに母親は青ざめ、すぐさま病院へ山田さんを連れて行った。

だが、肉片がないこともあり、消毒と止血をしたのみで、後は山田さんの治癒力に任せることになった。ばい菌が入らないよう、数日を自宅で過ごした山田さんは、傷口がカサブタになった頃、久々に登校した。

指を切ったことを知られたくない山田さんの希望を母親から聞いていた担任は、山田さんは風邪で休んでいたということにし、クラスメイトもそれを信じていた。

登校してきた山田さんに、皆が声をかける。風邪治った?大丈夫?と。その都度、もう大丈夫、と答えていた山田さんだったが、一人のクラスメイトの言葉にゾッとした。

「山田さんが休む前の日に作ったあのカレー、美味しかったよね。特にさ、中に入ってたお肉。一個だけ、今まで食べたことないくらい美味しいのがあって。あの味、忘れられないの。もうあの日からね、ずーっと、ずーっと食べたいって思ってるの」

そのクラスメイトは、山田さんの左手中指の包帯を見ながら続けた。

「それ、まだあるわよね」
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