沈黙

か~の

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沈黙

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散らかったテーブルの上のものを反対側に寄せて作った隙間に両腕を組んで置き、その交差しているところに額を乗せる。

目を瞑ると、今日一日にあった嫌なことを思い出して、私が悪かったのかと心の中に向けて問う。
悪くない方が多い気がする。
電車の中で大音量のイヤホンから流される騒音。
自分のミスを押し付ける先輩。
ひそひそと私にぎりぎり聞こえる声で話しながら笑っている同級生。
食べられないのを知っていてピーマンを弁当になんの工夫もなく炒めたまま入れてくる母親。残して帰るとうるさいからティッシュに包んでごみ箱行き。食べ物粗末にするなと言いながら、毎回何の工夫もなく入れてくるのには矛盾しか感じない。
自分だって嫌いだからマカロニサラダを作らないくせに。

テーブルに埋もれるようにしていると、能天気な母が声をかけてくる。
お前のせいだよ。
そう言ったらキーキーうるさいサルになるから私は黙ったまま。
いい母親ぶって相談乗るよ、なんて言っても自分が原因だと分かると超不機嫌間違いなし。

大嫌い。そう言えたら楽になるのに。私の中にもいいこぶっている部分があって嫌になる。例えそれが面倒なこと避けるためだとしても。
泣きたい気持ちはあるのに涙は出ない。

どうせ誰も分かってくれないなら話すだけ無駄。
だから私は黙る。

「何よ、せっかく相談乗ってあげるって言っているのに」

自分勝手なお節介で黙り続ける私にそう言いながら頭をはたいてくる。

何かが切れた気がした。
振り向いて私を叩いた手を思い切り殴る。
何が起きたのか分からない顔をしている母親に

「あんたのことだよ!!」

そう叫んで家を飛び出した。
親はみんなそうなのか、自分のやっていることは全部子供のためになっていると勘違いしているのか。

余計なお世話だ。
自分の苦手なことは自分が治そうと思ったら自分でやる。よちよち歩きの子供じゃないんだ。自分で考えて自分でやる。

押し付けるな!

いつの間にか足が向いていた近くの橋の上で、そう叫んでいた。
そしてまた橋の欄干に腕を置いて、顔を押し付ける。

毎日は嫌なことがいっぱいで、生きていることが苦しい。
なんで生きているんだろう。

でも私は“生きて”いる。
“生きて”いるからここにいる。

何になるか分からない私は、分からないまま大人になる。
それは私が一番嫌いな大人の姿。
嫌いな大人ならないためには、何かしなくちゃいけない。
自分まで嫌いにならないように。
なりたい大人の姿を探そう。

黙ってそう、心の中だけで誓った。
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