月の夜

あいは

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月の夜

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  俺は今、恋をしている。その相手は…
「おはよ、拓未。」
「おー、菜代。」
隣の席の姫月菜代(ひめづきなよ)。
こいつは、5年の2学期に転校してきた。
俺の恋が始まったのは、5年の夏休み。

 友達が俺の家に泊まりに来たときのこと。
その日は、きれいな満月が暗い夜を照らしていた。
夜、月を見にみんなで野原に散歩に出た。
一時きれいな月を眺めながら、涼しい風にあたった。
「そろそろ戻らね?」
と、一人の友達がそう言った。
家に帰る途中、ふと横を見てみると、
(誰だろ…。)
野原の一部にある花畑の真ん中に、髪の長い女の子が、髪を風になびかせながら、月を見上げていた。
とても、愛おしそうに…。
そんな女の子から、目を離せないでいると、
「おい、何してんだよ拓未。置いてくぞ。」
「あ、わり。」
そして2学期、菜代が転校してきた。

-最初はわからなかった。菜代が、あの日見た女の子だったことを…-

 知ったのは、5年の冬。
あの日みたいに満月の輝く空の下。
野原を歩いていると、あの日のように野原の一部にある花畑の真ん中で、月を見上げている女の子を見つけた。
俺がその姿を見つめていると、視線に気づいたのか、女の子が近づいてきた。
その女の子は、菜代だった。
(菜代だったのか…。)
「拓未もこの月見にきたの?きれいだよね。」
「だな。菜代って、月好きなの?」
「うん。特に満月が…。」
「俺も好きだな、月…。」
「ホント?なんかうれしい。」
菜代はそう言ってニコッと微笑んだ。
そして、俺たちは一時話をしてから、別れた。

 俺は、初めて菜代を見たときから、恋に堕ちていたのかもしれない…。

 「1時間目って、国語だっけ?」
「うん。そうだよ。何するんだろうね。」
「さぁーな。」
チャイムが鳴って先生が教室に入ってきた。
「きりーつ、礼。」
「「お願いします。」」
学級委員が号令をかけ、クラス全員でそう言った。
「はい。じゃあ今日から竹取物語の学習を始めます。78ページを開いてください。」
(竹取物語って、かぐや姫の話だよな。)
「では、読んでいきましょう。」
全部読み終わってから、なんとなく菜代の方を向いた。
「かぐや姫って、私みたいだな…。」
菜代が小さな声で呟いた。
「え…?」
俺は思わず声を出してしまった。
「あ…、なんでもない。」
少し焦っているようだったけど、菜代は笑顔でそう言った。
「そっか…。」
俺はそう言って、それ以上聞かなかった。
(どういう意味だろ…。)

 そして、数日後。
(あ~、もう!)
真面目に勉強をしていたものの、問題がわからなくて、俺は外へとびだした。
(今日は三日月か…。)
月を見上げながら、いつもの野原に行ってみた。
案の定、菜代はいつものところで、月を見ていた。
「菜、代…。」
声をかけようとしたが、やめた。
菜代の頬に、一筋の涙が流れ、月明かりに照らされていた。
俺は菜代に気付かれないように、静かに家に戻った。
菜代は、いつもと変わらず、明るく振る舞っていた。
でも、毎晩あの野原に行くと、いつもの場所で月を見上げながら…泣いていた。
「菜代。なんか悩みでもあんの?」
そう聞いても、
「ううん。ないよ?」
それだけしか答えてくれなかった。
(月を見て泣くなんて、まるでかぐや姫………!)
〔かぐや姫って、私みたいだな…。〕
菜代が言ったあの言葉を思い出した。
(まさか…な……。)

 そして、ある日のことだった。
自分の部屋の机の上に一枚の紙が置いてあった。
(?)
それを見てみると、
《拓未様    私は月の都の者なのです。私は、天に帰らなければなりません。》
そんな内容だった。
かぐや姫の言った言葉に、すごく似ていた。
そして、これを書いたのは菜代だ。
俺は外に出て、あの野原に急いだ。
(かぐや姫が月の都に帰るのは、中秋の名月の日。時間は午前0時。)
今日は中秋の名月が見える日だ。
(あと4分。急がねぇと!)
「ハァ、ハァ…。」
やっぱり菜代はいた。
あの花畑で、月の明かりに照らされ、目を閉じていた。
「菜代!」
俺がそう叫ぶと、菜代は驚いた様子でこっちを向いた。
「拓…未?」
菜代はそう言って、涙を流した。
「菜代、行くな!行かないでくれ!!」
「ダメ…無理なの、逆らえないの…。」
「なんで…。」
俺も菜代も、自然と涙が溢れた。
月明かりはもっと強くなり、俺たちを照らした。
「そろそろ…。」
菜代は声を震わせながら言った。
「そろそろ、時間みたい……。」
俺はもう、声が出なかった。
「拓未…。」
菜代の声が、静寂の中に響き渡る。
「ずっと、好きだったよ。……5年生の夏休み、拓未がここに来たときから、ずっと…。今も、大好きだよ。」
菜代は、無理して笑顔をつくって、
「じゃあね…。バイバイ!」
そう言って手を振るのと同時に、光になるように姿を消していく。
「菜代!俺も…ずっと好きだった。今もこれからも…!」
俺は力のかぎり叫んだ。
「だから、いつか絶対戻ってこい!俺が、ずっと待ってるから!ずっと…!ここで!!」


 〈完〉
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