生き残りたければわたしを愛でろ!

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第18話 さあ、覚悟を決めましょう

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 革命軍の城は、周囲を囲む石垣を除けば圧迫感を感じるものではない。それでも正門の左右には鐘楼がたち、常に数人の兵士が詰めている。ただ、ここまで戦が及ぶことはなかったから、みな退屈していた。

 今日、その退屈がひさしぶりに破られた。

 「おい。あれ……」

 兵士のひとりが指をさす。他のものも一斉にたちあがり、遠くを見遣る。

 「……うわ、エルレアさんだ……王宮攻撃の件でお尋ねものになってるんじゃなかったのか? なんでこっちに向かってるんだよ」

 「知らねえよ。おいどうする、止めるか?」

 「まて、だれか連れてるな。あれは……術師団の制服? どういうこった。俺たちじゃ判断できねえ。おまえ報らせてきてくれるか」

 兵士のひとりが慌てながらやぐらを降りる。指揮所に走るためだ。そこから幕僚たちに情報がつたわり、すぐに中央、指導者ジェクリルに報告がもたらされるだろう。

 ほどなく、エルレアたちは門の下に着いた。衛兵たちの半数がやぐらに残り、あとのものが得物を手に駆け降りた。だが、エルレアを前に言葉がでない。なんとか槍を組み合わせて行く手を遮るかまえをとったが、腰がひけている。

 エルレアは馬上で眉をひそめた。

 「なんだ。わたしは自分の城にもどることもできないのか」

 「……あ、う」

 エルレアは大仰に手を広げ、うしろに控えている二頭の馬の方を示した。

 「あの事件の下手人を追っていたのだ。ようやく捕らえた。王宮攻撃を企み、我ら革命軍を陥れようとしたものたちだ。王宮を解雇されて恨みをもつ術師と、聖女志願のエセ神官ときく。いますぐ指導者ジェクリルに引き渡したい。通せ」

 馬上ではレリアンとユシアが後ろ手に縛られたまま下を向き、唇を噛み締めた。

 「い、いま、上のものに報らせています。こちらでお待ちを」

 「おろかもの!」

 エルレアが一喝した。衛兵は飛び上がった。レリアンとユシアも少し身動きした。

 「こやつらの恐ろしき魔式のちから、軽んじるな! わたしの部隊をあやつり、禁則の魔式を用い、王宮を火の海にし、我らが<主人>を亡きものにしようとした。封じるにはただちにジェクリルさまのちからが必要だ。さあ、取り次げっ!」

 「あっ、し、しばし……」

 「通るぞ!」

 エルレアが胸をはり、馬に鞭をくれると、なかば自動的に門が開いた。衛兵たちが道をあける。粛々と城内へ馬を進める三人。見送る兵士たちは額の汗をぬぐった。レリアンとユシアはわずかに目を見合わせて肩をすくめた。

 門をくぐるとしばらく街路が続く。左右に石造りの建物。その戸口前、あるいは切り窓から兵士や術師が顔を覗かせている。

 「……手勢の数、配置は」

 ひとが少ない場所に出ると、レリアンが小さく呟いた。エルレアは振り向かず、しかしすぐに呼応した。

 「平常配置は正面四十、背面と東西に各二十、中央の執務棟に八十、残りは宿舎。現認状況も変わりない」

 「目標は」

 「この配置なら執務棟。そこへの即応は東と北面。宿舎は遅れる」

 「百二十、いけるな」

 「問題ない」
 
 ユシアは黙って会話を聴いている。聖女はみな極めて有能な神式戦闘者であったし、訓練も積んでいる。<楽園>の陰の世界での格闘でレリアンは圧倒された。しかし、いくさの現場はまた異なる論理が支配するものだということも弁えている。

 「ユシア、手の捕縛は自分で解けるね」

 エルレアに問われて、はじめてユシアはくちをひらく。

 「無論です」

 「わたしが前にたつ。近くにあなたたちを伴う。ここだと思ったら、跳んで。レリアンは護って。あとは、わたしが」

 ふたりが頷く。

 エルレアがなんらかの方法で二人を伴い、ジェクリルに近接する。機会を作って相手の気をひく。瞬時にユシアが跳躍してジェクリルの懐に入る。一方でレリアンがジェクリルと左右下方への防御神式を展開、備えをおこないつつ支援する。エルレアはユシアがつくった隙を利用して<ウィズスの瞳>の保持位置を察知し、同時に懐の<ゼディアの瞳>を用いて、決戦する。

 それだけの作戦を、あらかじめの相談なくして、三人はいま約定した。

 「……花、きれい」

 ユシアが通りの左右に咲く花に目をやり、ひとりごちた。この城内では、なにも世話をしなくても、季節になるとふわっとしたゆたかな桃色の花が咲き誇る。いまはまさにその旬だった。ちょうど、この城の聖堂で、あれをみた日のように。

 エルレアは、こたえない。花は見ず、やがて到着する正面の執務棟を見やり、空を見上げる。

 「……たくさんの花が咲く庭で、話したかったな」

 レリアンがエルレアを見る。なにか言ったか? という符牒を送るが、彼女は首をちいさく振った。しばらく俯いて、少しだけ微笑んでから、やおら正面を指さす。ことさらに、周囲に聞こえるように声を張り上げる。

 「みよ。我らの指導者、革命の赤獅子、ジェクリルはあそこでお待ちだ。おまえたちはただちに裁きにかけられる。いかなる罰があるか。覚悟するのだぞ!」

 調子をあわせて深く頭をさげたあと、レリアンとユシアは前を見る。三階建ほどのさほど大きくはない、しかし強固な構造であることが見て取れる石造りの白い建物だった。革命軍の旗が何本かはためいている。

 しばらく黙って進む。いまの声につられたのか、遠巻きに見ていた兵士たち、術師たちが何人か後ろについてきている。ひそひそと話をするものもあるし、革命軍では目にする機会がない神官という触れのユシアを目で追っているものもいた。

 一行は目指す建物の正面についた。門衛から話が伝わっているらしく、二十人からの衛兵が槍を持ち、険しい顔つきで立っている。

 エルレアは馬を降り、後ろにまわって連れているふたりもおろすと、兵士たちの前に進み出た。再び大きな声をあげる。

 「軍師エルレアだ! さきの王宮攻撃の下手人どもを捕らえた! 我らが指導者にお目通り願いたい!」

 「またれよ。たしかにエルレア殿とお見受けするが、いかなる仔細でいままで姿を見せなんだ」

 衛兵の中央にいた、恰幅がよい長身の男が咎めた。

 「追っていたのだ。この者たちを。怪しき魔式の使い手だった。わたしも傷を負い、やっと捕らえたのだ。いまにも魔式が暴発する恐れがある。さあ、通せ」

 エルレアは先ほどと同じことを言う。が、こんどは衛兵らは譲らなかった。殊更に槍ぶすまを一行に突き立てる。

 「なりませぬ。後ほど、しかるべきものが詮議いたしましょう。それまでしばし、別棟にて」

 「ときがない、魔式が暴発すればこの城は王宮とおなじ、火の海になろうぞ!」

 「なりませぬ」

 衛兵は譲らない。

 レリアンはごく小さな声で、強行突破を意味する符牒をエルレアに伝えた。が、これも術師団のものにしかわからない方法で、エルレアは否定した。

 あわせて、ごく短いことばを伝えてきた。

 まて。なにかくる。

 こつん、こつんと、ひどく間隔のあいた靴音をたてて、執務棟の奥から誰かが歩いてきていた。衛兵も振り返る。

 ほとんど真っ白の頭髪を後ろになでつけ、黒い上下を身につけた、痩身の五十がらみの男だった。小さな眼鏡を鼻に載せている。商人のような風体だったが、エルレアは見たことがなかった。

 男は石造りの門口を出て、後ろに組んでいた手をほどき、傾きかけた陽光に眩しそうに手をかざした。片目を細くすがめながら、エルレアのほうに向き直った。

 「君がエルレアか。やっと会えた」

 そういって、口元に笑みを浮かべる。

 「わたしの名はユトラス。港町の執政官を拝命している」

 エルレアは戸惑いを気取られないように気を配りながら、頷いた。名はたしかに聞いたことがある。革命軍の後ろ盾、経済的な基盤である評議会の一員で、港町の豪商でもあると覚えている。互いの立場を計算し、頭をさげた。

 「ユトラスさま。はじめてお目にかかります。指導者ジェクリル付きの軍師をしております、エルレアと申します」

 「いやあ、最近の評議では君の名を聞かない日はなかったよ。王宮の件でね……君を下手人と主張するものも多かった。議長などは二言目には、今すぐひったててこい、と煩かった」

 ユトラスは肩をすくめて笑ってみせた。

 「君たちの指導者も心配していたよ。はやく行って説明するといい。わたしは、君は今回の件には関わりないと考えている。恐らく国内の政治状況を変えたい第三勢力のしわざであろう」

 「は……ご理解たまわり、ありがとうございます」

 「先ほどの声は聞こえていた。そのものたちが下手人ということだな」

 「はい、怪しき魔式を用いて王宮を攻撃し、我らが革命軍を貶めようとしました」

 エルレアは頷き、レリアンとユシアのほうへ振り返った。ふたりとも拘束神式により身動きができずにいるという体裁である。レリアンは後ろ手で俯いている。ユシアも同様だ。しかし、様子がおかしい。小刻みに震えている。

 エルレアは捕縛のようすを確かめるというふうにふたりに近づき、ユシアの顔を覗き込んだ。

 烈しい恐怖に見開かれた目がエルレアを見返した。

 ◇

 第十八話、今日もここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
 あなたがいてくださるから、わたしもエルレアも、存在を結んでいられます。

 今後ともエルレアを見守ってあげてください。
 またすぐ、お会いしましょう。
 

 
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