【5分で読める!】短編集

こよみ

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今日もアメが降る

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「……もしかして、先輩って雨男だったりする?」

「今はじめて言われたよ。そういうお前はどうなんだ?」

「ボクも言われたことないかな~」

 買い物がしたいと言う七海に付き合い、ショッピングモールまでやって来た数時間後のことだ。帰ろうとした俺たちを出迎えたのは、それはもう見事な雨だった。
 この時期、晴天から突然の豪雨に見舞われることはそう珍しくない。なんなら、つい先日も似たような目に遭ったくらいだ。でも、傘を持ち歩く習慣のない俺はその日も、そして今日も傘なんか持っていないわけで。

「仕方ねえ、雨宿りして帰るか。向こうの方晴れてるし、すぐに止むだろ」

 幸い、ここなら暇潰し場所には事欠かない。急いで帰る理由もないことだし、あと少しくらい歩き回ってみてもいいだろう。
七海ななみ、どっか寄りたい場所あるか?」
 特に行きたい場所もなかったので後輩の方を振り返ってみる。すると七海は珍しいことに、遠慮がちに目を伏せて言った。

「寄りたい、というより食べたいものならあるよ。最近噂になってるスイーツでね、すごい見た目が可愛いの。しかも美味しいんだって! ちょっと並ぶみたいだから先輩と別れたあと一人で行こうかな、と思ってたんだけど……」

 ちらりと上目遣いの視線を向けられる。その顔は俺にも付き合って欲しい、と訴えている。
 スイーツ目当てに連れ回されるのは今に始まったことではないし、今さら嫌だと言うつもりもないが、七海はとにかく食べる量がえげつない。人並みにしか食べない俺にしてみれば、見ているだけで胸焼けしそうになるほどだ。今日は一体、どれだけ買うつもりなのやら。

「……俺は食べないけど、付き合うくらいはしてやるよ。どうせ雨止むまで帰れないし」

「本当? ありがとう、先輩!」

 途端に花が咲いたような笑顔を浮かべ、七海は俺の腕を取り出てきたばかりの自動ドアを引き返した。心なしかその足取りが弾んで見えて、出かかっていた俺の溜め息は、いつの間にか小さな微笑みに変わっていた。
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