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23 side:上原

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 気づけば日高の胸倉を掴んでいた。
 吉光や橘はびっくりしていたが、我慢できなかった。
「お前、何が目的だ?」
 蒼の前ではあまり本性を出したくなかった。なぜかあいつの前ではそう思ってしまう。阿知波や雅宗さんも蒼の前では控えめだから、同じように思っているんだろう。彼には不思議な力がある。
 だが、今は阿知波に連れられここにはいない。だから思う存分さらけ出せる。
「言え、何が目的だ?」
 俺は日高を締め上げ、ギロリと睨みつけた。途端に彼の顔色が悪くなり、冷や汗をかき始める。きっと中学の時の事を思い出したんだろう。



―――――。




 日高は中学時代、蒼の親友だった男であると同時に、一番酷い形で蒼を裏切った男だった。
 事件の前までは毎日のように一緒にいる姿を見ていて、誰が見ても親友だと疑わなかった。俺もその一人だった。
 蒼は昔から誰とでも平等に接する奴で、だからこそ皆に好かれていた。
 俺が生徒会の人間で、さらに裕福な家庭の人間だと分かって遠巻きに見る奴も多い中で、蒼は気にもせず「金持ちって大変なんだなあ」と一言で終わらせていた。それが新鮮でもあり、救いになっていた。クラスの奴が俺に接する態度は崇めるか媚を売るかで極端だったし、正直面倒になっていたから。
 蒼は事件の後、しばらく入院していた。外傷の治療と精神的なケアの為だ。
 事件の内容が内容なだけに、詳しい事は皆には聞かされなかった。学校側も配慮してくれたんだろう。
 なのに、日高はそれを知ってしまった。どこで聞いたのかは分からない。たぶん噂好きな誰かが調べたのかもしれない。新聞にも小さく載っていたし、事件は蒼が学校に来ていない時期とも被っていた。日高は見舞いに行ったと聞いたし、きっと親友なら知っていると思って誰かが聞いてしまったんだと思う。
 その結果、日高は蒼を拒絶した。
 一番支えてあげなくてはならない時に突き放した。
 一人で離れるだけならまだマシだった。でも、彼はクラスの奴まで巻き込んだ。それに気づいたのは、蒼が学校に復帰して少し経ってからだった。
 いつものように登校すると、クラスの様子がおかしかった。まわりの奴に聞いてみると、皆は気まずそうに教えてくれた。
『何かあったんですか?』
『それがさ……なあ上原君、望月君があの連続誘拐事件の被害者だって知ってた?』
『誰に聞いたんですか?』
『日高君だよ。しかもさ、あの事件て……いたずらされたとかだから……気持ち悪いとか言ってて……ちょっと望月君が可哀想って言うか……』
『日高が言いふらしてるんですか?』
『そうなんだ。あいつって確か望月と仲良いよな? 普通そんなの言いふらすか? 一番黙ってなきゃいけない立場だろ……』
 俺に教えてくれたクラスの奴が困ったように肩をすくめていた。言われた方も気まずくなるだけなのに、日高はバカじゃないのかと思った。
『望月は?』
『さっき何人かにそれでからかわれて教室出てった。つーかさ、最近いじめられてるみたいで……』
『……いつからですか?』
『俺もさっき知ったんだけどさ、復帰してすぐからみたい……しかも主犯は日高君みたいなんだ……みんなびっくりしてて』
 それを聞いて唖然としてしまった。なんで日高が主犯なんだ。親友じゃないのかと。
『……バカが』
『え?』
『いえ、事件の事はこれ以上広めないようにして下さい。望月が可哀想だ』
『だよな……分かった。知ってる奴に口止めしとく。他のクラスにはまだ言ってないみたいだから』
『お願いします。俺は望月を探してきます』
 俺はそう頼んで蒼を探しに行った。なかなか見つからなくて焦ったが、蒼は誰も来ない空き教室で一人座って泣いていた。
『望月? 大丈夫ですか?』
『上原……』
 蒼はびっくりしていたが、俺が隣に座るとぽつりと話し始めた。
『上原はさ……俺が休んでた理由、知ってる?』
『すみません。さっき聞いてしまいました』
『そっか……』
『……いじめられてるって本当ですか?』
『……うん』
 蒼は膝に顔を埋め、再び静かに泣き出した。あまり仲良くない俺まで知っているのがショックだったんだろう。
 でも、俺は態度を変えたりしなかった。蒼も俺に対して皆と同じように接してくれたし、そんな事で拒絶するなど馬鹿げていると思っていたから。
 俺は蒼が安心できるように、優しく言い聞かせた。
『あんな奴らの事など気にする事はありません。器が小さい証拠です。縁が無かったと思えばいい』 
『う、器が小さいって……縁……?』
 蒼はびっくりしていたが、俺は続けて話した。
『今は信じてくれる人だけを信じなさい。ちゃんと見ている人は見ていますよ? 例えば、俺とか』 
『……』
『ね?』
『……ありがとう』
『どういたしまして』
 そう言って微笑むと、蒼も泣きながらだが笑顔を浮かべてくれた。自分もほっとしたのを覚えている。




『上原だから言うけど……』
 蒼はその後、色々話してくれた。思い出したくもないだろうに、事件の事、病院の事、いじめの事、死にたいと思っている事……全てを話してくれた。自分が信頼に値する存在だと認められたのが嬉しかった。
『だから、今でも病院に通ってるんだ。眠れなくて……』
『そうですか』
『軽蔑しない?』
『しませんよ』
『本当……?』
『だって、それは仕方ないでしょう? 具合が悪いなら病院に行くのは当たり前です』
『……お前、面白い奴だな』
『そうですか?』
『うん。さっきもびっくりした……』
 蒼は笑いながら、俺の事を面白いと言った。よく分からないが、とりあえずは和ませる事はできたようで安心した。
 蒼はため息を吐きながら、再びぽつりと話し出した。
『日高さ……見舞いに来てくれたんだ』
『……』
『その時、今は辛いかもしれないけど、災難だったかもしれないけど、早く元気になれって、待ってるからって励ましてくれて……』
『……』
『なのに、復帰したら気持ち悪いって……オカマは消えろとか、お前が誘ったんだろって……』
『そこまで言われたんですか?』
『うん』
 蒼は涙を浮かべていた。自分は被害者なのに、親友に拒絶された事実を思い出したようだ。それを見たら、自然と言葉に出ていた。
『日高を見返したいですか?』
『え?』
『いじめた奴らを見返したいですか?』
『……関わりたくない気持ちもあるけど……うん、できるなら見返したいかな……』
『なら、強くなりなさい。今の望月は見た目も弱そうですし、何か言われても言い返さないでしょう? だから、余計に手を出しやすいんだと思います。あいつらに何かされても、勝てるくらいに強くなって見返しなさい』
『上原……』
『あいつらを倒して、それでも死にたいと思っていたら死になさい。それからでも遅くはないですよ』
『……』
『ね?』
『お前、やっぱり面白い奴だな』
『そうですか?』
『普通死にたいって言ってる奴に死になさいって言わねえよ』
『……』
『ありがとう。何か元気出た』
 蒼は涙を流しながら、俺にありがとうと何度も言った。何で面白いのかよく分からないままだったが、彼の心が救われたのならそれで良かった。
『それで提案なんですが、チームに入りませんか?』
『チーム?』
『まあ、いわゆる不良が集まる所なんですけど、俺も入ってて。そこなら色んな事情を抱えた奴もいますし軽蔑する人もいません。強い奴も沢山いるし、蒼も強くなれますよ』
『俺、不良じゃないけど入れるのか?』
『うちのチームは不良じゃないといけないというルールはないので大丈夫です』
『……やっぱちょっと怖いから、保留でもいい? 考えさせて』
『分かりました。上には話をしておきますから、いつでもどうぞ』
『やっぱお前、面白いや。優等生なのにチームに入ってるとかありえないよ……』
 蒼はひたすら俺を面白いと言い、そのままずっと笑っていた。 

 



 それからよく話すようになり、蒼は俺と一緒にいる事が多くなった。日高の視線を感じてはいたが、彼のした事に不満を覚えた奴らと協力して蒼を庇い、接触する事はなくなっていた。
 俺がいない間に蒼が呼び出されてケンカ沙汰になった事件もあったが、それをきっかけに蒼はチームに入る事を決意した。チームの皆も蒼を受け入れ、蒼も今までのように笑顔を浮かべる事が多くなった。蒼に嫌がらせをする奴もいなくなった。だから安心していた。
 日高に突然声を掛けられたのは、そんな日々が当たり前に過ぎていた日の放課後だった。
 俺は生徒会の仕事で残っていて、一人で帰ろうとしていた。クラスの奴もほとんどいなくなっていて、蒼も誰かと帰った様子だった。
『上原君、ちょっといいかな? 話があるんだ』
『俺は話す事などありません』
『望月の事なんだけど』
『またいじめるつもりですか?』
『ち、違うよ! とにかく来てくれ。望月が大変なんだ! さっき他のクラスの奴に連れて行かれて……』
『蒼が? 帰ったんじゃないんですか?』
『帰ろうとした時に連れて行かれたんだ。凄い泣きそうな顔して……一緒に来てくれ!俺はもう信用されてないから……』
 日高は必死の形相でそう捲し立てた。
嘘かもしれないと思ったが、もし本当ならまずい事になる。ようやく笑えるようになったのに、また戻ってしまう。そう思った。
『嘘はついていませんね?』
『ああ』
 俺はとにかく事実を確認しようと思った。本当なら早く助けて、嘘ならこいつを殴ればいい。
『分かりました。案内して下さい』
 日高の後をついて行くと、屋上へと続く扉の前にたどり着いた。扉はすでに施錠されている。
 そして、蒼の姿はおろか、誰一人見当たらなかった。
『蒼はどこですか?』
『……』
 日高は目を逸らした。蒼が連れていかれたのは嘘だったようだ。
『いないなら帰ります』
『待ってくれよ上原君!』
『お話する事はありません』
『聞きたいんだ! どうやって望月の隣に立てたのか』
 日高は俺の腕を掴んで必死に引き留めていた。そして、聞き捨てならない言葉を吐いた。
『どういう意味ですか?』
 場合によっては潰さないといけないかもしれない。とりあえずそう聞いてみると、日高は気まずそうにぽつぽつと話し出した。 
『ほら、望月って誰にでも平等だし、誰か一人と特別仲良くって感じじゃないだろ?』
『まあ……そうですね』
『今までは俺が隣だったけど、今は上原君が隣だろ?』
『だから?』
 だから何だと言うのだろう。確かに蒼は誰か一人を特別にすると言うより皆と平等に仲良くするタイプだ。だからと言って、それが悪いとは思わないし、皆が平等ならいいと思う。その中で自分が一番信頼されている自覚はあったし、それが嬉しくもあった。それがどうしたというのだろう。
 すると日高はとんでもない事を言った。
『その……どうやって望月に取り入ったのかなって』
『何を言ってるんですか?』
『だから、望月って前より社交的じゃなくなっただろ? なのにどうやって仲良くなったのかなって』
『……』
 呆れて物が言えなくなった。社交的じゃなくなったのは誰のせいだと思ってるんだ。自分が噂をばら撒いて追い詰めたのが一番の原因なのに。
 あまりの怒りに拳を握って震えていると、日高はさらに怒りを煽るような事を言ってきた。
『あ、まさか抱かせて貰ってんの?』
『は? 何をバカな事を……』
『だって、あいつ女みたいに可愛いしさ、ちょっと誘えば誰だって落ちそうじゃん?』
『……』
『お前も抱いた代わりに守ってやってんだろ?』
『……』
 こいつは本当に蒼の親友だったんだろうか。蒼を知っているなら、間違っても身体を差し出すなんてしないと分かる筈だし、ましてやあの事件を知っていてこの台詞はあり得ないし、絶対に出てくる筈はない。
 あまりの衝撃に目眩を覚えていると、日高は図星だと思ったのかさらに言ってきた。
『あのさ、ちょっと望月貸してくんない?』
『……何で』
『実はさ、部活の先輩が望月に興味あるらしくてさー、一度ヤりたいんだって』
『は……?』
『前から可愛くて気になってたらしくてさ、頼まれたんだよな。あの事件で経験したんだろうし、信頼してるお前が言えば来てくれるだろ? 自分だけいい思いしないで貸してくれよ』
『黙れよ』
『え? ……ぐっ、』

 ダンッ!!

『黙れ』
 気づけば日高の胸倉を掴み、その身体を壁へと叩きつけていた。
 あり得ない。どうすればそんな酷い台詞が吐けるんだ。こいつはただのグズだ。人間じゃない。人間以下のゴミだ。
『あいつがお前せいで……あの事件のせいでどれだけ苦しんだか知らないのか!』
『な、なんだよ…冗談だよ。本気の訳じな……』

 ゴッ……。

 俺は日高を殴っていた。殴るだけじゃ足りない。今すぐ消えて欲しい。こいつのいる空間になど居たくはなかった。
『あいつは事件のせいで精神を病み、しばらく学校にも通えなかった。ようやく回復したと思ったら信じてたお前に裏切られた。あいつがどれだけ傷ついたと思ってんだ?』
 ギリギリと首元を締め付けると日高は苦しそうにもがき始めた。だが許してやるつもりはない。
『あいつは入院してる間、お前の元気になれ、待ってるからって言葉を支えにしてた。なのに裏切られた。お前、自分が何をしたのか分かってんのか!? よくも他の奴にヤらせるから貸せだなんて言えるな!!』

 パンッ!

 頬を思いきり叩くと、日高がぐらついた。そのまま何度も叩きながら責め立てる。
『ぐ……』
『あいつはお前のせいで苦しんだ! お前は加害者だ! まだあいつを傷つけようとするのか!!』

 バシッ!

 一際強く叩ききると、さすがに日高にも疲労の色が窺えた。頬が赤く腫れていたが止めるつもりはなかった。こいつの何倍も何十倍も何百倍も蒼は傷ついたのだ。これだけでは足りない。
 力なくズルリとその場に沈もうとする日高の胸元を掴み、さらに罵る。
『あいつじゃなくて、お前が被害に遭えば良かったのに』
『た、助け……』
『蒼だって事件に巻き込まれた時、助けてって言っても助けてくれなかったって言ってたぞ? 良かったな。お前も経験すればあいつの気持ちが分かるだろ』
『やめろっ、俺だって、そんなつもりじゃ……いじめるつもりじゃなかったんだ!』
『は? 何を言って……』
 そこまで言って、ある可能性を思いついた。まさか、こいつ蒼の事を好きじゃないよな?好きだからこそショックで攻撃したとか……。
『お前まさか、蒼が好きだからいじめたとか言わないよな?』
『……!』
 日高は目を見開き、身体中を赤くして震え始めた。嫌な予感が的中した。最悪だ。
『最悪だな』
『あ……』
『お前は一番最悪な方法で裏切った。今さら好きだからだなんて通用しない。今のあいつはお前に対して恨みしか持ってない』
『お、俺……どうすれば許して貰える……』
 日高は頭を抱えて踞ったが許してやるつもりはない。今さら何を言っても遅いのだ。
『どう足掻いても許して貰えるわけねえだろ。まあ、一度死ねば可能性はあるかもな』
『……』
『お前だってあいつに死ねって言ったんだろ? 手伝ってやろうか』
『え……』
『確か、あいつも階段で押されて怪我したって言ってたし』
 以前詳しく聞いた時、確かに蒼は言っていた。階段でいきなり背中を押されて落ちた事があると。それを再現するだけだ。
 俺は日高の身体を階段に向けてグイグイ押してやった。数段だから死にはしないだろうが恐怖心を煽るには最適だろう。日高は必死に抵抗しているが力がなかった。
『さようなら。死んであいつに詫びな』

 ドンッ。

『あ……!』
 日高の身体は舞うように落ちていった。高さがないからすぐに背中を打ち付けていたけど、打撲くらいはしているだろう。踊り場に踞った日高は動かなかった。
 俺は後を追って階段を降り、日高のそばに立った。日高は息を荒げ、信じられないとばかりに目を見開いている。そのうち、その目が宙をさまよい、俺の視線とぶつかった。
 彼の中に見えたのは「恐怖」。ただそれだけだった。
 俺はそれを確認して、わざとらしく呟いた。
『……何だ。死ななかったのか』
『あ……あ……』
 日高はぱくぱくと声にならない声を出していた。笑える。
『俺がやったって事は絶対に言うなよ。自分で踏み外して落ちたと言え。頬の傷もちょっとしたケンカで問題はないと言え。いいな?』
『……』
『俺と蒼の名前を少しでも出せばまた同じ事をやるし、もっと酷い目に合わせる。理解できるな?』
『……』
『俺と蒼に二度と近づくな。余計な事を言ったら本気で殺す。いいな?』
 日高は必死に頷いていた。自分がいじめられる側になってようやくその恐怖を感じたんだろう。いい気味だ。
 俺はそのまま日高を放置して帰ってしまったが、彼は戸締まりをしに来た教師によって発見されたらしい。教師が事情を聞いても自分で落ちたとしか言わず、頬についても友達とふざけていたとしか言わなかったそうだ。
 それきり彼は、俺達に向かってくる事はなく、俺と会うたびビクビクしていたが、そのまま中学も卒業して接点もなくなった。
 蒼には、この事は一切話していない。



 ―――――。


 あの時の事を思い出しながら、俺は日高にもう一度聞く。
「何が目的だ? また誰かにあいつを差し出そうとしてんのか?」
「ち、違……」
「じゃあ何だ。お前が何の理由もなしに接触するはずがない」
 あの日のように首元を締め付けてやれば、日高は震える声を絞り出した。
「お、俺はただ、あいつに許して欲しくて……」
「何だと?」
「あれから時間が経ってるし、もう許してくれるかなって……」
「……」
「それに、あいつ中学の時より色っぽくなってるし……また喋りたいなって……」

 バシッ!

「……っ!」
「お前はあれを、時間が経てば許して貰える事だと思ってんのか!」
 俺は日高の頬を力いっぱい叩いていた。怒りでどうにかなりそうだ。
 こいつはあの事を……相手の精神が病むまで追い込んだ事を、「時間が経てば許して貰える」ような軽い事だと思っていたのだ。蒼はそのせいで未だに苦しんでいるというのに、本気で呆れてしまう。
「あいつは今でも病院に通ってる。今でも苦しんで、忘れてないんだ。あいつの心に一生残る傷までつけといて何寝ぼけた事言ってんだ!!」

 バシッ!

「なのにあの時より色っぽい? 喋りたいだと? 下心ありありじゃねえか。ふざけんじゃねえよ」

 バシッ!

 日高の頬はあの時のように赤く腫れていた。彼もあの日を思い出したのか震え出し、視線がさまよい始めた。俺はその顔を掴み、自分の方へ向けさせた。至近距離で睨みながら、もう一度言い聞かせる。
「あの時ちゃんと躾たと思ってたけど、お前は全然変わってねえし反省もしてなかったんだな。がっかりだ。もう一度階段から落としてやろうか?」
「う、上原君……?」
「いいか? お前は人間以下のゴミクズで、あいつの隣には相応しくない。生きてる価値もない最低な人間だ。あいつはそんなゴミと関わりたくもねえし話したくもないそうだ」
「あ……」
「今のあいつにはお前よりも信頼できる仲間が沢山いる。誰だって平気で裏切るような奴より、大切にしてくれる奴の方がいいだろ? お前は昔のトラウマを思い出させるだけで何のメリットもないし、お前が入り込む隙は一ミリもない。いい加減に理解しろ」
 日高はその場にずるずると崩れ落ちた。自分が何をしたのか自覚があるのかは知らないが、はっきり拒絶されたのは理解したようだ。
 俺はさらにトドメを刺す事にした。
「良いこと教えてやろうか。お前はまだあいつを好きなようだけど、あいつにはちゃんと恋人もいる」
「え……」
「誰だと思う?」
「だ、誰……」
「阿知波だ」
「は……?」
 日高は俺を縋るように見つめている。今聞いた事が信じられないらしい。
 俺はもう一度、言い聞かせるように言ってやる。
「あいつの今の恋人は阿知波だ。BLACKの人間なら分かるよな? 総長の阿知波。あいつが色っぽいなら阿知波のせいだろうな」
「……」
「ああ……誤解の無いように言っとくけど、最初に言い寄ったのは阿知波だからな? 蒼は何もしてないし、最初は阿知波を嫌ってた。阿知波が一方的に好きになったんだ。だから、あいつに近づきたいなら阿知波を倒さないと無理だぞ?」
「……」
「さっきの二人を見ただろ。阿知波は蒼をかなり溺愛してる。事件の事も話したし、中学の時のいじめも全部話したのに阿知波は諦めなかったそうだ。この意味が分かるか?」
「……」
「蒼に何かしたら阿知波が黙ってないって事だ。盲目的に好きみたいだからな」
 日高はあまりのショックに言葉が出ないようだ。そりゃそうだろう。自分の狙ってた奴に男の恋人がいて、それがよりにもよって自分が一番恐れている人物だなんて、誰だって信じたくはない。
 阿知波の事を知っていれば、すぐに気づくだろう。すでに身体の関係があるという事に。実際はまだキス止まりらしいが、今はとっくに経験済みという事にしておこう。その方がショックは大きいだろうし。
 因果応報だな。
 俺は日高を見ながら、そんな事を考えていた。
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