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聖者の蜜事
しおりを挟む「どうして欲しいかお願いしないと、ずっとこのままだよ」
律動と共に軋む、錆びついたベッドフレーム。埃っぽいマットレス。それを隠すように敷かれた純白のシーツは、いつも真新しいノリの香りがする。
そこに組み敷かれ、わたしに覆い被さる美麗な男。艶やかな黒髪が表情に影を落とし、底冷えするほどの圧迫感をもたらす。
意を介さず、与えられる刺激。下腹部にじわっと熱が広がり、淫らな潤いが増す。
捩じ込まれた暴力的なまでの情欲に、わたしの体はしなり、浅い所を出し入れされる度、中途半端な快感が継続的に与えられた。
硬く噤んだ唇の奥、身体の内側から迫り上がってくる官能的な痺れに「っ、んん、」と喉奥が鳴り続ける。
その度にグッと唇を噛み締め、荒くなる呼吸を押し殺した。
「つぐみ、舌を出して」
ゆるゆるとねちっこさの残る腰つきで、刺激を与え続けながら、無垢な声でわたしに命令を下す。
薄い透明な涙の膜越しに見上げた表情は、歪み、霞んで鮮明じゃない。
「……っはぃ……かぐらさっ、んんっ……」
思考よりも先に従ってしまう身体。
脊髄に刻まれた、この人に逆らってはいけないという教えが、わたしを人では無く、操り人形に成り下がらせる。
途切れ途切れに返事を返し、震える舌先をそっと空気に触れさせた。
【浄蓮の福音】
彼はここの最高権力者である、帝卿のご子息。近衛神楽様。時期後継者という、崇高なるお役目を賜った高貴な血筋のお方。
「つぐみ、お前の唾液は眩暈がするほど甘美な味がするね」
飴玉を転がすみたいにわたしの舌を口に含んだ後、口内の唾液を奪い取るように、ぢゅっと淫猥な音を鳴らす。
わたしは神楽様に捧げられた、穢れ。
【蓮池つぐみ】なんて名前は記号と大差ない。
神楽様の俗物的排泄を受け入れ、溜め込むための器。
「……はあっ……かぐ、ら……さまっ……」
「どうかした?つぐみ」
「あっ……も、もっと……奥に、」
「奥に、どうしてほしいの?」
聖者として群衆の前に君臨する際の高潔で、慈悲深い眼差し。『望みはなんなのか』言わずにはいられない、許諾の音色。
「神楽様の熱で……満たしてください」
「中に、ほしいの?」
「っ……はい、」
「そう。つぐみの中を僕で満たすには、ここをしっかり締めてもらわないと、その望みは叶えてあげられないよ。ほら、きゅう~って、出来るでしょ」
わたしのお臍よりも10cm程下あたり。そこをトントンっと、細くしなやかな指先で指し示す。
「う、あっ……でき、ませんっ……」
「嘘はいけないよ。だってほら、今だってこんなに僕を求めて、いじらしく吸いついてきているよ」
これ以上は無理なのに、奥へ奥へと押し当てられる神楽様の熱。逃げようとするわたしの骨盤を掴んで、更にその動きをはやめた。
体からはじんわりと汗が滲み、上気する呼吸。降り注ぐ口づけの洗礼がわたしの体を浄化していく。
こんなに乱れた行為の中に救いを求めてしまう。
「ああっ……も、たすけ……て……くださっ、」
「つぐみっ、まだ……もう少しっ」
至近距離で掛かる、神楽様の火照った吐息。いつもは涼やかな目元も、今は欲に濡れているような気がした。
「ふうっ、かぐ……ら様っ……」
たまらず神楽様の名前を呼んで、彼の人間らしい部分に手を伸ばす。
この感情に名前をつけてはいけない。
わたしは神楽様の対にはなれないのだから。
「はあっ……いいよ、つぐみ。
――僕で、満たされて」
ガクガクと痙攣する下半身。神楽様を逃さぬように収縮を繰り返す体内のうねりが、わたしをどこか遠くの聖域へと運んでいく。
脈打つ神楽様の拍動を感じながら、強請るように唇を重ねた。
「どうか……わたくしめの穢れを、
お祓いください」
密かに咲いた、この蓮の恋心だけは誰にも奪われぬよう。わたしの中でそっと灰になるまで燃やし尽くそう。
「もう少し、可愛くねだれるでしょ?
まあ、つぐみのそういう忠誠的なところも、悪くはないんだけどね。少しだけ、情緒に欠けるかな」
ふっとその表情を緩めて、今度はわたしの唇を神楽様が奪っていく。ちゅっ、ちゅっ、と愛らしい音を鳴らして「まだ、いけそうだね」と甘美に囁いた。
浄化という名の洗礼はまだ、終わらない。
聖者の蜜事 終
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