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第6章 東の果てのイシュタル
第149話:新たなる蕃神襲来……?
しおりを挟む迦楼羅翼──原理的には大鵬翼と変わらない。
端から見れば、ツバサは立ち尽くしているだけにしか見えないだろう。
しかしその実、ツバサは何人の動体視力も追いつかぬ速度で、神速はおろか超速をも超えた、瞬間移動レベルの速さで絶えず動き続けているのだ。
その超常的な速度は、達人の眼ですら欺くほどだった。
実体のある何千体もの分身が誰の目にも映らぬ速さで、ツバサの周囲で不可視のまま活動しているも同然であり、これにより攻防一体を成している。
ツバサの身体が動ける範囲内の空間では、どんな攻撃が来ようとも受け、躱し、防ぎ、流し、逸らし、やり過ごす。防御に徹するばかりではなく、攻撃に転じれば瞬時に何兆万発もの拳を浴びせることも可能である。
溶岩流、台風、土石流、竜巻、津波、雪崩……。
災害となる自然の猛威さえ、今のツバサなら受け流すことができる。
この迦楼羅翼ならば打ち消すことさえ適うだろう。
先刻、ミサキが前後上下左右デタラメに回転しながら投げ落とされたのも、一瞬であらゆる方向から幾度となくツバサが投げたからだ。
直径30㎞級の隕石が落ちてきても投げ返す自信がある。
神族化してからも鍛え続け、様々な高等技能を習得してきたツバサだからこそ到達できた、人間の身では不可能だった秘技だ。
インチキ仙人……師匠は生身でも近いことできたけどな。
あの居候ジジイ、スゴいところは人知を超越してスゴいのだ。
ツバサも現実で練習したが、今一歩届かなかった。
それが真なる世界へ飛ばされて、男ではなく大地母神となることで師匠を超えるほどの技に昇華できるとは……世の中、わからないものである。
この迦楼羅翼に──ミサキも新技を編み出してきた。
気を螺旋状にすると硬質化させて腕にまとわせ、高速回転させることで全てを貫く螺旋突という技を、より強力に進化させてきたのだ。
ドリルの先端を丸めることで、貫通力を捨てて打撃力を強化。
螺旋状に送り出される硬質化した気とともに発勁を打ち込んでくるが、それが一回や二回ではない。絶え間なく打ち込んでくるのだ。
本来、発勁とは一撃に全力を込めるもの。
こんなマシンガンどころかガトリング砲ばりに連続で打ち込む発勁など、見たことも聞いたこともない。はっきり言って前代未聞である。
強力な杭打ち機を刹那に間断なく叩き込まれてるも同然だった。
「螺旋…………勁ッッッ!」
ツバサの間合いに踏み込んだミサキは、右腕の螺旋勁を叩き込んでくる。
それが迦楼羅翼の発動領域にぶつかると同時に、世界を揺るがす轟音を鳴り響かせながら、目も眩む閃光をまき散らした。
ツバサの迦楼羅翼が、ミサキの螺旋勁を受け止める。
ほんの瞬きする間に何千と叩き込まれる発勁。
それも武闘派の戦女神が放つものだ。一発だけでも岩山を粉微塵にする。
地中貫通爆弾を連続で撃ち込まれている感覚にも似ていた。
なんとか迦楼羅翼によって防御、回避、受け流しているものの、その威力もさることながら、一時も休まずに連続するのが問題だった。
少しずつ──ツバサの護りが傾ぐ。
無論、このまま押し負けるつもりはない。
ミサキの螺旋勁を受けたツバサは、すぐさま威力を把握した。
その威力を上回るように迦楼羅翼の出力を上げればいい。
ミサキほどの優秀な生徒なら、ツバサに把握されることも折り込み済みだと思うのだが……空いている左腕で何かを狙っているのか?
ツバサが疑問視した直後──その左腕が来た。
右腕だけではなく、左腕の螺旋勁の攻撃力も加算される。
これも予測できたことだが、さすがに2倍……いいや、2乗された螺旋勁の破壊力に、さしものツバサの迦楼羅翼もやや揺らいだ。
大地のプレートをも粉砕するであろう──二重のドリル。
空間断絶層は更に肥大化して、海からは海水が干上がり、露わになった海底は乾いて荒れ果てた荒野に変わりつつあった。
その上空でツバサとミサキの鬩ぎ合いは続く。
ツバサの迦楼羅翼が揺らいだ瞬間、ミサキが仕掛けてくる。
「出ろ──七支龍ッ!」
ミサキの右腕の螺旋がほどけたと思えば、そこから7匹の龍が頭をもたげてツバサに襲いかかってきた。八岐大蛇にしては1匹足りない。
この龍──“気”の力で象られたものか?
ジャジャが操れるようになった龍脈を具現化させたものに似ている。
だが、パワーは比較にならない。
揺らぎかけた迦楼羅翼は七支龍の爆発的な猛攻によって完全に崩され、仕方なくツバサは後退ることになった。
七支龍はツバサを逃すことなく追い立ててくる。
龍の巣に放り込まれたような感覚に陥りながらも、ツバサは迫り来る龍の頭を蹴り飛ばし、その長い蛇体の上を滑ったり、とにかく避けていく。
「この手の大技は一撃こそ大きいが……欠点も多い」
ひとつは放った当人が視界を塞がれがちなこと。
もうひとつは──見切ってしまえば避けやすいということだ。
ツバサは龍の巣を潜り抜け、ミサキの死角から攻め込もうと7匹の龍の巨体に隠れながら忍び寄っていく。
もう少しで龍の群れを突破できる──出口が見えたその時だ。
「出ろ──獅子龍ッ!」
待ち受けていたのは、獅子の顎を開いて待ち受ける巨龍だった。
「しまっ、誘導され……ッ!?」
龍の巣から飛び出したツバサは慌ててバックステップするも、首を伸ばす獅子龍に噛まれるが如く飲み込まれてしまった。
「あああーっとぉ! これはまさかの番狂わせだーっ!」
ツバサが苦境に陥ったところで、実況のジンが声を上げた。
「ミサキちゃんの腕から出現した7匹の龍がツバサお姉さまを翻弄! 躱していたと思ったら、獅子龍の顎へいらっしゃーい♪ 状態で誘われておりましたーッ! あの気で作られた龍に関しては解説プリーズ!」
「我々はよく知るところだが、ハトホル一家の方々は初見のはずなので、この俺がざっくり解説させていただこう」
レオナルドが銀縁眼鏡をクイッと持ち上げて蘊蓄《うんちく》をたれる。
「ミサキ君は過大能力により、莫大な気を有する龍脈──その根源になることができる。これにより膨大な量の“気”を意のままに操ることができ、あのように龍脈を具現化させた龍たちを作り出すことも可能なわけだ」
ちなみに──ちゃんと名前があるらしい。
「七つの頭を持つ多頭の龍は七支龍、獅子の頭を持つ巨大な龍は獅子龍……どちらもミサキ君の名前である戦女神イシュタルに由来するものだ」
戦女神イシュタルは産まれる前、母親の胎内にいる時から両手に1本ずつの棍棒を握っていたとされている。
ひとつはしなやかで柔軟性を持った7つの頭を備える──シタ。
ひとつは天の獅子が吠える様を象った──ミトゥム。
「ミサキ君の両腕に宿った2体の龍は奇しくもイシュタルの武器とよく似た特徴を持っていたので、せっかくだから俺が名付けさせてもらったものだ」
ちょっと誇らしげにレオナルドは鼻を鳴らした。
観客席ではマリナがフミカをちょんちょんと突いている。
「フミカさん、それって本当なんですか?」
「間違いないッス。イシュタルの記述にそういうのがあるッス」
博識なフミカが認めるのだから間違いあるまい。
「ま、正しくはイシュタルと起源を同じくする、あるいはイシュタルの原型や別名とされる大地母神イナンナの伝承なんスけどね。この二柱の女神は設定がかなり被ったところがあるんで混同されるのも已むなしッス」
その獅子龍に飲み込まれたツバサ。
「あの龍たちの腹の中は、気の流れが激流となって渦巻いている……あの大顎に捕らえられたら最期、よく噛まれて痛めつけられた後、長い腹の中で再起不能になるまで高圧の気を浴びせられ続けるぞ」
「さすがミサキちゃんにボロ負けした経験者! 説得力が違います!」
「……それは言わない約束だろ」
ジンに恥ずかしい過去を暴露され、レオナルドは顔を両手で覆った。
レオナルドの証言を裏付けるように獅子龍は顎を動かしている。
観客席のジャジャは半べそになりかけていた。
「そ、そんなぁ……母上が負けるだなんて……」
最強無敵と信じて疑わなかった母親の敗北を目の当たりにして、いくら仕合だとわかっていてもショックを受けているようだ。
だが、その横に座るミロは平然としたものだった。
泣きべそをかきそうなジャジャの頭をポン! と優しく撫でる。
「ダイジョーブ! アタシたちのツバサさんは負けないよ」
だってほら──ミロは獅子龍を指差した。
ツバサを噛むために顎を動かしている獅子龍だが、次第にその動きがおかしくなってくる。よく噛めなくなってきており、眉までしかめているのだ。
ミサキも気付いたのか、少し距離を置いて警戒する。
やがて獅子龍は動きを止めると、今度はガクガクと痙攣し始め、決して顎を開くまいと踏ん張っていた。
その顎が、餌を溜め込んだ栗鼠の頬袋のように広がる。
「──っっっがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
獅子龍の頭が破裂し、赤く染まる膨大なオーラが噴出した。
吹き荒れる赤いオーラの発信源──それは他ならぬツバサだった。
真紅のジャケットに勝るとも劣らない、太陽の紅炎のように赤く染まった赤い髪をたなびかせ。腕や顔に真っ赤な隈取りを浮かび上がらせ、見開いた眼光さえ爛々とした血の色に染まっている。
見事なまでに赤一色に染まったツバサは、牙にも似た形で尖る犬歯を剥き出しにして吠える。いや、明らかに大型肉食獣の牙になっていた。
発する“気”の圧力も跳ね上がり、畏怖を誘う闘気に誰もが総毛立つ。
ツバサが持つ──2つの過大能力。
森羅万象その物を司る力を得る【偉大なる大自然の太母】。
肉体を極限以上に強化させる【万能にして全能なる玉体】。
大自然の荒ぶる猛威を“怒り”という形で最大限にまで発揮させ、それを肉体に付与することで超パワーアップを成し遂げる固有技能。
「「「セ、セクメトモードだあああぁぁぁーーーッ!?」」」
ミロ、マリナ、ジャジャが悲鳴を上げる。
ヴァナラの森で目の当たりにして、その狂戦士っぷりをよく知っている3人の脅えようは他のハトホル一家の比ではない。
すぐさま道具箱から『安全第一』と書かれた黄色いヘルメットを被り、ライオットシールド(機動隊が使う盾)を構えた。
結界内にいるというのに──脅えすぎだろ。
「あれが……ツバサ君のセクメトとやらか。間近で目にするのは初めてじゃ」
ドンカイも、その威圧感に固唾を呑んでいた。
「へっ、金色と赤色の差はあれど、要するに超サ○ヤ人ってことか」
セイメイの意見はごもっとも。ツバサも真っ先に連想した。
「何をのんきな! このオッサン共は!」
1人だけ“アホ一番”と書かれたヘルメットを抑えつつ、変身したツバサの脅威についてミロは力説した。
「あのツバサさんは言語の通じないマジモンのバーサーカーなんだよ!? 令呪をもって命じても受け付けてくれないんだからね!? アタシらは家族ってわかるせいか攻撃されないけど、とばっちりでも死んじゃうよ!」
マジ!? とオッサンたちは眼球が飛び出るほど驚いていた。
それにミロは「マジでマジで」と返している。
「……ミロ、安心しろ。こんなんでも話ぐらい通じるぜ?」
ツバサが怠そうに口を開くとミロはギョッとした。
「ツ、ツバサさん? セクメトモードだけど理性あんの?」
「バカ野郎、俺を誰だと思ってやがる……せっかく編み出した固有技能、いつまでも使い勝手が悪ぃままにしとくわけねぇだろうが……」
この状態でも理性を保てるよう特訓してきたのだ。
あの『時間の流れがズレた異相空間』での修行が活きてきた。
「でも、なんだかセンセイ……ガラが悪いです!」
マリナの批判的な声にツバサは隈取りの浮いた顔で苦笑した。
「悪ぃな、理性は保ててるんだが、どうにも気性の荒さだけは抑えられなくてよぉ……これもまあ、殺戮の女神の性だ、仕方ねえ…………よなぁっ!」
叫ぶなり──ツバサは暴れ出した。
ツバサの変身に唖然としていたミサキに刹那で間合いを詰めると、合気の流儀など無視して全力でぶん殴りに掛かる。
ミサキは咄嗟に七支龍を操り、ツバサの行く手を阻んだ。
「──しゃらくせえッ!」
ツバサは構わず突っ込むと、7匹の龍の体を突き破り、噛み破り、蹴破り、殴り破り……意にも介さず、ただただミサキ目掛けて突っ込んでいった。
頭を破られた獅子龍を復活させようとするミサキ。
そいつを盾にする暇は与えない。
ツバサの両腕が消え、代わりに巨大な真っ赤な翼が何枚も生える。セクメトモードでの大鵬翼だが、羽根に見える部分はすべて拳だった。
「オラオラ──って知ってるか?」
昔、ツバサの祖父世代に流行った漫画の主人公が使う必殺技だ。
豪快なパワーと精密な動作から放たれる──剛拳の連打。
ツバサはそれを大鵬翼から放ち、ミサキを滅多打ちにする。一応、防いだり受け流しているが処理の追いつく量ではない。
拳の津波で押し潰しているようなものだ。
大気さえも変動して低気圧を巻き起こし、稲妻に雹に霰に竜巻までもが伴うほどの拳の連打。もうこうなってくると拳による嵐だった。
それが──ミサキを狙って襲いかかる。
最期の右ストレートがミサキの土手っ腹に決まり、彼は小さく喘ぎながら吹き飛ばされていくも、途中でお腹を押さえながら空中に止まった。
「俺をセクメトにしただけじゃなく、今の連打も最小限のダメージで凌ぎきったか……大したもんだ、褒めてやる」
先生としても鼻が高ぇ、とツバサは牙を剥いて喜んだ。
「お褒めに預かり……光栄、ですッ!」
口の端からわずかばかりの血が零れる。それを舌で舐め取ったミサキは赤い唾をぺっ! と吐き出して、男の子らしい微笑みで応じた。
喧嘩上等な男の子──清々しい笑顔である。
「さあ、まだ戦れんだろ? もっと見せろよ……強くなったミサキをッ!」
「はいっ、出し惜しみはしませんッ!!」
ツバサは赤いオーラをジェット噴射のように噴き出して飛び出し、ミサキは両腕から再び七支龍と獅子龍を喚び出して迎え撃つ。
そうして──また世界が真っ二つに割れるのだった。
~~~~~~~~~~~~
もはや海も割れるどころか干上がっていた。
ツバサとミサキの激闘によって発生する衝撃波が、大量の海水を蒸発させたり、吹き飛ばしたため、元からあった浜辺から海上10㎞の地点までがすっかり地続きになってしまっていた。
露出した海底の地面は乾き切って、真っ白な塩を吹いている。
その白い塩が黒く焦げるほどの──熱い衝撃波が世界を震撼させていた。
「カアッ──カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカッ!」
雌獅子の表情で奇声を上げるツバサは、殺戮の女神と化したまま縦横無尽に空を駆け回っている。赤いオーラが複雑な模様を描いて棚引いていた。
あまりの高速飛行に飛行機雲まで引いている。
業火と轟雷、氷雪と激風、ありとあらゆる自然の脅威を天女の羽衣代わりにまとわせており、それらはミサキへ攻撃すると追加付与の効果を及ぼす。
「クウッ──ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
ミサキは8匹の龍を従えて、ツバサの苛烈な攻めに対抗していた。
最初に喚び出した時よりもコンパクトになった七支龍と獅子龍は、ミサキの周囲を守るように取り巻いており、ツバサから放たれる“自然の猛威をまとった”攻撃を受けても、主人であるミサキを守り抜いている。
龍の小型化に成功したらしく、パワーなどは据え置きだ。
大自然の脅威を率いるツバサと、世界を動かす龍脈を従えるミサキが、超高速で飛び交い、激しく交錯しながらぶつかり合う。
2人が接触する瞬間、地震よりも強い震動が伝わってくる。
「これって……世界が震えてる?」
マリナは怖がるあまりミロに抱きつく。
それを抱き寄せたミロは、神妙な顔つきで呟いた。
「ううん、世界じゃない──次元そのものが揺らいでるの」
この時、ミロはある懸念を抱いていたらしい。
だが、そんなことは露知らず。久し振りに歯ごたえのある仕合に血湧き肉躍っていたツバサは、いつもの冷静な状況判断ができずにいた。
やはり──ミサキは叩けば叩くほど強くなる。
ツバサが『こうするべきだ』と言葉で伝えるよりも早く、やられた分をやり返すように自ずと欠点に気付き、そこを改善しようと試みるのだ。
気で象った龍からしてそうだ。
巨大すぎて視界を遮るという欠点を熟知しながら逆手に取り、一度はツバサを罠にはめたことも褒めてやりたい。
この子はまだまだ伸びる──もっと強くなる。
ツバサがこの手で育てたい、ミサキの辿り着く果てを拝みたい。
殺戮の女神の荒ぶる気性は、そうした願望をも焚きつける。暴力の化身が宿す、荒々しくも野性的な母性本能が燃え上がろうとしていた。
彼に──俺の全力をぶつけたらどうなるか?
ツバサは我知らずの内に自分が持ち得る全力を右手に懲り固め、それを頭上に掲げていた。まるで太陽のような光球となっている。
太陽よりも熱そうな──真紅に燃え盛る光の玉。
この光球には蕃神を焼き尽くしてきた太陽よりも、段違いに強い力を込めてある。現実なら大陸のひとつやふたつは消滅させるだろう。
「嘘でしょ!? アタシの結界まで溶けそう!?」
観客席と実況席を結界で守っていたミロが驚愕の声を上げていた。
そこから世界が焼け落ちそうな熱量。
太陽を越える真の太陽を掲げ、ツバサは鬼気迫る顔で笑った。
「どうする──参った、と言うか?」
ミサキを守る8匹の龍であろうと、この真なる太陽を防げまい。だが、ミサキは逃げようとせず、ゾクゾクすると言いたげな戦慄する笑みを浮かべた。
「いいえ──真っ向から張り合います!」
ミサキは両腕を頭上に掲げると、七支龍と獅子龍を絡ませ合い、莫大な気を凝らした光球を創り上げた。そこに更なる龍脈を注ぎ込んでいく。
真なる太陽に匹敵する──龍脈の根源の如き気の光球。
こちらもまた絶大なエネルギーのため、そこから世界が溶け始めるかのような力が感じられる。
真なる太陽もその強すぎるエネルギーのため、周囲に陽炎みたいな“空間を歪ませる層”ができているが、こちらの龍脈の光球も同様である。
そこにあるだけで次元をもたわませるほどの存在感。
互いの力がほぼ拮抗していると理解するも、ツバサとミサキは双方共に『自分の方が優っている』という自負があり、互いに一歩も譲らない。
当然──叩きつけ合うことになる。
「カッカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカーーーッッッ!!」
真なる太陽の光球を拳に溜めて、ツバサは殴りかかる。
「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーッッッ!!」
龍脈の根源たる光球を拳に乗せ、ミサキは迎え撃った。
また世界を割る空間断絶層ができるのか!?
2人の戦いを見守っていたギャラリーは、誰もがその瞬間を思い描いて反射的に身構えたが、たった1人だけ未来を見通していた。
ミロは金切り声で叫んだが間に合わない
「ちょ、それ待っ……ダメえぇーッ! 次元が割れるッ!?」
物質的な圧力さえ感じさせるほどの爆音。
ミロの張った過大能力による特殊な結界でも亀裂が走り、機転を利かせたジョカが本性である起源龍に戻って皆を守らなければ危ういほどだった。
真なる太陽と龍脈の根源の衝突による爆心地。
そこから世界という幕を開くように──異変が生じた。
ブツッ、と耳障りな音がして、空間の向こう側から巨大なかぎ爪のような物体が出現したかと思えば、それが中空を滑って下へと降りていく。
その軌跡は空間に黒い縦線として残った。
やがて300mほどの長さを確保すると、その黒い線をかき分けるように何十本ものかぎ爪付きの触手が現れ、その黒い線を左右に開いていく。
「あれ……次元の裂け目ッスよ!?」
フミカが叫んだ時には、次元の裂け目が完全に開いていた。
次元の裂け目の向こう側──異次元から蕃神が這い出てくる。
今まで見てきたアブホスやアトラクアなどの動植物に近い蕃神とは異なり、この蕃神は大まかに見れば人型に近い姿をしていた。
一言で形容するなら──溶けかけの太った巨人。
差し渡し300mはある次元の裂け目を、身体を横にして潜り抜けようとしているところから、百貫デブみたいな極太の体型をしている。
溶けかけたように見える外皮は全て伸縮自在の触手となっており、長いものには先端に野太いかぎ爪がついていた。
太い腕を次元の裂け目にかけて、こちらの世界に出てこようとしている。
「あれが、蕃神……別次元からの侵略者か!?」
初めて目にするレオナルドは、銀縁眼鏡の奥で刮目した。
ツバサたちハトホル一家は経験済み(すごい嫌だが)なので、そこまで驚きはしないものの、イシュタル陣営には衝撃が走っていた。
カミュラは泣き叫んでハルカの背中に隠れ、ハルカはそれを母親のように庇っており、アキはレオナルドの背に隠れようと実況席に詰め寄るも、レオナルドにすげなくされていた(ちなみに、クロコも同様である)
実況のジンは唐草模様の風呂敷に家財道具を包んで逃げようとしていたが、レオナルドに首根っこを掴まれてジタバタもがいている。
そして、ツバサとミサキは──。
「嘘でしょ…………まだバトってるし」
さすがのミロも呆れた様子で、半笑いを浮かべていた。
爆心地の爆発が薄れてくると、ドカバキドカバキと殴る蹴るどつくような音が聞こえてきて、その度に小規模の爆発が起こっている。
そこでは──未だにツバサとミサキが戦い続けていた。
自分たちの限界バトルの余波によって次元の壁が薄くなり、それを狙っていたかのように巨デブの蕃神が現れようとも、まるでお構いなしである
ケンカ相手しか見えてない──お互いそんな感じだ。
頭に血が上るにも程がある。
この時、ツバサとミサキは本当に対戦相手しか視界に捕らえておらず、自分が勝つことと相手を負かすことしか考えてなかった。
──ぐもぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおんんん!!
侮られている──無視されている。
肥えた巨人はそう思ったのか、自分への畏怖を誇示するように吼えた。
そして、目の前で戦い続ける2人の女神に手を伸ばして──。
「「──邪魔だボケェッッッ!!」」
ツバサとミサキの逆鱗に触れた。
両者ともに真なる太陽と龍脈の根源を、ケンカの最中の片手間ぐらいの勢いで創り出したかと思えば、無造作な手付きで太った蕃神へと投げつける。
その直撃を受けた蕃神は、あっという間に蒸発してしまった。
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