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第8章 想世のタイザンフクン
第197話:ツバサ・ハトホルVSキョウコウ・エンテイ
しおりを挟む還らずの都──その中枢へ繋がる長い廊下。
カツン、カツン、カツン……と足音を響かせて、クロウ・タイザンはその廊下を走っていた。駆ける足音は彼の分しか聞こえない。
廊下を行くのは、マントを靡かせて走る骸骨紳士ただ1人。
「ごめんなさい、クロウおじさま……」
クロウのマントの襟元から声がすると、ゴソゴソ蠢いて小さなククリがヒョコッと顔を出した。何のことはない、骸骨紳士が幼女を背負っていたのだ。
「私が急ぎたいと言ったばっかりに……」
「構いませんよ。事態は急を要しているわけですからね」
初めは、クロウがククリの手を引いて歩いていた。
だが、ククリが「急ぎましょう」と急かしたので、クロウが全力疾走するため彼女を背負ったのだ。クロウは硬軟自在となるマントの一部でククリをおくるみのように包んで、背中にしっかり括りつけていた。
……ククリさんだけに括りつけさせていただきました。
そんな親父ギャグが喉から出掛かったが、空気を読んでクロウは黙っておいた。そもそも死んで骨だけなので喉もない。発声の原理すらわからないのだ。
せっかくのスカルジョークも不発に終わる。
緊迫した事態だからこそ、くだらないことが脳裏を駆け抜けるのかもしれない。
とにかく今は先を急ぎたい。ククリを背負うのもそのためだ。
全速力で走るクロウから振り落とされないようにと言う配慮なのだが、これではまるっきり祖父と孫のようだ。しかも孫の扱いが赤ん坊レベル。
それでも先を急ぐためククリは了承してくれた。
孫のような彼女を背負い、クロウは骨の手足で疾走する。
骨だけの身体には心肺機能がないため、動悸息切れとは無縁だ。
筋肉もないのだが、それ以上の力を発揮できるのは神族だからだろう。
「こういう時、神族の身体とは便利なものですね。ククリさんを背負ってこんなに走っているのに息ひとつ乱れない……これが現実世界なら今頃、酸素吸入器か救急車のお世話になっていますよ」
60歳を目前に控えたクロウの身体はガタが来ていたのだ。
娘のことで心労が祟ったのもあるのだろう。
「まあ、息切れする肺がないのですから当然ですね」
クロウは骨をカタカタ鳴らして笑う。
スケルトンとなった自分なりのブラックジョークだったが、ククリからの反応はなかった。緊張感を和らげようとしたが効果はなかったらしい。
「……やはり、キョウコウのことが気に掛かりますか?」
クロウは真面目な話題に切り替えた。
「はい、クロウおじさま……シュウは……キョウコウは、還らずの都が欲しいわけではありません。この都に眠る力を……来たるべき蕃神との決戦に備える軍事力として使いたいのです……」
ククリは還らずの都出現により、覚醒を促されたらしい。
何らかの共感現象が起きたのか、或いは両親との別れのショックで忘れていた記憶を思い出したのか、還らずの都のことを教えてくれた。
「それはここまでの道中で伺いました。ですが、軍事力とは……?」
「確かに……軍事力という側面もあります。還らずの都に眠る力とは、そうした類のものです……でも、繰り返し使えるものではありません」
還らずの都の“力”は──たった一度の奇跡。
「キョウコウはどこで知ったのか……還らずの都の機能を知っていましたが、それが永続的に使えるものだと思い込んでいるみたいです。もしかしたら、そういう使い方もあるかも知れませんが……」
やってはいけないことです──ククリは厳しい口調で明言する。
「そんなことをしたら……みんな、還れなくなってしまう……」
「還れなくなる? ククリさん、それは…………ッ!?」
懸命に還らずの都を下へ下へと駆け下りていたクロウは、廊下の先が行き止まりになっていることに気付いた。目を凝らせば大きな門がそこにある。
「ククリさん、着きましたよ! どうやら中心部のようです!」
話は後回しにして、クロウは駆け足を速める。
ククリも覚悟を決めて頷き、クロウの肩に手を乗せると我知らずの内にギュッと握り締めていた。ククリの小さな手がクロウの肩甲骨を掴んでおり、スーツ越しでも緊張から汗ばんでいるのがわかる。
もう後には引けない──前へ進むだけだ。
クロウは速力を止めず、むしろ加速させると門をぶち破るつもりで体当たりをかましていく。押し開けている時間も惜しかった。
門はちょうどいい手応えで内側に開かれた。
クロウの体当たりの衝撃音が、門の内側にある空間に響き渡る。
そこは──白亜の銀河系だった。
クロウたちが足を踏み入れたのは、還らずの都の最深部。
屋内にも関わらず広大という言葉が相応しい、一面純白の内壁に包まれた半円状のドームのような場所だ。ここに至るまでの廊下よりも殺風景である。
ドーム内の面積や規模は計測不能。目算では掴みづらい。
見渡す限り真っ白なので、距離感もわかりにくい。
還らずの都が段違いのスケールを誇ることから鑑みるに、ここも小規模な国なら収まってしまうぐらいのスペースがあるのかも知れない。
その白いドーム内に──無数の星々が浮かんでいる。
力強い輝きを放つ大小様々な宝玉が、自転と公転を保ちながらドーム内の上空に浮かんでいた。浮遊するそれらの宝玉は決して接触することはないものの、互いの発する力場によって呼応しているようだった。
「これは……龍宝石? これらすべてが!?」
機械製品や魔力を宿す道具を作る際に必要となる、魔力の蓄電池にして駆動機にもなる希少アイテム。
しかし、その大きさは野球ボール大がいいところ。
宴席でツバサから聞いた話では、「人の頭ぐらいの大きさのものもあれば、家一軒が入るほど大きなものもある」と聞いたが……。
「ここにあるのはどれも……比較にならない大きさですよ?」
家一軒どころか、ビルのひとつやふたつは飲み込めそうなものから、マンションでも取り込めそうな大きさまで、選り取り見取りである。
そんな巨大な龍宝石が、いくつもドームの上空を巡っていた。
あまりの数の多さから星々にたとえてみたが、本当に銀河系を模すぐらいあるのではなかろうか? 数取器でもないと数え切れない。
巨大な龍宝石はどれもがエネルギーを限界以上に溜め込み、増幅しようと鼓動している。過剰になったエネルギーは他の龍宝石へと流れていき、そこに蓄積されるとまた増幅され、他の龍宝石へ………。
これを延々と繰り返し、余剰になりすぎたエネルギーが行き場をなくして凝り固まると、新たに小さな龍宝石が生まれていた。
星の数ほど龍宝石が浮かんでいる理由がこれだ。
小さな龍宝石はエネルギーの増幅と蓄積を初め、徐々に大きさを増していく。
結果──このドームは莫大なエネルギーを渦巻かせていた。
ここにあるのは純粋な“気”だ。
もしも、これだけの龍宝石に溜め込まれた“気”を意のままにできたなら、あらゆる力に成り得るし、どんな願いを叶えることもできるだろう。
新しい世界を作ることさえ夢ではない。
まるで天体のように一定の周期で巡っている無数の龍宝石に目を奪われるクロウだったが、背中のククリから無言の要求を感じた。
それを「降りたい」と察したクロウは、龍宝石の天体に目を奪われたままククリをマントのおくるみから解放し、静かに床へ降ろしてやった。
ククリもまた、龍宝石で彩られた銀河系に魅入っている。
いいや、ある一点を凝視していた。
彼女の瞳は大きく見開かれ、驚きのあまり瞳孔が縮んでいく。
彼女の見つめる先に、クロウもまた視線を向ける。
そこには──この銀河系の中心を成す存在があった。
黒と白、光と闇、陰と陽──。
あらゆる生命力を内包するかのような真白き巨大な龍宝石。
あらゆる死と滅びを発散させるかの如き真黒き巨大な龍宝石。
家やビルやマンションどころではない。
大極都神やフォートレスダイダラスのような大巨神を飲み込んでも、まだお釣りが来そうな超巨大な龍宝石が2つあった。
白と黒の龍宝石は対となり、この銀河系の中心となっている。
ククリは一対の龍宝石から目を離せない
そこには一心の慕情が込められており、彼女の瞳は潤んでいた。
やがて瞳から大粒の涙を零して、震える声でククリは呟く。
「……父様……母様…………」
「な、なんですと!? まさか、あれが……ッ!」
「おまえの両親──叔父上と叔母上は立派な方だった」
唐突に降って湧いた声に振り向けば、ガシャリ、ガシャリ……と鎧武者が歩く音が聞こえてくる。クロウたちが一足先か、ほぼ同着だったのだろう。
キョウコウとその家臣たちが、こちらへ歩いてきていた。
ククリと姉妹のようによく似た女性を肩に乗せ、肥満体で不敵な笑顔を崩さない執事を連れ、全身を隙間なく鎧で覆った大男がやってくる。
ネルネという少女は肩から飛び降り、キョウコウの後ろについた。
キョウコウだけ前に出て、ククリに話し掛ける
「ククリ……おまえの両親は、儂が見た絶望について知っていた……儂のように命からがら生き残り……絶望のあまり発狂した者たちの……狂気じみた譫言を……真剣に取り上げてくれたのだ……」
ククリの母には“千里眼”にも似た能力があった。
ククリの父は“過去視”という能力を持っていた。
2人はこれらの能力を重ね合わせて、生存者からの伝聞情報を精査すると、キョウコウたちの証言を信じてくれたのだ。
あの天をも塞ぐ絶望を──。
「それゆえ、おまえの両親は……あのお二方は対策を講じた……死を司る魔王殿が死者たちを呼び起こし、生を司る女神殿が生者たちに問い掛け……多くの者を説得することで……この施設を設ける偉業を成し遂げたのだ……」
還らずの都という──究極の反撃手段を。
「反撃手段……違うわ、ここは墓地よ」
仮初めの永眠についた──英霊たちの墓場。
キョウコウの言葉を良しとせず、ククリは涙を拭って反論した。
「真なる世界に生きるすべての者は、死せる後にその肉体を構成するアストラル体が霧散して、この世界へと還っていくわ。死して後に屍が、皮が、肉が、骨が残ろうとも、いずれ純粋な“気”となって、真なる世界に還元していく……」
この都は──その自然の摂理をねじ曲げる。
「だけど……ここに遺影を刻まれた者は、完全に還ることが許されない……その時が来るまで、自らの一部を……情報という形で遺されることになる……永劫の安らぎは決して訪れない……」
この都に遺影がある者は──世界に還ることができない。
肉体は滅び、意識も散り、個としては完全に死に絶えているにも関わらず、本当の意味で世界に還ることが許されなくなるのだ。
「だから此処は──“還らずの都”と名付けられたのよ」
「世界に……還れない?」
ククリの言葉に、クロウはハッと龍宝石の群れを見上げた。
まさかの連想を思いついたからだ。
この還らずの都には、かつて真なる世界で名を馳せた英雄の遺影が数多く収められている。それはクロウも目にしてきた。
あの遺影は──英傑の情報を封じた記録媒体。
遺伝子やDNAなどを記録したものか、もしくは魂その物をコピーしたものなのか、あるいは情報に関する全てを遺したものなのかも知れない。
英雄の情報という記録媒体を集めた還らずの都の最深部には、莫大なエネルギーを溜め込んだ巨大龍宝石が天体と見紛うほど取り揃えられている。
これだけの純粋な“気”があれば、叶わぬ願いなどあるない。
たとえば過去の英雄たちを蘇らせることも──。
「気付いたか……骨の若造よ……」
しゃれこうべなクロウの表情を読み取ったのか、キョウコウは兜の下にある目元に皺を寄せていた。恐らく、頬当ての下では笑っているはずだ。
「ここにある龍宝石は……大陸全土の龍脈から……ゆっくりと、世界に影響を与えぬよう……ほんの少しずつ、純度の高い“気”を吸い上げ……無数の龍宝石を連動させることで……力を溜め込んできた……」
ある奇跡を成就させるために──。
「あのお二方が……その身を捧げてまでな…………」
キョウコウの声が哀しみを帯びる。
ククリのように涙ぐむことはないが、在りし日を忍ぶような眼差しで、白と黒の超々巨大龍宝石を見上げていた。彼もまた思うところがあるのだろう。
目的達成のためならば強情を貫くが、非情には徹しきれないようだ。
「それをあなたは……悪いことに使おうとしているじゃないの!」
ククリがらしからぬほど声を荒らげた。
大義のために我が身を龍宝石へと変えた両親。
キョウコウの野望は、2人の思いを踏みにじるものと捉えたからだ。
「悪用ではない、軍事利用だ……取り違えるな、ククリ」
「それが悪いことだって言ってるの! ここの龍宝石を使って……英雄たちを復活させるだけじゃ飽き足らず……ずっと支配するつもりでしょう!?」
然り──キョウコウは肯定した。
「全盛期の心技体を備えた、この世界の英雄によって構成された軍勢……一度だけの復活などと湿気たことは言わず……いつまでも働いてもらおうではないか」
我が軍団としてな! とキョウコウは硬く拳を握り締めた。
「それが……悪用なのよ、シュウお兄ちゃん!」
ククリは小さな肩を戦慄かせ、キョウコウを指弾する。
反感ばかり買うキョウコウは残念そうに嘆息した。
「フン……やはり、あの絶望を目の当たりにしなければ……絶対的な軍事力が必要という……危機管理能力は抱けぬか……仕方ない……」
キョウコウは総金属製の籠手をしているにも関わらず、器用に指をスナップさせて鳴らした。この合図を受けてダオンが横へとずれる。
「部下たちに……還らずの都を見つけ……その内部に侵入し……最奥部を抑えろと命じたのは……ここが、還らずの都の制御室だからだ……」
ダオンの背後から現れた人物にクロウは息を呑んだ。
それは隣にいるククリも同様だった。驚きの度合いは彼女の方が強い。
「ククリよりも先に……最奥部を抑える……部下たちには扱えぬだろうが……灰色の御子である儂なら……当世風に申せば“ワンチャンある”……」
そんな期待があった──キョウコウは無念そうに言った。
「だから、是が非でも抑えておきたかったが……どうやら、還らずの都は……叔父上と叔母上の認めた者……おまえしか扱えぬようだな、ククリ……」
「だから……私の偽物を作ったの?」
現れたのは──ククリだった。
外見こそ瓜二つだが表情は死んでいる。佇まいも少女らしくはない。何より、その身から放たれる気配がククリとはまったく違う。
あちらのククリからはキョウコウの雰囲気が感じられた。
ククリは還らずの都に入る前、キョウコウが伸ばした飾り毛で負わされた頬の傷にそっと手を添える。あれはこのための布石だったのだ。
「その通りだ……しかし、徒労に終わった……」
偽物のククリはククリと同じ鈴を転がしたような声で喋るものの、その眼光はキョウコウとまったく同じ。口調もまた老獪な男のものだった。
「おまえの血肉を元に……完全な複製を作ったつもりだが……一足早くこの最奥部に辿り着いても……あの龍宝石たちは……反応しなかった……」
なのに……ッ! と偽物のククリは恨めしそうに本物を睨む。
「ククリが此処に辿り着いた途端……奴らは急激に輝きを取り戻し、活動を始めた……この都は……あのお二方は……おまえしか認めておらんのだ!」
「そうよ──それが“鍵”たる私の役目ですもの」
忌々しげなキョウコウに対して、ククリは誇らしげに答えた。
「還らずの都が復活したおかげで、すべて思い出すことができた。わかったの……還らずの都を“解放”することができるのは……私だけよ」
「やはり、な……そういうことか……ッ!」
キョウコウは偽物のククリの頭を無造作に掴むと、腕から肉の触手を飛び出させて彼女を包み込み、体内に吸収してしまった。
「偽物を作ってやり過ごそうなどと……小細工を弄しても無駄だったか……やはり、おまえを……ククリ! 貴様を手に入れねば…………ッ!」
妄執に病んだ声を漏らして、キョウコウは腕を伸ばす。
宣言通り、ククリを手中に収めようとしているのだ。
還らずの都──その奇跡を起こすための“鍵”を手に入れるために。
キョウコウが飛び掛かってくる機を読んだクロウは、マントを翻すとククリの前に立ちはだかる。まさに一触即発の瞬間だった。
「落ちよ轟雷──神鳴る力ッ!」
何条もの稲妻が降り注ぎ、稲光が全員の目を眩ます。
キョウコウでさえ視界を真っ白に覆われた直後、赤い旋風が舞い込み、鎧武者の巨体へ雨霰のような乱打を叩きつける。
これにはさしものキョウコウも溜まらず、2歩3歩と後ずさる。
「ぬうっ……また貴様か、爆乳小僧ッ!」
キョウコウの前に降り立ったのは──ツバサだった。
鴉の濡れ羽色のように艶やかな黒髪を振り乱して、愛用する真っ赤なジャケットからこぼれ落ちそうな母なる乳房をたわわに揺らす肢体。幾人もの子を産み育てたような安産型な臀部……どれも見間違うわけはない。
しかし、クロウは「別人?」と見誤ってしまった。
記憶にあるツバサとはカラーリングが、あまりにも違ったからだ。
その髪は血よりも赤い真紅に染まり、手や腕も黒に近い赤で覆われている。赤い隈取りが顔全体に走り、表情も鬼女の如く厳めしい。
そして、何より──。
「決着つけようぜ──全身鎧の老いぼれッ!」
ククリが泣き顔でドン引きするほど、ガラが悪くなっていた。
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「ツバサさん、なんでもう殺戮の女神になってんのよ!?」
後から追いついてきたミロは、抜かりなく神剣を構えてクロウやククリの護衛に回りつつ、ツバサが暴走しかかっているのを心配してくれた。
「わかってる、わざとだ──ウォーミングアップだよ」
ツバサは意図的に殺戮の女神を出していた。
準備運動ではないが最初からトップスピードで動けるように、殺戮の女神に身体を慣らしておくためだ。
殺戮の女神で最大限のパフォーマンスを発揮できるように──。
今度こそキョウコウとの決着をつける、その準備でもあった。
ツバサは牙を剥いたような表情のまま首をグリン! と回して真っ赤な髪を振り乱して背中に流した。ミロとクロウが護衛についたククリの前に立ち塞がり、対峙するキョウコウを赤く燃えた視線で睨めつける。
「この都の仕組み、わかったぜ」
アンタがやりたがっていることもな、とツバサは告げた。
ここまでの道中のこと──。
ツバサは先を急ぎながらも分析などの能力を使い、英雄の遺影が刻まれた鋼板を調べていた。あちらもまだ戦闘中なフミカにも手伝ってもらい、あの鋼板が英雄の記録媒体であることも突き止めた。
そして、還らずの都は大量の“気”を溜め込んでいる。
どんな奇跡をも叶えられる凄まじい力を──。
「要するに『魔界転生』を無制限にやれる環境で、豪傑どもを復活させまくって、自分だけの最強軍団を作りたかったわけだ」
もしくは『英霊召喚』を何万回と繰り返せるシステムを用意して、中二病なら一度は夢に見る“ボクの最強デッキ”を構築したかったと言い換えてもいい。
還らずの都とは──過去の英雄を復活させる装置。
その英雄が全盛期だった時のデータを元に、最高の状態な肉体を複製。その肉体に英雄の魂を呼び戻して復活させる機能を備えた、壮大な反魂装置なのだ。
「この世界がピンチになった時、伝説の英雄たちが馳せ参じる……そりゃあ“最高の軍事力”になるわけだ。夢のオールスター大集結だからな」
アンタはそれが欲しかった、とツバサはキョウコウを指差す。
これにキョウコウはやや悔しげに首を縦に振った。
「そうだ……だが、しかし……」
「この都はククリちゃんにしか動かせない。彼女は還らずの都の“鍵”だ」
ククリはあらゆる面において“鍵”なのだ。
還らずの都を地上に出現させるための“鍵”であり、還らずの都の門を開けるための“鍵”であり、還らずの都を起動させるための“鍵”でもある。
ククリは還らずの都を司るマスターキーなのだ。
「彼女じゃなきゃ還らずの都は動かせない……キョウコウじゃ無理だ」
残念だったな、とツバサは嘲りを込めた失笑を零す。
殺戮の女神になっているためか、態度まで粗暴になってしまう。
「ああ、そのことなら……ここに辿り着いて、思い知らされた……」
キョウコウの鎧がギチギチと軋む。
内側から膨張する強大すぎる力の圧力を抑え込めないようだ。あの鎧は拘束具も兼ねているのか、彼を人型に保つものでもあるらしい。
「だから……是が非でもククリを我が物とする……ッ!」
喉から手が出るほど欲しい──どころではない。
キョウコウは全身の形を変えていき、鎧の各部位が弾け飛んだかと思えば、そこからワラワラと人間の腕や頭足類を思わせる触手が生えてきた。
それらは一斉にククリへと向けられる。
「ククリが“鍵”だというならば……どんな手段を使ってでも……我が意のままにしてくれるッ! それが……還らずの都を我が手中に収める唯一の手立てであるというならば…………ッ!」
かつての許嫁であろうと──陵辱することさえ厭わぬ!
思い掛けないことを暴露したキョウコウは、怒りを昂ぶらせるあまり制御が疎かになった肉体のまま、地響きをさせてこちらに踏み出してきた。
「母親の目の前でそんなことさせねぇよ」
ツバサは半笑いで減らず口を叩くように返した。
踏み出すキョウコウに合わせて、ツバサも床がめり込むほど前に出る。
「決着つけようぜ、キョウコウ……ちったあ猶予あんだろ?」
「……貴様と死合うだけの……時間か……」
世界を揺るがした四度の鐘──。
あれがキョウコウの恐れる絶望の先触れであり、この真なる世界に危機と恐怖をもたらす前兆だということは、ツバサの肌でもわかっていた。
しかし、キョウコウにはまだ余裕がある。
恐らく、あの前兆現象が起きてから、どれくらいで“天をも塞ぐ絶望”とやらが起きるかを知っているのだ。これは経験則によるものだろう。
「確かに……貴様と雌雄を決する時間ぐらいは……あるだろう……」
だが──時が惜しいことに変わりはない。
「悪いが……無粋な真似で押し切らせてもらうぞ……ッ!」
キョウコウの全身鎧が弾け飛ぶように散り、彼の内側から混沌が噴き上がるようにあふれてきた。その勢いはさながら鉄砲水か土石流。
混沌という名の物量を叩きつけてきた。
──【我が内に在る異次元は我だけの自由となる】。
キョウコウの内面世界ともいうべき異次元により、真なる世界という現実を侵食する能力だ。その湧き上がる質量は膨大で、同じような能力を持つはずのクロウでさえ抗いきれぬほどだった。
押し寄せる混沌の津波──これを殺戮の女神は真っ向から受けた。
「そいつはとっくに対処済みだ!」
殺戮の女神と化したツバサの全身からは、赤い闘気が立ち上っている。
その闘気がツバサの周囲を覆うほど噴出し、視界を遮るほど濃くなっていくかと思えば、見たこともない光スペクトルを発する紅炎になった。
ツバサの紅炎は上下左右に展開し、押し寄せる混沌へぶつかっていく。
激突の結果を予想してクロウは慌てて制止する。
「無茶です、ツバサ君! あの混沌は地獄の業火でも焼き尽くせなかった!」
張り合ってはいけません! とクロウは助言を叫ぶ。
ツバサはわずかに顔を振り向かせ、微笑んだ口元をクロウに見せる。
その微笑みをクロウは「大丈夫です」と受け取った。
キョウコウの混沌にぶつかったツバサの紅炎は──侵食した。
燃やすのではない。触れた混沌を瞬時に燃え尽きたような真っ白い灰燼に変えていき、その灰燼が見る見るうちに混沌を覆い尽くしていく。
「なっ……これは……よもや、終焉の炎……ッ!?」
キョウコウは咄嗟に混沌を切り捨て、侵食してくる滅びを免れた。
「終焉の炎だか何だか知らねぇが……その炎は何もかも滅ぼすぞ」
ツバサが自然を操る過大能力を極限まで研ぎ澄ませ、時間の原理を超越するほど追及した果てに編み出した新技だ。
『万物は滅ぶ、万象は滅ぶ──この世の全ては必ず滅ぶ』
どれだけ時間がかかろうとも、有機物はおろか無機物さえいずれは風化して滅び去っていく。これは避けられない事実だ。
ツバサの紅炎は──その滅びを加速させる。
本来の風化する時間を越えて、瞬く間に滅ぼすのだ。あまつさえ、触れた対象を完膚なきまで塵にする侵食作用も追加してある。
見た目から火炎系の能力かと思えばさにあらず。
どちらかといえば時間操作系を極めた超が付くほどの高等技能だ。
セイメイの過大能力とよく似ている──威力はあちらが段違いだが。
「アンタが無節操に吐き出す混沌だろうと容赦しねぇし、出したら出しただけ蝕んでいく……こいつぁ防ぎようがねえだろ?」
「むぅ…………ッ!」
キョウコウは唸り、まだ残っている混沌を身の内に収めていく。
この態度こそが肯定と受け取れた。
感心の声を上げるクロウの隣では、ミロが腕を組んで偉そうに一言。
「よし──その炎を“滅日の紅炎”と名付けよう!」
「おまえが名付けんのかよ!?」
俺が編み出した技なのに! とツバサは抗議する。
ツバサがミロに振り向いた一瞬を利用して、キョウコウは一足跳びで間合いを詰めてくる。鎧武者の姿に戻ると、おもいっきり殴りかかってきたのだ。
「儂の能力を封じた程度で……調子に乗るなッ!」
「その台詞……そっくり返すぜ!」
ツバサは即座に対応、振り向きざまにキョウコウの拳を紙一重で躱す。
そこからカウンター気味のパンチを顎に目掛けて打ち上げた。
ゴギィン! と鉄塊同士をぶつけたような音がする。
殺戮の女神と化したツバサの拳は真っ赤に染まるのを通り越して、鉄のように硬質的な赤黒さを帯びており、それがキョウコウの顎を打ち砕いた。
「そんな能力でいつまでも御山の大将気取ってんな、老いぼれ!」
「き、貴様ぁぁぁ……ぁぁぁッ!」
キョウコウの両腕から、ギシギシと重苦しい質量を詰め込む音がする。
重量を増した混沌を腕の内部に溜め込み、打撃力を底上げしているのだろう。これでパンチの威力が何万トンにも跳ね上がるはずだ。
対するツバサも気功系技能や強化魔法を重ね掛けして、両腕どころか全身を鋼鉄で覆うかのように強化していく。殺戮の女神になっているから効果も高い。
間合いを計るとか、距離を取るとか──もう面倒だ。
そう言わんばかりにツバサとキョウコウは自分の立ち位置を譲らず、至近距離から拳を打ち込んでいく。それは喧嘩の殴り合いだった。
2人の拳がぶつかり、文字通りの火花が散る。
人知を越えた破壊力を誇る拳と拳がぶつかり合い、本来なら透明なはずの衝撃波にまで色彩が備わっているように見えた。
ツバサが発する衝撃波は赤色を帯び、キョウコウが発する衝撃波は鈍色。
どちらが暴れてもイメージカラーの衝撃波をまき散らし、純白のドーム内に破壊の嵐を吹き荒れさせた。傍観者であるミロやクロウにダオンは、自分が守るべきククリやネルネを庇うことで必死である。
飛んでくる衝撃波を神剣で払いながら、ミロは驚愕の声を上げる。
「ツバサさんが……真っ向から殴り合ってる!?」
いつものツバサらしからぬ戦法に驚いていた。
本来、ツバサの流儀は合気道だ。相手の攻撃を受け流し、その力を利用して投げ飛ばすのが基本スタイル。空手やボクシングのような打撃にはあまり頼らない。
だから、流儀に反する戦い方にミロが疑問を呈していた。
「キョウコウにゃ打撃くらいしか効かねえからな!」
キョウコウの肉体は特殊だ──あの混沌のせいで不定形とさえ言える。
それは最初の闘いで痛感させられた。
身体の部位を気分次第で増やすに留まらず、投げようとすれば身体の重心を変えてくるし、関節を極めようとすればその関節をほどいてしまう。
軟体生物か! と毒突きたくなる融通性だ。
ミロ命名の“滅日の紅炎”で混沌による範囲攻撃を封じたとはいえ、身体の中は好き勝手にいじくれる。ちゃんとした骨格や内臓もあるまい。
そのでたらめな肉体構造のため、投げ技が効かないのは言うに及ばず、関節技や急所攻撃も意味はなく、気道や血流を圧迫するような攻撃も通じない。
つまり、格闘技がまったく通用しないのだ。
もし通じるとすれば──渾身の力を込めた打撃くらいのもの。
「そのドロドロな混沌のせいで、アンタにゃ全力でぶん殴るぐらいしか通用しそうにねぇからな! 根性萎えるまでブン殴ってやらぁ!」
滅日の紅炎を浴びせて滅ぼす──なんてつまらない終わりは許さない。
徹底的に叩きのめして、絶対的な敗北を認めさせてやる。
「やってみろ……乳尻がでかいだけのメス餓鬼がぁッ!」
双方ともに血気盛んに怒号を上げ、至近距離からの殴り合いを始めた。
掛け値なしのタイマン──本当の素手喧嘩だ。
ツバサはキョウコウよりも身軽なのを活かして高速移動もしていき、巨体ならではの死角を突くように動いて、そこから攻めかかる。
キョウコウは人間ではありえない関節の動きで、ツバサに対処してきた。
場合によっては新たな腕や足を増やして、それに分厚い装甲をかけることで応戦してくる。威力としては混沌を内包している分、キョウコウの方が打撃力も破壊力も勝っているので、ツバサは何度となく殴り飛ばされた。
しかし──殴ったキョウコウに異変が起こる。
ツバサを中空にかち上げた腕が、上手く動かせなくなったのだ。
「ぬうぅ、浸透勁か……師匠譲りの、小癪な真似を……ッ!」
ツバサの掌底を打ち込まれたキョウコウの腕がビリビリ震え、内部から破裂音がすると鎧の隙間からどす黒い血がドボドボと滴り落ちた。
浸透勁──打撃力を体内に浸透させて内部より破壊する発勁。
発勁自体、対象の内部に余すことなく打撃力を送り込む技術だが、浸透勁はそれをより強力にしたものだ。ツバサほどの達人がやれば尚更である。
「斗来坊といい……爆乳小僧といい……儂の邪魔ばかりする!」
「へっ、やっぱりな。あのインチキ仙人とはそういう仲かよ!」
いわゆる喧嘩友達みたいなものだったらしい。
自らが宙に殴り飛ばしたツバサを追いかけるように、キョウコウも宙へ飛び出すのだが、それはあっさりツバサに迎撃されてしまった。
既に飛行系技能で体勢を整えていたツバサは、宙に飛び上がった瞬間のキョウコウを狙い澄まして、踏みつけるような全力のキックを落とし込む。
キョウコウは顔を足蹴にされるも、すぐさまツバサの足首を掴んだ。
そして、自分の懐に引きずり込もうと引っ張る。
その状態から混沌を解き放ち、ツバサを包んで圧殺しようと目論んだが、ツバサの闘気が滅日の紅炎に変わるのが早い。
混沌どころか本体まで焼く勢いに、さしものキョウコウも狼狽する。
「ぬぉぉああっ……本当に、手を焼かされるとは……ッ!」
灰になりかけた腕を切り離し、キョウコウは忌々しげにぼやく。新たな腕が生えるのを待つわけもなく、ツバサは猛攻撃を仕掛けていった。
野太い鋼鉄の柱みたいに重くなった豪腕を奮うキョウコウだが、ツバサは易々と躱して懐に潜り込むと、鋭いエルボーを鳩尾に突き込んだ。
「昔は師匠と張り合う腕だったかも知れんが……今のアンタは遅い!」
動きに雑味が多すぎる、とツバサは批評するように言った。
「その混沌……あらゆるものを喰らってきた身体が原因じゃないか? あんた自身の洗練された技に、余計なものが混ざりすぎておかしくなっている」
懐に飛び込んだついでに、ツバサは凄絶な連打を打ち込んだ。
「ぐぉぉぉぉっ……ひ、人を勝手に……分析するなぁッ!」
「──1回見たら覚えろ!」
燃える鉄のように赤い拳で、ツバサはキョウコウを殴る。
一撃だけでも広大なドームが震動し、打撃のインパクトが衝撃波となって龍宝石の銀河をも乱れさせる。いや、強大な力に共鳴しているのか?
「──2回見たら考えろ!」
熱い蒸気を吹き上げるツバサの脚が、キョウコウの腹部を抉る。
その衝撃は彼の巨体を打ち抜いても止まることはなく、その直線上にあった巨大な龍宝石たちは道を譲るよう押し退けられてしまった。
「3回見たら──わかれ!」
左右の掌を同時に打ち込むような掌底をキョウコウの胸板に叩き込み、胴鎧をメチャクチャに壊しつつ、鎧武者をドームの床へ撃墜する。
落下によって大爆発が巻き起こり、ドームの床に大穴を開けながら戦塵が堆く舞い上がる。その大穴の底でボロボロの鎧武者が力なく痙攣していた。
ツバサは大穴の縁に降り立ち、キョウコウを見下ろす。
「強敵と戦うんなら、そうやって相手の技を見極めろ……って師匠によく叱られたもんだぜ。もっとも“3回じゃ遅ぇ”とも笑われたがな」
ツバサとキョウコウは過去2回──手合わせをしている。
「どっちの戦いでも分析の技能は働かせていたんだ。アンタの戦い方はほぼわかったし、過大能力やその混沌についてもわかった……」
そろそろ無理はやめろ──老いぼれ。
ツバサは冷酷さを露わにした言葉で、忠告するように言った。
その言葉が勘に障ったのか、痙攣するだけだったキョウコウは崩れた床を掴んで握り締めると、拳を叩いてどうにか上半身を起こした。
「誰が……老いぼれだ……この儂を……年寄り扱いするとは……ッ!」
「ホントに年寄りだろうが。気付かれてない、とでも思ってるのか?」
ツバサはキョウコウが隠してきた弱点を明らかにする。
「アンタの身体は──もう限界だ」
あの混沌を使うことで、老いた肉体を誤魔化しているだけ。
これはツバサの主観も入っているが、あの混沌とした自分の内面世界を操る能力は過大能力ではない。彼が灰色の御子として持っていた能力だろう。
キョウコウの力の総量に注意していれば、それは明白だった。
彼がククリとクロウを混沌で包囲していた時──。
ツバサとミロが乱入して、轟雷と神剣でその混沌をできるだけ排除した後、キョウコウの力が明らかに目減りしたのだ。ツバサはそれを感知していた。
キョウコウの内面世界は無限じゃない──限界がある。
それがわかっただけも儲けものだと、ツバサはそこからキョウコウに何度も分析の技能を働かせて、彼の体内がどうなっているかを探っていた。
「誰でも彼でも何でもかんでも、自分の内側に取り込んで自身の一部に変えて、混ぜ合わせることであの“混沌”にして、それで衰えた肉体……いいや、灰色の御子だからアストラル体か、それを維持してきたんだろ?」
この500年間──そうして生き存えてきた。
老いた筋肉を、病んだ内臓を、衰えた神経を、取り込んだ若者たちのものに置き換えることで若さを保ち、それでも足らなくて様々な動植物を生きたまま取り込んでは自分のものとし、もっと強い肉体が欲しくて兵器や重機を飲み込んで重々しい力に変え、更なる強大さを求めて城や要塞を食い……。
「山を、川を、森を、島を、海を……真なる世界に戻ってきてからは、蕃神やその眷属まで取り込み、その混沌みたいな身体を保ってきたんだ」
そうして取り込んできた物が馴染まなくなってきていた。
もはや身体が異物の集合体となりつつあり、心身ともに老化の進んだキョウコウではそれらをコントロールできなくなってきている。
一見すると問題なさそうだが、緻密な操作はそろそろ難しいはずだ。
他の奴らは騙せてもツバサの眼は誤魔化せない。
「だから老いぼれと言ったんだ。これ以上は年寄りの冷や水だぜ」
「ぬぅぅ……ぬかせ、若造がぁ……」
大穴から這い上がってきたキョウコウは立ち上がる。
ツバサの攻撃により破壊された鎧が、甲殻類の殻が治るように修復していく。だが、その修復スピードは誰の目から見ても遅くなっていた。
キョウコウの鎧はなかなか完治していない。
幅広い肩も静かに上下しており、息が上がっているのがわかる。
好戦的な殺戮の女神になりながらも、ツバサはこの絶好の機会を見逃すかのように攻撃の手を止めていた。
代わりに冷たい視線でキョウコウを見下している。
降伏しろ、負けを認めろ──これ以上は戦るだけ無駄だ。
態度でそう示したツバサに、キョウコウは割れかけた頬当ての下で苦笑する。
「ツバサ、だったか……おまえは、本当に……師匠そっくりだな……」
敵対する者の弱点を暴くように看破する。
勝負がついたと見るや、途端に戦いへの熱が覚める。
「いや、それが斗来坊の流儀……だった、な……己の能力を熟知し……敵の戦力を調べ上げ、勝利の力学に則れば……負けはない、と……」
「なんだよ、俺よりよっぽど師匠のこと知ってんじゃねえか」
「ああ、そうだ……奴とは……500年を越える……付き合いだからな……おまえも……薄々勘付いているのだろう……? 奴は、斗来坊は……」
キョウコウと同じ──灰色の御子だ。
キョウコウの言う通り、なんとはなしに気付いてはいた。
むしろ共通項はそれしかないと思っていた。
それでも面と向かって言われれば、心の虚をいくらか突かれる。
この虚を突いたキョウコウは、わざと遅くしていた鎧の修復を一瞬で終わらせると、ドーム上空に向かって飛んでいった。
ロケットの如き推進力でドームの頂点を目指している。
「あの男なら……儂がこうすることを予見した! 儂の諦めの悪さを、しつこさを……執念深さを! 呆れるほど味わってきたからなッ!」
ドームの頂点に達したキョウコウは、全身から混沌を湧き出させる。
湧き上がった混沌は360度に展開していき、ドーム内のすべてを包み込むように広がっていった。むしろ、積極的に龍宝石たちを狙っている。
「かくなる上は……すべてを取り込んで我が物とするのみ!」
還らずの都の全機能は言うに及ばず、ククリも、その味方をする者の──。
「そして、ツバサよ……おまえも我が一部にしてくれるッ!」
幕を降ろすように混沌が降りてきて、ドームを覆い尽くさんとする。
その前に──ツバサがキョウコウ目掛けて飛んだ。
「その往生際の悪さ……嫌いじゃないぜ、キョウコウ!」
悪役として心置きなくぶちのめせる。
殺戮の女神となったツバサの腕は赤黒く硬化しているが、右腕の拳を強く握り締めると、急激に過熱されて赤から白へと変わっていく。
白熱化は留まるところを知らず、超高熱へと燃え上がった。
ついには金色の輝きにまで高められ、太陽を超す熱量を宿すまでに至る。
「──この世の万象は我が混沌に溺れよ!」
攻撃的な混沌が渦を巻き、上昇するツバサに降り注いだ。
落ちてくる混沌の濁流に向けて、ツバサは太陽を宿した拳を突き上げる。
「昇る太陽に──打ち上げられて逝けぇぇぇッ!」
突き上げた拳から放たれた太陽は、混沌を焼き滅ぼしながら昇っていく。太陽球は混沌を打ち払い、キョウコウを確実に捉えた。
「儂の混沌が……太陽に……屈するかああああぁッ!!」
太陽に押し上げられ、キョウコウはドームの天井に叩きつけられる。
太陽はキョウコウを押し潰すように上昇を続ける。それでも彼は屈せずに抵抗し、太陽の熱に身を焦がしながらも押し返そうとしていた。
登る太陽と堕ちる混沌が凄まじく競り合う。
「逝け……っていってんだろうがあああああああああーーーッ!!」
だからツバサは──駄目押しをした。
右腕のみならず左腕にも太陽の力を宿すと、それを突き上げて第二の太陽を放った。それはキョウコウを焼く太陽に溶け込み、威力を倍増させる。
太陽の力を宿したままの右腕から第三の太陽を、左腕からは第四の、第五、第六、第七……太陽を宿した拳による連打だ。
その度に太陽の威力は増し、キョウコウを圧迫する。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
──ドーム内に浮かぶいくつもの巨大な龍宝石。
そのどれよりも大きくなった太陽球が、ついにドームを突き破る。
還らずの都内部に縦横無尽に走っている廊下を突き崩しながら、還らずの都の芯をぶち抜くように、太陽はキョウコウを押し上げて進んでいく。
そして──還らずの都の最上階である第1階層。
富士山のような積層構造をした還らずの都が鳴動したかと思えば、本当の活火山のように最上階を吹き飛ばして、噴火の炎を噴き上げる。
しかし、そこから現れたのは太陽だった。
還らずの都を突き破って現れた太陽は天高く昇っていく。
混沌どころか肉体のほとんどを焼き尽くされ、もう上半身ぐらいしか残っていないキョウコウを乗せたまま、どこまでも高みを目指す太陽。
「また……おまえに……負けるのか……斗来坊……いや…………」
ケンエン……キョウコウは古き友の名を呼んだ。
ここまでやられては敗北を認めざるを得ない、とキョウコウは瞼を閉じかけたその時だった。打ち上げられた空に小さな黒点を認める。
その黒点に不吉なものを感じた瞬間──それが拡大した。
地母神が生み出した太陽を飲み込むほどの闇。それが一瞬にして真なる世界の空に広がり、この世に一切の光が届かぬ夜をもたらしたのだ。
キョウコウは、太陽の熱でやられた喉で苦悶の声を絞り出す。
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