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第10章 天梯の方舟と未完の巨神
第244話:工作者の辞書に妥協の二文字はない
しおりを挟むスプリガンは女神ハトホルの庇護下に置かれた。
彼らは今まで出会った種族(ケット・シー、セルキー、ハルピュイア、ヴァナラ、エルフ、ドワーフ、オーク、マーメイド、鬼神族)とは一味違う。
まず機械生命体であるということ──。
超ロボット生命体と言えばいいのか、生命を宿しながらも頭のてっぺんから爪先まで無機物で構成されていた。SF小説に登場する「ケイ素生命体」や「炭素生物」に近いのかも知れない。
男女の性差があるため繁殖方法は人間や他種族と同じらしく、男女による性交渉で子孫が産まれるらしい(レオナルドがこっそりガンザブロンから聞き出しているところに聞き耳を立ててしまった)。
そして──種族というより軍隊的であること。
総司令官という肩書で呼ばれるリーダーがいて、それをサポートする副司令官や司令官補佐、防衛隊長などの各種任務を取り仕切る部門担当がおり、各部門に兵員が配置され……トップダウン方式になっている。
ダグが総司令官になってからは「各現場の声を大事にしたい」という彼の方針を取り入れているそうだ。戦士の娘たちからも評判はいいという。
トップダウンとボトムアップがいい案配になっているらしい。
しかし、種族の長である総司令官の権限は生きている。
ダグが「新たなる神々に臣従する」と宣言するや否やブリカやディア、ガンザブロンや戦士の娘たちは異論を挟むことなく追従した。
反対意見はまったく出ない。
勿論、スプリガンを案じて「アタシたちが戦う! あなたたちを護る!」と約束したミロの思い遣りや、ミ=ゴの戦艦に圧勝を収めたツバサたちの力。こういった誠意や頼もしさが伝わったこともあるのだろう。
それでも──種族の行く末を第三者に委ねるのは逡巡するものだ。
なのに反対の声が上がらなかったのは、総司令官であるダグの判断にスプリガンたちが信を置いている証とも言えた。
そんなスプリガンたちのために最初に取り掛かったことは──。
~~~~~~~~~~~~
「──過大能力発動!」
別にアニメや漫画の必殺技ではないのだから、そんな大声を張り上げずとも能力は発動される。なのに、ダインは意気揚々と叫んでいた。
方舟“クロムレック”──船首。
その先端に立ったダインは空へと両腕を広げて、何かを迎えるようなポーズを取っていた。その後ろにはフミカが秘書よろしく控えている。
いや、あれは新妻気取りだ。
ダインの掛け声に応じて、方舟の前方が黒雲に覆われていく。
稲光を蓄える暗雲の向こうは、ダインの意のままとなる特別な空間。
過大能力──【幾度でも再起せよ不滅要塞】。
拡張に拡張を重ねた自らの道具箱内部を、工業地帯をも上回る面積を有する巨大要塞とする過大能力だ。
あの空間には飛行母艦ハトホル・フリートを始め、ダインが建造した巨大ロボ、ツバサたちの我が家まですべてを収納できるのだが、それらを収めても「収納スペースに余裕があるぜよ」とダインは豪語する。
要塞内の工場では様々な物を大量生産することが可能。
最近では万が一に備えて、保存の利く備蓄食糧の生産を進めている。
その不滅要塞の出入り口から──“凹”が現れた。
断面がそう見えるだけで、凹型のまま続いている。
全貌を現したそれは、極厚の壁で造られた槽のような外観をしていた。
ただし、凹型なので前後がない。よく見ると壁や床は均等にブロックで分けられていた。切り離すことができるようだ。
凹型の槽はゆっくり移動、方舟の下に回る。
配置につくと槽を形作るブロックに光が走って分離を始めた。
中には独特の形状をした鉄骨が組まれており、その鉄骨に添ってブロック状の壁や床が前後左右にスライドしていく。
やがて、方舟を収められるサイズにまで広がった。
巨大な凹型の槽は変型を終えると、その内側に方舟を収めるべく上昇。
方舟を格納し、その船体を支えるべく大型アームが起動する。
現実世界でも船を修理する際には船渠という施設に収めて、船体を水から上げるために“船台”や“盤木”という支えを用いる(この作業を上架という)。
あの巨大アームは船台と盤木を兼ねるもの。
つまり、この凹型の槽は移動する船渠というわけだ。
「船渠型万能工作艦──アメノイワフネ」
船首に立つダインは誇らしげに腕を組み、その名を呼んだ。
「こがなこともあろうかと、コツコツ建造しちょったサポート艦ぜよ! こいつはハトホル・フリートは勿論のこと、巨神王たちの修理も可能!」
「方舟の修理も朝飯前、というわけか」
ダインとフミカの後ろ、様子を見守っていたツバサが一言添えた。
──臣従の意を示したスプリガン。
そんな彼らへの最初の施しは、方舟の修理と生活改善だ。
ダグたちも真っ先にそれを願おうとしたのだが、彼らよりも先にダインとジンが「早く方舟を直させて!」とブチ切れる寸前だった。
実際には半ギレでツバサに縋りついていただけだったが……。
傍から見ると「お母さんオモチャ買ってーッ!」と駄々を捏ねるデカい子供が泣きついているようにしか見えない。だから条件反射で「誰がお母さんだ!?」とツバサが逆ギレしたのは言うまでもない。
それでもめげない懲りない諦めない工作者コンビ。
壊れたままのものを放置できない工作者の鏡と褒めるべきか?
気持ちはわかるが、度が過ぎるなら今後は矯正する必要がありそうだ。
血の涙を流す剣幕で頼み込んでくる工作者2人、ダグも若干引き気味だったが、「えっと……お願いします」と承諾してくれた。
ほとんど押し切られたようなものである。
スプリガンの承認を得た2人は、方舟の展開図やら設計図やらのデータを借りると即座に動いた。バージョンアップする勢いで修復するつもりだ。
工作バカコンビを野放しにしたら、どんな魔改造をするかわからない。
ツバサは双方の作業現場を行き来して、やり過ぎないように監督する役を買って出た。ツバサがダインを監督する間はレオナルドがジンを見張っている。
しばらくしたら交代する予定だ。
……監督役を任せられるレオナルドを連れてきて正解だった。
ダインは主に外装や兵器などの修理を担当する。
方舟を収めた工作艦から無数の作業用機械腕が伸びてくると、様々な作業に取り掛かった。分厚い装甲を剥がして開いたままの【不滅要塞】に送り込み、新品同様に造り直してから換装していく。
あの分厚い装甲こそが、本来の船でいうところの表面的なパーツである“外板”に当たるのだろう。剥がすと船の骨組みらしきものが覗ける。
新しい装甲を準備する間、装甲の下を補修するのも忘れない。
「装甲はアダマント鋼をベースに、オリハルコンやミスリルを混ぜた超合金使用。これで今までより強度を稼げるぜよ。装甲の下には防御力は当然のこと、融通性や耐燃性に衝撃吸収にまで優れた特殊ポリマーシートで加工しちょるから、守りに関しちゃ今まで以上の性能を約束するぜよ」
「感謝いたします──ダイン様」
外装の修理にはブリカとガンザブロンが同行していた。
戦士の娘たちも半分ほど付いてきている。
防衛隊長であるガンザブロンが外装を気にするのは当然だが、ブリカも戦闘指揮官であるため、方舟の修理をこの目で見届けたいそうだ。
この2人がセットだと、女将軍と護衛の重戦士にしか見えない。
彼らの要望を聞き取り、ダインは改装も視野に入れた修理を手掛けた。
「甲板の砲台は元踊りにはせず、わしがこさえた砲塔にしてもええかな? 威力や命中精度はモチロン、発射角度も前よりな広範囲にできるんじゃが」
「そんた願うたり叶うたりじゃ。是非とも搭載したもんせ」
ガンザブロンの要望を受け、ダインは自家製の砲塔を設置していく。
こういう時、現場の主任であるガンザブロンの意見は重宝する。
薩摩弁のガンザブロンと土佐弁のダイン。
(※ダインは正しくは土佐弁ではない。土佐弁っぽいだけ)
話し込む2人を見てフミカがクスッと微笑んだ。
「…………薩長同盟」
「……ぶッ! い、いや、違うだろ。ダインは土佐弁だし!」
フミカの不意打ちにツバサは吹き出しかけた。
幕末の薩長同盟が成立するために尽力したのは、確かに土佐藩出身の坂本龍馬だけれども。薩長同盟を調べると西郷隆盛と龍馬がよく並んでいるけども。
ここの薩長同盟は、方舟を軍艦にするべく盛り上がっていた。
方舟に据え置かれていた砲台よりも、ダイン製の砲塔は高威力なのにコンパクトなので今までよりも多く設置することができた。
甲板内への収納式に改造したので場所も取らない。
「あと、方舟の横腹から顔を出すようんなってた砲台も改良してええか? 実弾を撃つタイプやミサイルを射出するタイプはもっとパワーアップできるし、こん方舟の動力炉なら賄えるレーザー砲も詰めるんじゃが……」
──やり過ぎるとツバサに怒られる。
スプリガンたちにもドン引きされると賢い長男は学習したのだろう。恐る恐る、おねだりするみたいにスプリガンの顔色を窺っていた。
改良の申し出をブリカは微笑みで受け入れた。
「蕃神どもとの戦いで痛感したのは、何よりも彼我の戦力差でした。こちらは応戦もままならず、圧倒的な火力を前に防戦が手一杯……」
あのような屈辱は──二度と味わいたくありません。
ブリカはダグそっくりの瞳に闘志を滾らせる。
この姉弟、性格が似ているようだ。
ダグが「あなた方にすべてを捧げても構わない! だからオレたちに蕃神と戦う力をくれ!」と発言した際、反対しなかったのは共感ゆえだろう。
スプリガンの気質──これもありそうだ。
反骨精神が強いのか、負けっ放しでは終われない性質らしい。
ブリカの了承を得たダインは、次々と方舟の武装を追加していった。
「攻めも大事だが──守りの増備も忘れるなよ」
ツバサは口を挟むように忠告する。
そもそも方舟には、ツバサたちの探知能力を欺くほどの自己隠蔽機能が備わっていた。あれも改善すれば強力な武器になるはずだ。
「あんステルス技術はわしらも気付かんかったほどやき、改良すればもちっと便利になるがよ。そこらへんはフミやマリナ嬢ちゃんと相談して、魔術的な機構を組み込もうかと模索しちょうとこじゃ」
なら良し──ここは長男の判断に任せよう。
装甲や武装の改修は、ダインに音頭を取らせても大丈夫そうだ。
では内装工事の陣頭指揮を執っているジンの様子を見に行くか、とツバサは一声掛けて方舟の艦内に戻ろうとしたのだが……。
「ところで……こがい秘密兵器があるんじゃが……」
「ほぉ、波動砲ちゅうとな? こんた脅威的なもとじゃな」
「この威力は興味深いですが、艦首をここまで変型させると……」
トンデモ兵器の図面をスプリガンたちに披露するダイン。ガンザブロンもブリカも興味津々だが、艦の形を変えるような大胆な改造に二の足を踏んでいた。
すかさずツバサは踵を返す。
「ちょっと目を離したらこのバカ息子は!?」
「母ちゃんゴメン! ジョークじゃきジョークじゃきに!」
立ち去り際、ツバサはダインの脳天に踵落としを食らわせておいた。
~~~~~~~~~~~~~
ところ変わって──方舟内部。
こちらはジンが担当しているはずだ。
廊下や内装、スプリガンたちが艦内で過ごすための施設などはほぼ修理が終わっており、途中で立ち寄った艦橋も機能を取り戻していた。電気系統や通信網は完全に元通りらしい。相変わらず仕事が早い。
方舟の設計図があったおかげで、ジンの作業も捗ったのだろう。
眺めていると無計画に直しているようにも見えるが、そこはプロの工作者。外装を担当するダインと綿密に打ち合わせているらしい。
船体のバランス──竜骨という船の背骨に当たる部分を始め、船体骨格とも呼ぶべき全体のフレームごと改修しているそうだ。
ダインとフミカが予め調査したところによれば、動力炉は健在なので出力調整や整備を兼ねて、最終的な総チェックの際に補修を行うという。
「あのマスクした神様スゴーい!」
「アタシたちの部屋もチャチャッと直しちゃった!」
「これなら食道もアレもすぐ直してくれるよね!」
艦橋にいたスプリガンの幼女たちが嬉々とした話題で盛り上がっていた。
それによれば、ジンはみんな個室まで直したそうだ
各部屋も長きに渡る戦いでろくに整備されていなかったらしい。インフラ設備も大いに改善されたので大喜びである。
ダインもジンも、こういう仕事を任せたら天下一品だ。
凝り性と言えばそれまでだが、ダインもジンも揃って工作者としては完璧主義者なので妥協という二文字とは無縁だった。
決して手を抜かない──この一点では絶対の安心感がある。
ジンは食堂の修理に取り掛かったと聞いたので、そちらに足を運ぶ。
「おおっ、これは……ハハッ、また張り切ったな」
スプリガンたちの食堂を訪れたツバサは、ジンの徹底した改築振りを感心して変な笑い声を漏らしてしまった。
新築されたばかりの大学の学食──第一印象はそれだ。
金に糸目を付けず、時代の最先端を行く芸術的な建築家に設計デザインを頼んだようなハイセンスな造りの内装。天井も高めで開放感もある。
整然と並べられたテーブルや椅子まで新品。わざわざ作ったのだろう。
だが、そこに座る者たちはまだいない。
食堂の奥──ジンの姿が垣間見えた。
そこは厨房となっており、カウンターで仕切られている。そちらを見遣れば監督役のレオナルドや、珍しくツバサから離れていたミロもいた。
スプリガン側からは司令官のダグと補佐役のディア。
それに戦士の娘たちがカウンター越しにジンの作業を見守っていた。
ツバサが近付くと、真っ先に気付いたミロが振り向いた。手に持ったものを果実みたいに囓りながらこちらの胸に抱きついてくる。
「ツバサさん、コレ見てコレ! スプリガンのみんなのご飯だって!」
面白くてキレイで美味しいよ! ミロはそれを差し出してくる。
それは──立方体の水晶だった。
大きさは手のひらに収まらないが乗る程度の小箱。
ミロが味見で囓ったと思しき場所を除けば、正方形のキューブに見える。うっすら青みがかっていて透き通っており、それ自体が淡く発光していた。
現実世界の食べ物だと琥珀糖に似ているかも知れない。
(※琥珀糖=錦玉羹または金玉羹とも呼ばれる和菓子。材料は主に水、寒天、グラニュー糖、そこに食用色素を加えることでカラフルに仕上げる。その美しい見た目から「食べる宝石」なんてキャッチコピーがある)
ただし、その透明度は比較にならないほど済んでいる。噛み跡から察するに歯応えは林檎や梨といった果物くらいだろうと見て取れた。
「これは……高純度の“気”の結晶体か」
地母神であるツバサは一目で正体を見抜いた。
「気密体──オレたちはそう呼んでいます」
ツバサの来訪を知ったダグとディアが出迎えるようにやってきた。
敬礼してから、気密体に関する来歴を教えてくれる。
「オレたちスプリガンも他の種族同様、肉や野菜に穀物を食べることはできます。ただ……燃費が悪くて大量に消費する上、身体に不純物を溜めやすいんです」
「そこで私たちの先祖は自然界の“気”を集めて凝結させ、このような結晶にすることで糧としてきました」
ダグとディアの説明は簡潔でわかりやすかった。
「それが──この気密体か」
あれだ、トランス○ォーマーが似たようなものを食べていた。
記憶に間違いがなければ、エネルゴンキュ○ブとかいったはずだ。ダインが見たらまた騒ぐだろう。兎に角、それに酷似した物体だ。
ミロが「美味しい!」と言っていたが……?
ツバサはミロが囓ったキューブを受け取ると、躊躇うことなく同じ場所に齧りついて一口頬張ってみた。ある意味、毒味は済んでいる。
同じところを囓ったので、ミロがにやけた顔で冷やかしてきた。
「あ、間接キッスだ~♪」
「やかましい、今さら純情乙女ぶるんじゃない」
もっとスゴいことを毎晩ツバサにしてるだろ、と愚痴るつもりだったが自爆するので黙っておいた。頬張った気密体の咀嚼に専念する。
これは──美味い。
雑味のない純度100%の旨味で構成された物質。
食べると同時に“気”に分解されて体内に吸収されるので、胃腸に負担をかけることなく滋養となる。胃腸で消化吸収する行程がないから、毒素や排泄物が身体に溜まることもない。理想的な食糧といっても過言ではなかろう。
爽やかな甘味、果物みたいな味付けがされている。
製造過程で手を加えれば穀物、野菜、肉類、などの風味や味付けもできるのではなかろうか? 歯応えの感触から食材としても使えそうだ。
「君たちが神族に次ぐ力を発揮できるのは、これのおかげだったんだな」
あの『巨鎧甲殻』という能力も、この気密体というエネルギーの結晶体を常食にしている賜物だろう。でなければ維持できまい。
ダグは苦笑し、ディアは寂しげに微笑むばかりだった。
「…………満足に食べられれば、ですけどね」
ダグの辛そうな一言で理解する。
方舟は蕃神によって追い詰められていた。それは方舟の外も中もズタボロにするだけではなく、食糧事情においても困窮していらのだろう。
「材料はあっても──作れる機械が壊れてちゃね」
作業の手を休めることなく、ジンの甲高い声が飛んできた。
カウンターの奥、厨房に当たる部分には大きな窯にも似た機械がいくつも並んでいた。ジンはそのひとつ分解して、内部の機械を修理している。
「航行中に外気を取り込んで、そこから“気”を抽出して結晶化することで気密体を作る製造機は全部で12基。でも、稼働しているのはたった1基」
解説するジンの両手が止まることはない。
無数の工具を代わる代わる手にとっては、分解して修理を済ませた気密体を作る製造機を組み立て直していた。
「そりゃあ、みんなお腹がペコちゃんになっちゃうよね。アンダーセブンティーンにしか見えない子が多いのもそのせいじゃない?」
栄養失調だよ──きっと。
そういってジンは最後のパーツをはめ込むと製造機の蓋を閉じた。
「ほい、1基修理できたよーん♪」
お気楽なジンの報告に、ダグを初めとしたスプリガンは騒然となった。
「なっ……修理できたって、もう終わったんですか!? まだ小一時間も経っておりませよ!? そんな簡単にできるんですか!?」
仰天するダグに、ジンはあっけらかんと答える。
「この製造機の図面もあったけど、現役で使える機械があって助かったよ。現物を走査して調べれば、どこが故障しているか一発で判明するからね」
壊れてるのと比較するだけでOK! とジンは楽勝をアピールする。
「だからって……え、気密体がもう!?」
ダグが驚きのあまり問い質した途端、ジンの修理した製造機が動き出して黄や赤の気密体を作ったのだ。トレイに載って滑り出てくる。
「せっかくなので──生産効率も上げてみました♪」
事も無げに改良したことをジンは明かす。
「さあ、お嬢ちゃんたち! 遠慮はいらんからガンガン食べんさい!」
ジンが勧めると少女たちは殺到した。
よほどお腹が空いていたのか、やんちゃそうなスプリガン娘たちが歓声を上げて群がると、奪い合うように気密体を頬張った。
「んんーっ! これ野菜味のヤツだ! でも久々だから美味しいーッ!」
「ずーっと果物味ばっかりだったもんね! 野菜でも何でもいいや!」
「ダグ様ダグ様! ほら、これ完全に直ってるよ!」
「一番最初に壊れてビクともしなかったマシンなのに……ジン様スゲーッ!」
「マスクの神様ぱないね! 本当にわたしらの神じゃん!」
少女たちが久し振りに味わう気密体の異なる味に舌鼓を打ち、ダグやディアにも嬉しそうに気密体を運んでくる。
ダグは貰った気密体を囓ると、眼を固く閉じて涙ぐんだ。
「本当だ……久し振りの野菜の味だ……苦いのに、なんで、こんな……」
「うん、美味しいわね。ダグ……」
ディアも瞳を潤ませると、声を上げずに泣くダグの頭を撫でた。
美しい姉弟愛に見とれていると、再びジンが奇声を上げる。
「まだまだぁ! 俺ちゃんの本領発揮はこっからが本番!」
過大能力──【神の手を持つ工作者】。
道具箱を含む自分の周囲に材料が揃っており、ジンが作りたい対象の設計を把握していれば、製造工程や時間をスッ飛ばして現物を完成させる。
工作者の極めつけみたいな過大能力だ。
ジンは気密体の製造機を分解して、これを完全に直した。
それはつまり、製造機の構造を完全に把握しており、修理に必要な素材も道具箱に揃っているということだ。
それが意味する結果は──ひとつしかない。
「あっそれ♪ ほい、ほいのほほいのほ~いっと♪」
ジンは胸の前でパァン! と音を立てて合掌した後、壊れたまま放置されていた10基の気密体製造機をポンポンポンとタッチしていく。
ジンの手が触れた製造機は、瞬く間に新品の輝きを取り戻した。
物音ひとつしなかった製造機から駆動音が響き、次から次へと気密体をあふれさせる。果物や野菜だけではなく、肉や魚の匂いまで漂ってきた。
厨房のテーブルは、あっという間に気密体の山となる。
その光景を目の当たりにしたダグは、機械生命体だというのに涙と汗にまみれながらも、引きつった笑みで驚愕の眼差しを向けていた。
「あれだけオレたちを苦しめてきた、か細いまでに絞られてしまった生命線が……こんな簡単に復活するなんて……」
あなた方なら──オレを造ることができるかも知れない。
微かに漏れたダグの囁きは、切実すぎる悲願が込められていた。
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