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第20章 ハンティングエンジェル オンステージ!
第498話:アイドル交流会は高確率でグダる
しおりを挟むQ :久し振りに溺愛する娘と再会した漢はどうなりますか?
A :こうなります。
「――退けやぁ雑魚どもッ!」
バンダユウは極道時代全盛期みたいな鬼気迫る凶相で吠えたかと思えば、胸の前で両手を組み合わせて高速の印を結んで過大能力を発動させる。
過大能力──【詐欺師の騙りは世界に蔓延る】。
嘘を真に昇華させ、幻影を現実に成り上げる能力。
夢幻であろうと具現化させてしまう力。
思うがままに現実を改変できるチート・オブ・チートな過大能力と思われがちだが、実際には厳格なルールが定められている。
幻から現実化できるのはバンダユウが賄える事象のみ。
即ち、バンダユウの力を超えたことはできない。
とはいっても魔族としてLV999に到達しても修練を欠かさないバンダユウの力はもはや大魔王を超えたといっても過言ではなく、およそ大抵のことは実現できてしまう。幻術を起爆剤にして現実を書き替えることができるのだ。
「神も魔も殺す法剣の切れ味……篤と味わいやがれッ!」
金糸銀糸の褞袍をはためかせた老組長が吠える。
その叫びに呼応するかのように、空から無数の法剣が降り注いだ。
大きさや形はまちまちだが、それぞれに長い刀身か突き刺さるのに適した刃を持っており、柄の部分が密教の法具を思わせる形状をしていた。
(※独鈷杵や三鈷杵と呼ばれる古代インドの武具をモデルにしたもの)
豪速で落ちてくる法剣は深きものどもに突き刺さる。
鱗は元より硬い甲羅だろうが分厚い甲殻だろうが、熱したナイフでバターを切るようにサクサクと刺さった。それはもう根元まで深々とだ。
大半の深きものどもは、脳や心臓を貫かれて瀕死に追い込まれている。
それでも絶命には至らないようだった。
「まだだ! おまえさんら死ににくいって聞いてるからな!」
暗殺業を請け負ってきたバンダユウはトドメを刺すのも忘れない。どの法剣の柄にも筒状にした高性能爆薬をしっかり括り付けてあった。
ぱっと見ダイナマイトである。
すべての爆薬は蜘蛛の糸よりも細い導線で結ばれており、その先端は艦橋のどこかを抜けてバンダユウの手元にある。これに着火されれば勿論……。
「これが爆導索ってやつよ!」
単分子ワイヤーのような導線はあっという間に燃え尽きる。
法剣に括り付けられた爆薬に引火すると、深きものどもを内側から木っ端微塵にするかの如く大爆発を巻き起こした。爆発の連鎖が速過ぎるあまり南海一面が火の海に包まれたような有り様だ。
それだけの法剣をバンダユウがばら撒いた証左でもある。
爆発は刺さった深きものを爆殺、その周囲も容赦なく巻き込んでいく。
概算だがざっと数千万の深きものどもを消し飛ばしただろう。
──ひゅぅるぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁ……ッ!!
次いで物悲しさを帯びた獣王の咆哮が轟いた。
アハウが過大能力を発動させるために遠吠えを走らせたのだ。
能力を行使するためが人型に近い獣人形態から、身の丈5mはありそうな魔獣のような姿へと膨張する。天井に頭が使えて衣服が破けそうだ。
あの衣装は変身に合わせて伸縮するはずだが。
過大能力──【牙を剥きて囓りつく虚無】。
万象に齧り付いて虚無に送る顎を召喚する能力。
剣山のように牙を尖らせた顎は鬣に覆われており、顎しか持たない怪物のような姿で現れる。この牙に噛みつかれたものは虚無へと消えていく。
本当の意味で虚無となって消え去るわけではない。
虚無と見紛うほど雲散霧消するが、純粋な“気”に還しているのだ。
艦橋で吠え立てるアハウ。
召喚された虚無の顎は外を飛び交い、深きものどもに齧り付いていた。
いや――あれは飲み干している。
どれほど力を割いたのか知らないが、アハウが喚び出した虚無の顎はひとつやふたつではない。軽く見積もっても百は超えているだろう。
顎ひとつの大きさは優に100mを超えていた。
この場で最大級の200m級深きものどもですら、噛みつかれたら一溜まりもない大きさだった。実際、二体の巨大な半魚人は真っ先に狙われていた。他の深きものどもなど、小魚の群れを一呑みするか食べ頃サイズの大きさだった。
虚無の顎が閉じる度――半魚人が消えていく。
一塊になった魚群を食い散らす鯱の群れを思わせる光景だ。虚無の顎が一噛みするだけで数百単位で深きものどもが虚無に還っていた。
バンダユウもアハウも最初からフルスロットル状態だった。
さすがにギアをトップにまでは引き上げてはないが、ほとんどそれに近い。全開ではないにしろ全力を出しているに等しい。
テンション爆上がりで馬力が強化されているようなものだ。
彼女たちとの再会が余程嬉しかったのだろう。
『ひゅーッ♪ アステカ兄やんやるぅ! さすがお父ちゃんに認められた男!』
『おじいちゃんスッゲー! それも手品なん? 後で教えてよ!』
兄貴分と祖父の活躍にドラコとマルカも黄色い声援を送る。
アハウとバンダユウは敢えて返事はせず、漢気あふれる満面の笑みでサムズアップで返していた。いいところを見せられて歓喜しているようだ。
漢とは得てして見栄っ張りなもの。同性のツバサはよくわかる。
四人の関係性をツバサとミロに置き換えれば、久し振りにミロに会えたツバサは今のバンダユウやアハウのように張り切りまくるだろう。
実際――その戦果は計り知れない。
艦橋にいながら最大出力の攻撃で深きものどもの大群を圧倒していた。瞬きする間に万単位の半魚人が削れていく。
おかげで一時的ながら深きものどもが周囲から消えた。
海は荒れているが怪しい影は見えないくらいだ。
このタイミングを逃す手はない――ツバサはすぐに差配する。
「フミカ、外にいるみんなへ通達!」
「巻き込まれる前に帰ってこい! ッスね、了解ッス!」
お母さんの指示を先読みしたフミカは、既に六人の若武者と青年コンビを呼び戻していた。この次女は出来る子だから本当に助かる。
八人が艦へ戻ったのを確認したツバサは艦長席へ急ぐ。
爆乳や巨尻が弾むのも構わず、ロングジャケットをはためかせてだ。
飛び乗るように艦長席に腰を落として長男にも呼ばわる。
「ダイン、主砲発射準備!」
「アイアイマム! とっくにやっちょるわ!」
誰がマムだ! と定番の返事をしつつ、ツバサも準備を整えた。主砲を最大効率で放つならば飛行母艦の動力炉にいくらエネルギーがあってもいい。
艦橋にある艦長席は単なるツバサの特等席ではない。
ツバサ第一の過大能力―─【偉大なる大自然の太母】。
森羅万象のエネルギーを生み出す自然界の根源となる能力。“気”の無限増殖炉となることで、飛行母艦の動力炉に自身の余剰エネルギーを回すための充填装置でもあるのだ。その供給量はツバサの一存で増減できる。
だから、ありったけを注いでやった。
それはもう惜しみなく持てる限りの力を傾けていく。
「エネルギ充填率120……1200%ぉッ!? 1300、1400、1500、1600……ダイちゃん! 計器がブッ壊れたッス!?」
動力炉の稼働率をメーターで確認していたフミカが驚愕する。
嫁に泣きつかれた長男は呆れ顔で半笑いだった。
「ああ、うん……そういう仕様になったんじゃ。それで正常ぜよ」
「当社比で2000%ぶっちぎりそうなんスけど!?」
「言ったじゃろ、母ちゃんがパワーアップし過ぎたから旧ハトホルフリートじゃあエネルギーを扱いきれんようなったと……それで御覧の有り様じゃあ」
「何してくれてんスかバサママ!?」
キレ気味のフミカに怒鳴られてしまった。
「俺が怒られるのか!? 強くなるのはいいだろ別に!」
ツバサは強さの位階と状態確認の枠から解放されたため、LV999に囚われない領域に達した。おかげで更なる強さの高みへと昇っている最中だ。
しかし、強くなりすぎたゆえに弊害もある。
ツバサの無限増殖炉となる過大能力のエネルギーを動力炉にしていた飛行母艦ハトホルフリート(旧型)が、LV999を超えたツバサの力を受け止めきれなくなり、過剰運転によって自壊寸前にまで追い込んでしまったのだ。
そこでオーバホールを兼ねた大規模改修が行われた。
ダイン曰く「新造艦を作るのと変わらん」くらい改修したらしい。
……本気でゴメン、とツバサは反省するしかなかった。
「そん結果、今までとは比較にならん段違いのエネルギーを使えるようになったちゅうわけぜよ。だから測定メーターの桁数が増えてるのは正常じゃ」
「あ、そういう理屈ならOKッス」
「物わかり早いな!?」
ダインの説明にサムズアップで返すフミカ。
どうやらツバサがLV999の上限解除後、初めて本気でエネルギー供給を行ったため、表示された桁外れの数値に少々パニクったらしい。
ツバサのパワーアップに飛行母艦も比例する。
そう理解したフミカの適応は早い。動力炉からのエネルギー分配システム自体に大きな変更はないからだろう。数値が異常だったので慌てたわけだ。
「もー、バサママったらマジで天元突破なんスから~」
「それ褒めてるの? 呆れてるの?」
ジト眼なフミカのニヤニヤ笑いはどちらとも受け取れた。
変な一悶着はあったものの、ツバサは主砲をどれだけ長時間撃ってもガス欠しないほど動力炉をフルチャージどころかオーバーチャージにまで高め、フミカは艦体がオーバヒートしないように全システムの調整に追われていた。
そしてダインは操舵輪を激しく回す。
海を行く船と異なり、この艦は空を征く戦艦だ。
操舵輪を左右に回して面舵取舵を決めるばかりではなく、舵輪を上下に動かすことで船首を天地へと向ける機能が備わっていた。
「主砲、発射角調整! 目標へ掠めるのが条件!」
ダインの言葉にフミカはタッチタイピングの手を休めずに応ずる。
「算出中ッス! ショウイさん数字出せるッスか!?」
「了解です! 艦の現在高度と、深きものの海底基地がある方角と深度から割り出して……方角は西へ18.5度! 角度は下へ5.102度!」
仕事が早いッス! と感謝するフミカはショウイから送られたデータを誤差修正して艦体制御システムに流せば、即座にダインが操舵輪を回した。
「よっしゃあ! こんなもんがか!?」
飛行母艦の船首がほんの少しだけ左斜めへ下がる。
角度は下に傾いたものの精々5度前後。
それでも深海に潜んでいる深きものどもの海底基地を狙うには、この程度の調整でいいはずだ。数学が得意ではないツバサだが概算はできる。
――高度800mに浮かぶ飛行母艦。
50㎞先――深さ3700m前後の深海に作られた海底基地。
数学は得意ではないツバサだが、三角関数とかサインコサインタンジェントで習ったはずだ。50㎞先の約4500mの高低差がある海底基地スレスレに砲撃するならば傾斜は5度くらいで間違っていない……と思う。
計算合ってる? と聞ける雰囲気ではないので任せることにした。
長男夫婦なら完璧にこなしてくれると信じて――。
従来のミサイルや砲弾ならば発射角を試算したり、射角や楕円を描く弾道の距離を計算したり、長距離ならばコリオリ力などを考慮しなければならないが、ハトホルフリートの主砲は莫大なエネルギーを集束させた波動砲みたいなもの。
撃てばまっすぐ直進する分だけ計算は省かれる。
ダインの火器管制コントロール、フミカの艦体制御コンソール。
状況をモニタリングする映像スクリーンがいくつも小窓で開いているが、そのすべてがグリーンに点灯して「OK!」のゴーサインを出していた。
それを確認したミロとマリナが騒ぎ出す。
「殺戮の女神警報発令ーッ! 殺戮の女神警報発令ーッ!」
「付近の皆さんは直ちに避難してくださーい!」
安全第一と書かれた黄色いヘルメットを被り、ライオットシールドで防備を固めたミロとマリナはメインスクリーン越しに呼び掛けていた。
「……そこまで騒がないでも良くないか?」
そもそも殺戮の女神になってないし、とツバサはツッコんだ。
実は飛行母艦の主砲にはいくつか種類がある。
ツバサが戦闘特化形態の殺戮の女神に変身し、そのフルパワーを発揮することで何もかも滅ぼす“獅子女王の絶叫”が破壊力ナンバーワンだ。
今回の砲撃はあくまでも脅し。ただし、深きものどもは薙ぎ払う。
威力高めの主砲ではあるが最大出力には程遠い。
彼女たちの慌て振りにハンティングエンジェルスの面々も狼狽える。
『え、なになに? ツバサさんがまたどえらいことすんの?』
『VRMMORPGの頃にも動画映えするようなことやってたもんね。人間の雨が降ったりとか、種族が人間のまま神族と渡り合ったりとか……』
ドラコとレミィは期待を込めて振り向いた。
『艦長席に座ってるだけ……じゃないじゃんこれ!? なにその宇宙だって焼き尽くしそうな闘気!? 1人だけZ戦士の世界線じゃない!?』
『ナナのレーダーにも高エネルギー反応確認! たいひ退避タイヒー!』
マルカとナナは感知や探知に優れているのか、ツバサが途轍もないエネルギーを練っていることにいち早く勘付いた。
――飛行母艦がとんでもない砲撃を繰り出す。
それを察知したハンティングエンジェルスの旗艦シャイニングブルーバード号は、攻撃の手を緩めないまま海域を離れずに急上昇を始めた。
主砲が海底へ向いてるのを察してくれたらしい。
これで心置きなく全力をぶっ放せる。
ダインは火器管制の制御盤にあるカバーがされたボタンの上に拳を置き、フミカも対ショック防御のシステムを艦内に走らせていた。
「目標、深きもの海底基地! ただし直撃させず上方を通り過ぎるのみ!」
「エネルギー充填率2900%オーバー! 主砲発射準備完了ッス!」
ツバサは頷いてから合図を発する。
「よし、俺がいいというまで砲撃を止めるなよ……撃ぇい!」
飛行母艦ハトホルフリートの形状は双胴型飛行船。
二つの気嚢(細長い気球の部分)に艦橋を乗せた艦体がぶら下がる形をしているのだが、その気嚢二つの先端に“気”を凝縮した力が膨れ上がった。
そして、ツバサをモデルにした超爆乳の女神像を飾る船首。
同じように球状の“気”を凝らしていた。
この三点が光を発して線を結び、横幅のある逆二等辺三角形を描いた瞬間。その中心から真紅に染まった破壊的エネルギーが濁流のように迸る。
海ごと焼き払うような爆発力を帯びた砲撃。
海中を貫くどころか海底まで届く熱線は、そこにいる深きものどもを跡形もなく消滅させていく。余波で起こる水蒸気爆発は海底火山の如しだ。
モニター越しのドラコは固唾を飲んでいた。
『嘘だろおい……あたしのバーニングストロガノフより強いかも……ッ!』
『だからドラコン、それ絶対違うから!?』
レミィにツッコまれても唖然とするばかりだ。
主砲の動向はショウイの過大能力でリアルタイムに確認できている。
砲撃の先端が――深きものどもの海底基地に達した。
しかし直撃することはなく、海溝に偽装した隆起部分をわずかに削る程度の接触に留めていた。付近にいる深きものどもを大いに動揺させている。
「まだだ! 主砲の放出を続ける!」
旋回して蹴散らせ! とツバサが号令を出せば長男は「あらよっと!」と豪快に操舵輪をガラガラと回転させた。これに合わせて飛行母艦も時計回りで艦を一回転させれば、エネルギー波を放ったままの主砲がすべてを薙ぎ払う。
周辺に群がる深きものどもを蹴散らすように一掃していく。
ただでさえ獣王神と老組長の猛攻で目減りしていた半魚人。
360度への主砲発射は大打撃となったはずだ。全滅させるのは無理かも知れないが、少なくとも数十億の深きものどもを消し飛ばしたに違いない。
一回転した飛行母艦は主砲を停止させた。
深きものとともに蒸発した海水が気化して靄となる。
南海は濃い霧に包まれたものの、荒らされた大気が強風を招くのであっという間に霧を払う。視界は見る見るうちに晴れ渡っていく。
そこに――深きものどもの姿はない。
辛うじて海の底へ逃げていく後ろ姿を見送ることができた。
「退いてくれたか……」
ホッとしたツバサは重すぎる胸を撫で下ろした。
ダインやフミカにショウイも、長いため息をついて制御盤に突っ伏す。霧が晴れるまでの数秒間、深きものどもの出方に緊張を強いられていた。
主砲が本拠地に迫ったら彼らがどう出るか?
狙ったのか偶然なのかわからない以上、二者択一を迫られるはずだ。
偶然と信じて基地に戻って籠城を決め込むか――。
位置がバレたと思って全力で打って出るか――。
どうやら前者を選んでくれたらしい。これで一息付ける。
「やはりか……一応、あの海底基地が悟られないように四方八方へルート変更しながら撤退していますね。こちらへ攻め掛かってくる際の海中を移動する動線もわかりにくくしていましたが……」
ショウイの調査員が彼らの逃走ルートを割り出していた。
安堵のあまり艦長席からずり落ちかけたツバサだが、巨尻を弾ませてしっかり座り直してから受け答える。
「攻めるにしろ逃げるにしろ、自分たちの居場所を特定されないように動いているのは明白……つまり、あの海底基地の場所は知られたくない」
「ええ、彼らの行動がそれを裏付けています」
ショウイは調査員からのデータを精査しながら首肯してくれた。
まさか優秀な偵察班に調べられているとは思うまい。
引き続きショウイには南方大陸の先行調査や南海周辺の探索とともに、深きものどもの基地への潜入と彼らの動向を監視してもらう。半魚人どもがリターンマッチを仕掛けてこないとも限らないから念のためでもあった。
ひとまず――危機は脱したと見ていいだろう。
すぐに南方大陸へ歩を進める気にもなれず、かと言ってこの場に留まるのも不安なので、飛行母艦には上昇するよう指示を出しておいた。
深きものどもでは手が届かない高高度の空。
ショゴスの生体レーザー砲でも届かないくらいの成層圏までだ。
するとフミカがある懸念を訴えてくる。
「飛行タイプのショゴスとか出てきたらどうすんスか?」
飛行翼を生やしたり生体ジェット噴射で空を飛ぶ不定形生物。
ショゴスならやりかねんな、と心の中で毒突いてしまう。
「有り得ない話じゃないから否定はできないが、その時は仕方ない。もう一戦交える覚悟で迎え撃つまでさ。しかし、その線はかなり薄そうだぞ?」
憶測だが――ショゴスは絶対数が少ない。
ショウイによる海底基地の内部調査でも垣間見たが、せっせと培養して数を増やしている途上にあるように思えた。
多少の確証ならば先の戦闘でも得られている。
生態レーザー光線や生物型ミサイルを際限なく吐き出していた筋肉製の砲塔がショゴスだとして、その総数はざっと500を下らない程度だった。
逆に言えば500しか用意できなかったのだ。
出し惜しみした可能性もあるし、切り札を温存している恐れも拭えないが、あの状況下でも出撃させられるのは500がいいところに違いない。
「深きものどもにしても虎の子なんだろうな」
「最新鋭の戦車やヘリを出し惜しみすんのは軍部の常ぜよ」
そういうこと、とツバサは長男のアドバイスを拾う。
「勝利を確信したイケイケムードでもない限り、虎の子の秘密兵器を大量投入はしないはずだ。今の戦いでもショゴスの損耗率はバカにならない……」
なあ? とツバサは感謝の笑みで振り返った。
「イエース☆ 筋肉マンな砲塔を念入りにブッ壊してきましたー☆」
「ツバサ先輩のご指示通りです……只今戻りました」
ちょうど艦橋に戻ってきたエンオウやイケヤと目が合う。イケヤは両手のダブルピースで活躍を誇り、エンオウは静かに会釈するに留めていた。
その後ろには六人の若武者も続いていた。
呼吸を乱したまま口々に「疲れたー!」とか「生臭いー!」とか「しばらく海鮮はムリー!」とか泣き言めいたことを喚いており、何人かは艦橋の床に倒れ込んだし尻餅をついたりと、ヘトヘトに疲れ切っている様子だった。
雑魚とはいえ蕃神の眷族。おまけにLVも高い。
そんな深きものどもの1兆匹を越える大軍勢。しかも増援がいつ果てるかもわからないほど止まらず、終わりが見えない勢いで押し寄せてきたのだ。
鍛えたLV999でも辛かっただろう。
頑張った少年少女をオカン目線で見守る。
後ほど労ってやらなければ……とツバサの内なる母性本能が騒いだ。疲労回復に効果がある暖かな食事のレパートリーは構築済みだ。
疲れた様子を見せず息も切れていないのは戦女神のみ。
さすが愛弟子! と褒めたくなってしまう。
床にへたり込む仲間へ同情の苦笑を向けていたミサキは、メインスクリーンに映る見慣れない美少女たちに気付いたらしい。
「あれ、あなたたちは……どこかで見覚えがあるような?」
現役高校生のミサキならハンティングエンジェルスを知っていておかしくないが、スッと出てこないところから熱烈なファンではないようだ。
その割に眼を剥いて動揺を抑え込んでいるように見えるが……?
一方、VRアイドルたちは好反応を示した。
『ああああああーッ! そこにいんのミサキくんじゃーん!』
頭と両肩にイグアナを乗せたナナが、画面越しにミサキを見付けるや否や人差し指を突きつけてくると、スクリーンにおもいっきり顔を寄せてきた。
獣王神や老組長に続く身内案件か?
ならば喜ばしいことだが、何故か身構えてしまう一同。
しかし、アイドルに名指しで呼ばれたミサキはギョッとしていた。親指、人差し指、小指を立てた変なポーズで退き気味になるくらいだ。
「えっと……どこかでお会いしましたっけ?」
『会ったことないけどナナは知ってるよー♡ ツバサさんの生徒で変態ジンちゃんのマブダチでしょ? 君たちもツバサさんと一緒にいたんだー♪』
そうか――VRMMORPG配信動画だ。
ツバサとミロの配信動画には横綱ドンカイのようにゲスト出演してくれた仲間が何人かいる。ミサキやジンにハルカも何度か登場していた。
ナナはミサキの登場回を視聴してくれたらしい。
ミサキが合気におけるツバサの弟子だと言及しているから、VRMMORPGで再会してからしばらく一緒に行動していたのを視ていたようだ。
『え? ミサキ君がいるなら……ジンちゃんもいるんじゃないの!?』
これにマルカまで食い付いてきた。
スクリーンの半分をナナと分けるようにドアップで迫ってくる。
『アタシ、ジンちゃんのウケてもウケなくてもいいから全力投球するギャグ大好きなんだけど! いるなら出番あげてお願い! てか会わせて話させて!』
工作の変態に意外なファンがついていた。
当人がこの場にいたら涙が噴水になるくらい嬉し泣きをして、本当に五体がぶっ壊れるまで渾身のギャグを披露したに違いない。
「あはは……今日アイツは留守番です。そのうち喚びますから」
ミサキは愛想笑いで迫るマルカを宥めた。
ミロやマリナもハンティングエンジェルスと絡みたいようだし、アハウにバンダユウも恩師の娘や孫娘の顔を間近で見たいと顔に書いてある。
青年組や長男夫婦はそれほどリアクションがない。
だが、ミサキを含む六人の若者たちはさすがに知識があるのか「あ……」と小さく声を上げては、VRアイドル四人組に反応していた。
戦闘も一段落付いたし、そろそろ頃合いだろう。
「これ以上、スクリーン越しにやり取りするのも味気ないな」
ツバサは思い切って提案してみる。
「どうだろう、ハンティング……いや、アニマルエンジェルスの皆さんを飛行母艦にお招きしたいんだが、お誘いに応じてくれるかな?」
『ツバサさん……私たちの名前ちゃんと覚えてくれてたんですね!?』
妙なところでレミィに感激されてしまった。
ハンティングエンジェルスはあだ名みたいなもので、正式名称はアニマルエンジェルスのようだ。礼を欠かないで良かった。
そだね、とドラコは握っていたマイクを道具箱に放り込む。
男勝りな笑みに愛嬌を添えて賛意を示す。
『積もる話は後回しって約束だったし、ウチのアステカ兄やんやマルカのお祖父ちゃんもお世話になってるみたいだから……お邪魔しちゃっていいすか?』
「勿論さ、歓迎させてもらうよ」
両手を広げたツバサは迎え入れる笑顔で答えた。
まずは互いの艦を成層圏まで上昇させる。
また深きものどもやショゴスの生体砲撃で邪魔されないよう対策をしてから、ハンティングエンジェルスを飛行母艦へ招待させてもらった。
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「どうもどうも、ハンティングエンジェルスでーす♪」
「「「いいかげんいしろよドラコン!?」」」
――わたしたちはアニマルエンジェルスでしょうが!
笑顔で手を振って名乗るドラコに対して、レミィたちが総出でツッコんだ。ナナやマルカは笑っているのでドラコなりのボケだろう。
レミィだけ本気のツッコミだ。ツバサは共感を覚えてしまう。
――自分たちの正式名称を間違える。
ミロたちに聞いた話では、ハンティングエンジェルスの名前が流行りだした頃からのドラコの鉄板ネタらしい。
戦闘が巧みな彼女には“ハンティング”の方がお似合いかも知れない。
アニマルエンジェルスの四人組が艦橋に降り立つ。
それだけで熱狂的なファンであるミロを筆頭に、彼女たちをよく知る少年少女は興奮に沸いているが、初対面なので礼儀を弁えさせておいた。
具体的には――大人たちが押さえ込んでいた。
アハウ、バンダユウ、イケヤ、エンオウの自制ができる大人たちに頼んで挨拶が終わるまで大人しくしているよう物理的に制してもらっていた。
四人とも黒服にサングラスを決めている。
要人警護のつもりなのか? いつの間に着替えたんだろう。
(※バンダユウの過大能力による幻術)
四人とも両腕を左右に広げて自身を柵の一部にすると、子供たちが飛び出さないように牽制してくれていた。
「レミィちゃぁぁーん! サインちょうだいサーイーン! ドラコンもマルカもナナちも……ああもう全員からサインもらって握手して一緒に写真ーッ!」
「ワ、ワタシもナナちさんのサインほしいです!」
「お、奇遇だなマリちゃん。オレっちもナナさんのサイン欲しくてな」
「僕もレミィちゃんのサインと……できれば握手を」
グッチマンたちのみならず――ハンティングエンジェルスの大ファン。
憧れのアイドルズを前にしたミロが爆発寸前なのはわかりきっていたが、聞き分けのいいマリナまでソワソワしているのは意外だった。中学生だったカズトラやヨイチもそれぞれの推しがいるらしく落ち着きがない。
女子高生コンビも浮き足立っていた。
「レンちゃんはいいの? オーライブのアイドルだよ?」
ハンティングエンジェルスを指差すアンズにレンはそっぽを向いた。
「わ、私はもう大人だからね。ミロちゃんや年下の子たちみたいにアイドルが目の前にいたからってはしゃいだりは……」
「またまたー♪ ホントはオーライブ箱推ししてるくせ……にがっ!?」
「アンズしゃらああああああっぷ!」
顔を真っ赤にしたレンは掌底でアンズを黙らせた。
アンズとレンは身長差のある凸凹コンビなので、小さなレンが対空技でアッパーカットのような動作になっている。
いいフォームだ。彼女、徒手空拳もイケるかも知れない。
それにしてもレンちゃん……君の意外な一面を知ることができたよ。
ミサキまで色紙を12枚も用意している。
興味なさげに振る舞っていたがミサキも元男子高校生だ。VRアイドルのひとつやふたつは嗜んでいたらしい。ツバサは温かく見守ってやった。
こちらの視線に気付いたミサキは立てた手を振る。
「あ、オレは違いますよ? ジンやハルカが彼女たちのファンなんです」
「なんだ、最初のリアクション通りか」
ハンティングエンジェルスと出会えたことを何気なく友人たちに報告したら、矢のような催促で「サインもらってきて!」と頼まれたそうだ。
ジンとハルカに4人分で色紙は8枚。
……残り4枚は誰の分だ?
そういえばミサキくん、弁明した時に目が泳いでいたような……?
長男夫婦ことダインとフミカもノーリアクション。
乳房の下で支えるように腕を組んだツバサが艦橋の操船コーナーへ振り返ると、視線に気付いた二人は手をヒラヒラさせた。
「そりゃあ見聞きはしとるが……そこまで詳しいわけじゃないしのぅ」
「ウチも知識としては知ってますけどのめり込むほどでは……」
物作りに情熱を燃やす男と博物学に心血を注ぐ女。
熱を上げるほどのファンではないようだ。
唯一、ショウイだけがアイドルたちに熱い眼差しを送っていた。眼鏡の弦を持ち上げて位置調整をしながら「フハッ!」と鼻息が荒い。
「アイドル関連の情報収集もしていましたからね、まさか当人たちとご対面できる日が来るとは……あとでじっくりお話をお伺いしたいです!」
「それもうインタビューですよね?」
子供たちのようにがっつくわけではない。あくまで記者目線で色々と情報を仕入れたいようだ。情報屋の称号が似合う男である。
本物のVRアイドルの降臨により、艦橋が騒々しくなってきた。
だからこそアダルト組に抑制を任せたのだ。
今にもサインや握手を強請るため飛び出しそうなミロたちを両手で押さえ込み、「下がって下がって―」と列整理みたいなことをしていた。
しばらく持ち堪えてもらう間に、まずは五神同盟を代表してツバサが挨拶をさせてもらう。子供たちによるアイドル交流会はその後だ。
改めて――四人のVRアイドルと対面する。
現実世界での容貌を参考にVRアバターを作成していたので、VRMMORPGを介しての異世界転移をしても外見はほとんど同じだった。
最初に挨拶をしたいであろうアイドルがツバサの前に立った。
赤龍王の娘――ドラコ・サカガミオウ。
燃える赤髪を振りかざした勝ち気な美少女である。
ボリューム感あふれる赤髪は大雑把なポニーテールに結われており、ドラゴンのように金色に輝く瞳と牙のような八重歯がチャームポイントだ。
四人の中では一番背が高く170㎝は越えている。
メリハリの付いた程良いナイスバディには、タイトな黒のタンクトップと同色のショートパンツみたいなミニスカをまとわせている。太ももを魅せる黒のハイソックスに重装備のゴテゴテしたブーツを履いていた。
その上からシックなデザインの黒い軍用ジャケットを羽織っている。
「もう散々スクリーン越しで話したけどはじめましてー。オーライブ25期生のドラコ・サカガミオウです。よろしくツバサさん」
「こちらこそはじめまして」
握手を交わしたドラコはニヤリと微笑んだ顔を近付けてくる。
「ところでツバサさん……元男ってマジ?」
バプンッ!? とツバサは変な音を立てて吹き出してしまった。驚かされた感は否めないが、ツバサはバレた理由をすぐ思い返した。
「……ミロが編集に失敗した動画まで見ていてくれたのか?」
イエース♪ とドラコはしたり顔で肯定した。
アホの子はポンコツだからヘマをする。
VRMMORPGはアバターの外見を変更する難易度が厳しい。
現実の自分に基づいたアバターを全自動で提供され、見た目を変えるには大量の魂の経験値が必要だった。性転換など有り金を使い果たすレベルである。
しかし、ツバサは内在異性具現化者だ。
アバター作成と同時に性が裏返り、男性から女性へと変更させられた。
何事においても綺麗所を表に出せば評判がいい。
ミロはこれを利用して「ツバサさんは最初から女の子!」という態で動画配信をしており、ツバサの「俺は男だ!」的な発言は編集でカットしていた。
しかし、アホの子だからよく取りこぼしたらしい。
うっかりツバサが男であることを明かす動画を上げてしまい、慌てて再編集するのだが、これが間に合わず世間に広まっていたようだ。
おかげでツバサがオカン系男子だとバレた。
配信動画のタグやコメント欄にも“オカン系男子”が標準搭載され、“おっぱいの付いたイケメン”と呼ばれていたらしい。“こんなかわいいオカンが女の子のわけがない”とか“オカンとは性別を超えた在り方”とか……。
半年を過ぎた頃には完全にバレていたようだ。
事実、ツバサとミロの動画のファンだった三女プトラ、六女イヒコ、次男ヴァトもツバサが元男性だったと知っていた。
知らぬは当人ばかりなり、ツバサが知ったのは真なる世界への転移後だ。
(※第231話参照)
「あのアホ、編集忘れはすぐに直してたけれど……」
「その再編集が間に合わないくらい、あたしらはツバサさんやミロちゃんの動画を熱心に見てたってわけ。なんせあの頃は攻略情報に餓えてたからね」
グッチマンと似たような弁論である。
ツバサたちもVRMMORPGを始めた頃は情報に餓えていたので掲示板や攻略サイトは勿論、同じように攻略動画を上げている配信者を調べたりもした。
ハンティングエンジェルスもそこは変わらないらしい。
また内在異性具現化者についての情報も早めに得ていたそうだ。
「異世界に飛ばされる一週間前くらいかな? ウチらのアシストしてくれてるマネちゃんがどこからともなく仕入れてきてね。『あ、ツバサさんが女体化してた理由これだ!』って合点が入ったわけ」
「あ、俺も転移の二週間くらい前には仕入れてました」
茶々のつもりではないが、ショウイも合いの手を入れてきた。
「マジで!? タイミング悪かったなぁ……」
後悔先に立たず、あの頃ショウイと会わずにいたことをツバサは少し悔やんだ。もしかすると男に戻れるチャンスだったかも知れないのに……。
「ま、男だ女だって細かいこと気にすんなよ」
ドラコは両手でツバサの手を包み、元気を贈るように上下に振った。
「あたしらはツバサさんがみんなのオカンだって知ってるからさ」
「それ、あんまフォローになってない……」
会ったばかりの女の子に「誰がオカンだ!」の決め台詞も言いにくい。怒鳴るのを控えて引き攣った笑顔で堪えるしかなかった。
すべてを豪快に笑い飛ばし、この出会いを素直に喜ぶドラコ。
豪放磊落で姉御肌な頼もしい女の子……というより女傑のようだ。
ドラコはミロたちを眺めると、幾分声のトーンを落とした。
「詳しい話をすると長くなることは避けられないし、この場の興を削いじゃいそうだから後回しにさせてもらうけど……」
南海まで来てくれてありがとう――正直助かったよ。
飾らない言葉だからこそ胸に響くものがある。
これがドラコの本心だと受け取れた。
「あのMVを見た人が誰であれ、南海まで足を運んでくれればいいと見得を切ったけど……やっぱり頼り甲斐のある人たちが来てくれるのは嬉しいよ」
「抱えている問題はあの深きものどもだね?」
ツバサが確信に触れてみると、ドラコは顎先をわずかに前へと倒した。忌々しげに唇を牙で噛む仕種をツバサは見逃さない。
「そう……あの半魚人どもだよ」
奴らは南海を拠点にして真なる世界を食い破ろうとしている。
ドラコたちはそれを目の当たりしてきたという。
「その威勢の良さは見ての通りさ……あたしらも結構倒してきたつもりだけど、数は減らないし諦める様子もない。日に日に勢いを増している」
何とかしたい――これがハンティングエンジェルスの願いらしい。
「……世話になってる人たちを助けてやりたくてね」
「この近くにいくつか島があるようだが……もしかして住人が?」
彼女たちの乗り込む鳥型戦艦も一朝一夕で用意できるものではない。建造に必要な資材を集めてきた土地が近くにあるはずだ。
そこに暮らす現地種族と縁を結んでいてもおかしくはない。
「……うん、そういった諸々の話もあるから、協力してくれそうなツバサさんたちが来てくれたのは大助かりの大当たりだよ」
本当にありがとう、と重ねるようにドラコは真摯な礼を述べてきた。
この娘――思ったより思慮深い。
アバウトで細かいことを気にしない性分。
女の子としては大らかすぎると心配になるドラコだが、他者への思いやりや配慮を忘れず、置かれた状況を冷静に把握できる器量があった。
MVのばら撒きも賭けに近かったのだろう。
敵を誘き寄せたとしても思い通りに誘導できるとは限らず、深きものどもと潰し合わせる作戦が成功するとも限らないからだ。
(※破壊神ロンドのように「みんな平等に殺すよ♡」なんて無差別を極めた大バカ野郎を釣りかねない。そうなったら何もかも終わりだった)
最悪――より強力な蕃神やその眷族も呼び寄せかねない。
それを承知しながらも一縷の望みを賭して、味方となる誰かが来てくれることを願いながら、あのMVに想いを託したに違いない。
彼女たちはこの賭けに勝ったのだから結果オーライだ。
しかし、大した度胸である。これはボスを任せられる器だろう。
ハンティングエンジェルスはまとめ役こそレミィが務めているが、仲間を支える芯となっているのはドラコのようだ。
実質的に彼女がリーダーと見做していいだろう。
レミィも「ドラコの方がいい」と漏らしていたので間違いない。
「……というわけで、後で協力とか手助けのことで真面目に相談したいんだけど、今のところは挨拶を済ませるのが先決ってことで」
今後ともよろしく、とドラコは意味深長にウィンクを添えた。
「ああ……こちらこそ」
力強く頷いたツバサは満足だった。挨拶がてらの短い時間だが、建設的な意見を交わせたからだ。彼女とのなら良好な関係を築ける予感もあった。
ツバサとの挨拶を済ませたドラコは仲間に順番を譲る。
氷狼王の末裔――レミィ・アイスフィールド。
氷のように蒼い髪を流した、清楚で大人しそうな美少女だ。
透き通る蒼髪は緩やかなウェーブを備えており、腰を超える長さまで広がるように伸ばしている。その髪を掻き分けてそそり立つ狼の耳。種族的にはアハウのような獣神に属するのだろう。瞳も狼由来だからか金色に瞬いていた。
童顔ながら高貴さを感じさせる顔の造作。
身長はそれほど高くないが、ツバサも目を見張るほどの爆乳の持ち主だ。全体的にムチムチしている。着飾っていてもメリハリが際立つ。
ノースリーブのホワイトドレスな衣装だが、スカート丈は短い。白いニーハイソックスをはいており、太ももの絶対領域がとても眩しい。
細めのブーツで足下を引き締め、青いローブ風の上着に袖を通していた。
ペコリと頭を下げてレミィは丁寧にお辞儀をする。
「改めてご挨拶を……オーライブ25期生、アニマルエンジェルスの一人。レミィ・アイスフィールドです。ツバサさん、よろしくお願いします」
「こちらこそよろし……く?」
レミィにも握手を求められたので右手を差し出すが、彼女は両手でツバサの手を逃がさないように掴んだ。縋る瞳で上目遣いに訴えてくる。
「あの、いきなりすいません! 会ったばかりでこんな不躾な質問をしたくないんですが……どうしても気になっちゃって!」
ツバサさん――おっぱい大きくなりましたか?
ゴプン!? とツバサはまたも盛大に吹き出す。ドラコの時もそうだが、飛沫を吹き掛けないように首はそっぽを向けていた。
ごめんなさい! とレミィは謝りながら質問の意味を打ち明ける。
「じ、実は……私って現実にいた頃から、成長期が終わったはずなのに胸だけ大きくなるのが止まらなくて……ツバサさんも前に動画で見た時よりずっと大きくなってるみたいだから……気になっちゃって」
ポヨン、とレミィは少しだけ自分の胸を持ち上げる。
確かに小柄な体格にしては大きい。爆乳と呼べるサイズ感だ。
「え? あ、はぁ……そ、それは、大変……だね」
女の子あるあるな悩みを聞かされたツバサは戸惑うものの、聞けば自身とよく似た悩みを抱えているので共感度は上がった。
本気で悩んでいるらしく、レミィの瞳は潤んでくる。
「それでですね、こっちに来たら収まるかと思えば……あんま変わらなくて、気付いたらまだ成長してて、ブラのカップ数がもうエラいことに……」
「レミィちゃーん! 大きいことはいいことだよー! 思い詰めんなー!」
「そうだぞJカップー! 目指せKカップー! いつかはレミィミルクー!」
「マルカナナ、うるさい! こちとらガチで困ってんのよ!」
仲間に囃されたレミィは半泣きで怒鳴り返した。
他人事とは思えないツバサは思わず左手も差し出すと、レミィの両手を包み込むように掴んで、自分まで泣きそうになりながら何度も頷いた。
「その気持ち……とてもよくわかるよ、レミィちゃん」
「え? じゃあ……やっぱりツバサさんも!?」
同類に出会えた喜びに震えるレミィにツバサは囁き声で告白する。
あまり他の人間には聞かせたくない泣き言だからだ。
「俺も男なのに勝手に女にされた挙げ句、地母神になるしかなくて胸がLカップとか言われてたのに……こちらの世界に飛ばされてきたらどんどん大きくなって、オートクチュールの衣装や下着を作ってくれる服飾師さんたちに言わせればMカップだっていうし、おまけに…………」
「Mカップにまで巨大化!? え、そんな……ミルクまでッ!?」
ツバサの告白を聞いてくれたレミィは目を白黒させて驚愕するものの、可憐な唇に人差し指を当てて「内緒にします」と約束してくれた。
ツバサの不本意な女体化や乳房の成長。
レミィも共感を覚えてくれたのか、同情のガチ泣きをしていた。ツバサまで滝のような涙を流してしまう。ここに終生の友を得た気分だった。
ひっしと抱き合うオカン系男子と氷雪系アイドル。
「どんなに乳が大きくなっても……強く生きていこうな!」
「はい! 可愛いブラを作ってくれる服飾師さん紹介してください!」
超爆乳と爆乳が潰れようともお構いなしの熱い抱擁を交わす。
ハンティングエンジェルスからツッコミ、五神同盟の仲間たち(特にミロ)からはやっかみの野次が飛ぶかと思えば意外にも静かだった。
てぇてぇ……てぇてぇ……てぇてぇ……てぇてぇ……ツバレミてぇてぇ……。
念仏みたいな呟きと絶え間ないシャッター音が鳴り響いていた。
レミィの番が終わり、次のアイドルがツバサの前に立つ。
九尾の狐の孫娘――マルカ・ナインテイル。
狐色の髪をざっくばらんにした愛嬌にあふれた美少女である。
ミディアムボブなヘアスタイルだが、狐の野性味を意識しているのかざんばらな髪型だ。まん丸の大きな瞳は複雑な虹彩を湛えており、☆とか♡とか♪とか気分次第で入り乱れている。ほんのり道化師みたいなメイクも施している。
道化師らしく笑顔を絶やさない明るい表情。
肩やデコルテを露わにした派手な色使いのビスチェを着ているが、スリーサイズは平均的で大人しめ。両腕には貴族の女性が羽織る十二単のような袖をまとわせており、左右で丈の長さが違うスカートも着物の裾めいていた。
着物的なデザインは玉藻の前を意識しているのだろう。
(※玉藻の前=インドと中国の王朝を荒らした九尾の狐が日本に渡り、今度は天皇を籠絡するために変化した宮中の女性。つまり九尾の狐の化身)
彼女だけ生足をさらしており、高下駄みたいなブーツを履いている。
光背のように背負うのは九本の狐の尻尾。
アクセサリーの類ではなく、すべて彼女から生えている生きた尾だ。
「どもどもー♪ マルカ・ナインテイルでーす。オーライブ25期生でアニマルエンジェルスの一員やってまーす♪ これからよろしくでーす♪」
陽気な声で挨拶を飛ばしてくるマルカ。
こういうところは見た目通りの陽キャなピエロといった感じだ。
もちろん彼女からも握手を求められたので右手を差し出すと、極自然に引き寄せられてしまう。目前に迫ったマルカは真顔になっていた。
怒っているわけではない。これは何かを案じている顔付きだった。
「あの……ウチのお祖父ちゃんがご迷惑かけてませんか?」
開口一番、マルカは不安げに尋ねてきた。
賑やかし担当の道化師とは思えない生真面目な表情で、声色も真剣そのもの。案じるのはツバサのみならず、祖父バンダユウも含まれていた。
チラリ、とマルカは細めた横目をある方向へと向ける。
その先にはグラサン黒服のバンダユウがいた。
まだ子供たちと押し合いへし合いしているが、そこは超一流の武道家だ。マルカからの視線に気付いて「ギクリ!」と表情を強張らせていた。
祖父を見据えたままマルカは話を続ける。
「お祖母ちゃんから聞いた話ばっかですけど、あのジジイときたら『乳さえデカけりゃホルスタインでも口説き落とす』ってくらい女癖が悪いそうで……ツバサさんが元男でもお構いなしで言い寄ったりしませんでしたか? 乳尻太ももへナチュラルに触るようなセクハラとかされてませんか?」
大丈夫ですか? とマルカは親身になって心配してくれた。
この娘――気配り上手の気遣い上手だ。
ツバサと同じで身内への心配性が激しいのかも知れないが、ツバサが嫌なことされてないか気遣い、祖父がおかしなことをしてないか気を配っている。
彼女はハンティングエンジェルスにおいて中衛。
前衛に立つドラコやレミィが気兼ねなく戦えるようにサポートしつつ、後衛を任されたナナが支援に尽くせるよう敵勢の手を及ばせない。
変幻自在に立ち回る中堅の要――それが中衛。
このサポート力の基礎は性格に根付いたもののようだ。
ドラコの大らかさに救われたり、レミィの共感性に涙したりもしたが、マルカも負けず劣らずのいい子だった。見た目と違って常識人枠かも知れない。
チラリ、とツバサも横目でバンダユウの顔色を窺う。
口を真一文字にして冷や汗をダラダラ掻いていた。
直接的なセクハラをされたことは一度もないが、冗談半分に女神化したツバサの乳尻太ももについて揶揄した自覚はあるのだろう。
言葉によるものだが、被害者がセクハラと訴えればセクハラだ。
そのことに気を揉んでいるようである。
「……大丈夫だよ、マルカちゃん」
ツバサは慈母の微笑みでマルカを安心させてやる。
「バンダユウさんや穂村組のみんなには良くしてもらっている。これまでも一緒に色んな危機を乗り越えてきた、掛け替えのない大切な仲間さ」
「ほ、本当ですか? 良かったぁ……」
孫娘は安堵すると嬉しそうに顔を綻ばせた。
マルカは祖父がセクハラめいた傍迷惑なことをしてないと知って安心するとともに、バンダユウという人物が正しく評価されていることを喜んでいた。
ちょっとだけ――ツバサに悪戯心が疼いた。
「まあ……隙あれば乳とか尻とか太ももとか視姦されてるけどね」
「……お祖父ちゃん?」
ギロリ、とマルカは野獣の眼光でバンダユウへと振り向いた。
孫の視線には弱いのか、祖父はタジタジである。
「誤解だマルカ!? 漢なんだからつい目線が揺れる乳尻太ももに追いかけちまうのは性なんだって! 見るくらい大目に見てくれや!」
ツバサは「よよよ……」と手弱女らしく嘘泣きで嘆いてみる。
「この間なんて俺のあられもない姿を何千枚も激写して……」
(※第493~第494話のコスプレ大会のこと)
まさかの追い打ちにバンダユウは裏切られた顔で絶叫する。
「ありゃあ同意の上だしお子様が見てもOKなやつだろツバサ君!?」
「――お祖父ちゃんッッッ!」
「はい、すんませんした! もうエッチなことはしないと誓います!」
マルカの一喝を浴びたバンダユウは釈明することなく平謝りし、その場で膝を突くと平身低頭で謝り倒していた。嫌悪感を覚えるセクハラはされたことないが、隙あらばエロ発言で弄ばれているから軽いお返しだ。
明後日の方向を見上げて舌を出しておいた。
お説教はまた後でね、とマルカに約束させられるバンダユウ。
マルカはツバサに向き直り、手首のスナップを利かせたスイングをした。
「もうっ……またセクハラされたらビシーッ! と遠慮なくビンタでもしてやってください。お祖母ちゃんもよく張り倒したそうですから」
「バンダユウさんをか……スゴいなお祖母ちゃん」
奥さんに手を上げるタイプではないバンダユウだが、それでもインチキ仙人が認める実力者の彼を張り倒せるのは大したものだ。
「そんなわけで祖父ともどもお見知りおきを……よろしくお願いします」
最後にマルカは深々としたお辞儀で締めた。
気配り気遣いのみならず、マルカは礼儀正しいお嬢さんだった。
マルカと入れ替わりで最後の一人が挨拶に来る。
最高神の子孫――ナナ・イツァムナー。
ドラコは赤龍王の娘、レミィは氷狼王の末裔、マルカは九尾狐の孫娘。
これらはVRアイドルとしてのキャラ設定だ。無論、ナナにも当て嵌まるのだがイツァムナーには少し説明が必要かも知れない。
マヤ神話に登場する最高神――それがイツァムナーだ。
善意の権化とされる心優しき神であり、人類に様々な知識と農耕を教えたとされる文化神の権能が知られている。マヤ神話における主神であるとともに、太陽、雨、豊穣など数えて四つの神格を兼ねる偉大な神でもある。
顕現する際には双頭のイグアナの姿で現れるそうだ。
ドラコの赤龍王やレミィの氷狼王にも細かい設定はあるが、モデルにした神様について解説を入れないとわかりにくいのはナナだけではなかろうか?
中南米考古学を研究していたアハウなら空で語れるはずだ。
「はいはーい♪ ナナでーす♡ ツバサさん、よろしくねー♪」
最初からフレンドリーな挨拶を飛ばしてくる。
ふんわりした緑色の髪の天真爛漫を絵に描いたような美少女だ。
頭の左右にお団子を結っても余りあるボリューミーな緑髪を靡かせ、大きな瞳の虹彩までやや緑がかっている。ドラコたちとそう年齢は変わらないはずだが、四人の中ではもっとも幼い顔立ちをしている気がした。
容貌こそ幼気だが、手足はスラリと長くスタイルはいい。
ハンティングエンジェルスではドラコに次いで二番目に背が高いくらい。三番目がレミィで、一番小柄なのはマルカである。
胸の大きさもレミィほどではないがドラコと並ぶほどだ。
女子校のブレザーをとびきり可愛くリファインさせた制服を着て、オカン目線だと不安になる丈の短い赤白チェックのスカートをまとっている。細い生足を大胆にさらしており、足下はルーズソックスとスニーカーだ。
そしてダボダボの白衣を羽織っていた。
袖は通しているが手は出ておらず、余った袖を振り回している。
頭と両肩にはSDキャラみたいなイグアナを乗せていた。ぬいぐるみかと思ったが生命力を感じるので彼女の使い魔らしい。
「やったー! 生ツバサさんだーッ! やっとホンモノに会えたよー♪」
ナナはツバサの両手を掴むとブンブン振り回した。
本人は握手のつもりだろうが、感激のメーターが振り切れているのかテンションMAXで大喜びしている。ツバサとしては複雑な気分だった。
本来、アイドルに出会えた一般人の自分が感激するべきなのだ。
名前や顔を覚えられていたばかりではなく、こうして出会えたことを喜ばれてしまうと「逆じゃない?」と首を傾げたくなってしまう。
まるで――ツバサがアイドルみたいじゃないか。
困惑するツバサを余所に、ナナは歓喜の理由を捲し立てる。
「VRMMORPGを始めた頃はみんな右も左もわからなくて、にっちもさっちも行かなかったから大変だったんだよね! でもツバサさんが見つけてくれた『パラメーター全上げからのLVアップ』のおかげでスッゴい楽になったんだよ! そっからアタシもみんなも攻略動画は頼らせまくってもらったし!」
「そんな最初から視ていてくれてたのか……ありがとう」
ミロに代わってツバサは礼を述べた。
グッチマンたちもそうだが、どのプレイヤーも最初は他の人の攻略情報を頼らざるを得なかったようだ。ツバサたちだって同じである。
情報屋を頼りにしたのは好例と言えよう。
ツバサが発見したLV上げの裏技は各方面で参考にされたらしい。
そこはちょっと誇らしい。みんなの役に立って良かった。
端で聞いていたミロも諸手を上げて大喜びだ。
「……ってことはハンティングエンジェルスもグッチマンズもみんな、最初の方からアタシらの動画視聴しててくれたの!? キャアアアアアーーーッ!」
「ミロちゃん落ち着いて……こら! 人の鼻の穴に指突っ込まない!」
獣王神アハウでも抑え込めないほど暴れていた。
やんちゃ振りが男の子のそれだ。迷惑かけて申し訳ない……。
「とにかく! ツバサさんとミロちゃんにはいつかはVRMMORPGのどこかで会ってお礼が言いたかったし、あんなことやこんなこと一緒にしたいってずっと思ってたんだよね! なのに事務所が色々あるからダメってNG出してくるしさ……ようやく“四強コラボ”ができると思ったら異世界転移だし! なにこれアニメなのマンガなのラノベなの!? って感じじゃん!」
ナナは息もつかせぬ早口でツバサと出会えた喜びを力説した。
「でも……やっと会えたよ~♪」
感慨深げに一息ついたナナは、ツバサの両手を握ったまま上目遣いに天使のような笑顔を咲かせていた。この状態でお願いされたら断りにくそうだ。
「アタシ、ツバサさんと会えたらやってみたかったことがあるの!」
「俺で良ければ……なるべくリクエストにお答えするが?」
ホント!? と瞳をキラキラ輝かせたナナは遠慮なく頼んでくる。
「じゃあ――おっぱい触らせてください!」
「ナナァァァーッ!? この、おまえ……ナナァァァァァァーッ!?」
ツバサがリアクションを取る前にレミィがキレた。
絶叫みたいなツッコミとともにナナの後頭部へチョップをお見舞いする。鼻や口からポプン! と可愛く吹き出すほどの衝撃をナナは受けていた。
叩かれた頭をさすってナナは言い直す。
「イタタ……ゴメンゴメン、間違えた――おっぱい揉ませてください!」
「悪化してんぞナナちーん! それはアウトだろナナちーん!」
今度はキャラに見合わず優等生なマルカがツッコんだ。
先ほど見せてくれたスナップを利かせたビンタを、レミィがチョップを落とした後頭部に喰らわせる。パプン! とナナはまた吹き出していた。
なによもう! とナナは頬を膨らませて振り返る。
二度のツッコミでできたたんこぶを押さえて二人に文句を言う。
「いいじゃん! レミィちゃんやマルカだってVRMMORPGで死にかけた時に『どうせ死ぬならツバサさんのオカンおっぱいに顔を埋めてハスハスしながら死にたいよね』ってネタにしてたじゃん!」
「言ったけども! あれは動画のネタでしょ!?」
「いやー、ナナならやりかねないと思ったけど実行するのはどうよ?」
レミィとマルカが苦言を呈してもナナは聞き分けない。
「別に女の子同士だからいいじゃん! オーライブならよくあるてぇてぇなスキンシップだよ! ツバサさんが元男なら男の娘のおっぱ……胸筋さわらせてもらうみたいなものじゃん! オカンなツバサさんなら許してくれるよ!」
ねえツバサさん? とナナはこちらに同意を求めてきた。
「いや、え? えーっと…………う~ん?」
ツバサは即答できず、渋い顔のまま愛想笑いで視線を逸らす。
元男だと承知の上で地母神化した超爆乳に触ってみたい、というのがナナの主張らしい。なんだそれ? 性に興味が出てきた男子小学生かな?
ナナではなくレミィとマルカが謝ってくる。
いや、二人でナナの両脇を固めると、ナナの頭を鷲掴みにして無理やり頭を下げさせていた。ツバサがミロによくやる強制謝罪だ。
「すいませんツバサさん、ナナはどうにも子供っぽくて……」
「う○ことかち○ちんとかお○ぱいとか大好きなんです……」
「うん、やっぱり男子小学生だな」
外見や喋り方に性格まで末っ子ぽいナナだったが、頭の中身まで小学生に近いとは恐れ入った。精神年齢も四人の中では最年少と見える。
もっとも大人びていそうなドラコはといえば――。
「だぁっはっはっはっはっはっ! ゲラゲラゲラ……あー可笑し」
腹を抱えて大爆笑していた。
ナナの巻き起こした一連の騒ぎを後方腕組み視線で見守るものの、飛び交うボケとツッコミが面白かったのか涙がこぼれる大笑いだ。
ダメだよナナちゃん、とドラコは窘める口振りで輪に交ざってくる。
「いきなりそういうことをするのは良くないよ」
「なんでー? マルカのお祖父ちゃんみたいにセクハラじゃないし、ただデッカいおっぱいと戯れたいだけ。ツバナナてぇてぇとか言われたいじゃん」
「ウチのお祖父ちゃんディスらないでくれる!?」
不意打ちで祖父を引き合いに出されたマルカの語気が強い。自分が叱る分にはいいけど他人の言われるのはムカつくようだ。
違う違う、とドラコはにやけ顔で首を振った。
「まずツバサさんにお願いするのがダメだよ。何事もルート選びが肝心、ゲームもそうでしょ? ちゃんとした選択肢を選ばないとあっという間にバッドエンドさ。ナナちゃん、そこらへん下手っぴだからなぁ」
「えー? じゃあツバサさんのおっぱいルートはどこから入るの?」
「……なんでツバサさんの胸に辿り着く話になってんのよ?」
レミィが真っ当な指摘をしても、ドラコもナナも聞く耳を持たない。
ドラゴン娘はほくそ笑みながら親指をある方向へ向けた。
「ツバサさんのおっぱいに踏み込むなら、まず正当な所有者……ダンナさんの了解をもらわないとダメだよ。ほら、アソコで暴れてる伴侶さんにさ」
「……そっか、ミロちゃんの許可だ!」
ポン! と手を打ったナナは急いでミロに振り返った。
ナナは両手を口元に添えてメガホンを作る。
気付けばアハウと取っ組み合いどころか、関節技を掛け合うように押さえ込んだり逃げ出そうとしているミロに大声で呼び掛ける。
「ミロちゃーんごめーん!」
断るような謝罪を述べてから要求を声高らかに告げる。
「ツバサさんのおっぱい、触ったり揉んだり胸の谷間に顔埋めてハスハスしたりしていいかなー!? VRMMORPGの頃からやってみたかったのー!」
ミロはアハウに腕ひしぎ十字固めを極めながら答える。
「うーん……いいよぉー! ただし!」
条件がある! とミロはハンティングエンジェルスを見つめて叫ぶ。
「アタシたちと握手して一緒に写真撮ってサインしてくれて……アイドル交流会で喜ばせてくれてからね! そしたらツバサさんとてぇてぇして良し!」
「全然オッケー! じゃあ商談成立ね!」
ツバサさんのおっぱいやったー♪ とナナは小躍りする。
「……ツバサが安売りされてるみたいだ」
ボソリと本音を漏らしたが誰の耳に届くこともなかった。
ナナは喜びのダンスを一通り披露した後、「そうだ!」と思い出したかのようにまた手を打った。今度のは拍手みたいな手打ちである。
自分の道具箱に手を入れると、何やら大きなものを引きずり出した。
昔懐かしい唐草文様の風呂敷包みだ。
ただし、包んでいるものは大型コンテナくらいはある。
「アタシ、お土産もたくさん持ってきたんだ。アニマルエンジェルスのグッズとかフィギュアとかファッションとか……オーライブの先輩たちのグッズとかもいっぱいあるよ。みんな好きなの選んでね」
おおおーッ! とミロを筆頭に子供たちから歓声が上がる。
これにはツバサも保護者として礼を言わせてもらう。
「ありがとう、ナナちゃん……それにしてもオーライブのグッズって?」
異世界転移の際にこの量を持ち込んだとは思えない。どうやって用意したのかを訝しんでいると、ドラコがこっそり耳打ちしてくれた。
「ナナの過大能力、現実のものをある程度取り寄せられるの」
「……へえ、次元や空間を超える系統の能力か」
五神同盟にも何人かいる。
情報官アキや万里眼イヨの過大能力がそれだが、ナナはグッズのような物質も持ち込めるのだろうか? だとしたら毛色が違うかも知れない。
ナナが風呂敷包みを解くと中身が溢れ出した。
どのグッズも包装されており、フィギュアも化粧箱入りだ。
店頭で売っているものと遜色がない。
わぁーい♪ と歓声を上げる子供たちをアダルト組はもう止められない。
一斉に「もう無理です!」と視線で訴えてきたから、ツバサは「ありがとうございました、お疲れ様です」と抑え込みをやめていいと伝える。
ハンティングエンジェルスへの挨拶も済んだことだし――。
「アイドル交流会を先にやらないと、子供たちがパンクしかねないんでね」
ツバサのお許しが出た子供たちはアハウたちの制止から解き放たれると、まっしぐらにハンティングエンジェルスの元へ駆け寄っていった。
ハキハキと挨拶をして、熱烈に握手を交わして――。
一緒に写真を撮って、色紙にサインをしてもらって――。
ナナが持ち込んだお土産を選んだり、ハンティングエンジェルスの面々と歓談したりと、ミロたちは楽しげな一時を過ごしていた。
ツバサはそれを母親目線で見守っていた。
ミロたちが粗相しないか見張りも兼ねている。
そうしながらも今後の流れについて脳内を巡らせていた。
ツバサからは五神同盟の在り方とともに知り得る限りの情報を開示して信頼を得つつ、ハンティングエンジェルスからは南海の置かれた状況を聞き出す。
もしも知っているなら南方大陸についてもだ。
付近にある島に現地種族がいるなら彼らについても聞いておきたい。
今後について考えるツバサは賑やかな交流会を眺めて嘆息した。
「……積もる話は子供たちが落ち着いてからだな」
それと――彼らが彼女ら正式な再会を果たしてからだ。
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恩師の娘ドラコを遠巻きに見つめる――獣王神アハウ。
血を分けた孫娘マルカを見守る――老組長バンダユウ。
今すぐに抱き締めたい保護者の心境が伝わってくる。
それでも彼らは大人なので、アイドルとして求められる彼女たちの立場を尊重しつつ、辛抱の利かない子供たちの気持ちを優先してくれていた。
漢だなぁ……とツバサは涙ぐむほど感心してしまった。
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