501 / 563
第21章 黒き世界樹そびえる三つ巴の大地
第501話:私たちは一生アイドルします宣言!
しおりを挟むVRMMORPGによる大規模な異世界転移。
仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲームを利用して人類の魂魄に成長と進化を促した後、神族や魔族といった上位者へランクアップさせ、真なる世界へ転移させることで半強制的に蕃神との戦争に巻き込む。
時間や手段が限られていたとはいえ、無茶な遣り口なのは否めない。
作戦を実行した灰色の御子たちも切羽詰まっていたのだろう。当事者や関係者からも「苦肉の策でした」的な意見はいくつか耳に入っている。
そのためなのか随所に投げ遣り感なところがあった。
そのひとつが――転移する場所についてだ。
転移したプレイヤーは真なる世界の各地へばら撒かれた。
再会も合流も難しいほどバラバラにだ。
プレイヤーを一箇所にまとめる、せめて集合しやすいように近場にする、いくつかの場所に集中させる……そんな配慮は一切なかった。
もはや散布といってもいい。
無作為かつランダムに真なる世界全土へばら撒いたのだ。
この時、ツバサたちのようにパーティー単位ならばまだ救いがあるだろう。
いつもの仲間で助け合えるからだ。精神的な不安も和らげられる。
五神同盟で聞き取り調査をした結果、何人かは「最初はひとりぼっちでしたぁ!」と悲惨な当時を泣きながら振り返っていた。
単独行動を強いられた者は、ひとつ間違えれば大惨事となっていただろう。
いくら神族や魔族でも独りでできることなど高が知れている。
況してや右も左もわからない異世界。いきなり孤立無援で放り出されて、強力なモンスターや危険人物(転移者や現地人問わず)、あるいは蕃神にでもエンカウントしたら、あっという間に人生のゲームオーバーを迎えてしまう。
真なる世界という現実ではリスポーンも適わない。
人知れず露の如く消えていったプレイヤーも多いのではなかろうか……。
だから「配慮が一切ない」と酷評するのは仕方ないことだ。
反面もしも転移直後にプレイヤーが一箇所に集められていた場合、大規模な混乱が避けられなかったのも容易に想像が付く。
人間ほど無力な生き物はいない。ゆえに集団での協力は必要不可欠である。
だが、数が増えるほど愚かしさが露呈するのも人間の特徴だ。
転移したばかりの頃は誰もがパニック状態だった。会話さえ成立しない烏合の衆が集まれば、待っているのは三文芝居にもならない滑稽な惨劇だろう。
まず暴動や仲違いに発展して、そのまま現実とゲームの区別もつかない連中が殺し合いに雪崩れ込み、貴重な戦力を最初から削いでいく……なんて酷い結果になったかも知れないという可能性も想像できなくはない。
一点集中か? 全体散布か?
どちらが好転するかの予測には灰色の御子たちも思い悩んだはずだ。
もしくは「右に転んでも左に転んでも大差ない」と割り切って、真なる世界すべてに戦力を等分するべく散布を選んだのかも知れない。
死んだらそれまでの運命――多少の犠牲はやむを得ないと諦める。
世界の趨勢を懸けた計画だ。これくらい強行してもおかしくはない。
いずれゲームマスター№01にでも問い詰めてやろう。
(※GM№01=マーリン・マナナン・マクリール・マルガリータ。五女マリナの実父でゲームマスターで一番偉い人。実力は確かだが子煩悩)
しかし、いくら真なる世界が地球の百倍以上の面積を誇るからとはいえ、プレイヤーを転移させる地点はもう少しまとめておいてほしかったところだ。
それでも――五神同盟の結成は約二年で達成された。
中央大陸を微に入り細に入りとはいかないが、その国土の大部分を管理できるほどの組織に仕上げられたのだからまずまずの成果ではなかろうか?
ただし、今日に至るまでは多大な苦労と犠牲が積み上げられている。
決して結果オーライと言いたくない。
とにもかくにも――プレイヤーは真なる世界中へと散らばっていた。
もしもその様が宇宙から大きな手で振り撒かれるようだったら、大気圏を突破していく無数の流れ星みたいでさぞかし壮観だったことだろう。
ツバサたちは中央大陸へと舞い降りた。
五神同盟に属する者やエンテイ帝国に臣従する者、そしてバッドデッドエンズに与した者は、そのほとんどが中央大陸に転移させられていた。
しかし、すべてのプレイヤーがそうとは限らない。
真なる世界にある他の大陸へ転移した者もたくさんいるのだ。
二つに分かれた大陸にて複数の勢力が何かの争奪戦を繰り広げられているという北東大陸。未来神ドラクルンが根城とするも謎の勢力と覇権争いを繰り広げている無数の島々が集まった南西諸島。
これらの大陸に飛ばされたプレイヤーも数知れないことだろう。
恐らく、“未知なる南方大陸”に転移した者もいるはずだ。
そして――ハンティングエンジェルスは南海に放り出されていた。
転移したら海上だったそうだから最悪である。
慌てて飛行系技能で宙に浮いて事なきを得た。仲間の点呼をしたら四人いるのは確認できたものの、マネージャーの姿が見えなかったそうだ。
実は彼女たちには五人目の仲間がいた。
ハンティングエンジェルス――そのマネージャーだ。
ドラコたちより少し年上の女性とのこと。
彼女たちのアイドル活動をサポートするオーライブ社員である。
マネージャーもVRMMORPGをプレイしており、陰に日向にハンティングエンジェルスを支えていたらしい。主に視聴者アングルからの撮影係を務め、動画の進行をグダグダにさせないディレクター業務を兼任した。
なので実況動画には登場してないようだ。
「でもナレーションとかしてたよね、アタシ聞いたことがある」
ハンティングエンジェルスの動画を欠かさず視ていたミロはマネージャーの声を聞いたと主張する。意外と出番はあったのかも知れない。
「画面外でアタシらのコント眺めてたけど、よく大声で笑ってたよね」
コント言うなし! とレミィはドラコに駄目出しをした。
レミィもマネージャーには思うところがあるようだ。
「その声も動画にまんま入っちゃったから、どこかの深夜バラエティをパロディっぽく“姫の笑い袋”なんてヒドいあだ名を付けられちゃって……」
「あのあだ名、マネちゃん気に入ってたっぽくね?」
「本家の“ヒゲの笑い袋”な人リスペクトしてなかったっけ?」
マルカとナナから聞かされた情報は初耳なのか、レミィは「そーなん!?」と振り向きざまに驚いた。笑い声が特徴的な女性らしい。
面倒見が良く、甲斐甲斐しくドラコたちの世話を焼いてくれたそうだ。
レミィたちも「マネちゃん♪」と姉貴分として慕っていた。
しかし、異世界転移の混乱に巻き込まれたためなのか、ハンティングエンジェルスとは違う場所へと飛ばされてしまったようなのだ。
――いつも側にいたはずの彼女がいない。
この事実にハンティングエンジェルスは大いに狼狽えてしまった。
「近くにいるかもと思ってすぐに探したんですけど……」
「……そこを半魚人軍団に邪魔されちまってね」
レミィはマネージャーを心配して表情を曇らせ、ドラコは急を要する事態を阻まれたことを思い出して険しい顔付きでスペアリブを噛んでいた。
どことも知れない世界――見渡す限りの大海原。
それだけでも戸惑うのに、そこへ正体不明の悪臭を漂わせる半魚人が大挙し襲い掛かってくれば、熟練のプレイヤーでも恐慌状態に陥りかねない。
「いきなりの異世界転移でパニクってたからね」
「逃げるしかねぇ! ってみんなで尻まくってトンズラこいたわけ」
マルカは悔やむように肩をすくめてお手上げのポーズをし、ナナは当時の迫真を伝えるべく大きな声で雰囲気を再現していた。
深きものどもの大攻勢から遁走するハンティングエンジェルス。
勿論、マネージャーの行方や安否も心配でならなかった。しかし彼女を見つける前に自分たちが殺られては意味がない。
生き残るためにも全力疾走で逃げるしかなかった。
やられっぱなしは性に合わないドラコを始め、レミィやマルカも逃げながらできる限り応戦し、打開策を探るべく周囲を調べ始めたそうだ。
海は深きものどものホームグラウンド。
半魚人を相手に海上で戦うのが不利なのは一目瞭然。
せめて陸地という足場があれば、万全の状態で迎え撃てるかも知れない。半魚人も陸上ならば海の利を活かせず弱体化する可能性もある。
「だからさ、しっかりした地面を探したワケ」
咄嗟に分身を飛ばしたマルカは東西南北へ派遣して陸地を探させた。
「地球から飛ばされて最初に出てきたのがこの辺り」
マルカは人差し指を下に向け、先ほどまで戦闘をしていた海域を指す。
「ここから南……ちょい西かな? 行ったところに広めの陸地があるって分身から連絡があったからね。迷わずそっちへ逃げ込んでみたのよ」
「地面だやったー! これで勝つる! と思った……んだけどねぇ」
やれやれ、と言いたげにドラコは肩を落とした。
深きものどもは基本鰓呼吸だが、地上では肺呼吸もできるデタラメな生態をしているため、平然と彼女たちを追いかけてきたのは想像に難くない。
「しかし、機動力は落ちたんじゃないか?」
ツバサは次女から教えられた深きものどもの特徴を思い返す。
深きものどもは水中でこそ高速で泳ぎ回れるが、陸上に上がると不格好に飛び跳ねながら歩くため、動きはかなり制限されると聞いた。
それでも生物としての戦闘能力は十分にあり、「戦いは数だよ兄貴!」の原理に則って、大軍投入によって一方的な蹂躙もできる。一時は反対勢力が優勢になったインスマスという港町を力尽くで制圧した戦績があるくらいだ。
それでも陸上に上がれば、海棲生物ならば少しは動きは鈍るだろう。
油断はできないが弱体化は期待できるはず。
しかしドラコたちは「うんにゃ」と首を左右に振る。
「多少の個体差はあったけど、どいつもこいつも素早かったよ」
まさか!? とツバサが声を上げるよりも先に、レミィ、マルカ、ナナの順で陸に上がった深きものどもの恐ろしさを語ってくれる。
「追ってきても浜辺くらいまでじゃないか……って思ってたら、どんだけ陸地に上がっても、どんなに海から離れても当たり前のように追ってきて……」
「陸上選手みたいにスプリント走法している奴もいたよ?」
「なんかスッゴい飛び跳ねたり、変なポーズ決めてる奴もいたし」
ジョ○ョ立ちかなアレ? とナナは可愛く小首を傾げた。
「スプリント走法って……ジ○ジョ立ち?」
呆気に取られて開いた口が塞がらないツバサは、上陸して両手両脚をシャカシャカ振りって激走する深きものを想像して半笑いを浮かべてしまった。
クトゥルフ神話はあくまでも参考に留めた方がいい。
あの設定に全幅の信頼を寄せるのは控えた方が良さそうだ。
祭司長が従来のクトゥルフより遙かに強大であったことを鑑みれば、深きものもヴァージョンアップされていて然るべきだろう。こちらとしては歓迎できない事態だが、最終的に全身全霊を込めてぶちのめすことに変わりはない。
歯応えがあるならば手加減せずに叩きのめせるというものだ。
「ま、どっちみち全員ぶっちめたんだけどね」
「……激しく同意するしかないな」
好戦的な面でドラコとツバサは親和性が高いようだ。
「それが……あの時は逃げるに逃げられない状況になっちゃって」
レミィは深きものを迎え撃った事情があるという。すると隣に座っていたナナがネズミみたいな顔を真似ると理由を明かしてくれた。
「モフモフさんたちを守るためのは戦うしかなかったんだよね」
「モフモフさ……ああ、地下都市の住人たちか」
大型齧歯類にしか見えない種族たち。
亜神族ドヴェルグ族に仕える獣人種とのことだ。
それぞれモグラ族、ビーバー族、カピバラ族、マーモット族、ウォンバット族、とツバサたちが知る動物の外見通りな種族名らしい。どう見ても大型齧歯類だが、二足歩行ができてちゃんと会話も通じるらしい。
人語を解する知能=文化を有する種族的な基盤がある。
言語を相互理解できる魔法が敷かれた真なる世界では、この方程式が成り立つ。彼らも真なる世界に生きる立派な人類だ。
見掛けは大きなネズミでも、一種族として礼儀を払うべきだろう。
ハンティングエンジェルスと出会したモフモフたちの集団。
彼らは食料調達のため地上に出張中の採取部隊だった。
深きものどもから逃げていたハンティングエンジェルスは、初めて降り立った荒れ果てた大地を右往左往している内にばったり鉢合わせてしまった。
当然、このトラブルへと否応なしに巻き込んでしまう。
神族であるドラコたちならば逃げ切れる。
最悪、深きものどもが追ってこれない上空へ逃げればいい。
「最初からそうすれば良かったのに――」
「無理言わないでよミロちゃん。ワタシら初めての異世界転移で間髪入れず蕃神エンカウトなんて最悪のカード引かされたのよ? 頭しっちゃかめっちゃかで逃げ惑うのがやっとだったんだから」
ミロのツッコミにマルカが疲れた論調で返した。
空へ飛んで逃げる――元人間の思考がこの選択肢を邪魔したのだろう。突然の異世界転移に蕃神との遭遇と畳みかけられれば頭がテンパるのも仕方ないことだ。
「……で、私たちだけならどうにかして逃げられると気付いたんですけど、その時には地下都市の皆さんと出会していたので……」
「モフモフさんたちを見殺しにできるわけないじゃん!」
諦観ムードなレミィの言葉を、ナナは使命感たっぷりに引き継いだ。
ナナはモフモフたちにえらく感情移入していた。
イグアナを頭に乗せるくらいなので小動物好きなのかも知れない。
深きものどもはハンティングエンジェルスを追撃するのみならず、片手間感覚でモフモフした種族たちにも魔手を伸ばしたという。
自分たちだけならば上空へ逃げればいい。
しかし、彼らを全員連れて逃げることは不可能。置き去りにすれば深きものどもの餌食になるのは想像に難くない。
小さな命が蝕まれるのを彼女たちは見過ごせなかった。
ハンティングエンジェルスは半魚人との徹底抗戦を選んだそうだ。
「守らなきゃいけない者がいると……燃えるよね」
ドラコは不敵な笑みを浮かべて牙みたいな八重歯を輝かせた。
こういう話を聞かされると「嗚呼、彼女たちとは上手くやっていけそうだ……」と感慨深い温かさが胸の奥に染み渡ってくる。
獣王神の妹分であるドラコと、老組長の血の繋がった孫のマルカ。
心根が優しい彼らが意気投合しているのも安心材料のひとつだった。良い意味で「この親にしてこの子あり」というべきか、人品骨柄卑しからずといった性格の良さについて太鼓判をもらっているようなものだ。
そんなドラコやマルカと仲がいいレミィやナナも保証付きである。
「でもまあ半魚人軍団、言うて半分はお魚だしね」
「やっぱり陸地は苦手だったのか、しばらくしたら海へ帰って行きました」
ドラコとレミィは勝利を報告するように言った。
推測だが深きものどもにとっても予想外だったに違いない。
異世界転移直後、ハンティングエンジェルスは平均LV995以上。ドラコとレミィはLV999に到達しており、マルカとナナも現在ではLV999になっているので、最初から高LVパーティーだった。
蕃神の“王”ならばともかく――深きものどもはただの眷族。
LV999に太刀打ちできる者は限られている。
不意に現れた獲物だと思って襲い掛かってみれは、思ったより手強いので簡単には仕留められないと判断したのだ。引き際を見極めたのだろう。
風貌こそ蛙みたいだが深きものどもは高度な知性体。
自他の戦力差を推し量る賢さがある。こちらも油断は禁物だ。
深きものどもはハンティングエンジェルスを「嘗めてかかったら被害大」と認めて撤退していき、ドラコたちも現地種族も事なきを得たという。
「そしたらエラい感謝されちゃってね」
「モフモフさんたちから抱きついてきて揉みくちゃ状態! なんだっけ、そういう系のアニマルカフェ行って大歓迎されたみたい♪」
ドラコは微笑むものの反応はドライだ。一方、ナナは毛触りのいい大型齧歯類を触り放題で楽しめたらしい。両手の指をモシャモシャ動かしている。
モフモフの感触を反芻しているらしい。
「その時はカピバラさんとマーモットさんがメインだったんですが、私たちのことを『命の恩人だー!』とか『新しい神族さまだー!』と持て囃してくれまして、是非とも我々の都市にいらしてください……と招かれたんです」
レミィは回想するように語ってくれた。
アハウは軽くメモを取っており、それに目を落として再確認してみる。
「それがドヴェルグ族の治める地下都市なんだね? 名前は……」
「はい、アウルゲルミルです」
都市名を告げたレミィは大まかな外観も教えてくれる。
身振り手振りを交えて丁寧にだ。
「緑豊かないくつかの山が連なってる……山脈でいいんですかね? その中腹を切り拓いて山岳都市みたいなものを作って入り口にすると、山脈を刳り抜いて内壁を固めて柱を立てて……ドームみたいにして加工してました」
「ついでに鉱脈も豊富みたいだから四方八方に坑道を掘って、そこも住めるように整備してるから、蟻の巣の豪華版みたいな地下都市になってるのよ」
「区画整理されたダンジョン型の地下施設って塩梅かなー?」
ドラコとマルカがレミィの説明を補強してくれた。
ナナも白魚のような指先で空中に○を描いて加わってくる。
「そんでね、その地下都市のある御山の周りをさっきの魔除けの意志でグルリと囲って、半魚人を寄せ付けない結界みたいなのを作ってるの」
「ふむ、アウルゲルミルの全景が思い浮かぶな」
「タンマ、ちょっと待ってくれ」
得心するアハウの横でバンダユウが質問を重ねていく。
「その地下都市がある島ってのは、地球でなら南北のアメリカ大陸を足してもお釣りが来るくらいの面積があんだろ? そんだけの土地がありゃあ資源も自然もたっぷりあるだろうから、もっと繁栄してたっていいのに……」
「そうだよ……もう地下都市しか残ってない」
追い詰められてるでしょ? とドラコは瞳を細めた。
最後の砦まで追い立てられたドヴェルグたちへの憐憫を込めた眼差しに、侵略者である深きものどもへの怒りで眼光を滾らせている。
ドラコは滅びの爆裂激流で深きものどもを容赦なく蒸発させていた。
その動機は彼女なりの熱い正義感にあるようだ。
ハンティングエンジェルスを歓待するために用意した料理の数々。
テーブルに所狭しと並べられた料理はハイペースでと平らげられており、空になった皿は食事を終えたアンズ、レン、マリナが気を利かせて片付けてくれた。残っているのはドリンクやデザートくらいのものだった。
しかし、ドラコはまだ主菜を食べている。
お腹に溜まる肉料理や穀類を使った料理を口に放り込む。
レミィたちが食べ切れない分も始末するようにだ。ドラゴンの荒々しさで大食漢のように貪っているが、苛立ちを抑えるヤケ食いでもあるらしい。
レミィが一口食べて断念した特大ビッグバーガー。
それを三口で食べたドラコはモッシャモッシャと力強く咀嚼する。
「プハッ……話を戻すと、モフモフさんたちを助けたことで地下都市に招かれてね。そこでドヴェルグ族とその王女様であるフレイちゃんに会ったんだ」
ハンバーガーを飲み下したドラコは話の筋道を正した。
亜神族――ドヴェルグ族。
神族に準ずる能力を持つゆえに亜神と呼ばれる種族のひとつ。既にツバサたちが出会っている守護妖精族や鬼神族、それに龍人族と肩を並べるのだろう。
ドワーフの始祖とも呼ぶべき種族らしい。
博覧強記娘に尋ねたところ、現実世界にも名前が伝わっていた。
北欧神話に登場する闇の妖精とのことだ。
彼の神話では太古の巨人ユミルの死体から大地を始めとした様々な自然物が産まれてきたが、その死体に湧いた蛆虫が神々によって人間とよく似た姿と知恵を与えられ、やがてドヴェルグになったとされている。
地中での生活を好み、主な生活圏は地下世界スヴァルトアールヴァヘイム。
非常に醜い姿をしているとの説もあり、神々がドヴェルグの醜悪さを嫌ったなどの話も少なくない。ただし、北欧神話はドヴェルグなしには成り立たない。
彼らは非常に優れた鍛冶師でもあるのだ。
匠の業から作り出されたものは、どれも人知を超越した神器となる。
主神オーディンの振るう神槍グングニル、雷神トールの力を象徴する撃鎚ミョルニル、神喰らいの魔狼フェンリルを神々の黄昏まで抑え込んだ封鎖グレイプニル、神々が騎乗する鹿、猪、船、神々の身に付けた数々の装身具……。
これらすべて――ドヴェルグが手掛けた作品だ。
(※ただし、作られた理由のほとんどに悪神ロキが関わっている。奸計を巡らした成果、罪を許してもらう代価、誰かを唆す道具……ろくな理由がない)
――闇の妖精あるいは闇のエルフ。
こちらはデックアールヴと呼ばれているが、ドヴェルグとの共通点がいくつか見受けられるため、同一視するべきかどうか取り沙汰されている。
「そういやフレイちゃん言ってたね」
『ドヴェルグから神性が抜けて一般人になったのがドワーフ。エルフでもハイエルフが亜神族なのと一緒さ。謂わばアタシらはハイドワーフかな』
マルカはフレイの物真似で再現してくれた。
ドワーフならば五神同盟にもいる。
ミサキの治めるイシュタル女王国での人口がもっとも多いが、他の四カ国にも流れ着いたドワーフの難民を受け入れていた。
彼らは地球にいた現代人がよく知るドワーフだ。
ゲーム、マンガ、アニメ、小説……そういったものに描かれたドワーフの設定をほぼ踏襲した種族である。かつてファンタジー小説の大家トールキンがドヴェルグやドイツの妖精伝承を元にデザインした設定が根底にあるらしい。
ゴブリン、コボルト、ノーム、ノッカー。
鉱山や地底に住む妖精のエッセンスも混ざっているかも知れない。
「ドヴェルグってやっぱりドワーフみたいなの?」
デザートのアイスクリームを舐めるミロが疑問を投げ掛けた。
ドワーフといえば上背こそ高くないのが筋肉質でがっしりした体型をしており、女性でも髭があると言われるほどたっぷりした髭を蓄えている。
(※昨今の設定では女性のドワーフに髭はないが、トールキンの描いた世界観でのドワーフは女性でもしっかり髭が生えている)
ドヴェルグも似たような体型なのか気になるらしい。
それがさぁ、とナナは驚きを交えて答える。
「ぜーんぜんドワーフっぽくないの。どっちかっていうと体型的には人間やエルフみたいで背ぇ高いし。あ、でも筋肉モリモリなのはドワーフかな?」
「あと、男の人はヒゲモジャだね。そこもドワーフっぽい。それと男女どちらも顔立ちがちょっと厳ついかな? 容貌魁偉ってやつ?」
どうも彫りの深い顔立ちをしているようだ。
「闇の妖精だからなのか、肌の色が濃くて……褐色くらいですかね?」
マルカとレミィの補填のおかげで人物像が見えてくる。
この場合、種族としてのスタイルか?
「話を聞いて想像を膨らませてみると……ドワーフを縦に伸ばしたみたいな種族なのかな? 伝承通り神々のトンデモ武具とか作れるんだろうか……?」
「作れるみたいだよ。実際バンバン作ってるし」
対蕃神兵器! とドラコはドヤ顔を決めてサムズアップする。
親指を立てる反対側の腕では、若ロック鳥の骨付きモモ肉に齧り付いていた。マンガ肉でも食べているみたいな絵面が様になっている。
モリモリ食べるドラコは構わず話を続けた。
「そんなわけでモフモフたちに連れられて地下都市に行ってみれば、ドヴェルグ族にも『ようこそ新しい神族!』と歓迎ムードで受け入れられちゃってね」
彼らの王女であるフレイは灰色の御子。
ドラコたちが「地球から来た」と明かせば目の色を変えたらしい。
「光り輝く御子とかいうイケメン神族がお父さんだからか、メチャクチャ美人なんだけど……アタシらの事情をやたらと察してくれたんだ」
「灰色の御子たちの事業に一枚噛んでいたのかな」
地球に蒔かれた神族と魔族の因子。
そこから誕生した人間を新たな戦力として引き込む算段を立てた灰色の御子たちは、自ら地球に渡って彼らを連れてくる計画を推進したという。
ただし、すべての灰色の御子が地球に渡ったわけではない。
真なる世界に残った留守居組もいたのだ。
五神同盟にも還らずの都を奉る巫女ククリや、天梯の方舟の護衛を務めたスプリガン族の総司令官ダグなど、五神同盟でも何人か確認できている。
彼らは真なる世界の重要施設を任された守人。
フレイというお姫様の場合、遺跡などを管理している様子はなさそうだが、彼女なりに何らかの使命を帯びていた可能性がありそうだ。
「多分そうだと思います」
頷いて肯定してくれたのはレミィだった。
よっぽどお酒に未練があるのか、ノンアルコールを注いだグラスを片手に塩辛いおつまみを摘まんでいる。本当にお酒が好きなのだろう……。
「私たちが地球から来たことを話すと、灰色の御子という人たちが立てていた計画について説明してくれました。真なる世界が“外来者たち”という侵略者に襲われていることや、力を貸してほしいことを打ち明けられましたし……」
ヒョコッ、とマルカが割り込んでくる。
「この時、ワタシらが異世界転移させられた状況も説明したら『なんか駆け足が過ぎない?』ってフレイちゃんにツッコまれたんだよね」
既に聞いていたフレイの推察はここで語られたものらしい。
「そこは誰に話しても無茶が過ぎるってツッコまれるところだからなぁ」
――ゲームで遊んでいたら異世界に飛ばされたました。
現実世界のフィクションでは異世界転生や異世界転移といった物語の導入としてよくある設定だが、実際にやられた身としては途轍もなく困り果てた。
前触れ、予兆、報告、前兆、説明――ひとつもない。
異世界へ飛ばすなんて驚天動地の珍事を、いきなり突拍子もなく唐突かつ突然に押し付けてくるものだから、狼狽と動揺の二乗掛けダブルパンチだ。
どんなに緊急事態だとしても程度というものががある。
アフターケアも追いついてないから、かなりの惨事も起きていた。
いくら自分自身のアバターを強化させていたとはいえ、現在の真なる世界へ事前情報なしで放り出すのは殺害行為に等しい。
事実、転移後すぐに蕃神に殺されてしまった仲間を目撃している。
(※第29~30話参照)
これをVRMMORPGで遊んでいた全プレイヤーに、灰色の御子は問答無用で執行した。その直前にようやく片鱗を明かしただけである。
――間もなく現実世界は終焉を迎えます。
このアナウンスを皮切りに、強制的な異世界転移を実行に移したのだ。
『――何してんの灰色の御子!?』
これには創世神である起源龍も仰天するほどである。
ツバサの娘になったジョカも開いた口がふさがらないくらい驚いたが、銃神の嫁になったエルドラントもまったく同じリアクションを取ったという。
『――何してくれてんの御同輩ッ!?』
ドラコから経緯を聞かされたフレイも似たり寄ったりだったらしい。
仮にも同僚とも言うべき地球へ渡った灰色の御子たちの暴挙的行動。それを訝しんだフレイの仮説が「駆け足にした理由があった」というものだ。
恐らく――巨大彗星の衝突。
これは灰色の御子にも青天の霹靂だったのだろう。
本来ならば真なる世界への転移も手順を踏んだ計画を立てていたのかも知れないが、いきなり地球滅亡のカウントダウンが始まっため、灰色の御子によって組織された世界的協定機関も計画の早送りを余儀なくされたに違いない。
駆け足の正体はこの辺りにありそうだ。
起源龍たちもツバサやGMから事情を聞いて「それなら仕方ないか……」と不承不承ながら納得したので、フレイも理解を示してくれるだろう。
「でだ――それからどした?」
湯飲み茶碗を片手に話の先を求めたのはバンダユウだった。
温くなりかけた緑茶を啜り、韻を踏むように唱える。
「助けたモフモフに連れられて、竜宮城ならぬ地下帝国へ行ってみればだ。別嬪さんのお姫様に出迎えられて、モフモフたちのダンスで歓迎でもされたか? 力を貸してほしいと頼まれたみたいだが……玉手箱でももらったのかい?」
浦島太郎の歌を連想させるような喋り方するバンダユウ。
ちょっと茶化してくる祖父には孫娘が対応した。
目を線みたいに細めたマルカはニヒルな笑みで外を指差す。
その先にあるのは、飛行母艦ハトホルフリートと並んで宙に停泊しているハンティングエンジェルスの旗艦、飛行戦艦シャイニングブルーバード号。
自分たちの艦を見せびらかすようにマルカは胸を張る。
「――飛行戦艦もらった」
「玉手箱に入りきらねぇだと!?」
正確には違くて、と訂正したのはナナだった。
ドラコの食欲に釣られるのか、ドーナッツを両手で持ってチマチマと小動物みたいに囓っていた。モグモグしながら説明してくれる。
「シャイニングブルーバード号を作る材料とかもらったの。あと、造るのを手伝ってくれる作業員さんとかもフレイちゃんが手配してくれたの」
「国防費って名目でハンティングエンジェルスに出資してくれたんです」
フレイちゃんが、とレミィはお姫様の指示だと強調した。
ドヴェルグ族のお姫様にして――地下都市アウルゲルミルの女王。
そんな彼女から出資や人材を提供してもらう協力を取り付け、それに掛かる費用が国防費という名目になる。これが意味するところはわかりやすい。
誰が答えるでもなくバンダユウが呟く。
「力を貸してほしい……あちらの姫さんらのお願いを飲んだわけか」
「持ちつ持たれつだよ、バンじいちゃん」
マルカの祖父だがドラコは馴れ馴れしくそう呼んだ。
若ロック鳥の骨付き肉を食べ終えたドラコは骨までバリバリ噛み砕き、爪楊枝みたいに細長く折れた破片を口の端にくわえている。
ドラコは劇画の主人公みたいな頼もしい笑顔を浮かべた。
「地球へ帰る方法はわからなければ、真なる世界のイロハも知らない。右も左もわからない異世界だけど、傍若無人な“外来者たち”をぶちのめす力はある……そこで現地の人たちに『助けてくれ』とお願いされたら、庇を借りて一宿一飯の恩に報いるつもりで悪鬼外道をとっちめてもいいんじゃない?」
何処とも知れない異世界に放り出された彼女たち。
幸いにもVRMMORPGで鍛えた神族としての能力は使えるので、その力を借りたいという現地の人々から協力要請をあっさり快諾する。
その辺りの私見もドラコたちは語ってくれた。
「弱きを助け強きを挫く、じゃないけれどさ。困っている人がいたら助けたくなるのが人情でしょ? 最初は新しいクエストが始まった? とかゲーム脳で考えたりもしたけどね……この世界の現実感は本物だって気付いちゃったからさ」
現実逃避できなかったよ、とドラコは前向きだった。
「あの時は行く当てもありませんでしたから……フレイちゃんたちは私たちを頼りにしてくれましたけど、私たちも彼女を頼らざるを得なくて……」
「やっぱ話の通じる人たちが近くにいるだけでも心強いよね。余所がどんなになってるかもわからないから、フレイちゃん家にご厄介になっちゃたよ」
「24時間モフモフさんたちといられるの最高じゃね?」
レミィたちも三者三様、おもいっきり性格の出る私見を並べた。
かくして彼女たちは護衛の用心棒となった。
ハンティングエンジェルスはその力で深きものどもを追い払い、技能で教えられることがあれば現地人に指導する。助け合いの精神は大切だ。
地下都市アウルゲルミルは彼女たちに衣食住を始めとした、居所や食事に物資を提供する。真なる世界についての解説も必要とあればする。
そうして培われていくのが人と人との絆だ。
「ほら、持ちつ持たれつだろ? そんな難しいことじゃないって」
細かいことは気にしない豪放磊落な性質。
なのにドラコが得意げに言うと不思議な説得力があった。
「むぅ……ドラコ嬢ちゃん、前世は無宿人か渡世人か?」
座頭市とか木枯らし紋次郎なんて無頼漢を思い出すぜ、とバンダユウはドラコの言い分をかつて一世を風靡した時代劇のヒーローに例えていた。
行く当てはなく、帰るための手段も思い付かない。
異世界に飛ばされてどうしよう……と途方に暮れかけていたハンティングエンジェルスだが、フレイたちとの出会いに活路を見出したそうだ。
どうせ帰れないなら――この世界で生きていく。
ドラコでも戸惑いは隠せないし、彼女以外は受け入れるまでに多少時間は掛かったものの、その心構えを立てることができたという。
「ちなみに覚悟完了できた順はドラコ、ナナち、マルルン、レミィちゃん」
ドラコが順番に指を指すと、頬杖をついたマルカが話題を継いだ。
「ドラコン以外は異世界来た頃はみんなヘラったもんな~。それでもまあ、慣れるまでに三日か一週間くらい? 精神的にもタフになったんかね?」
神族化や魔族化は肉体のみならず精神にも作用する。
人間より心身ともにタフネスさが強化されるのは間違いない。
「ヘラるなってのが無理でしょこの状況!?」
最後までウジウジしていたことをバラされたレミィは抗議したが、マルカは半笑いでプヒーと息を漏らすばかり。ドラコとナナもケラケラ笑っていた。
やはりドラコの神経は図太いようだ。状況への順応性も高い。
何はともあれ、ハンティングエンジェルスは地下都市に身を寄せた。
姫君にして王女にして女王、アウルゲルミルの主人であるフレイの客分として招かれることとなり、深きものどもに対抗する用心棒という扱いになった。
水聖国家に客将として迎えられた仙道師と魔女。
立ち位置的にはあの2人に近い。
「あの……ちょっと訊いてもいいですか? 気になってしまって……」
ふとミサキが質問をする生徒のように手を上げた。
「はいミサキ君、センセーに訊きたいことは?」
おどけたドラコに指差されたミサキは問い掛ける。
「話の流れから大体わかるんですが……ドヴェルグ族の平均的な強さはどれくらいなんですか? それと灰色の御子だというフレイさんの強さは?」
よろしい、とドラコは頷いた。
「力を貸して、と頼られた時点でわかったと思うけどあたしらの方が断然強いのは間違いない。分析系技能してみたけれど平均してLV200~300くらいかな? 人によっては400超えとか500近い人もいるけど……」
「他にもいる亜神族も大体そんな感じだね」
ドヴェルグ族の他にも亜神族がいることを、口を挟んだマルカが示唆した。するとアハウがメモ帳をめくり返す。この小まめさが学者の証だ。
「確か……サイクロプス族とアマノマヒトツ族だったかな?」
「そうそうそれそれ、どっちも一つ目なんだよね」
単眼もしくは独眼と呼ばれる身体的特徴を持つらしい。
日本人ならば妖怪の一つ目小僧といえば通じるだろうか? 人間や大体の動物が一対の眼球を持つところ、彼らは一つ目しか持たないようだ。
しかも、どちらの名前も神話に聞き覚えがある。
不在の博覧強記娘に代わって、学者のアハウが空で語ってくれた。
「サイクロプスとはキュクロプス、ギリシャ神話で大地母神と天空父神の間に生まれた一つ目の巨人のことだな。アマノマヒトツとは漢字で書くと天目一箇、こちらは日本神話に記されている独眼の神。どちらも神としての権能は……」
神々のために武具や道具を作る――鍛冶師。
奇しくもなのか同業だからなのか、ドヴェルグと相通じていた。
ドラコは「んー」と視線を上げて記憶を掘り返す。
「たしかねー、平均を比べたらサイクロプス族やアマノマヒトツ族がちょっとLV高めだったかな。当人たちからの触れ込みだと、彼らは亜神族といっても御先祖様を辿れば神族の一員だったみたいに話してたからね」
「神族の本家から分かれた分家が亜神族という種族になった……」
そんな感じかな? とアハウはメモ帳に所感を書き加えた。
「だけど――フレイちゃんは強いですよ」
LV900くらいあります、とレミィはフレイの別格さを教えてくれた。さすがは神族の血を受け継いだ灰色の御子、面目躍如である。
「素でLV900あって、お父さんから受け継いだっていう特別な剣を使うと、それだけで私たちと同じくらい……LV999に近くなります」
フレイの強さを褒めるレミィにツバサは頷いて返す。
「うん、五神同盟にも似たような子がいるよ」
守護妖精族 総司令官 ダグ・ブリジット。
彼も普段からLV800くらいの強さがあり、スプリガン族固有の機械式外骨格である“巨鎧甲殻”をまとうことでLV950の巨大ロボに変形し、更に特殊兵装を身に付けることでLV999となる。
神族の親から受け継いだ神器で強化が走るタイプのようだ。
「……ってことはつまり?」
何を思い付いたのか、ミサキは小型の投影スクリーンを展開した。
計算のための電卓スクリーンと、指先で書いた文字を記してくれる清書機能付きのホワイトボードだ。それで簡単な計算をしているらしい。
ドヴェルグ族、サイクロプス族、アマノマヒトツ族。
三種の亜神族は7:2:1くらいの割合で、総数900人未満。単純に平均LVで計算すればLV300台の戦力が800人弱。
(※高齢、未成年、負傷などの理由から100人前後は戦力から除外される)
総大将なのが王女様のフレイ、彼女のみ条件付きでLV999。
彼女が主戦力とならざるを得ない状況だ。
本来、総大将が先陣を切るなど人類史の戦からすれば常道から離れているのだが、真なる世界では日常茶飯事だし、人材不足なので致し方ない。
(※大将が先駆けをした例はいくらかある。有名なところだと四国の雄・長宗我部元親は初陣で大将を任されたが、先陣切って敵陣に突っ込んで大暴れして武功を上げたため、それまで顔のいいボンボンの“姫若子”と陰口を叩かれていたのが一転、勇猛果敢な“鬼若子”と畏敬の念を持たれるようになったとか)
対する深きものどものLVはばらつきが目立つ。
下はLV100にも満たないのがゴロゴロいるが、年齢を重ねて巨大化した個体ほど生命力が強まるとともにLVも高くなっていた。
ドラコが滅びの爆裂奔流で吹き飛ばした200m級の深きもの2体。
奴らはLV800に達する力を備えていた。
ショウイの偵察により、深きものどもの海底基地にはあのサイズはゴロゴロいることが判明しており、それを超える300m級まで確認されていた。
恐らく300m級はLV900に近い力を持つはずだ。
だが、問題はそこではない。
深きものどもの恐ろしいところは総数が計り知れないところだ。
兵力という人材が無尽蔵ではないかと錯覚しそうになる。
フミカが小説の一文を引用して「星の数ほどいる」と言い表したり、バンダユウも「あんなの無限残機じゃねえか」と悪態をついていた。
千を消して万を殺して億を滅ぼしても――まったく減る気配がない。
絶滅させる勢いで倒しているはずなのに、総数が目減りする様子が一行に見当たらないのだ。まるで湧いてくるように大軍勢を繰り出してくる。
LVにばらつきがあるなど些細なこと。
無限の兵力など尋常ではなく、異常が過ぎる脅威だった。
鍛えた亜神族の戦士ならば太刀打ちできるはずだが、百から千、千から万、万から億……と桁単位で増援を呼ばれては敵うまい。格下であろうと数で押し切られるし、そこに同等の強さの深きものが紛れていれば即終了である。
「フレイちゃんなら単独でも数千万の半魚人を倒せるけれど……」
「だからといって彼女にすべて負担させるのもねぇ……」
マルカとナナはどこぞ司令みたいに両手を組んで肘を突くと、そこに顎を乗せて「う~ん」と難しい顔で唸っていた。
フレイに無理をさせるわけにもいくまい。
彼女の身に何かあれば、それこそ地下都市は終わってしまう。
いくらLV999が法外な力を発揮しても一個人。孤軍奮闘を強いられれば、やがてスタミナも切れて群れに押し潰されるのがオチだ。
「……これ、間違っても強気に出れませんね」
戦力の概算を弾き出したミサキは面差しに絶望を滲ませた。
おわかりいただけましたか? とドラコは苦笑を口元に湛えている。
皮肉を効かせた唇を釣り上げたかと思えば、大口を開けてドーナッツやメロンパンなどのデザートを頬張り始めた。ようやく主菜が終わったらしい。
「そう、打って出たら終わりってわけ」
防戦を強いられている、とドラコは言いたいのが伝わってくる。
「件の魔除けの石のおかげで安全圏を確保できるから、どうしても籠城戦メインの戦い方になってたみたいなんだよね……あたしらが来るまでは」
「籠城は褒められた戦術ではないからな」
いつぞや軍師レオナルドが垂れていた蘊蓄が記憶に残っている。
籠城とは――援軍がいることで成立する。
どれだけ敵に攻め立てられようとも、兵力や物資とともに助けに来る援軍があればこそ城に籠もる兵は戦えるのだ。援軍が来る約束のない籠城など「その城を枕に討ち死にしろ」と命じられているのと同義である。
実際、史実では覚悟を決めてそういう籠城をした死兵もいた。
(※関ヶ原の戦いの前哨戦とも言われる伏見城の戦いでは、上杉討伐のために北陸へ向かう徳川家康の背中を守るため、鳥居元忠が伏見城に籠もっていた。家康が上杉に向かえば石田三成が西軍として挙兵するのはバレていたので、伏見城を任された鳥居元忠は死ぬ覚悟で籠城を引き受けたとされている)
地下都市の場合、どう考えても援軍は期待できない。
ハンティングエンジェルスの登場は奇跡的な幸運としか言いようがなかった。もし彼女たちが現れなければ、地下都市は遠からず滅んでいただろう。
「戦術や戦略はよくわからないんですけど……」
レミィは素人と弁えた上で自分の所見を恐る恐る述べる。
「兵隊さんの数とか戦力は抜きにして、飲み水とかご飯とか何かを作るのに必要な木材、鉱石、石とか……そういうのは何とかなっていると思います」
「そうか、山脈を中心とした地下都市だものね」
理解を示したのはアハウだった。ツバサも事情を察する。
「その山脈は水資源が豊富なのか。それを元に森や林を増やすように植林したり、平地があれば田畑を拓いて家畜も飼えば……食糧自給はできるわけだ」
「石や金属ならドヴェルグさんたちが掘っちゃうか」
話の仲間に加わりたいのか、ミロも思いついたことを口にした。
こちらはさすがに食べ飽きたのだろう。ジュース片手に隣の席からツバサの膝へと移動しており、地母神の女体を椅子にして寛いでいる。
てぇてぇ……てぇてぇ……と聞こえる囁き声は無視しておこう。
「豊臣秀吉に攻められた小田原城みてえだな」
大河ドラマか何かで見たぜ、とバンダユウが具体例を挙げた。
確か後北条家が治めた小田原城も、町民の住む城下町はおろか農民の暮らす農村や田畑まで囲い込み、水源となる河川まで引き込んで、数年くらいなら自給自足で賄える城塞都市を築いていたはずだ。
だからこそ豊臣秀吉は総掛かりで制圧したわけだが……。
地下都市が籠城を続けられたのは、この自給自足に寄るところが大きい。
「魔除けの石のおかげで半魚人が攻めあぐねてるのもあるよね」
マルカはせめても頼みの綱となるものを口の端に上げた。
これもまた防戦を続けられる要因のひとつだろう。
魔除けの石こと旧神の印で地下都市周辺をぐるりと囲むことにより、一種の防衛ラインを引いているのだ。深きものどもはこれに近寄れない。
多分、ショゴスでも無理だろう。
クトゥルフ神話愛好家なフミカ曰く――。
『旧神の印ってクトゥルフやハスターのような上級の旧支配者、その上に君臨している外なる神にはまったくといっていいほど通じないッス』
――旧神の印はあくまでも護符。
クトゥルフ邪神群の全般に効き目のある必殺アイテムではないらしい。
『それほどランクの高くない邪神には結構効いて、数を揃えれば動きを封じたり封印とかもできるとかなんとか……深きものくらいの奉仕種族や眷族にならば効き目バッチリって感じッスね。そんくらいの効能と思ってくださいッス』
地下都市はその恩恵に与っている。
旧神の印の効果がどれほどのものかを確認もできた。
(※現在、フミカが石をひとつ借り受けて分析の真っ最中である。)
……深きものどもだから耐えられているが、もしも彼らを上回る蕃神に襲われていたらどうなっていたか定かではない。幸か不幸かというやつだ。
「まあ、将棋やチェスに例えるとだ」
わかりやすく伝えたいのか、ドラコも投影スクリーンを展開した。
碁盤のような平面に駒のイラストが次々と浮かぶ。
「地下都市側はオーソドックスな駒が揃っている。唯一フレイちゃんのみが飛車角を足して女王みたいな動きもできるオールマイティーな駒って感じ」
「しかも1ターンで100回行動できるおまけ付きだね」
神族なのに血糖値スパイクでも起きたのか、マルカはテーブルに突っ伏すようにしてお眠だった。それでも話にはちゃんと参加している。
「対する半魚人軍団は駒こそ大小強弱使い勝手とバラバラ、でも数が多い。とにかく多い。持ち駒無限とかチート級ズルしてんじゃないかってくらいにね」
「どんだけ減らしてもすぐ補充されるちゃいますしね……ひっく」
レミィもグラス片手にトロンとした目つきになっていた。
ノンアルコール飲料しか振る舞っていないはずなのだが、まるで酔っているかのようだ。これが雰囲気酔い、または場酔いというやつなのだろうか?
――スクリーンに映された盤面。
地下都市側は押される一方、深きものどもは数に任せた大攻勢。
いくら旧神の印による防衛網があったとしても、これではドヴェルグたち地下都市の住人はジリ貧である。たとえ生き存えることができたとしても、限られた居住空間では人口を増やすことはできず、文明を栄えさせることもできない。
大きくても島である以上、逃げることもままならない。
逃げるための海路も空路も深きものどもに抑えられているからだ。
子々孫々――緩やかな滅びを待つばかりである。
「でもぉ? ここにアニマルエンジェルスが加わるとぉ……?」
ドラコのスクリーンにナナが勝手に書き加える。
それを咎めるほどドラコも狭量ではないため、男前に微笑んでナナの好きにさせていた。ナナは子供みたいなセンスで自画像を描き足していく。
ちゃんと四人描くところにナナの仲間に対する友情を感じる。
飛車、角、女王の動きができる――万能の駒。
1ターンで100回行動できるおまけ付き。
フレイに勝るとも劣らないLV999のVRアイドル四人が地下都市側へ参加したことで、防戦一方が深きものどもと拮抗するまでに持ち直していた。
「……だけど、膠着状態に持ってくのがやっとだ」
俯き加減に目を伏せたドラコは悔しさも露わに現状を吐露していく。
「ナナとドヴェルグさんたちが建造してくれた艦……」
あの飛行戦艦についても触れるようだ。
「あたしらの力を動力源に十全なパワーを発揮し、艦の兵装にもなる過大能力の効果を150%まで高めてくれる優れ物さ……海上での足場にもなる対半魚人用の飛行戦艦なんてサポートメカまで作ってくれたのに……」
「私たちの力じゃ……半魚人たちを倒しきることはできませんでした」
レミィも看過されたのか、謝罪するように打ち明けた。
深きものどもの執拗さを鑑みるに、撃退だけでは足らないはずだ。
一匹残らす念入りに――完膚なきまでに鏖殺する。
奴らは延々と侵入してくる外来種だ。前提条件として彼らの海底基地の底に隠されている“次元の裂け目”を閉ざし、これ以上の流入を阻止する。
そこまでやって初めて、南海に平穏が訪れるだろう。
「まあ、全世界が蕃神にたかられてるから焼け石に水なんですけどね」
「おまえ、アホのくせに身も蓋もないこと言うな……」
諦観を極めた顔でぼやくミロの頭をツバサは撫で回した。
余計なこと言うな、というボディランゲージだ。
焼け石に水だろうが付け焼き刃だろうがその場しのぎだろうが、ここまで話を聞いて見過ごせるわけがない。南方大陸で芽吹きつつある世界の危機も気になるが、そちらに気を取られていては足下を掬われかねない。
ハンティングエンジェルスの願いは言外から伝わっている。
ツバサとしても方針はほぼ決まっていた。
同席した戦女神、獣王神、老組長にもアイコンタクトを送ってみたが、全員一致で同意見だった。この場にいない代表からも了解を得られている。
こっそり通信でやり取りするくらいわけはない。
歓談の場にもほんの僅かだが静寂が訪れる。
その一瞬を見切ったツバサは本題を切り出していく。
「地下都市の人々のために――深きものどもを殲滅したい」
そうだね? とツバサが問えばアイドルたちは表情を硬くした。
明るい笑顔が売りである彼女たちにらしくない面相をさせるのは気が引けたが、真面目な話の時くらいは真剣に振る舞ってもらおう。
ため息ひとつ吐いたドラコが返事をした。
「うん、ぶっちゃければそういうこと。南方大陸に急ぎの用があるって話は聞いたけど、それを承知の上でお願いしたいんだ……」
五神同盟の力を貸してほしい、とドラコは真摯に願い出てきた。
「フレイちゃんたちを助けてあげてください……お願いします、ツバサさん」
着席したままだが姿勢を正してお辞儀をしてくる。
「辰子ちゃん……」
兄貴分であるアハウが制そうとしたが、バンダユウがそれを遮った。老練の目線は「親しき仲にも礼儀ありだ」と若者に語りかけていた。
ドラコに続いてレミィ、マルカ、ナナも習うように頭を下げてくる。
「足掛け二年もいれば家族も同然です……もう私たちにはフレイちゃんを、アウルゲルミルのみんなを見捨てることはできません。だから……お願いします」
「もしも五神同盟さん全員の力を借りるのが難しいなら、せめてウチのお祖父ちゃんだけでも……てかお祖父ちゃん、いつの間にホムラちゃん追い出して組長になってんのよ!? 罪滅ぼしで組員全員貸してよ可愛い孫のために!」
「追い出っ……人聞き悪いこと言うなおい!?」
頭を下げていたマルカだが、五神同盟の内訳を話した際に穂村組の現在も聞いたからか、そこのところで祖父バンダユウを糾弾していた。
テーブルの上を這いずると、祖父に近付いて襟首を締め上げる孫。
マルカちゃん、ホムラとも面識があったのか……。
孫と祖父の口論合戦を横目にナナも礼儀正しく願い出てくる。
「アタシはあんま頭良くないから、みんなみたいに上手いこと言えないけど……フレイちゃんやモフモフさんたちを助けたい気持ちは一緒です!」
よろしくお願いします! と元気いっぱいに頼んできた。
ツバサは微笑したまま吐息を漏らす。
「そのお願いなら――疾うの昔に了承済みだよ」
えっ!? とハンティングエンジェルスは一斉に顔を上げた。
元より円らな瞳をまん丸にしている。
先ほど深きものどもとの戦闘中、通信越しだがハンティングエンジェルスの「助けてほしい!」という頼みミロはにこう答えた。
『――うん、いいよ』
あの時、彼女たちに協力すると契約を交わしていたのだ。
ドラコたちからすれば、急場をしのぐため協力を求めただけかも知れない。
しかし、あれはその場限りの口約束ではなかった。
ドラコたちは「この場は協力して!」と頼み込み、「地下都市のみんなも助けてほしいけど正式に頼むのはまたあとでね」と匂わせたようだが、ミロは「全部ひっくるめてOK!」と答えてしまった。
現場に言わせたツバサたちも異を唱えずに認めている。
即ち、あの時点でハンティングエンジェルスに全面協力し、フレイ率いるドヴェルグ族と地下都市の住民を助ける約束を結んでしまっているのだ。
神族や魔族といった高位種族は交わした約束を破れない。
たとえ口約束であろうと遵守する必要がある。
今回のケースなら逆手に取ることも取られることもないが、ミロのアバウトすぎる約束がすべてを包括してしまったようなものだ。
ドラコたちへの心証もいいから、功を奏したと思っておこう。
「あの時、ドラコちゃんたちは詳細こそ省いたが『助けたい人たちのために協力してほしい』と仄めかして、俺たちはそれにOKと答えているからね」
「OK出したのアタシだよアタシ」
はいはい、とツバサは自己主張の激しいアホの子を抑え込む。
掴んだミロの頭をグリグリするツバサは弁明する。
「そうじゃなくてもアハウさんの妹分にバンダユウさんの孫娘……身内の縁者からの頼みなんだ。無下にするわけないさ。格式張った理由がいるというなら、これから向かう南方大陸での後顧の憂いを断つという名目もある」
ハンティングエンジェルスと地下都市アウルゲルミル。
どちらも助けない理由が見当たらない。
ドラコが縋るような視線を送ると、アハウは健やかな微笑みで返した。
「妹分のためなら一肌脱ぐさ……それが兄貴というものだろう?」
「アステカ兄やん……ッ!」
ドラコは思わず瞳をウルッと潤ませていた。
「お、オレだって愛する孫娘のためなら全裸にでも……アイタタタ!?」
「黙れ不良ジジイ! ホムラ君をどこやったか吐けー!」
バンダユウとマルカの親子喧嘩は継続中だった。
正しくは祖父孫喧嘩か?
ミサキも乗り気なのか、励ますような声で賛同する。
「それに五神同盟のモットーとして『蕃神死すべし慈悲はない』を掲げてますからね。南方大陸への前哨戦と思えばいいんですよ」
「なにそのモットー? 俺初耳なんだが……」
可愛い愛弟子の物騒な物言いにツバサはちょっと退いてしまった。
でも蕃神はすべて根絶する予定だからいいか。
ガタガタッ、と椅子の動く音がした。
ドラコが立ち上がったのだ。スタスタと歩いてテーブルを回ってくると、ツバサたち近付いてきて、まずはおもむろにアハウに抱き付いた。
「……ありがとう、兄さん」
愛称のアステカ兄やんではなく、言葉遣いを正して礼を述べた。
次いでミサキやバンダユウにも親愛の抱擁をした後、トリを飾るべくツバサにも抱き付いてきた。ミロがいても構うことなく挟むようにだ。
「……ありがとう、ツバサさん」
「いや、そこまで喜びを具体的に表さなくても……ッ!」
「うおおおおおおおーッ! ツバサさんのビッグバンバストとアイドルのおっぱいにサンドされてるアタシーッ!?」
戸惑ってしまうツバサに反してミロは狂気の声を上げていた。
まずは――地下都市アウルゲルミルへの救援。
南方大陸への遠征の前に一仕事を片付けなければいけないようだ。
~~~~~~~~~~~~
「「「「――ご馳走様でした!!」」」」
歓待の料理を食べ終えたドラコたちは両手を合わせて声を揃えた。
「はい、お粗末様でした」
思わずツバサもお母さんみたいな返事をしてしまった。
「――誰がお母さんだッ!?」
いつものノリで独りボケツッコミを発動させる。
しかし、ハンティングエンジェルスの面々はツバサとミロの動画を履修済みなので、「決め台詞キター!」と大喜びである。
いいリアクションを取られるとツバサの調子が狂ってしまう。
しかし、ミロやミサキも一緒に食べていたとはいえ、50人前を4人で平らげてしまうとは……神族や魔族なら飲食不要だが、逆に言えばいくら食っても太らずに活力になるだけだから、人によっては食事量が増えることもある。
だとしても随分と食べたものだ。
半分くらいドラコが食べていたような気もするが……。
アンズが食後のお茶を煎れてくれたので、ゆったりとした会話を楽しむ。
――その時だった。
「ところでさ――お願いもうひとつあるよね?」
食後のお茶に甘いカフェオレをツバサの膝の上で飲んでいたミロは、誰に尋ねるでもなく疑問形でそんなことを言い出した。
ツバサたちは「え?」と眉を動かし、ドラコたちの顔色を見遣る。
ドラコたちもほんのりギョッとした顔で驚いていた。
どうやらミロの発言は図星のようだ。
地下都市で暮らす人々を助けるために五神同盟の力を借りたい、という意図こそ読めたものの、もうひとつのお願いまでは見抜けなかった。
固有技能――直観&直観。
未来予知や読心術を彷彿とさせるミロの切り札のひとつだ。
万能の過大能力もそうだが、これがあるからミロはツバサを含む誰からも一目置かれるのだろう。この二つがなければただのアホの子である。
ドラコはリクエストのほうじ茶をテーブルに置いた。
「スゴいなミロちゃんは……そういうところ神懸かってるよね」
ドラコは目配せを送るとそれを受け取ったレミィが頷き、レミィはマルカやナナと目を合わせる。こちらも会釈するような頷きで答えていた。
ハンティングエンジェルスとしてチームの総意があるらしい。
レミィは紅茶のカップを静かにソーサーへ置いた。
「ミロちゃんの言う通りです……私たちはお世話になった地下都市のみんなを助けてほしい。これが第一のお願いとしてありました」
「人間として仁義を通したいお願いかなー? もうワタシら神族だけど」
「もうひとつのお願いはツバサさんたちと会えたから思い付いたの」
マルカとナナも飲み物をテーブルに置いた。ちなみにマルカは祖父と同じ緑茶で、ナナは甘さ控え目のミルクティーだ。
「こっちはあたしらのワガママだよ。聞いてもらえれば幸いだけど……」
ドラコが付け足すとレミィが代表して発表する。
「ハンティングエンジェルスを五神同盟の一員に加えてください」
ただし――アイドルとして。
同盟加入の申し出はツバサたちもありがたい限りだが、思いも寄らない条件付きまでセットで投げ渡されてしまった。
その真意もそこはかとなくわかるが、噛み砕くのに時間が掛かる。
「え……あ、アイドルとして?」
ツバサは即答できず返事に窮してしまった。
「地下都市の用心棒みたいなことをしてきたし、蕃神やその眷族との戦いがこれからも激しくなるのはわかるけど……やっぱあたしらアイドルなのよ」
逡巡しているとドラコから順々に理由を語ってくれた。
「VRMMORPGから異世界に飛ばされて、どちらでも生き残るために死に物狂いで技能を習得してきました……その力を使うことに異存はありませんし、同盟に加わったら戦いをお手伝いするのも拒みません。でも……」
躊躇うレミィの想いをマルカが引き継いだ。
「でもさ、ドラコンも言った通りワタシら骨の髄までアイドルなのよ。ファンの前で歌って踊って……おもいっきり声援を浴びたいんだ」
ゲーム実況は無理そうだけど、とマルカは人差し指で頬を掻いた。
最後にナナが飾らない喋り方で締めていく。
「モフモフさんたちの憂さ晴らしに小さなコンサートを何度か開催してたら、それを思い知らされちゃったんだよね……だから、アイドルに戻りたい! ううん、アイドルを続けたい! ってスッゴく実感しちゃったわけ!」
レミィもマルマもナナも、自分の言の葉で思いの丈を綴ってくれた。
「「「「――私たちは一生アイドルします!!」」」」
ハンティングエンジェルスは心をひとつに誓いを立てた。
神族の長い一生からするとアイドル生命の期間は何万年だろうな~? とか変なことを想像しながらツバサは脳内を整理していく。
五神同盟に加入し――その一員として働くことも辞さない。
それはそれとして――本業はアイドルとして扱ってもらいたい。
許されるなら――定期的にコンサートなどを開催したい。
「……って認識でいいのかな?」
「「「「はい、大体そんな感じでお願いします」」」」
ツバサが慎重な面持ちで確認すると、アイドルたちは一斉に頷いた。
するとアハウとミサキとバンダユウが顔を近付けてきて、ツバサの耳元でこっそり耳打ちするように自分たちの考えを囁いてきた。
当人たちを前にしての簡易的な会議みたいなものだ。
勿論、ミロも我が物顔で偉そうな上目遣いで参加してくる。
最初にアハウが好意的に切り出す。
「これは……願ったり叶ったりじゃないかな?」
アハウも分析系技能で調べたようだが、ドラコたちは歌手や踊り子などの技能を習得しており、その習熟度は神業にまで高められている。
彼女たちの歌や踊りといったパフォーマンスは、必ずや人々を魅了するだろう。心身ともに昂ぶらせることも癒すことも自由自在のはずだ。
音楽で人々の心を鼓舞することもできる。
娯楽に乏しい五神同盟の国民には最高の贈り物になるのでは?
「彼女たちにしても五神同盟の人口が多いのを把握して、より多くのファンを獲得したいようだからね。まさにWin-Winの関係じゃないかな」
「それに……ミサキたちみたいなファンもいますしね」
今回の遠征に同行した若者たちはミサキを含め彼女たちの大ファンだ。聞いて回れば彼女たちのファンはもっと出てくるだろう。
彼女たちの加入はそういった仲間の意欲向上にも働きそうだ。
「グッチマンたちが男性アイドルなら、マルカたちは女性アイドルだ。どっちもアイドル活動させれば、国内のサブカルチャーも活発になるんじゃね?」
孫娘には甘そうなバンダユウも推してくる。
各代表の意見は前向きで建設的だった。
アハウやバンダユウなら多少の身内贔屓があり、ミサキなら推しを応援したいファン心理もあるだろうが、それらを差し引いても理に適っていた。
そして、アイドルと聞いたらアホの子も黙っていられない。
「ついでにツバサさんもアイドルになっちゃいなよ。オカン系アイドル? それともママドルっていうの? あるいは超爆乳アイドルとかかな? アタシ、ファンクラブの名誉会長になるからさ……むぎゅぅうううッ!?」
「アホの子はアホなアイデア出すんじゃないの」
ツバサは乳房の下で威張るミロの頬を左右から拳で押し潰してやる。
ミサキとアハウとバンダユウは真顔でこちらに迫ってきた。
「「「ミロちゃん……それ採用!!」」」
「何が採用だバカタレ! 野郎どもシャラップ!」
アイドルにされて堪るか! とツバサは三人を張り倒す。この時ばかりは悪ふざけしたミサキも同罪なので、愛の鞭と思ってしばいておいた。
ハンティングエンジェルスの五神同盟加入について。
他の代表やレオナルドにマルミといったGMの意見も求めたい。
そこでドラコたちを少し待たせて通信してみると、一様にミサキたちが並べたのと同じような答えを返してきて、そのすべてが「賛成」だった。
これもまた――断る理由がない。
何より彼女たち自身が同盟入りを熱望しているのだ。
「……というわけで、国民を慰撫してもらうためにもこちらから君たちをアイドルとしてお迎えしたいという意見が多数なんだが……」
正式に加入ということでいいかな? とツバサは確認を求めた。
YES! とハンティングエンジェルスはサムズアップで応じた。この時点で神族としての契約が生じるため、彼女たちの同盟入りが決定した。
――五神同盟に新たな仲間が加わる。
「喜ばしいことだが……これまで以上に賑やかになりそうだな」
やれやれ、と呟くのは失礼かも知れない。
ツバサは乾いた笑顔を貼り付けたまま疲れた嘆息を漏らした。
「んじゃ……行く行くはツバサさんもアイドルを目指すってことでOK?」
「大丈夫です! 私たちの先輩にも超爆乳アイドルいますから!」
「ワタシらみたいな衣装で歌って踊るツバサさん……カーッ! ヤバくね?」
「超爆乳オカン系ママドル爆誕! だね♡」
「頼むから巻き込むな! 俺を!」
ドラコたちからの提案をツバサは全力で拒否させてもらった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる