道参人夜話

曽我部浩人

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第七夜   血塊

序章 名も無き者の談

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 ──ここはどこだろう?

 気付けば暗いところでうずくまっていた。
 暖かくも冷たくもない、暗いところだ。

 ──わたしはなんだろう?

 思い出せない、わからない。
 わたしがわたしであることしか覚えていない。

 ──どうしてここにいるのだろう?

 少し前、わたしはもっと安らげるところで眠っていた。

 ──わたしはどこにいたのだろう?

 それは思い出せる。大きくて優しい存在の中にいた。
 暖かくて、包み込んでくれて、安らげる場所を与えてくれた存在だ。

 ──そこにかえることはできるのだろうか?

 無理だ、と本能が告げている。
 あの安らげる場所に帰ることは不可能だった。

 ──それでもかえるところがあるのはしっている。

 大きくて優しい存在、その胸に帰ることは許されているはずだ。

 ──かえろう、かえるんだ、かえらなくちゃいけないんだ。

 あそこに帰らなくてはいけない。
 それはわたしに許された、当然の権利だった。

 ──でもこわい、ここがどこかもわからない。

 ここはわたしのいた場所じゃない。
 わたしは無理やりばれたのだ。それはわかっている。

 無理やり喚ばれて、何かを言われて、わけがわからなくて……逃げたのだ。

 そして、この暖かくも冷たくもない暗いところに隠れたのだ。
 そこまでは思い出せた。

 ──ああ、はやく、はやく、はやく、帰りたい。

 確固たる意識さえ定まらぬわたしの心は、その一念に塗り潰されていく。

 わたしのあるべき場所へ、わたしが帰るべき世界へ──。

 わたしは帰らなくてはいけないのだ!!



「……ゃあ……ゃああああっ……おぎゃああああああああああっ……」



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