道参人夜話

曽我部浩人

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第七夜   血塊

終章 アリスの母様は世界一!!

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 アリスと常世の子が暴れた秋葉原の公園は完全に封鎖された。

 常世の力があちこちに飛び散ってて、意外と大変なことになっていたのだ。

 後始末を指揮するのは周介と特対課の面々。

 現場の修繕や立ち入り禁止、交通整理を担当するのは所轄のお巡りさんたちである。みんな目まぐるしく公園周辺を駆け回っている。

「先輩も手伝ってくださいよー! ここまで来たら呉越同舟ごえつどうしゅうでしょー?」
「それを言うなら乗りかかった船だ! 後始末までする義理はねぇぞ!」

 泣きつく周介を幽谷響はやまびこ無体なくらい足蹴あしげにしていた。
 そんなやり取りは放っておいて、信一郎はアリスの傍にいてやる。

 アリスは常世の子が帰って行った虚空を見つめ、ぼんやり立ち尽くしていた。
 その瞳には羨望せんぼうの光が宿っている。

「ねえ母様、アイツは……母様のとこに帰れたんですか?」
「うん、ちゃんと帰れたよ。お母さんも迎えに来てくれていたしね」

 そうなんだ、とアリスは最期のポツリと呟いた。

「…………いいなぁ」

 聞こえないくらい小さなアリスの言葉は信一郎の胸をえぐった。

 アリスの本当の母親はもうこの世にはいない。

 それはアリスも幼いながらに理解しており、それでも寂しいから信一郎に母親役をねだり、母親のいない辛さを紛らわそうとしているのだ。

 だが──信一郎は本物の母親じゃない。

 しかし、あの常世の子は母親の元に帰れた。
 それが眩しいくらい羨ましいのだろう。

 アリスの気持ちを察した信一郎は、思わずアリスを抱き締めていた。

「母……様……?」
 思い掛けない信一郎の行動に、アリスの漏らした声は震えている。

「私がアリスちゃんのお母さんじゃ駄目……かな?」

 至らないのは重々承知している。
 それでも、今の信一郎にできるのはこれしかない。

「本当は男だし、血も繋がってないし、母親らしいことは何もできないし……アリスちゃんの本当の母様には遠く及ばないけど……アリスちゃんのこと、ずっと愛してあげるから……」

 アリスの望む限り、アリスの母親を努めようと心に誓う。

「だからさ、そんな顔しないで……もう、悲しまないで……アリスちゃん」
 抱き締めていたアリスが動いた。

 その手を信一郎の首に回して、自分から抱き着いてきたのだ。

 信一郎に縋りつき、良い香りのする頬を信一郎の顔に擦り寄せてくる。
 幼い温もりと彼女の鼓動が伝わっくきた。

 アリスは信一郎の耳元に口を寄せ、幸せそうな声でこう囁いた。



「──やっぱりアリスの母様は世界で一番の母様だ」


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