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第十夜 刑天
序章 刑天の談
しおりを挟む力こそパワー、これぞ至言である。
力がすべて。強き勝者こそが正義、弱き敗者に語る口はなし。
勝てば官軍という言葉こそが、力ある勝者が歴史を紡いできたという事実を物語っている。それが世界の真理であり、覆しようのない真実だった。
力さえあれば──あらゆることが罷り通る。
力があれば何もかもねじ伏せられる。頭なんぞ使う必要はない。べらべらと喋るだけの口先野郎など説き伏せる前に叩き伏せてしまえばいい。逆らいようのない力を前にすれば、弱き者の言葉など負け犬の遠吠えに過ぎない。
圧倒的な力こそが世の正しさを示すもの、万物における正義なのだ。
少なくとも──我輩はそう教えられてきた。
神も仏も信じない。我輩が信奉するのは絶対的な力のみ。
強くあれ、逞しくあれ、力ある者であれ──。
幼き頃より、この3箇条を合い言葉に鍛えられてきた。
鍛錬は血を吐くほど苦しいものだったが、繰り返す度に己が内に培われていく力と強さを実感でき、更なる高みへと登ることにエクスタシーを感じたものだ。
強き力を縦糸に、力ある強さを横糸に──自己を織り上げていく。
そうして我輩は何者にも負けぬ力を手に入れた。
だが、手に入れた力を否定された。
父が、母が、兄弟が、親族が、あらん限りの罵声を浴びせてきた。
おまえの生き方は間違っている、真っ当な人間として生きろ、働け、家から出ろ、ニート、穀潰し、人間失格、引き籠もり、社会不適合者……。
我輩を罵る言葉は枚挙に暇がなく、朝昼晩と絶え間なく続いた。
父よ、「力こそすべて」と我輩に教えてくれたのはあなたではないか?
母よ、「強くなりなさい」と我輩に道を示したのはあなたではないか?
兄弟よ、「弱い奴はいらない」と我輩を焚きつけたのはおまえたちではないか?
親族一同よ、「出来損ない」と我輩を煽ったのは貴様らではないか?
あなたたちの言葉を糧に力を育て、おまえたちの叱咤を薪に向上心という火を焚き付け、貴様らの侮蔑に鞭打たれた我輩は、力と強さを磨いてきた。
あなたたちが、おまえたちが、貴様らが──。
すべてが一丸となっても敵わない、絶対的な力と強さを身に付けた。
そんな我輩に、おまえたちはあらん限りの罵声を浴びせてきた。
いや、罵詈雑言くらいなら甘んじて受け止めよう。それを燃料にして力への探究心を燃やすことができる。むしろウェルカムと言うべきだろう。しかし、我輩が何も言わないのをいいことに、おまえたちは理不尽な真似に打って出た。
力で敵わぬことを知りながら、我輩に挑んできたのだ。
まるで弱者のように群れを成して我輩を取り囲み、リンチを仕掛けてきたのではないか。だから我輩は、この鍛え上げた力で応戦した。
父が幼い頃の我輩へしたように──鉄拳制裁で報いてやった。
最強を極めた我輩に敵う者はなく、逆らう気力がへし折れるまで、徹底的に殴ってやった。無論、奴らも弱者なりに牙を剥いてくる。
皮を裂かれた。肉を抉られた。骨を折られた。臓腑を破られた。
だがしかし、最強を培いし我が身は意に介することもない。
裂かれた皮を筋肉を収縮させて繋ぎとめ、抉られた肉は筋肉を盛り上げて塞ぎ、折れた骨は筋肉で抑え込み、破かれた臓腑も筋肉で覆って動かした。
この最強無敵の筋肉があれば──何人たりとも恐るるに足らず。
逆らう愚か者どもを懲らしめた後、我輩はあることに気付いてしまった。
──物足りない。
我が筋肉が求めている、もっと強い敵を、全力で戦える相手を!
考えるのも煩わしい。思うよりも先に、考えるよりも速く、全身の筋肉を躍動させてぶちのめせる真の強敵を求めて已まないのだ。
「んんんんんんっ……ならば旅に出るまでですぞ! 我輩と血湧き肉躍る戦いを楽しめる敵を探しに! 我輩の鉄拳を浴びてもすぐにはへこたれない強敵に! この天下無双の筋肉を戦慄させる好敵手を求めてッッッ!!」
我輩に相応しい敵を探す旅へ──!
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