『さよなら、彼に依存していた私―30日間の失恋回復ストーリー』

月下花音

文字の大きさ
16 / 31

Day 15:さよなら、「変われない」と思っていた私

 毎日書き続けたノート。

 Day11の夜、決意を綴ったあのノート。あれから一度も開いていなかったそれを、私は再び机の上に出した。窓の外は穏やかな午後の光に満ちている。

 別に、感傷に浸りたかったわけではない。ただ、自分の足跡を、客観的に確認してみたくなったのだ。

 万年筆ではなく、普通のボールペンを手に取る。あの夜の儀式は、もう終わったのだから。

 ◇

 ゆっくりと、1ページ目から読み返していく。

 そこには、インクの滲みと共に、この15日間の私のすべてが記録されていた。

 最初の数ページは、読むのが辛かった。

『世界から音が消えた』『コーヒーが苦い』『彼の痕跡が部屋中に散らばっている』

 そこにあるのは、混乱と絶望、そして自己憐憫に満ちた、壊れかけの女の独白だった。

 一行一行が、まるでガラスの破片のように鋭く、今の私の心をチクチクと刺す。

 よく、こんな状態から生きてこられたな、と他人事のように感心してしまった。

 ◇

 ページをめくるにつれて、文体や言葉選びが、ほんの少しずつ変化していくのがわかった。

『泣かない朝を数える』『見慣れた部屋との訣別』

 絶望の中に、微かな抵抗の意志が見え隠れし始める。

 誰かに助けを求めるのではなく、自分の力で何かを変えようとする、小さな、しかし確かなエネルギー。

 そして、最後のページ。Day13の記録。

『新しい香りは、未来の私の匂い』

 そこまで読んで、私はノートを閉じた。

 不思議な感覚だった。まるで、知らない誰かの日記を読んでいるような。

 このノートを書いたのは、紛れもなく私自身だ。でも、最初のページにいた私と、最後のページにいる私は、もはや別人だった。

 ◇

 たった15日間。地球の自転が15回繰り返されただけ。

 それだけの時間で、人間はこんなにも変われるものなのか。

 このノートは、私の苦しみの記録だと思っていた。でも、違った。

 これは、私の再生の記録だ。

 一人の女性が、愛を失い、自己を失い、そして再び自分を見つけ出すまでの、ドキュメンタリー。

 私はノートの最後の余白に、今日の気持ちを書き加えた。

『15日で、ここまで変われた。残りの15日で、私はどこまで行けるだろう』

 それは、未来への問いかけであり、自分への挑戦状でもあった。

 ◇

 ノートを本棚にしまう。もう、これを開くことはないだろう。

 過去は、もう振り返らなくていい。

 私は、ここから始まる新しい物語の、最初の1ページ目を生きているのだから。

 窓の外を見ると、午後の光が部屋を照らしていた。

 15日前とは、明らかに違う光。

 いや、光は変わっていない。変わったのは、私の目だ。

 深呼吸をする。

「あと15日。大丈夫。私は、私を取り戻せる。」

 その言葉が、初めて本当のように聞こえた。

 新しいノートを胸に抱きしめる。

 後半戦が、始まる。
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜

まさき
恋愛
毎朝六時。 黒の下着姿で、赤いヨガマットの上に脚を開く。 それが橘麗奈、二十八歳の朝の儀式。 ストレッチが終わったら、絨毯をめくる。 床下収納を開けて、封筒の束を確認する。 まだある。今日も、負けていない。 儚く見える目と、計算された貧しさで男の「守りたい」を引き出し、感情を売らずに金だけを回収してきた。 愛は演技。体は商売道具。金は成果。 ブリーチで傷んだ金髪も、柔らかく整えた体も、全部武器だ。 完璧だったはずの計算が、同じマンションに住む地味な男——青木奏の登場で、狂い始める。 奢らない。 触れない。 欲しがらない。 それでも、去らない。 武器が全部外れる相手に、麗奈は初めて「演じない自分」を見られてしまう。 赤いマットの上で、もう脚を開けなくなる朝が来るまでの話。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

秘められた薫り

La Mistral
恋愛
エブリスタにて、トレンド#恋愛で最高位 55位を獲得した作品です。 「愛しているよ」という夫の言葉が、今の美咲には虚しい空気にしか聞こえない。 欠けていたのは、理性を焼き尽くすような衝動。 ​クライアントの慎吾と交わす視線。ビジネスという仮面の下で共有される、剥き出しの欲望。 指先が触れる。名前を呼ばれる。ただそれだけで、美咲の積み上げてきた「良き妻」としての世界は音を立てて崩れ去る。 ​完璧なアリバイ、塗り固めた嘘。 夫の隣で微笑みながら、心は別の男の指先を求めている。 一度知ってしまった濃厚な「薫り」は、もう彼女を元の場所へは戻してくれない。 ​守るべき家庭と、抗えない本能。 二つの世界の境界線で、美咲が選ぶ「最後の一線」とは――。 欲望の熱に浮かされた女の、美しくも残酷な堕落の記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。