論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

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第8話 「それでも君は笑った」

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午後2時の古本屋。

透は自己啓発書の棚を整理していた。

アドラー、カーネギー、岸見一郎。

人の心を励ます言葉が、静かに並んでいる。

「笑顔は、最強の武器だ」

透は小さくつぶやく。

でも、笑顔の裏に何があるのか、見えないこともある。



五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第8話。

店主の老人が、カウンターでお茶を飲んでいる。

「透くん、相談所は繁盛してるかい?」

「はい。少しずつ、手紙が増えています」

「料金は取ってないんだろう?」

透は頷く。

「はい。無料です」

「優しいねえ。でも、無理はしないでよ」

「大丈夫です。これは、俺がやりたいことなので」

老人は小さく笑った。

「そうか。じゃあ、がんばりなさい」

透は窓の外を見る。

人々が行き交い、笑顔を見せている。

でも、その笑顔の裏に、何があるのか。

誰にも分からない。

夕方、透は公園のベンチに座っていた。

サンドイッチを頬張りながら、人々を眺める。

若い男性が、スマホを見ながら歩いている。

時々、笑顔になる。

でも、すぐに表情が曇る。

「忙しい人を待ってるのか」

透は小さく笑う。

待つことは、辛い。

でも、それでも笑う。

それが、恋だ。



午後11時の相談所。

透は机に向かい、新しい手紙を開いた。

便箋には、少し乱れた文字でこう書かれていた。

『好きな人がいます。

でも、彼女は忙しいです。

仕事が忙しくて、僕を気にかけてくれません。

メッセージを送っても、返事が遅いです。

会おうと誘っても、断られます。

でも、彼女は笑顔で「ごめんね」と言います。

それでも君は笑った。

その笑顔が、僕を苦しめます。

どうすればいいですか?

23歳・男性』

透はペンを取り、ノートに書き込む。

「好意の確率をP、忙しさの度合いをB、笑顔の頻度をSとする。

P=f(B, S, その他の変数)

だが、この式には本質が欠けている。

笑顔は、時に防御になる」

透の手が止まる。

窓の外、星空が見える。

星は、遠い。

でも、笑っているように見える。

「笑顔の裏、か」

透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。

『あなたの悩みは、彼女が忙しいことではありません。

あなたの悩みは、彼女の笑顔が読めないことです。

でも、それは正常です。

笑顔は、時に本音を隠します。

「ごめんね」と笑顔で言う。

それは、優しさです。

でも、その優しさが、あなたを苦しめます。

問いを変えてみましょう。

「彼女は本当に忙しいのか?」ではなく、

「彼女は、僕を優先してくれるか?」

忙しい人は、時間を作ります。

大切な人のために。

でも、優先順位が低い人には、時間を作りません。

それが、現実です。

辛いですか?

辛いのは、正常です。

でも、真実を見てください。

彼女の笑顔の裏に、何があるのか。

本当に忙しいのか。

それとも、あなたを避けているのか。

それでも君は笑った。

その言葉が、切ないです。

でも、笑顔に騙されないでください。

笑顔は、時に嘘をつきます。

彼女に聞いてください。

「僕のこと、どう思ってる?」

その一言が、すべてを変えます。

答えが「好き」なら、彼女は時間を作ります。

答えが「友達」なら、あなたは次に進めます。

どちらにしても、真実を知ることが、一番大切です。

それでも君は笑った。

でも、あなたも笑ってください。

真実を知った後に。

藤原透』

透は手紙を封筒に入れ、棚に置いた。

棚には、少しずつ手紙が増えている。

笑顔の裏に隠された想いが、静かに並んでいる。

透は窓の外を見る。

風が吹いている。

「笑顔の裏、か」

透は小さくつぶやく。

笑顔は、時に本音を隠す。

でも、それでいい。

笑顔の裏に本音がある。

それが、人間だ。

透は相談所を出て、交差点に立つ。

五つの道。

風が、優しく吹き抜ける。

「それでも、笑う」

透は小さくつぶやく。

笑顔の裏に、本音を隠しながら。

(第8話完 次話へ続く)

次回、透は「心拍のバグ」について考える。
そして、誰かの心拍が——君の想像する「本気」が、動き始める——。
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