論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

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第48話 「本当の敵は誰?」

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 午前3時の相談所。

 透は、過去の処方箋を読み返していた。

 何百通もの手紙。

 何百通もの答え。

 すべて、透が書いた。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第48話。

 透は、一通の処方箋を手に取る。

 3年前の相談。

『彼に、過去を話すべきでしょうか?』

 透の答え:

『話すべきです。秘密は、関係を壊します』

 透は、別の処方箋を手に取る。

 2年前の相談。

『間違いを犯した友人を、許すべきでしょうか?』

 透の答え:

『許すべきです。許さないことは、あなた自身を傷つけます』

 透は、さらに別の処方箋を手に取る。

 1年前の相談。

『好きな人に、告白すべきでしょうか?』

 透の答え:

『告白すべきです。後悔しないために』

 透は、処方箋を机に並べる。

 すべて、「~すべき」で終わっている。

 透の答えは、いつも「正しさ」を押しつけていた。

「話すべき」

「許すべき」

「告白すべき」

 でも、それは本当に正しかったのか。

 透は、頭を抱える。

「俺は……間違っていたのか……」

 透は小さくつぶやく。

 雪も、透の「正しさ」に縛られていた。

「お兄ちゃんの言う通りにしなきゃ」

 雪は、いつもそう言っていた。

 でも、雪は苦しんでいた。

 透の「正しさ」が、雪を追い詰めていた。

 美月も、同じだ。

 透の「どんな過去でも受け止める」という言葉が、

 美月を追い詰めた。

 美月は、透を傷つけないために、個展を辞退した。

 透の「正しさ」が、美月を壊した。

「本当の敵は……俺だ……」

 透は、涙を流す。

「俺の論理が……俺の正しさが……みんなを傷つけていた……」

 ◆

 午後11時の相談所。

 透は机に向かい、新しい手紙を開いた。

 便箋には、丁寧な文字でこう書かれていた。

『恋を壊したのは、誰でしょうか?

 相手でしょうか?

 それとも、自分でしょうか?

 分かりません。

 28歳・男性』

 透の手が止まる。

 これは、俺のことだ。

 透はペンを取り、ノートに書き込む。

「相手の責任をR、自分の責任をS、真の原因をCとする。

 だが、この式には本質が欠けている。

 敵は、自分の中にある」

 透の手が震える。

 透は便箋に、丁寧な文字で書き始めた。

『恋を壊したのは、誰でしょうか?

 その問いは、分かります。

 相手でしょうか?

 それとも、自分でしょうか?

 答えは、自分です。

 恋を壊したのは、自分です。

 相手ではありません。

 敵は、自分の中にあります。

 自分の「正しさ」が、相手を傷つけます。

 自分の「論理」が、相手を追い詰めます。

 自分の「優しさ」が、相手を壊します。

 本当の敵は、自分です。

 私も、気づきました。

 雪を追い詰めたのは、俺の「正しさ」でした。

 美月を壊したのは、俺の「論理」でした。

 本当の敵は、俺でした。

 でも、気づくのが遅すぎました。

 あなたは、今気づいてください。

 敵は、自分の中にあることを。

 そして、変わってください。

 私も、変わります。

 もう、「正しさ」を押しつけません。

 もう、「論理」で人を救おうとしません。

 ただ、そばにいます。

 それが、本当の優しさだから。

 藤原透』

 透は手紙を封筒に入れ、棚に置く。

 透は、過去の処方箋を見る。

 何百通もの「正しさ」。

 何百通もの「論理」。

 すべて、間違っていた。

 透は、処方箋を一枚ずつ破り始める。

「ごめん……」

 透は、何度も謝る。

「俺の正しさで……みんなを傷つけて……ごめん……」

 透は、涙を流しながら、処方箋を破り続ける。

 でも、破っても破っても、罪は消えない。

 透は、床に座り込む。

「本当の敵は……俺だった……」

 透は、小さく呟く。

 心臓が、痛む。

 息が、苦しい。

(第48話完 次話へ続く)

 次回、透は「この恋を終わらせにきた」手紙を受け取る。
 そして、透の決意が——君の想像する「最後の希望」が、見え始める——。
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