論理で恋を解く男が、星のように揺れる夜

月下花音

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第50話 「さよならはまだ早い」

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 午前6時の相談所。

 透は、一晩中眠れなかった。

 美月の手紙を、何度も読み返す。

「さようなら」

 その言葉が、胸に刺さる。

 ◆

 五路交差点発、哲学者のほろにがログ。第50話。

 透は、立ち上がる。

 もう一度、美月を探しに行く。

 どこかにいるはずだ。

 透は、相談所を出る。

 交差点に立つ。

 五つの道。

 透は、一つ一つの道を歩き始める。

 美月を、探して。

 午前7時。

 透は、一つ目の道を歩く。

 でも、美月はいない。

 午前9時。

 透は、二つ目の道を歩く。

 でも、美月はいない。

 午前11時。

 透は、三つ目の道を歩く。

 でも、美月はいない。

 午後1時。

 透は、四つ目の道を歩く。

 でも、美月はいない。

 午後3時。

 透は、五つ目の道を歩く。

 でも、美月はいない。

 透は、交差点に戻る。

 五つの道、すべて歩いた。

 でも、美月はいない。

 透は、交差点の真ん中に立つ。

「美月さん……」

 透は、小さく呟く。

 心臓が、痛む。

 息が、苦しい。

 透は、大声で叫ぶ。

「美月さん! どこにいるんだ!」

 でも、返事はない。

 風が、吹き抜けるだけ。

 透は、さらに叫ぶ。

「さよならはまだ早い!」

 透の声が、交差点に響く。

「俺は、まだ諦めない!」

「俺は、まだ君を愛してる!」

「だから、さよならはまだ早い!」

 透の声が、震える。

 涙が、溢れる。

「美月さん……」

 透は、膝をつく。

 心臓が、激しく痛む。

 息が、できない。

 透の視界が、歪む。

「美月……さん……」

 透は、倒れる。

 交差点の真ん中で。

 五つの道の、真ん中で。

 透の意識が、遠のく。

 最後に見えたのは、星空。

 雪が、笑っている気がした。

 美月が、泣いている気がした。

 でも、どちらも幻覚だ。

 透は、一人だ。

 交差点の真ん中で、倒れている。

 誰かが、叫んでいる。

「救急車!」

 誰かが、透に触れている。

 でも、透には分からない。

 意識が、消える。

 暗闇が、訪れる。

 ◆

(透の意識の中)

 透は、暗闇の中にいた。

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 ただ、暗闇だけ。

「ここは……どこだ……」

 透は、小さく呟く。

 その時、光が見えた。

 遠くに、誰かが立っている。

 透は、近づく。

 雪だ。

「雪……」

 透は、小さく呟く。

 雪は、笑っている。

「お兄ちゃん、頑張ったね」

 透は、涙を流す。

「ごめん……雪……」

 雪は、首を振る。

「謝らないで。お兄ちゃんは、何も悪くないから」

 雪は、透に近づく。

「でも、まだ行っちゃダメだよ」

 透は、首を傾げる。

「行っちゃダメ……?」

 雪は、頷く。

「美月ちゃんが、待ってるから」

「お兄ちゃんが、行かなきゃ」

「さよならは、まだ早いよ」

 雪は、透の背中を押す。

「行って、お兄ちゃん」

 透の意識が、戻り始める。

 光が、強くなる。

 雪の姿が、消える。

「雪……!」

 透は、叫ぶ。

 でも、雪はもういない。

 ただ、光だけ。

 ◆

(現実)

 透は、目を開ける。

 白い天井。

 病院だ。

 透は、生きている。

 心臓が、まだ動いている。

 透は、小さく呟く。

「さよならは……まだ早い……」

 透は、涙を流す。

「美月さん……待ってて……」

「俺は、まだ諦めない……」

 透は、目を閉じる。

 でも、今度は眠るためだ。

 死ぬためじゃない。

 生きるためだ。

 美月に、会うために。

(第50話完 第3章前半完)

 次回、第51話「心が暴走する」。
 透の入院生活が始まる。
 そして、透の幻覚が——君の想像する「狂気」が、深まる——。
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