30日で立ち直る別れの短編集 ~終電で泣いた夜から、新しい恋が始まるまで~

月下花音

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第16話:思い出のカフェが閉店してた。でも新しいお店見つけた



久しぶりに、あの街を歩いていた。

用事があって来たわけじゃない。なんとなく、散歩がてら足を向けてしまった。

優也とよく来ていた街。たくさんの思い出がある場所。

でも、今は一人で歩いている。



角を曲がると、あのカフェが見えるはず。

「カフェ・ルミエール」

優也と初めてお茶をした場所。記念日にも、よく来ていた。

私たちにとって、特別な場所だった。



でも、そこにあったのは、全然違うお店だった。

「閉店のお知らせ」の張り紙が、まだ窓に残っている。

「長い間ご愛顧いただき、ありがとうございました。令和5年3月31日をもって閉店いたします」

もう半年も前に閉店していた。



少しショックだった。

思い出の場所が、なくなってしまった。

優也と過ごした時間の証拠が、また一つ消えてしまった。

でも、同時に、なんだかほっとした気持ちもあった。

もうここに来ても、優也との思い出に浸ることはできない。



新しくできたお店は、雑貨屋さんだった。

「ナチュラル雑貨 みどり」

可愛い看板と、温かみのある外観。

なんとなく、中を覗いてみたくなった。



「いらっしゃいませ」

店主らしき女性が、笑顔で迎えてくれた。

店内には、手作りの雑貨がたくさん並んでいる。木製の小物、布製のバッグ、陶器の食器。どれも温かみがあって、素敵。

「全部、作家さんの手作りなんです」

店主さんが説明してくれた。



奥の方に、小さなカフェスペースがあることに気づいた。

「お茶もできるんですか?」

「はい。手作りのケーキとコーヒーをお出ししています」

「じゃあ、コーヒーをお願いします」

小さなテーブルに座って、コーヒーを待つ。



ここは、カフェ・ルミエールとは全然違う雰囲気。

あそこは、ちょっとおしゃれで、デートにぴったりな場所だった。

ここは、もっとアットホームで、一人でも居心地が良い。

優也と来ていたら、「なんか地味だね」と言ったかもしれない。

でも、今の私には、こっちの方が合っている。



コーヒーが運ばれてきた。

「手作りクッキーもどうぞ」

小さなクッキーが添えられている。

一口食べると、優しい甘さが口に広がった。

「美味しいです」

「ありがとうございます。近所の方ですか?」

「いえ、たまたま通りかかって」

「そうなんですね。また、ぜひいらしてください」



1時間ほど、ゆっくりと過ごした。

雑貨を見たり、コーヒーを飲んだり、店主さんと少し話をしたり。

とても居心地が良かった。

カフェ・ルミエールでは、いつも優也との会話に集中していて、お店の雰囲気をゆっくり味わうことはなかった。

でも、ここでは、一人の時間を楽しめる。



帰り際、気に入った小さな花瓶を買った。

「ありがとうございます。また、お待ちしています」

「はい、また来ます」

本当に、また来たいと思った。



家に帰って、買った花瓶に花を生けてみた。

小さな花瓶だけれど、部屋が明るくなった気がする。

思い出のカフェは閉店してしまったけれど、新しいお気に入りの場所を見つけた。

それは、優也との思い出がない、私だけの場所。



美咲にLINEした。

『今日、素敵な雑貨屋さん見つけた』

『どんなお店?』

『手作り雑貨とカフェが一緒になってるの。今度一緒に行かない?』

『いいね!行きたい』

美咲と一緒に行けば、また新しい思い出ができる。

優也との思い出じゃない、新しい思い出。



ベッドに入りながら、今日のことを振り返る。

思い出のカフェが閉店していたのは、少し寂しかった。

でも、新しいお店を見つけられて良かった。

過去の思い出の場所がなくなっても、新しい場所を作ればいい。

優也との思い出に縛られるんじゃなく、私だけの新しい思い出を作っていこう。

そう思うと、とても前向きな気持ちになった。

明日は、買った花瓶に違う花を生けてみよう。新しい場所で、新しい時間を過ごそう。

過去が消えても、未来は作れる。そんな気持ちで、眠りについた。
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