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第16話:思い出のカフェが閉店してた。でも新しいお店見つけた
久しぶりに、あの街を歩いていた。
用事があって来たわけじゃない。なんとなく、散歩がてら足を向けてしまった。
優也とよく来ていた街。たくさんの思い出がある場所。
でも、今は一人で歩いている。
*
角を曲がると、あのカフェが見えるはず。
「カフェ・ルミエール」
優也と初めてお茶をした場所。記念日にも、よく来ていた。
私たちにとって、特別な場所だった。
*
でも、そこにあったのは、全然違うお店だった。
「閉店のお知らせ」の張り紙が、まだ窓に残っている。
「長い間ご愛顧いただき、ありがとうございました。令和5年3月31日をもって閉店いたします」
もう半年も前に閉店していた。
*
少しショックだった。
思い出の場所が、なくなってしまった。
優也と過ごした時間の証拠が、また一つ消えてしまった。
でも、同時に、なんだかほっとした気持ちもあった。
もうここに来ても、優也との思い出に浸ることはできない。
*
新しくできたお店は、雑貨屋さんだった。
「ナチュラル雑貨 みどり」
可愛い看板と、温かみのある外観。
なんとなく、中を覗いてみたくなった。
*
「いらっしゃいませ」
店主らしき女性が、笑顔で迎えてくれた。
店内には、手作りの雑貨がたくさん並んでいる。木製の小物、布製のバッグ、陶器の食器。どれも温かみがあって、素敵。
「全部、作家さんの手作りなんです」
店主さんが説明してくれた。
*
奥の方に、小さなカフェスペースがあることに気づいた。
「お茶もできるんですか?」
「はい。手作りのケーキとコーヒーをお出ししています」
「じゃあ、コーヒーをお願いします」
小さなテーブルに座って、コーヒーを待つ。
*
ここは、カフェ・ルミエールとは全然違う雰囲気。
あそこは、ちょっとおしゃれで、デートにぴったりな場所だった。
ここは、もっとアットホームで、一人でも居心地が良い。
優也と来ていたら、「なんか地味だね」と言ったかもしれない。
でも、今の私には、こっちの方が合っている。
*
コーヒーが運ばれてきた。
「手作りクッキーもどうぞ」
小さなクッキーが添えられている。
一口食べると、優しい甘さが口に広がった。
「美味しいです」
「ありがとうございます。近所の方ですか?」
「いえ、たまたま通りかかって」
「そうなんですね。また、ぜひいらしてください」
*
1時間ほど、ゆっくりと過ごした。
雑貨を見たり、コーヒーを飲んだり、店主さんと少し話をしたり。
とても居心地が良かった。
カフェ・ルミエールでは、いつも優也との会話に集中していて、お店の雰囲気をゆっくり味わうことはなかった。
でも、ここでは、一人の時間を楽しめる。
*
帰り際、気に入った小さな花瓶を買った。
「ありがとうございます。また、お待ちしています」
「はい、また来ます」
本当に、また来たいと思った。
*
家に帰って、買った花瓶に花を生けてみた。
小さな花瓶だけれど、部屋が明るくなった気がする。
思い出のカフェは閉店してしまったけれど、新しいお気に入りの場所を見つけた。
それは、優也との思い出がない、私だけの場所。
*
美咲にLINEした。
『今日、素敵な雑貨屋さん見つけた』
『どんなお店?』
『手作り雑貨とカフェが一緒になってるの。今度一緒に行かない?』
『いいね!行きたい』
美咲と一緒に行けば、また新しい思い出ができる。
優也との思い出じゃない、新しい思い出。
*
ベッドに入りながら、今日のことを振り返る。
思い出のカフェが閉店していたのは、少し寂しかった。
でも、新しいお店を見つけられて良かった。
過去の思い出の場所がなくなっても、新しい場所を作ればいい。
優也との思い出に縛られるんじゃなく、私だけの新しい思い出を作っていこう。
そう思うと、とても前向きな気持ちになった。
明日は、買った花瓶に違う花を生けてみよう。新しい場所で、新しい時間を過ごそう。
過去が消えても、未来は作れる。そんな気持ちで、眠りについた。
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